いざ、入学式試験!
「「「「ほえー……」」」」
ユキミ、ミキ、リコ、セリナは、目の前にそびえ立つ巨大な建物を見上げていた。
王立アルカディア学園。
まるで童話に登場する王城をそのまま学校にしたかのような、壮麗な建物だった。
まだ門の前に立ったばかりで、その全貌が見えているわけではない。
それでも、門越しに覗く白亜の壁。
空へ伸びる尖塔。
金色に輝く装飾。
その一部分を見ただけでも、思わず息を漏らしてしまうほど美しかった。
佐々木さんの説明によれば、ここの生徒は貴族や王族がメインらしい。
だからだ、
((((お金かかってるなーーー))))
四人の感想力が非常に乏しいのは、嘆くべきことである。
「街並みはドイツとかチェコに似てて、学校はまるでお城。やっぱり異世界パネェぜ……」
セリナは、思わずそう呟かずにはいられなかった。
「すごく綺麗です……」
「本当にね。僕の住んでいた城を思い出すよ。」
王族である紫月とロメオから見ても、城は相当のものらしい。
「受付けまだの方!お急ぎください!」
「「「「……」」」」
「まもなく締切ますよー!」
「「「「あ、やばっ!」」」」
いや、見蕩れている場合では無い。
「まだ受付けしてませーん!」
リコが手を振ってアピールをし、六人は受付のお姉さんの元へ走る。
「あの、六人なんですけど!」
「かしこまりました。本日は、何科を受験されますか?」
「えっと……」
その時だった。
「何よあなた!」
ドンッ
「うわっ」
リコは何者かに突き飛ばされた。
幸い、何とか踏みとどまったので転びはしなかったが。
「おっとっと……」
「この学園は平民の来る場所ではなくってよ!」
怒鳴りつけるような甲高い声。
「え、何?」
リコが顔をあげるとそこには、水色髪で人形のような顔立ちの少女が立っていた。
色白の肌にフリルがタップリのドレスがよく似合い、見た目だけはとても愛らしい。
中身は既に、ゲテモノの香りがするが……
「そんなみすぼらしい服装でどういうつもり?平民は服すらまともに買って貰えないの?」
「えー。これ、結構可愛いとおもうけどな?」
リコは服の裾をつまみ、クルリと回った。
この世界にラフなシャツで来た四人の服装は、可愛い中世の村娘ワンピースへとチェンジ。
確かに貴族の服装ではないかもしれないが、十分オシャレに見える。
しかし、そんなことは少女には関係ない。
「しかも、肌の色も顔立ちも見たことの無い人種じゃない!薄汚い流れ者が、この学園に足を踏み入れる資格があると思って?臭い!!不潔!!汚い!!病気でも移されたらたまらないわ!!今すぐ消えなさい!!」
「なんですって……」
その瞬間。
パチッ!
乾いた音が響いた。
紫月が、少女の頬を叩いたのだ。
ちなみに、彼女はこの世界に来てからも着物姿のままである。
「なっ……!」
叩かれた少女は酷く、驚いた顔をした。
「な、何よあなた!!よくもこの私の顔を……!!」
「人をいきなり突き飛ばして罵声を浴びせる人間は、叩かれて当然です。謝りなさい。」
「誰に向かって口を聞いているの!!」
「謝りなさい。」
「ッ……!!」
有無を言わせぬ紫月の剣幕に、思わず怯む少女。
「あ、あなたのことはお父様に言ってやるわ……そうしたら、どうなるかしら?もう王国にはいられないわよ?衛兵に頼んで、ずっと鎖に繋がせることだって出来るんだから!!」
「君、さっきから口が過ぎるよ。」
「まぁっ……!」
間に入ったロメオに、少女は一瞬で頬を染める。
まさに恋に落ちた少女、といった表情だ。
「あの、お名前は……?」
「今、僕の名前になんの関係が?そんなことよりも、僕の婚約者に何かするつもりなら、たとえ女性でも許さないよ。」
「え……こ、婚約者!?」
残念。
一瞬で失恋してしまった。
そんな中。
「やれやれ、なんの騒ぎかね……」
騒ぎを聞きつけたらしい、ダン〇ルドアそっくりのお爺さんが現れた。
お爺さんは受付けのお姉さんをチラリと見ると、面倒くさそうにため息をつく。
「もう受付けの時間は過ぎたんだ。はやく、受験者を中に入れなさい。」
「で、ですが……まだ受付けの途中で……」
「まだ受付が終わっていない者には、受験資格を与えることはできない。例外は無い。」
「「「「「「えっ」」」」」」
マズイことになってしまった。
入学試験が受けられない。
それは異世界を救う任務を果たせず、せっかく練習した魔法も全て無駄になるということだ。
「ふんっ」
しかも腹の立つことに、あのヒステリック少女が嬉しそうに鼻を鳴らしている。
((((うわっ、アイツぶん殴ってやりたい!!))))
この小娘、どうしてくれよう。
四人がそんなことを考えていた、その時だった。
「おや、君たちは……」
お爺さんが、紫月とロメオを交互に見やる。
「少し前に、S級賞金首を捕まえた二人じゃないかい?」
「「は、はい……」」
「ほっほーう。」
お爺さんは、機嫌の良さそうに目を瞬かせる。
「君たちが入学試験を受けてくれるなら大歓迎だよ。実は、ワシはあの現場を見ていてなぁ。まさか二人とも我が校へ入学してくれるとは……」
「い、いえ。私たちは六人で受験に来たのです。そしてまだ、誰も受付を終えていません……」
「なに、お友達も一緒だったのか。受付の時間はすぎているが……今回は特別に、一緒に受験させてあげよう。」
「あ、ありがとうございます!」
「どうってことないさ。では、受験者は中へ入りなさい。」
そして。
ギィィイイイ……
門が、重い音を立てて開いた。
「流石は紫月。お手柄だね。」
「ロメオさんこそ、あちらの女の子にいい打撃を与えていましたね。」
「僕、そんなことしたかな……?」
ロメオに自覚はないが、失恋という大ダメージを少女に与えていた。
そのことに気づいている紫月は、クスクスと笑う。
「ではみなさん、入りましょう?」
「「「「あ、ありがとうございまーす。」」」」
先に歩いていく紫月とロメオ。
すると、
「美しい……」
「なんて絵になるお二人だ……」
「ハァ……近くで息を吸いたい。」
「おっふぅ……」
たった数歩進んだだけで、黄色い声があがっていた。
それだけではない。
儚げながらも芯のある強さと美貌を持った紫月に、うっとりと見蕩れる男子が多数。
ロメオの圧倒的な美しさに充てられ、熱を持ったようにふらつく女子が多数。
とても目立っている。
一方、
「「「「……」」」」
主人公(笑)の四人は置いてけぼり。
「……やっぱ、主役あっちじゃない?」
「「「うん。」」」
リコの言葉に、三人は頷いた。
「でもリコ、スッキリしたからいいんじゃない?」
「うん。紫月さんが叩いてくれて嬉しかった。」
「あのクソ女がロメオに失恋するのも見てて面白かった!」
「お、セリナ悪い顔するねぇ。」
セリナがニヤケながら見つめる先では、
「……なによ」
悔しそうにする、あの少女の姿が。
「別にぃ?ただ人種差別だなんて、くだらないなと思ってね。人間が小さいよ。」
「ッ……覚えてなさいよ。」
「もう忘れるもんねー!」
セリナはそれだけを言い残すと、四人は少女の存在など意識から外し、
「「「「ゴーゴー!」」」」
軽い足取りで門の中へ入るのだった。
ーーーーーー
門の中は、まるで広大な庭園だった。
青々とした木々が生い茂り、色とりどりの花々が咲き乱れている。
その至るところには、白い天使の像が置かれていた。
愛らしい装飾が庭園の雰囲気とよく合っており、ここが学校であることを忘れてしまいそうになる。
「受験者のみんな、ちゅうもぉーーく!」
流石は王立。
学園の色あいやデザイン性は然る事乍ら、朝礼台で呼びかける先生の格好も飛び抜けている。
「はーい、どおもぉ!アタシはコーデリア・ナーヴェですぅ!ここ学園で教頭をしとりますぅー。今回の試験では案内役を担当しておりますぅ。よろしくなぁ!」
((((なぜに関西弁?))))
特徴的な喋り方に加え、異常に長くクルクルのまつ毛、高いヒールにビビットピンクの派手なスーツがとても際どい。
まるで、どこぞのパリコレモデルのような先生だ。
「今年も受験者がヒジョーに多いので、作業を進めながら説明に入らせてもらいますねぇ。まず、今配っているカードに書かれてある数字が受験番号ですぅ。」
その直後。
ヒュッ
六人の頭上に、何かが飛んできた。
((((((おぉ。))))))
それぞれが手を広げる。
すると、空中を舞っていたカードはふわりと速度を落とし、そのまま一人ずつの手の中へ収まった。
「受験番号は呼び名のようなもので、書いてある数字は試験の順番とは関係ありまへん。順番は早い者勝ちですぅ。ちなみに、試験の合否は、試験内容を終えたその場で決まりまぁす。今日は結果が出れば、すぐに帰っていいですよぉ。手続きはまた後日にお願いしますからぁ。」
((((((へぇー。))))))
効率を重要視した、なかなか素晴らしい制度だ。
大抵試験というものは、他の試験者を待ち、結果が出るまでの時間が煩わしいものだ。
「当然ですが、最初の方であればあるほど早く帰れますぅ。体力試験では試験で百人見るのに一時間、魔法試験は三十分かかりますぅ。試験官の人数がそないに多くないんで、あまり急かすようなことは止めてくださいねぇ。」
チラッ
受験番号は紫月、ロメオ、リコ、セリナ、ミキ、ユキミの順に……
370、371、372、373、374、375だった。
「百人で半刻ですか……」
「そうだね。もし番号の通りの順番だと、四時間……二刻はかかるわけだ。」
紫月とロメオは顔を顰めた。
現在は正午。
もし二時間後までに試験を終えて帰らなければ、虹色の道の出現を待つため、第二の世界で明日の昼まで過ごさなければならない。
一応二人は、十四時までに元の世界に帰れないことを想定して、明日の午前までのスケジュールは空けている。
しかし……
「明日の午後からは“ 緑”と賭場の制圧に向かいますから、私としては今日中に帰りたいです。」
「僕も明日は……僕らの結婚反対派の人の説得に行かなきゃだから、今日中に帰りたいな。」
「確か教頭先生は、試験の順番は“ 早い者勝ち”だと仰っていましたね。」
「ここから戦いは始まってしまうのか……」
何としても帰るために、やる気満々だ。
「カードが配り終わったみたいなんで、会場に案内しますぅ。今から目印をあげるんでぇ、剣士科は青、魔法剣士科は赤、魔法科は黄色に移動してくださぁい。会場には係員がおるから、自分の番が回ってきたらカードを渡してなぁ。」
直後。
ドォンッ ドッ ドォンッ
花火の打ち上げ音のようなものが、三つ響いた。
空を見上げれば、青、赤、黄色の光の玉が浮かんでいる。
昼間だと言うのに、それぞれの色がはっきり分かるほど眩しく輝いていた。
「この世界を救うため、我々が立ち上がる時が来てしまったようだ……ふっ。みんな、頑張ろうな……」
「セリナ何言ってんの?」
「「「「お、おー……?」」」」
セリナの厨二的掛け声に、ミキは乗らず、四人は苦笑いで拳を空に上げる。
「ちなみにぃ、会場への到着が遅かった人は脱落になりまぁす。一つの会場ごとに下位百人を落とすからなぁ?」
「「「「「「えっ」」」」」」
三つの会場に分かれるので、つまり三百人が最初に脱落するということだ。
「落としすぎやと思う?けどなぁ、総勢で千人以上受験者がおりますからぁ。三百人くらい減らした方がこっちもやりやすいんですよぉ。」
なんて酷いシステムだ。
下手すれば、試験を受けることも叶わないなんて。
「会場まではなんでもアリ。みんな頑張ってぇな!はい、レディーゴー!」
「え、イキナリ!?」
ユキミが声を上げた、その瞬間だった。
「うぉおおおおおおおおおお!!!」
「どけぇえええ!!!!」
「邪魔!!邪魔しないで!!」
周囲にいた受験者たちが、一斉に走り出した。
その勢いは凄まじく、まるで肉食獣に追われた草食動物の群れ。
((((怖い怖い怖い怖い!!))))
ユキミ、ミキ、リコ、セリナも勢いに呑まれ、体が前へと進んでいく。
「あれ、ロメッチと紫月ちゃんがいない!」
リコが隣を見て驚いた。
恐らく、もう走って行ってしまったのだろう。
流石は強者二人だ。
「まぁいいか……よしミキ、走れ!!」
「え!ちょ、リコ押さないで!!」
「ミキのパワーで全員なぎ倒してこい!」
「わかった!!」
褒められたと思ったのか、目を輝かせるミキ。
「うぉおおおおお!」
ミキが人をかき分けながら進むと、
「うわっ!」
「なんだコイツ!」
そのパワーにより、後ろに道ができる。
「ユッキー、セリナ!ミキに続け!」
「「おぉー!」」
ーーーーーー
並び立つ、八つの巨大なクリスタル。
大聖堂を思わせる白い建物の中で、それは神々しく輝いていた。
「フンッ!ファイヤーボール!」
ブワァアアアアアン!
リコの放った火球がクリスタルへ直撃する。
燃えるような赤い光が、クリスタルいっぱいに広がった。
「372番、合格です。」
「ッしゃぁああ!!」
勢いよくガッツポーズを決める。
「なんと!」
「素晴らしい魔力だ!」
「でも、この辺りじゃ見ない顔立ちね。」
パチパチパチッ
「どーも、ありがとうございますっ!」
周りから巻き起こる拍手に、手を振って返すリコ。
「では、カードをお返しします。次もこちらを持って体力試験の会場へお進みください。会場は、この建物の裏側です。」
「はーい。」
係員のお兄さんからカードを受け取った。
カードには魔法試験を通過した証に、ダイアの赤いスタンプが押されている。
(ミキ達は受かったかいな?)
ふと、別のクリスタルへ目を向けた。
すると……
「ウォーターアロー!」
「ウィンドボール!!」
「アーススピア!」
ブワァアアアアアン!
ブワァアアアアアン!
ブワァアアアアアン!
聞き慣れた声とともに、青、緑、黄色の眩い光が次々とクリスタルから放たれていた。
そして、
「合格です。」
「「「ッしゃぁああ!」」」
会場に響く、喜びの声。
(お、受かったっぽいな。紫月ちゃんとロメッチは絶対に合格してるし、みんな順調だわ。)
しかし、この会場に紫月とロメオの姿はない。
果たして二人は、どこにいるのだろうか?
ーーーーーー
これは入学試験の一週間前。
そして、初めて魔法を教わってから四日目のことだ。
「魔法科と魔法剣士科には、大きなクリスタルに向かって得意な魔法を放ち、魔力が基準値に達しているか測定する魔法試験があります。その試験にはまず、魔法をクリスタルに当てるコントロール力が必要です。ここまでは、昨日話したよね?」
「「「「「「はーい。」」」」」」
メガネをかけた佐々木さんの前に、ユキミ、ミキ、リコ、セリナ、紫月、ロメオの六人が並んでいた。
ここは以前、四人が体力テストを行った東平屋公園。
今日も人気が少なくて、無駄にスペースのある場所だ。
「今日も練習頑張ろう!」
「「「「「「おー!」」」」」」
ちなみに、全員ジャージ姿である。
紫月とロメオは、初めて着るジャージの動きやすさにすっかり驚いていた。
さて。
先程も言った通り、この日は魔法を教わってから四日目。
なので、これまでの魔法の授業で何をしたか簡単に説明しよう。
まずは初日。
「魔力とは、魂の周りを囲うエネルギーのようなもののだよ。魔力量そのものは本人によって決められるものではない。ただ、変わった人間には魔力量が多い傾向にあってね。まだ謎が多いんだ。」
など、店の中で真面目な雑学。
リコが途中で寝ていた。
次に二日目。
「じゃあ、指先に最も適正のある魔法で小さな玉を作ってみよう。リコちゃんが火、セリナちゃんが水、ミキちゃんが風、ユキミちゃんが土、ロメオ君はなんでもいいよ。そして紫月には、これを。」
佐々木さんは、紫月に青い宝石のようなものを渡した。
「その魔石が水の因子の代わりになってくれるから、握った状態で水魔法を使ってみてね。」
「は、はい……!」
こんな感じで、直径が五円玉ぐらいの玉をそれぞれ作った。
そして三日目。
「火の魔法なんかは危ないから、水の魔法でコントロールの練習を始めます。みんな、大きめに水の玉を作って、あそこの木の根っこに水を飛ばして。ユキミちゃんは水の因子がないから、これを握って練習してね。」
ユキミにも青い宝石が渡され、公園にて練習開始。
ただ木に水やりをするだけなのだが、ミキが苦戦を強いられ……
「あ、やべっ」
「「「べフッ」」」
ユキミ、リコ、セリナが被害を受けた。
「これは……明日も特訓しよう!」
佐々木さんの決定で翌日もコントロールの練習を継続、四日目の今に至る。
「魔力を血液のように循環させるんだ。心臓から足元へ、足元から指先へ。今度は上に足元から指先へ、指先から脳へ一気に巡らせて。何度も言うけど、魔法とはイメージ力。さっきセリナちゃんが見せたアニメの技をよーく思い出して。」
「「「「「うーんっ」」」」」
トクトクトクトク……
空中に、バスケットボールサイズの水の玉が五つ浮かび上がる。
「はい、その水を指定した植物にあげて!優しくね!」
「「「「「はい!」」」」」
シャーッ
水の玉から細い水流が伸び、ジョウロのように水が花へ注がれていく。
揺れる花は喜んでいるようだった。
「うん、みんな随分とコントロールが良くなったよ。特にミキちゃん、すごい進歩だ。」
「えへへ、あの後も練習しましたから!」
ミキは嬉しそうに笑った。
「ミキ、昨日は酷かったもんね。水をあっちこっちに噴射するし、それで公園の木を折っちゃうし、ウチらの顔にも直撃したし。」
「紫月さんとロメオは避けたんだから、リコたちも避ければ良かったんだよぉ。」
「いやいや。ミキが普段から怪力ゴリラだから、力加減できなくてウチらが犠牲になったんだよ!」
「怪力ゴリラ!?ひっどーいっ!」
ミキとリコが揉み合いを始める。
そんな二人をよそに、
「うん、こんな感じかな。」
ロメオは火の魔法を使って、無数の小さな蝶を作り出していた。
ヒラヒラと、優雅に舞う赤い蝶。
魔法によって形を作り、動きをコントロールしているだけなのだが、まるで本当に生きているかのようだ。
「凄いですね、ロメオさん。私は二匹作るので精一杯です。」
「ありがとう、紫月。また名前呼びを忘れてるよ?」
「ご、ごめんなさい……ロメオ。」
「うん。」
はにかむ紫月と、嬉しそうなロメオ。
((((けっ、リア充め!!))))
そんな四つの視線に、二人は気づいていない。
そんな時。
パチパチパチッ
ロメオの元へ、佐々木さんから拍手が送られる。
「本当に凄いよ、ロメオ君。私も君たちと同じ魔法の使い方をしてみたけど、蝶は一匹が限界だね。数だけならもっと作れるけど、そんな風に一匹一匹に違う動きをさせるのは無理だよ。」
「いえ、流石に何度か練習はしましたよ。」
「練習したところで出来る技じゃないさ。形のない炎を蝶の形で固定する魔力操作、それぞれの蝶に違う動きを与えられるイメージ力。この二つの合わせ技ができるのは、天賦の才としか言いようがない。」
「そ、そうですか……?」
ロメオはちょっぴり笑い、照れた。
もうロメオの佐々木さんへの接し方も、以前よりずっと軟化している。
「ロメオ君なら、やっぱり魔法剣士科がベストかな?」
「いえ。僕は、剣士科に入ります。」
「えっ、魔法はいいの?」
「はい。きっと、僕は魔法を使うよりも剣を持つ方が強いので。それにどんな魔法を使ったとしても、彼には通用しないでしょうからね。」
「あぁ……エリアスか……」
佐々木さんは不快そうにその名を口にした。
“ エリアス・カルミナ”
紫月と互角に渡り合い、最後には斬られた赤髪の剣士。
性格こそ最悪だったが、その剣の腕は本物だった。
そしてロメオは、自分の実力がエリアスに及ばなかったことを気にしている。
「異なる世界で剣を学べば、僕も彼を越えられるかもしれない。もしかすれば、紫月の隣に並び立てるかもしれない。そう思うんです。」
「そっか……なら、紫月と同じ剣士科だね。」
「え?」
ロメオは驚いたように、紫月を見る。
「本当に剣士科でいいのかい?せっかく、憧れていた魔法が使えるようになれたのに……」
「はい。どんな魔法を使ったとしても、剣の美しさには勝てませんから。しかし……」
紫月は佐々木さんに視線を向け、ニコリと微笑んだ。
「見抜かれていたとは、少し驚きました。」
「ま、まぁね。」
(魔石がないと魔法が使えない紫月は、そもそも剣士科以外に入れないってだけなんだけどな……)
佐々木さんは事実を、そっと胸に秘めておいた。
ーーーーーー
というわけだ。
剣士科を受ける紫月とロメオには魔法試験がないので、会場が別なのだ。
「おーい、リコ!」
リコの元へ、ミキが駆け寄る。
「セリナとユキミも合格したって。もう体力試験の会場に移動してるよ。」
「オッケーイ。ウチらも移動するか。」
「うん。魔法試験は一番に受けられたし、これは早く帰れそうじゃない?」
「おー、良かった。最近は婆ちゃんと爺ちゃんに店番変わってもらいすぎたから、戻ったらすぐ働かないとね。」
「異世界を救う為とはいえ、流石に申し訳ないもんね。」
元々ストロベリーローズは、リコの祖父母が経営していた店。
今はリコたちが引き継いでいるが、四人が遊びたい時などは店番を変わってもらっているのだ。
「急がなきゃだけど、喉乾いたな。」
「あっちで水配ってたよ。」
「ナイスミキ〜。じゃあ水を貰ってから行こ。」
「うん!」
ーーーーーー
ミキとリコより一足先に、体力試験の会場に着いたユキミとセリナ。
二人を待っていたのは、いかにも「熱血教師です」と言わんばかりの、日に焼けた健康的な男だった。
「体力試験は素の身体能力を計測するため、魔力循環は禁止だッ!不正を防ぐためにも、この魔石を首から下げてくれ。」
「「はーい。」」
男から、透明な石が付いたペンダントを渡される。
恐らくこの石は、魔法試験で利用されていたクリスタルの欠片だろう。
「よしっ。体力試験に一番に来た君たちには、軽く自己紹介をしておこう。俺はこの学園で、戦闘技術を指導しているグラントだ。今日は試験官を担当している。よろしくな。」
「「よろしくお願いします!」」
「よしっ。じゃあ早速、種目の説明をさせて貰うぞ。」
(んー……)
何か気になることがあったのか、セリナは小声でユキミに話しかけた。
「ユキミ氏、魔力循環って何か聞いてる?」
「ううん。特に聞いてない。」
「佐々木さん……異世界に送り出すなら、ちゃんと説明しといて欲しいよね。」
「ねー。」
「まぁ、そんなことはどうでもいいとして……」
セリナはグラントへと視線を向けた。
「先生の服ダサくない?」
「それ思った……」
ユキミも頷く。
「最初は垂直跳びから始める。それから……」
目の前で、スラスラと試験内容を説明する体育会系イケメン。
その服装はーー
「見てよユキミ氏。まずズボンが横一直線に裂けてるよ?武士に脚の筋でも狙われたのかっての。あとシャツもヤバい。でかでかと“ SKY”って書いてあって、その下のヒヨコモドキの絵。いったい何なんだ。しかもあれ、TシャツじゃなくてYシャツだよ?」
「冬でもあれを着るのかな?」
「え……そこ?」
セリナが首を傾げた、その時だった。
「じゃあ375番、跳躍してくれ。」
「は、はい!」
突然番号を呼ばれ、ユキミは慌てて前へ出る。
「ユキミファイト!」
「うん。」
ユキミは膝をまげ、
ドンッ
「うぁあああああああああ!!」
垂直に、軽く10mは跳んだ。
「いやぁぁぁあああああああああん!!」
そして叫んだ。
ユキミは高所恐怖症なのだ。
「は……はぁあああああ!?な、なんてジャンプ力!!だが、魔石は反応してないよな!?」
あまりの跳躍力に、グラントは唖然としている。
待機していた他の審査員にも、驚きの声が広がっていた。
ドテッ!
「わっ」
ユキミは落っこちた。
「大丈夫?」
「う、うん……」
セリナの手を取り、立ち上がる。
すると……
「凄まじい身体能力だ!君はこの学園……いや、国で一番の身体能力を持っているかもしれない!」
「え……?」
「早く他の種目もやろう。結果が楽しみだな!そして373番、君も跳んでみて欲しい!」
グラントの熱い視線が、セリナへ向く。
「は、はーい。」
ダッ
セリナが大地を蹴ると、ユキミより5mほど高く飛んだ。
「うぉおおおおおおおお!!」
グラントがうるさい。
スタッ
「へっへーん。ユキミ氏より高かったぜ!」
「くっそー。……でも、あたしはセリナより足が短いから当然だし。」
「それ、自分で言ってて傷つかないの?」
このやり取りを見て、瞳を輝かせるグラント。
「す、素晴らしい!!あの高さで跳んで平然としている君らは、歴史に残る冒険者になるかもしれないな!!受けられないクエストなんか無いだろう!!モンスター討伐も、最初から高レベルなものに参加できるはずだ!!」
興奮する彼を見て、セリナは感じた。
(ようやく、アタイのターンが来たということか!)
「よしっ、次は100m走だ!!」
「「はいっ!」」
その後、日本の学校で行われる体力測定と似たような種目をこなすユキミとセリナ。
ちなみに100m走はユキミ1.8秒、セリナ1.5秒だった。
「なんて記録だ……」
「どこでこんな力を……」
ユキミもセリナも、運動はあまり得意ではない。
それでも、第一の世界で得た凄まじい身体能力で、審査員を驚かせ続けていた。
だが、
「ユッキー!セリナー!」
「ミキもやるぅ〜!」
後に来たリコとミキ(運動神経がいい二人)に簡単に記録を上回られてしまい、
「なんでい。アタイのターンはもう終わりかいっ!」
セリナが少し拗ねるのだった。
ーー二十分後。
「す、素晴らしい……素晴らしいぞお前たち……」
グラントは、感動を抑えきれない様子だ。
「特に君。握力測定で、魔石を砕いたのは君が初めてだぞ。」
「えぇ〜。ミキ、そんなに力込めてないのにぃ。」
(((は?)))
か弱いアピールをするミキ。
しかしこの女、握る力に比例して光る仕様の魔石を、いとも簡単に粉砕しているのだ。
硬い鉱石を握力で潰しておきながら、よく可愛こぶれるものだ。
「四人とも、文句なしで合格だ。その証に、これを受け取ってくれ。」
グラントの後ろから、係員らしき女性が箱を持ってくる。
パカッ
「「「「わぁ……」」」」
箱が開かれると、中には徽章が四つ並んでいた。
白地に金の模様が施された徽章は、陽光でキラリと煌めいている。
「四日後、この徽章を持って学園に来てくれ。そこで入学の手続きや、制服の採寸を行う。小さいから無くすんじゃないぞ。」
グラントが指を振る。
すると徽章は宙に浮き、そのまま四人の手のひらへと落ちてきた。
「二ヶ月後の入学式を終えて、君たちに授業をするのが楽しみにしているからな。もし困ったことがあれば、俺を頼るといい。また会おう。」
「「「「先生……!!」」」」
四人は同時に胸を打たれた。
この人は、なんていい笑顔をするのだろう。
イケメンで、優しくて、頼もしい。
完璧な先生だ。
しかし、こうも思った。
((((服さえ……服さえマトモならば……!!))))
ーーーーーー
「みんな、合格おめでとう!」
「「「「いぇーーい!」」」」
店へ戻った四人を、佐々木さんが笑顔で出迎えた。
「紫月とロメオ君は、仕事をするからってもう戻ったよ。」
「りょーかいです。……あれ?」
リコが店内を見渡し、首を傾げる。
「爺ちゃんと婆ちゃんは?」
「私が店番を変わったから、帰ってもらったよ。」
「え、お客さんに任せて帰ったの?」
「異世界の話を、他の人の前でする訳にはいかないからね。ちょっと魔法をかけたんだ。他のお客さんにも、急いで食べて帰ってもらったよ。もちろん、害のない魔法だから安心して。」
「あ、そうなんですね。」
あっさりと頷くリコ。
祖父母と客が魔法で操られたというのに、それでいいのだろうか。
「じゃあみんな、貰った徽章をみせてくれる?」
「「「「はーい」」」」
佐々木さんに言われ、四人はそれぞれ小さな徽章を掲げる。
「うん、その徽章が貰えてよかったよ。実は、紫月とロメオ君も同じものを貰っていてね。その白と金は、特待生であることを表しているんだ。」
「特待生だと、何かあるんですか?」
「それはもう、すごい特典があるんだよ……」
セリナの問いに、佐々木さんが意味ありげに微笑む。
((((す、すごい特典……!?))))
その響きだけで、否が応でも期待が膨らんだ。
「その特典とは、なんと!」
「「「「なんと!?」」」」
「アルカディア学園の学費が、全額免除されます!!」
「「「「…………学費?」」」」
「うん。学校に通うんだから、学費がかかるのは当然でしょ?しかも王立だから、結構高いんだよね。」
「「「「……」」」」
四人の顔から、期待がみるみる消えていく。
どうやら想像していた「すごい特典」とは、かなり方向性が違ったらしい。
「え、どうしたの……?ねぇ、セリナちゃん!みんなどうしちゃったの?」
「いやぁ……」
セリナは頬を、指先で掻いた。
「異世界を救うのに、学費のことは頭になかったっていうか……思ってたより、現実的だなぁっていうか……」
「ほ、他にも特典はあるよ!特待生は、最初から強いモンスターと戦えるし!」
「最初は弱い方がいいな……」
「そ、それと……他の生徒にでかい顔ができる!!」
「え、それは素敵♡」
コロッと、セリナは笑顔に。
(((セリナ……)))
他三人の視線が痛いのは、気にしない気にしない。
「特典はまだあったような気がするけど……とにかく!二ヶ月後には入学式。制服は結構可愛いから、期待しておいてね。」
「「「「おぉー。」」」」
「それと……」
その声に、佐々木さんの雰囲気が変わった。
「入学式では、次に救うべき人物が現れる。その子は燃えるような赤い髪と瞳の持ち主だ。第二の世界で君たちのやることは、彼女と接触し、迫り来る“ 魔の手”を撃退すること。先に伝えておくよ。彼女の名は……」
“ ダリア・ルージュベル”
まさに燃えるような、真っ赤な名前だ。
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