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杉並大学探偵事務所  作者: カダシュート
クリスマスは幻影の中に
45/92

ウイスキー

 外に出れば、12月とは思えないほどポカポカとしていた。昼間はこんなに暖かかったのか、と思った。ここしばらく、太陽を見ていなかったことを思い出した。

 わたしは、近くの芝生にあったベンチに腰をかけると、読みかけの本を取りだした。心理学の本だった。

「蓮田さん。それは、午後の講義の本ですか?」

「え?これ?違うけど、そういうことにしてもいいわよ。」

谷口は、すこし考えるような顔になったが、

「じゃあ、そういうことにしてもらえますか?なかなか取材が進まないので。」

「いいわよ。」

わたしは、タバコに火をつけて、活字に目を戻した。


 夕方に、サークル棟にある事務所に行くと、田辺がストーブと格闘していた。

「なにしてるの、田辺君。」

「あ、奈々先輩。このストーブの火が消えちゃったんです。」

本当に困った顔で、田辺はそう言った。

「灯油が無くなったんじゃない。」

「いえ、そんなことはないです。たぶん、フィルタかなんかが詰まっているんだと思うんですけど。」

そういうと、田辺はドライバーを探しにいった。

「ところで・・・。」

わたしの後ろで、ぬっと立っていた谷口はがつぶやいた。

「取材のつづきいいですか?」

「ああ、もちろん。」

「じゃあ、少し事務所の中を案内してもらえますか?」

「いいわよ。案内するほど広くはないけれど。」


 夜の8時を回って、カメラマンの矢中は帰っていった。

 取材は、一応終わった。あとは、何か事件でも起きればいいのだろうが、そんなに都合よく事件は起きちゃあくれない。

 谷口は、そのまま残って、アストと話をしていた。

 ふと、わたしはアストと谷口が親しげに話していることに気が付いた。

「ねえ、アスト。」

「何?奈々。」

アストは、ソファから身を起こして言った。

「谷口さんと知り合いだったの?」

「ああ、以前バイトが同じでね。ここの、卒業生なんだよ、谷口さんは。大学構内の映像撮りのついでに一日取材の話をもらってね」

「そうだったの。」

わたしは、デスクの上に腰掛けた。

「ねえ、奈々。何か飲み物でも買ってきてよ。」

振り返ったついで、とばかりにアストは、わたしに言った。

「お邪魔なら、帰るわよ。」

「そうじゃないよ、喉が乾いたんだ。」

まったく、わたしはここの所長なんだけどな。


 お腹も空いていたので、アストのバイクを借りてコンビニに出かけた。

 わたしは、バイクの免許を持っている。彼氏だった洋一が残していったバイクも持っている。ただし、壊れている。

 コンビニでお弁当を買って、ついでにウイスキーを買った。ウイスキーは店を出るとすぐに、ビニール袋から自分のバッグへと移した。


 帰ってみると、谷口はいなかった。

 他の部員たちも帰ったあとだった。

「あれ?谷口さんは帰ったの?」

 わたしは、コートを脱いでハンガーで窓のカーテンレールにかけながら尋ねた。

「ああ。」

アストはだるそうに、背伸びした。

「そっか。じゃあ、わたしも帰ろうかな。」

コンビニの袋をデスクに載せた。

「せっかく飲み物を買ってきたんだ。しばらくいろよ。」

「そりゃあ、いいけど。」

わたしは、アストの隣へ、ソファに腰掛けた。

「奈々。バッグの中のウイスキー、出せよ。」

「あれ?知ってたの?」

「当たり前じゃないか。おれだって、探偵だ。」

アストは、そのまま手を伸ばすとバッグからボトルを引き抜いた。ラベルを見ながら立ち上がると、部屋の隅の段ボール箱をかき回し始めた。

「確か、この辺りにコップが・・・。」

片手にウイスキーを持ったまま、段ボール箱の中から、グラスを2つ取りだした。

「あった。」

それを、デスクに乗せると、ウイスキーを注いだ。

「ねえ、アスト。このグラス、汚くない?」

「大丈夫だろ。たぶん。」

そういうと、2つのグラスのうち、中身の少ない方をわたしによこした。

「ずるい。」

「いいんだよ、奈々は。いつも飲み過ぎなんだから。」

そういうと、一気にグラスをあおった。

「飲まなきゃやってられないよ、こんな寒い部室。」

アストはそういいながら、ボトルからウイスキーをついだ。

わたしは、仕方なくちびちびとグラスに口をつける。

「なあ、奈々。」

「なに?」

「ちゃんと、大学の講議を受けろよな。」

わたしは、こはく色のウイスキーを見つめた。

「そうね。考えとく。」

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