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お昼の時間です  作者: ゴマサバ
第一の世界
29/30

綻び

空気が焦げていた。


鉄と血の匂いが、肌にまとわりつく。


紫月が辿り着いた時には、すでに戦線は崩壊していた。


地面には倒れた兵士たち。

呻き声と、動かなくなった身体。


蜂の巣のようになった者や、身体がバラバラの者もいる。


あそこの肉片は、敵のものだろうか。

それとも、味方のものだろうか?


「……遅かった……」


かすかな呟き。


その時――


「ひ、姫様……」


かすれた声が、足元から響く。


視線を落とすと、一人の兵士が血に濡れた手を伸ばしていた。

右腕と右足がない。

出血が酷いため、助かる可能性は限りなく低いだろう。


「助け……て……ください……あいつ……ら…を……」


その瞳には、恐怖と、希望とが混ざっていた。


紫月の胸が、強く締めつけられる。


「……任せて」


自然と、そう口にしていた。




ザッ


土を踏む音。


視線を上げると、そこにいたのは――


緑の髪。

紫月と同じ“色つき”で、年はそう変わらないように見える。


短髪の少年だった。

薄茶の瞳が、まっすぐに紫月を見ている。


その手には、血に濡れた刃。


「……」


「……」


構え合う二人。


((あぁ……この子は……))


次の瞬間。


シュッ


どさり、と。


遅れて、何かが地に落ちる音。


視界の端で、少年の身体が崩れた。


紫月が首を斬ったのだ。


「……」


紫月の視線は、すでに次へ向いていた。


「ば、化け物だあの女!!やれぇ!!!!」


放たれる機関銃。投げられる爆弾。


「なんでだよ!!なんでぇええええ!!!」

「……がぁ…………」


紫月はそれらを難なく交わし、敵の首へと一閃。


バシユッ!!


首が果物のように、ゴロゴロと地面に転がる。



そしてーー


わずか一分で、

敵43名は誰一人として、生き残った者はなかった。



紫月は、最初に殺した少年に目をやると、顔を伏せた。


(……あの子も……私と同じ……)



「……姫様……」


かすれた声が、再び響く。


先ほどの兵士だった。


紫月ははっとして、その元へ駆け寄る。


「今、手当てを――」


言いかけて、言葉が止まる。


兵士の瞳は、すでに焦点を失っていた。

伸ばされていた手も、力なく地に落ちている。


「……あ……」


遅かった。

間に合わなかった。


紫月は周りを見る。


もう、誰も生き残ってはいない。


「……っ」


紫月は涙を流した。


誰もいなくなった戦場で。



ーーーー





バッ


「っ…………!!!」


勢いよく、上体が跳ね起きた。


「っ……はぁ………っ…はぁ……」


荒い呼吸が、静かな部屋に広がる。


久しく見ていなかった夢。


それは――紫月の過去の記憶だった。


(…………どうして夢なんか……)


紫月は普段、夢を見ることはない。

一度眠れば朝までぐっすり熟睡してしまう。


だからこそ――


今のこれは、あまりにも異質だった。


「……っ」


こめかみの奥が、じわりと痛む。


(……外の空気が吸いたい……)


紫月はゆっくりとベッドを降りると、手早く身だしなみを整えた。


扉を開ける。


ひんやりとした空気が、肌を撫でた。


かつて自分も暮らしていた屋敷の廊下を、ゆらりと歩き出す。


(あぁ……こんなものも、あったわね……)


視界に映るのは、懐かしい調度品の数々。

いくつか、良い思い出がある物もある。


だが、心の内側は少しも晴れない


「……」


重たいままの気分を引きずりながら、


紫月は静かな廊下を進む。


ふと、


庭に面した大きな窓の前で、足が止まった。


その先には、色とりどりの花が咲いている。


赤、桃、黄――


雨に濡れながらもなお、鮮やかに揺れる花々。


「……綺麗……」


思わず、言葉がこぼれる。


その時だった。


「……綺麗ですよね。」


背後から、麗らかな声。


「……!」


紫月は驚いて振り返る。


そこに立っていたのは、ロメオだった。


「顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」


「……ご心配ありがとうございます。大丈夫です。」


そう答えたにもかかわらず、ロメオの表情はわずかに曇ったままだ。


「……あまり無理はされないでくださいね。」


「……」

無言で頷く紫月。


(どうして?どうしてこんな私に、そこまで優しくできるの?)


胸の奥に、かすかな戸惑いが残る。


紫月にとってロメオの優しさは、尊敬すべきものであり、少しだけ居心地の悪いものでもあった。


これ以上踏み込まれたくない。


そう思い、紫月はそっと話題を変えることを決める。


視線を庭の中央へ向けた。


「……あのバラは、バレンティアから輸入したものでしたよね。」


ロメオは穏やかに頷いた。


「えぇ。我が国が誇る、最も美しい品種のバラです。」


ロメオも庭へと視線を向ける。


雨脚はさらに強くなっていた。


花びらが、ひとつ、またひとつと揺れる。


「……この雨で散ってしまうのは、勿体ないですね。」


紫月の呟きに、ロメオはほんの少しだけ微笑んだ。


「紫月さん、前に話した青いバラの話は覚えていますか?」


「え?……あぁ、確か……お会いして二度目の時に……」


記憶を辿るように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「そうです。あの時、紫月さんは“青いバラがある”という話を信じていませんでしたよね。」


「……実際に、ありえない色のはずですが。」


「その通りです。でも、あるんですよ。」


「……?」


紫月は、わずかに眉を寄せる。


「その青いバラを、あなたに見せる約束、必ず果たしてみせます。楽しみにしていてください。」


「…………はい……」


戸惑いながらも、紫月は頷く。


それを見たロメオは、満足げに目を細めた。


「では僕は、紫十郎さんに呼ばれているので失礼します。……あぁ、その前に一つだけ。」


「は、はい……」


身構える紫月。


「紫月さんはエリアス・カルミナ神父と、街で会いましたか?」


「え……?……はい。お会いしました。」


「その時、何か話をしましたか?」


「!」


紫月は一瞬、息が止まる。


“ 裏切られた、という表情をされていますね。”


あの時、エリアスにはそう言われた。

あの時、自分の心を見抜かれたのだ。


(ロメオさんは……そこまで分かっているの?どうして……)


少し表情が強ばったまま、紫月は答えた。


「特には……私があの方にぶつかってしまい、落ちた本を拾っただけです。」


「そうですか……ありがとうございました。」


ロメオは軽く一礼すると、そのまま静かに去っていった。


再び、雨音だけが残る。


(エリアスさんとのことは……考えても仕方がないわ。それよりも……)


紫月はもう一度、バラへと視線を落とす。


「約束……?」


ぽつりと、呟く。


「約束なんて……していたかしら……」


考えた、その時。


「あ……」


次の瞬間、


記憶が、ほどけた。



ーー



「……あ、その顔は信じていませんね。」


楽しげに笑いながら、ロメオは言った。


「……ならいつか、僕があなたに青いバラをプレゼントします。約束ですよ。」



ーー



約束、していた。


(あまり本気にしていなかったから……すっかり忘れていたわ……)


その瞬間。


――覚えていません。


「……え?」


不意に、


頭の奥で、声が響いた。


――申し訳ございません。覚えておりません。


「……っ」


知っている声。


いつも聞いている声。


(……墨男……?)


鼓動が、わずかに乱れる。


その時。


ーー戻って。


(え?)


今度の声は、もっと聞き覚えのあるものだった。


ーー部屋に戻って。


(この声は……)


紫月は、無意識に踵を返していた。

考えるよりも先に、身体が動く。


ーー教えてあげる


(いったい何なの……?)


足早に廊下を進む。

やけに、距離が短く感じた。


気がつけば――


自室の前に立っていた。


「……」


ガチャッ


ドアを開けて驚く。


(……!!)


部屋が、暗かった。


ただ暗いのではない。


光を、吸い込むような闇。

カーテンは閉めていないはずだ。

雨で薄暗くなることはあっても、ここまでではない。


「どうして……」


恐る恐る部屋に入る紫月。


すると、


バタンッ


ひとりでに、ドアが勢いよく閉まった。


「……誰?」


しかし、紫月はドアの方を見ていない。

見ているのは、部屋の奥。


ーー私は、私よ。


そんな奇妙な台詞と共に、暗闇から人が浮かび上がってくる。


「あなたは……」


「私は私。」


その顔と、その声は、この世の誰よりも見知っている。


「どうして、私と同じ顔と声なの……?」


「それは、私はあなたの一部だから。」


紫月と全く同じ顔のその女は、平然としていた。


「ここはどこ?あなたは……」


「そんなことより、私に見て欲しいものがあるの。」


「え?」


紫月に似た少女は、後ろに振り返る。


すると、目の前の景色が変わり始めた。


変わった景色に現れたのは、三人目の紫月と、墨男の二人。


「これは……」


「今から見るものは、私の記憶。」


「記憶……?」


「えぇ。私はロメオさんとの婚約が決まったあと、すぐに墨男の元へ向かった。そこまでは覚えているでしょう?」


「えぇ……でも、私はいつの間にか眠ってしまっていて……」


「目が覚めたら墨男がいて、私に謝っていたわね。」


「……謝られた理由は分からなかったけれど……」


「その理由が分かる記憶を、私は私に見せるの。……いえ……思い出させるの。」


紫月の胸の奥が、強く軋んだ。


「思い出させる……?」



ーー


「“約束”したでしょう……!?」


声が、響く。


「墨男は……私に、かんざしを……!」


「覚えていません。」




「……は…………」


私の動きが、止まる。


「……覚えて……ない?」


墨男が目を背ける。


「……申し訳ございません。覚えておりません。」


「あ……あは……」


私の視線が、宙を彷徨い始める。


「子どもの頃の、約束だもんね……それを私……馬鹿みたい……」


「姫様……」


「あ……あは……」


「……姫様?」


「あはは……あははは……」


私は自分の髪を掴んだ。


最初は、小さく笑う。


やがて――


「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははあははははははははは!!」


ーー


「いやぁぁああああああああああああ!!!!」


「……」


取り乱す紫月を、もう一人のシヅキはただ見ていた。


「知らない!!知らない!!あんなの……!!あんなもの知らない!!」


「……知らないはずないわ。これは確かに、私の記憶だもの。」


「そんなわけない……そんなわけない……!!」


息が浅くなる。


頭が、追いつかない。


「こんなの嘘よ!!」


「嘘じゃないわ。だって、あなたはこの時から笑顔を作れなくなったでしょう?」


「!!」


そうだ。

この時期から、紫月は笑顔を作ろうと思っても、できなくなっていた。


この証拠で、確かに“自分の記憶”だと分かってしまう。


「……っ……墨男は、本当に“ 約束”を……?」


ふと、


別の光景が浮かんだ。


数時間前に、目の前に差し出された菊の練り切り。


白く、整えられた花。

丁寧に作られた、それ。


(……あれは……)


思考が、繋がる。


(墨男は……)


“約束”を。


“思い出”を。


(……忘れていたから……?)


胸の奥が、ひどく冷える。


さらに、重なる。


そして少し前の、自分の言葉。


――あまり本気にしていなかったから、忘れていたわ。


「……」


呼吸が止まる。


(もしかして……)


ひとつの答えが、形になる。


(墨男にとって……あの思い出は……)


否定したいのに、


言葉が、止まらない。


(……その程度の……?)


「……っ」







ーーーーーー






部屋には、ユキミ、ミキ、リコ、セリナの四人と、墨男、そして雪乃を含めた使用人たちがいた。


「すいません、また泊まらせてもらって……」


セリナが遠慮がちに頭を下げる。


「姫様もお喜びになるとは思いますが……騒がしくしないでくださいね?」


間髪入れず、雪乃の鋭い声が飛ぶ。

無駄のない手つきで、彼女はお茶とお菓子を配膳していく。


「そうだよセリナ。雪乃さんは怒ったら長いんだから。」


リコがくすりと笑いながら呟く。


「どういう意味です?」


ぴたり、と雪乃の手が止まる。

低く静かな声に、リコは一瞬で表情を引き締めた。


「な、なんでもないですー」


とぼけた顔で視線を逸らす。


雨にずぶ濡れになった四人は、すでに入浴と着替えを済ませていた。

セリナとユキミは青、ミキとリコは赤のワンピース。


「このワンピース可愛い!」


上機嫌のミキが、その場でくるりと回る。

裾がふわりと広がり、部屋の空気が明るく弾んだ。


「……このワンピース、紫月さんのですか?」


ユキミが自分の裾をつまみながら、小さく首を傾げる。


「前に着た時も、あたしだけサイズが合わなかったし……」


他の三人よりも背の低い彼女には、丈が少し長すぎた。


「その通りです。」


雪乃と共に配膳中の墨男が答える。


「この服も姫様とロメオ殿下に許可をいただいております。どうぞお持ち帰りください。」


その言葉に、四人はそろって首を傾げた。


「ロメオの許可?どういうことです?」


セリナが問い返す。


墨男はわずかに視線を落とし、言葉を選ぶように続けた。


「……その服は、ロメオ殿下が姫様に贈られたものです。姫様にお洒落を楽しんでいただきたいと、様々な色の服を用意されたのですが……」


「この国では、身分と違う色の服を着ることは重罪ですからね。」


雪乃が淡々と補足する。


「姫様は、それらを着ることができないのです。」


「「「「ふぅーん。」」」」


四人は揃って頷いた。

納得はしたが、どこか腑に落ちない空気が残る。


「ねえ、ロメオは紫のワンピースはあげなかったの?」


ミキが無邪気に首をかしげる。


四人の前で紫月は、着物しか纏っていないからだ。


「……贈られてはいますが……」


墨男の言葉は歯切れが悪い。

雪乃と目を合わせ、互いにわずかに沈黙する。


そのときだった。


ドカッ、ドッ、ドッ――


鈍い音が、天井の向こうから響いてきた。


空気が一瞬で張り詰める。


「……姫様……?」


雪乃が小さく呟く。


次の瞬間、墨男は弾かれたように部屋を飛び出した。


「墨男!」


雪乃も後を追う。


「わ、私らも行こうか……」


状況は分からない。だが、ただならぬ気配だけは伝わってくる。

四人も顔を見合わせ、すぐに走り出した。


廊下を駆け抜け、突き当たりの階段を上がる。

さきほどいた部屋の位置へと向かう途中、ひとつだけ扉の開いた部屋が目に入った。


――その瞬間。


パリンッ!!


鋭い破裂音とともに、黒い液体の入った瓶が廊下の壁に叩きつけられ、砕け散った。

飛び散ったしぶきが、床に不気味な染みを広げていく。


誰かが、部屋の中から投げたのだ。


「姫様!!落ち着いてください!!姫様!!」


墨男の叫びが響く。


「どうしたんです!?」


セリナの声が弾け、

ミキ、リコと共に三人は部屋の中を覗き込んだ。


するとそこには、


「姫様……!!」


床に手をつき、息を荒げる雪乃と


「おやめください……!!姫様……!!」


紫月の腕を掴み、必死に抑え込もうとする墨男、


「誰も……誰も私のことなんか……!!」


そして半狂乱になった紫月がいた。

彼女の手には、鋭く尖った万年筆が握られている。


その切っ先は、まっすぐ自分の首元へと向けられていた。


「「「まさか……!!」」」


三人の背筋が凍る。


次の瞬間、迷うことなく飛び出した。

紫月を止めるために。


だが、


「離して!!」


振り払う一声。


その細い腕から放たれた力はあまりにも強く、墨男を含めた四人は、容易く弾き飛ばされた。


「「「ぐえっ!!」」」


「ガっ……!」


床や家具に叩きつけられる音。


「いたっ……」


ミキが小さく声を漏らす。

見ると、親指から血が滲んでいた。


「ミキ大丈夫!?」

「血ぃ出てる!!」


リコとセリナが慌てて駆け寄る。


「う、うん。少し切っただけ。」


傷が浅いことを確認すると、三人はすぐに視線を紫月へと戻した。


「っ……」


その時、紫月の動きが一瞬だけ止まる。

友人に傷を負わせてしまったことを理解したからだ。


しかも、傷を負ったのはミキだけではない。


「……」


打ちどころが悪かったのか、墨男は苦しそうに地面にへたりこんでいた。


だが――


「出て行ってください!!私のことは放っておいて!!」


その叫びは、部屋にいる全員へ向けられていた。


「姫様……!!」


雪乃が声を張る。


「私たち使用人には構いません。ですが、あなた様を心配しているご友人に、その言葉は違うのではありませんか!?」


「……」


一瞬だけ。

紫月の呼吸が、わずかに緩む。


だが、それは嵐の前の静けさにすぎなかった。


「……なら」


低く、押し殺した声。


「どうして……嘘をついたんですか?」


鋭い視線が、ミキ、リコ、セリナへと向けられる。


「ミキさんとユキミさんは……墨男と会ったの、今日が初めてじゃないですよね?どうして……あんな嘘をついたんですか?」


「「「……」」」


三人は黙って顔を見合わせる。


「……」


その沈黙を見て、紫月の瞳がさらに暗く沈んだ。


「……答えられないんですね。嘘つき嘘つき……嘘つき嘘つき嘘つき………!!」


最後の方の“ 嘘つき”は、叫びだった。


「…姫様、それは違います!!」


墨男が這いずりながら前に出る。


「口止めをお願いしたのは、私です!!悪いのは私なのです!!」


「――!」


その言葉に、

紫月の瞳がさらに深く揺れた。


「……あなたが……あなたまで、私を騙そうとするの……?……そうよね。私なんて……墨男にとって、どうでもいい存在だもの……」


「そんなわけないではありませんか!!私は――っ」


思わずこぼれかけた言葉。


だが、墨男はそれを飲み込んでしまう。


――その一瞬の“躊躇”。


それが、

今の紫月には致命的だった。


「もういい……」


すっと、力が抜けた声。


「みんな嫌い……墨男も、お父様も、雪乃も、リコさんも、セリナさんも、ミキさんも、ユキミさんも……」


そして、


「ロメオさんも!!みんな嫌いよ!!」


「ちょっと待ってよ!」


リコが叫ぶ。


「ウチらは原因あるから仕方ないけど、ロメオは違うじゃん!!あと雪乃さんも!!」


怒りと焦りが混ざった声。


「そうですよ!ロメオは紫月さんを幸せにしたいって……!!」


「ずっと頑張ってました!リコとセリナから聞いたのが殆どだけど、ちゃんと知ってます!」


セリナとミキも続いた。


「っ……」


紫月の身体が、小さく震える。


そして――


「ロメオさんの味方をするのね……」


ぽろり、と涙が零れた。


「……もう、お友達じゃない」


一歩、後ろへ。


「あなたたちなんか……お友達じゃない!!」


踵を返し、


窓へ向かって駆け出す。


「どうしたんだぁぁあああああああああ!!!!」


「紫月さん……!!」


廊下の先で、紫十郎とロメオがその姿を捉える。


だが――


間に合わない。


パリンッ!!!


ガラスの砕ける音が、空気を裂いた。


次の瞬間。


紫月の姿は、窓の向こうへと消えていた。




「しづきぃいいいいい!!!!」


紫十郎の絶叫が、屋敷に響き渡る。


「「「紫月さん!!」」」


リコ、ミキ、セリナが、ほぼ同時に駆け出す。


「姫様……紫月様!!」


墨男もまた、弾かれたように走った。


割れた窓へと、一斉に人が集まる。


砕け散ったガラスの向こう――

その先に、紫月の姿を探して。


「っ……」


ロメオが足に力を込め、窓の外へ飛び出そうとしたーーその時。


「大旦那様!!」


鋭い声が、廊下の奥から飛び込んできた。


全員の動きが、一瞬止まる。


「屋敷の敷地内に不審人物が十数名――それと……!」


報告に来た使用人の顔は、明らかに強張っていた。


ただ事ではない。


その場の空気が、一気に張り詰める。




「……体に炎をまとった人間が数名、屋敷内に侵入しました!!」


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