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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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バナナモンスター討伐後

 地面には、まだ白い粉が大量に残っている。


 そして――。


 ヌルヌルしていた。


 ものすごくヌルヌルしていた。


「……立てない」


 魔王が地面に手をついた。


 しかし、手も滑った。


「うわっ!」


 ズルッ。


 魔王の体が前へ滑っていく。


「魔王様、立たない方がいいです!」


 昆布が叫んだ。


「もう立てないよ!」


「では、ほふく前進で脱出しましょう」


「ほふく前進?」


「はい。立てないなら、這って移動するしかありません」


 昆布が両腕を使って前へ進み始めた。


 ズルズルズル……。


「本当に進める!」


 勇気も続いた。


「こういう時は、低い姿勢が大切ですね!」


「勇気さん、これは戦術というより……」


 五利武が言った。


「滑らないための生存本能ですね」


「その通りです」


 殴打も続いた。


「俺も行きます!」


 父さんも地面に腹ばいになった。


「よし……」


 ズルッ。


「うわぁぁぁ!」


 父さんの体が勢いよく前へ滑っていく。


「父さん、速い!」


「止まらん!」


 父さんはそのまま、


 ズズズズズズ――!


 と進んでいった。


「メンタルガード!」


「何に対してですか!」


 魔王が突っ込んだ。


「今のところ、滑ることに対してだ!」


「メンタルガードで滑りは止まりませんよ!」


「知ってる!」


 その後ろから、母さんもほふく前進してくる。


「なんだか子どもの頃に戻ったみたいね」


「お母さん、楽しそうですね」


「こういうのもたまにはいいわね」


「いや、普通は嫌だと思うよ」


 魔王は苦笑した。


 そして最後尾。


 ゴプリンも這っていた。


 ただし――。


 頭のプリンを両手で支えながら。


「……プリン……」


「ゴプリン、大丈夫?」


 魔王が聞く。


「……大丈夫」


 ゴプリンは慎重に進む。


 ズル……。


 ズル……。


 ズル……。


 ほふく前進なのに、なぜか一番慎重だった。


「ゴプリンちゃん、偉いわね」


 母さんが声をかける。


「……プリン、大事」


「そうね」


 全員が納得した。


 やがて一行は、ようやくヌルヌル地獄を抜けた。


「……出た!」


 勇気が叫んだ。


「普通の地面です!」


「立てる!」


 魔王がゆっくり立ち上がる。


 全員が続いた。


 父さんも立ち上がった。


「いやぁ……大変だったな」


 父さんは服についた白い粉を払った。


「父さん、大丈夫?」


「大丈夫だ」


「荷車に吹き飛ばされたりしてたけど」


「それも大丈夫だ」


 父さんは胸を張った。


「私はメンタルガードがあるからな」


「便利だね、それ」


「何でも耐えられる気がしてきた」


「それはちょっと危ない考え方だよ」


 魔王が苦笑した。


 その時だった。


「魔王様!」


 昆布が空を指差した。


「どうした?」


「見てください」


 空には、遠ざかっていく黄色い影があった。


 残っていたバナナモンスターたちが、逃げていく。


「逃げていきますね」


 五利武が言った。


「今回はもう追わなくていいでしょう」


 昆布が双眼鏡を下ろした。


「はい。戦闘は終了です」


 魔王も空を見上げた。


「……もう来ないといいな」


「そうですね」


 昆布が頷いた。


「今回は得られるものが大きかったですね」


「何が得られたの?」


 魔王が聞いた。


 昆布は真面目な顔で答えた。


「飛行系モンスターへの対処法です」


「なるほど」


「今回は、魔王様の『魔王の睨み』と『混乱』が有効でした」


「確かに」


 魔王は思い返す。


 空を飛んでいる相手に、普通の物理攻撃はなかなか届かない。


 しかし――。


 魔王の睨みで動きを止める。


 そして混乱させる。


 飛行が不安定になったところを、五利武が打つ。


「いい連携でしたね」


 勇気が言った。


「魔王様の能力と、五利武さんのゴルフクラブが噛み合いました」


「そうですね」


 昆布が頷く。


「そして――」


 昆布は荷車を見る。


「商人さんの荷車も重要でした」


 商人が胸を張った。


「私の荷車も活躍しました」


「確かに」


 魔王も頷いた。


「荷車が滑って、バナナモンスターのところへ行ったからね」


「そうです」


 商人は満足そうだ。


「私の荷車は、武器や防具を運ぶだけではありません」


「戦闘にも使える?」


「場合によっては」


 商人が荷車をポンと叩いた。


「荷車は商人の相棒です」


 すると父さんが小さく手を挙げた。


「私は荷車に吹き飛ばされました」


「……」


「……」


「……」


 全員が父さんを見る。


「父さん」


 魔王が言った。


「それは活躍したというより、巻き込まれたんじゃないかな」


「そうかもしれない」


 父さんは素直に認めた。


「でも、私は無事だった」


「それは確かに」


 昆布が頷く。


「メンタルガードも機能しましたね」


「胃は大丈夫だった」


「そこなんですね」


 魔王が笑った。


 その隣では――。


「ウォ……」


 便意が小さく呟いていた。


「便意さん?」


 魔王が振り返る。


「どうしたの?」


「ウォ……ウォーターが……」


「うん」


「……」


「チョロチョロでした」


 魔王が言った。


「はい……」


 便意は肩を落とした。


「ウォーターが……最後まで……」


「でも、前よりは出るようになったよ」


 魔王が励ます。


「そうですよ」


 勇気も笑顔で言った。


「便意さん、大丈夫です」


「勇気さん……」


「次はビーム出ます」


「……!」


 便意の目が輝いた。


「ビーム……」


「はい」


「本当に?」


「出ます」


「どうして分かるんですか?」


 魔王が聞いた。


「勇気さんの励ましだからです」


 便意が言った。


「励まされると、出る気がします」


「それなら俺も応援するよ」


 魔王が笑った。


「次こそ、ドバーッと」


「はい!」


「チョロチョロじゃなく」


「はい!」


「みんなが濡れないように」


「はい……」


 便意は少しだけ目を逸らした。


「そこは……努力します」


「そこ重要だからね」


 その時。


「殴打さん」


 五利武が突然、殴打に話しかけた。


「はい?」


「次はパスしますね」


「私もパスします」


「……?」


 魔王が二人を見る。


「ちょっと待って」


「何ですか?」


 五利武が振り返る。


「ゴルフにパスってあったっけ?」


「……」


「……」


「……」


 全員が黙った。


 昆布が考え始める。


「ゴルフのルール上、味方にボールをパスするという意味では――」


「いや、そういう話じゃないよ!」


 魔王が突っ込む。


「五利武さん、次は殴打さんにパスするって、どういう意味?」


「次は殴打さんに打ってもらいます」


「なるほど」


 魔王は少し考えた。


「それなら『交代』じゃない?」


「交代……」


 五利武が頷く。


「では次は交代します」


「それなら分かる」


 殴打も頷いた。


「私も交代します」


「野球とゴルフが混ざってるな……」


 魔王は頭を抱えた。


 昆布はホワイトボードを取り出した。


「整理しましょう」


「また始まった」


「今回の戦闘データです」


 昆布は書き始めた。


 ――飛行系モンスター。


 ――魔王の睨み。


 ――混乱。


 ――五利武の打撃。


 ――荷車。


 ――便意のウォーター。


「便意さんのところは?」


 魔王が聞いた。


「チョロチョロ」


「書かなくていいよ!」


 魔王が突っ込んだ。


「重要なデータです」


「重要なの?」


「はい」


 昆布は真顔だった。


「次回、ビームになる可能性があります」


「……」


 魔王は便意を見る。


「期待されてるね」


「はい」


 便意は拳を握った。


「次こそ……」


「ウォーター!」


「まだ出さなくていい!」


 魔王が慌てて止めた。


 その横で――。


「……モグモグ」


 何かを食べる音がした。


「?」


 魔王が振り返る。


「ゴプリン?」


 ゴプリンがいた。


 そしてその手には――。


 バナナ。


「……」


 ゴプリンはバナナを食べていた。


「ゴプリンちゃん!」


 母さんが笑顔で近づく。


「美味しそうに食べるわね」


「……モグモグ」


「バナナ、好きなの?」


「……うん」


 ゴプリンはもう一口食べた。


「……バナナプリンになった」


「えっ?」


 魔王が固まった。


「バナナプリン?」


「……バナナプリン」


 ゴプリンは満足そうだった。


 母さんがゴプリンの顔をじっと見る。


「なるほど……」


「お母さん?」


「バナナはお顔にいくのね」


「そこに行くの?」


「じゃあ、筋肉は何で出来てるの?」


 ゴプリンは少し考えた。


「……筋肉もプリンから出来てる」


「そうなのね!」


 母さんが納得した。


「じゃあ、私もプリンダイエットしようかしら」


「待って」


 魔王が即座に止めた。


「普通の人はプリン食べたら太るよ」


「そうなの?」


「うん」


「ゴプリンちゃんは?」


「ゴプリンは……」


 魔王はゴプリンを見る。


 筋肉質な巨大な体。


 そして頭にはプリン。


「……例外じゃないかな」


「例外?」


「プリンで出来てるから」


「なるほど」


 母さんは頷いた。


「じゃあ私もプリンで出来た体を目指して――」


「目指さなくていいよ!」


 魔王が叫んだ。


 ゴプリンが母さんを見る。


「……プリン、食べる?」


「食べたいわね」


「……あげる」


 ゴプリンがバナナを差し出す。


「それはバナナでしょ!」


「……バナナプリン」


「もうプリンになってるのか!」


 全員が笑った。


 ゴプリンも少し笑った。


「……バナナプリン」


「気に入ったんだね」


 魔王も笑った。


 こうして、バナナモンスターとの戦いは終わった。


 今回の戦いで、魔王軍は新しいことを学んだ。


 飛行する敵には、魔王の睨みと混乱。


 荷車も時には重要な戦力になる。


 便意のウォーターは、まだチョロチョロ。


 そして――。


 ゴプリンはバナナを食べると、バナナプリンになる。


 最後の情報については、戦術的価値があるのかどうか、誰にも分からなかった。


 商人が荷車を確認する。


「では、そろそろ出発しましょう」


「そうですね」


 昆布が頷いた。


「目的地は王都です」


 魔王も前を見る。


「王都か……」


 今回の任務は、まだ終わっていない。


 商人は王都で武器や防具を仕入れる予定だ。


 魔王軍は、その護衛をする。


 荷車は空っぽ。


 しかし、これから武器や防具を積んで帰ることになる。


「では、出発!」


 勇気が元気よく声を上げた。


「おー!」


 全員が声を合わせる。


「……おー」


 ゴプリンも小さく拳を上げた。


「プリン」


「それは掛け声じゃないよ」


 魔王が笑った。


 商人が荷車を引き始める。


 魔王軍も歩き出した。


 魔王。


 勇気。


 殴打。


 五利武。


 鍋。


 便意。


 昆布。


 父さん。


 母さん。


 そして――虚無僧姿のゴプリン。


 さらに商人と空の荷車。


 一行は再び王都へ向かって歩き始めた。


 森を抜ける。


 丘を越える。


 街道を進む。


 王都へ続く道は、まだ長い。


「昆布さん」


 魔王が歩きながら聞いた。


「王都って、どんなところなんだろう?」


「かなり大きな街だと思います」


「魔物もいるのかな?」


「いる可能性はあります」


「また戦いになるかな」


「分かりません」


 昆布は少し考えてから言った。


「でも、できれば戦わない方向で」


「それがいいね」


 魔王が頷く。


 すると後ろから声がした。


「魔王様!」


「何?」


「王都に着いたら、武器を買うんですよね?」


 五利武だった。


「そうだね」


「新しいゴルフクラブもありますかね?」


「……」


「?」


「それ、武器じゃないよね?」


「私には武器です」


「ゴルフクラブを武器扱いするのやめようよ」


 その隣で殴打が言った。


「私は新しいバットが欲しいです」


「だから!」


 魔王が振り返る。


「王都に何を買いに行くのか分からなくなってきた!」


 商人が笑った。


「安心してください」


「何が?」


「武器と防具を買います」


「普通だ……」


 魔王はホッとした。


 しかし昆布が静かに言った。


「魔王様」


「何?」


「王都では、今まで見たことのないモンスターがいる可能性があります」


「……」


「新しい能力を持つ敵もいるかもしれません」


「……」


「そして」


 昆布が遠くを見る。


「今までとは違う事件に巻き込まれる可能性もあります」


 魔王は少しだけ黙った。


「……できれば」


「はい」


「普通に王都に行って」


「はい」


「普通に買い物して」


「はい」


「普通に帰ってきたい」


 昆布は微笑んだ。


「私もそう思います」

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