ウイスキー
外に出れば、12月とは思えないほどポカポカとしていた。昼間はこんなに暖かかったのか、と思った。ここしばらく、太陽を見ていなかったことを思い出した。
わたしは、近くの芝生にあったベンチに腰をかけると、読みかけの本を取りだした。心理学の本だった。
「蓮田さん。それは、午後の講義の本ですか?」
「え?これ?違うけど、そういうことにしてもいいわよ。」
谷口は、すこし考えるような顔になったが、
「じゃあ、そういうことにしてもらえますか?なかなか取材が進まないので。」
「いいわよ。」
わたしは、タバコに火をつけて、活字に目を戻した。
夕方に、サークル棟にある事務所に行くと、田辺がストーブと格闘していた。
「なにしてるの、田辺君。」
「あ、奈々先輩。このストーブの火が消えちゃったんです。」
本当に困った顔で、田辺はそう言った。
「灯油が無くなったんじゃない。」
「いえ、そんなことはないです。たぶん、フィルタかなんかが詰まっているんだと思うんですけど。」
そういうと、田辺はドライバーを探しにいった。
「ところで・・・。」
わたしの後ろで、ぬっと立っていた谷口はがつぶやいた。
「取材のつづきいいですか?」
「ああ、もちろん。」
「じゃあ、少し事務所の中を案内してもらえますか?」
「いいわよ。案内するほど広くはないけれど。」
夜の8時を回って、カメラマンの矢中は帰っていった。
取材は、一応終わった。あとは、何か事件でも起きればいいのだろうが、そんなに都合よく事件は起きちゃあくれない。
谷口は、そのまま残って、アストと話をしていた。
ふと、わたしはアストと谷口が親しげに話していることに気が付いた。
「ねえ、アスト。」
「何?奈々。」
アストは、ソファから身を起こして言った。
「谷口さんと知り合いだったの?」
「ああ、以前バイトが同じでね。ここの、卒業生なんだよ、谷口さんは。大学構内の映像撮りのついでに一日取材の話をもらってね」
「そうだったの。」
わたしは、デスクの上に腰掛けた。
「ねえ、奈々。何か飲み物でも買ってきてよ。」
振り返ったついで、とばかりにアストは、わたしに言った。
「お邪魔なら、帰るわよ。」
「そうじゃないよ、喉が乾いたんだ。」
まったく、わたしはここの所長なんだけどな。
お腹も空いていたので、アストのバイクを借りてコンビニに出かけた。
わたしは、バイクの免許を持っている。彼氏だった洋一が残していったバイクも持っている。ただし、壊れている。
コンビニでお弁当を買って、ついでにウイスキーを買った。ウイスキーは店を出るとすぐに、ビニール袋から自分のバッグへと移した。
帰ってみると、谷口はいなかった。
他の部員たちも帰ったあとだった。
「あれ?谷口さんは帰ったの?」
わたしは、コートを脱いでハンガーで窓のカーテンレールにかけながら尋ねた。
「ああ。」
アストはだるそうに、背伸びした。
「そっか。じゃあ、わたしも帰ろうかな。」
コンビニの袋をデスクに載せた。
「せっかく飲み物を買ってきたんだ。しばらくいろよ。」
「そりゃあ、いいけど。」
わたしは、アストの隣へ、ソファに腰掛けた。
「奈々。バッグの中のウイスキー、出せよ。」
「あれ?知ってたの?」
「当たり前じゃないか。おれだって、探偵だ。」
アストは、そのまま手を伸ばすとバッグからボトルを引き抜いた。ラベルを見ながら立ち上がると、部屋の隅の段ボール箱をかき回し始めた。
「確か、この辺りにコップが・・・。」
片手にウイスキーを持ったまま、段ボール箱の中から、グラスを2つ取りだした。
「あった。」
それを、デスクに乗せると、ウイスキーを注いだ。
「ねえ、アスト。このグラス、汚くない?」
「大丈夫だろ。たぶん。」
そういうと、2つのグラスのうち、中身の少ない方をわたしによこした。
「ずるい。」
「いいんだよ、奈々は。いつも飲み過ぎなんだから。」
そういうと、一気にグラスをあおった。
「飲まなきゃやってられないよ、こんな寒い部室。」
アストはそういいながら、ボトルからウイスキーをついだ。
わたしは、仕方なくちびちびとグラスに口をつける。
「なあ、奈々。」
「なに?」
「ちゃんと、大学の講議を受けろよな。」
わたしは、こはく色のウイスキーを見つめた。
「そうね。考えとく。」




