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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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巨大な何か

バナナモンスターとの戦いを終えた魔王軍と商人は、再び王都を目指して街道を進んでいた。


 商人の荷車には、まだ何も積まれていない。


 王都へ着いたら、武器や防具を仕入れる予定だ。


 魔王軍はその護衛をする。


「王都まで、あとどのくらいですか?」


 魔王が商人に尋ねた。


「順調に進めば、あと一日半ほどですね」


「一日半か……」


 魔王は遠くを見た。


「まだ結構ありますね」


「途中に宿場町もありますので、そこで休憩しましょう」


「それなら安心ですね」


 勇気が笑った。


「王都って、すごく大きいんでしょうね」


「大きいでしょうね」


 鍋が答えた。


「武器屋もいっぱいあるでしょう」


 殴打が嬉しそうに言った。


「新しいバットもあるかな」


「ゴルフクラブも探したいですね」


 五利武も続く。


「二人とも……」


 魔王が呆れる。


「商人さんは武器と防具を買いに行くんだよ?」


「分かっています」


 五利武が答えた。


「ついでです」


「その『ついで』が本命になってない?」


 魔王が笑った。


 そんな会話をしながら、しばらく歩いていると――。


 少しずつ景色が変わってきた。


 道の両側に水たまりが増えていく。


 草は湿っていて、足元の土も柔らかい。


 遠くには霧のような白い水蒸気が漂っていた。


「湿地帯ですね」


 昆布が言った。


「足元に注意してください」


「また滑るの?ほふく前進?」


 魔王が聞く。


「今回はバナナモンスターの時とは違います」


「よかった」


 魔王は安心した。


「白い粉はないんですね」


「ありません」


「じゃあ大丈夫だ」


 ところが――。


 湿地帯に入ってしばらくした時だった。


「ゴー……」


「……?」


 魔王が足を止めた。


「今、何か聞こえなかった?」


 全員が止まる。


「何でしょう?」


 勇気が耳を澄ます。


「ゴー……ゴー……」


 今度ははっきり聞こえた。


「……」


 魔王が辺りを見回す。


「誰か寝てるの?」


 右を見る。


 誰もいない。


 左を見る。


 誰もいない。


 後ろを見る。


 商人も起きている。


「父さん?」


「起きているぞ」


「殴打さん?」


「起きています」


「五利武さん?」


「起きています」


「鍋さん?」


「起きています」


「便意さん?」


「起きています」


「お母さん?」


「起きてるわよ」


 魔王は最後にゴプリンを見る。


「……ゴプリン?」


 ゴプリンは魔王を見る。


「……歩きながら……寝れない」


「そうだよね」


 魔王が頷く。


 母さんも笑った。


「ゴプリンちゃんも歩きながら寝れないわよね」


「……うん」


 しかし――。


「ゴー……ゴー……」


 また聞こえた。


 今度はかなり大きい。


「でも……」


 勇気が周囲を見る。


「いびきに聞こえますね」


「確かに」


 殴打も頷く。


「誰かが寝ている音にしか聞こえません」


「でも誰も寝てない」


 魔王が言う。


「これはどういうことでしょう?」


 昆布が静かに手を上げた。


「止まってください」


 全員が止まる。


「安全確認をしましょう」


 昆布が辺りを見渡す。


「不用意に進まない方がいいです」


「分かりました」


 勇気が頷く。


 魔王軍は全員、その場で周囲を確認し始めた。


 草むら。


 木。


 水たまり。


 遠くの森。


 そして――。


 前方には、大きな丘があった。


「……あれ?」


 魔王が丘を見る。


「丘なんてありましたっけ?」


「地図には載っていませんね」


 昆布が答える。


「自然にできた丘じゃないの?」


 魔王が言う。


「可能性はあります」


 昆布は双眼鏡を取り出した。


「少し確認します」


 双眼鏡を覗く。


「……」


「どうですか?」


 魔王が聞く。


 昆布は黙っている。


「昆布さん?」


「……」


 まだ答えない。


 その時だった。


「おい」


 先頭にいた父さんが、小声で言った。


「どうした?」


 魔王が振り返る。


「前の丘が動いてる」


「……え?」


 全員が丘を見る。


「動いてる?」


 魔王が目を凝らす。


 丘は静止しているように見える。


 しかし――。


 次の瞬間。


 丘の上部が、


 ゆっくりと上がった。


「……」


 そして下がった。


「……」


 もう一度。


 上がる。


 下がる。


「……本当だ」


 魔王が小声で言った。


「丘が動いてる」


 勇気が驚く。


「丘って動くんですか?」


「普通は動かないよ」


 魔王が答える。


「じゃあ……」


 五利武が丘を見る。


「丘ではない?」


 昆布が双眼鏡を下ろした。


「その可能性が高いです」


 全員が息を呑んだ。


「では、何でしょう?」


 商人が聞く。


「まだ分かりません」


 昆布が答えた。


「ですが、生物の可能性があります」


「生物……」


 魔王が丘を見る。


 丘は再び上下した。


「ゴー……」


「ゴー……」


 いびきのような音。


「……呼吸してる?」


 魔王が呟いた。


 昆布が頷く。


「おそらく」


「巨大な生き物?」


「はい」


「かなり大きいよね」


「かなり大きいです」


 父さんが言った。


「俺たちよりずっと大きい」


「いや、俺たちどころじゃないよ」


 魔王が丘を見る。


「丘に見えるくらいだから」


 するとゴプリンが小声で言った。


「……大きい」


「ゴプリンもそう思う?」


「……うん」


 ゴプリンは丘を見つめている。


 いつものように、頭のプリンを両手で支えている。


「……プリンより……大きい」


「比較対象がプリンなのは相変わらずだね」


 魔王が小声で笑った。


 その時。


 丘がまた動いた。


 今度は少し大きく。


 ズズ……。


 地面がかすかに揺れる。


「!」


 全員が固まった。


 丘の表面の草が揺れる。


 そして――。


「ゴォォォ……」


 大きないびき。


 水たまりの水面まで震えた。


「……寝てる」


 魔王が呟いた。


「寝ていますね」


 昆布も小声で答える。


「巨大なモンスターが寝ていると考えるのが自然でしょう」


「モンスター……」


 商人が青ざめる。


「では、起こさない方が……」


「絶対に起こさない方がいいです」


 昆布が即答した。


「賛成」


 魔王も頷く。


「戦わなくていいなら、起こしたくない」


「私もです」


 勇気が言う。


「寝ているなら、そっと通りましょう」


 全員が頷いた。


 しかし、昆布は再び双眼鏡を覗いた。


「……」


「何か見える?」


 魔王が聞く。


「まだ遠くて、はっきりしません」


「どんな感じ?」


「体の一部が地面の上に出ています」


「やっぱり巨大なんだ」


「はい」


 昆布はさらに双眼鏡を動かす。


「……」


「どうしたの?」


「少し待ってください」


 昆布の声が小さくなる。


「何かあります」


「何?」


「体の前方……でしょうか」


「前方?」


 魔王も見る。


 しかし遠すぎてよく分からない。


「何があるの?」


「まだ確認できません」


 昆布はじっと観察する。


 巨大な丘。


 いや、丘ではない。


 眠っている巨大な何か。


 その体が呼吸するたびに、ゆっくり上下している。


「ゴー……」


 また、いびき。


「ゴー……」


 静かな湿地帯に響く。


 魔王は息を潜めた。


「……」


 そして、その時だった。


 巨大なモンスターの体が、ほんの少し動いた。


 草むらの奥。


 何かが――。


 開いた。


「……!」


 昆布が目を見開く。


「見えました」


「何が?」


 魔王が聞く。


 昆布は答えない。


 双眼鏡を下ろす。


「魔王様」


「うん」


「どうやら、あのモンスターには――」


 昆布が前方を見る。


「目があります」


「……」


 魔王は丘のような巨大なモンスターを見つめた。


 しかし、まだ全体の姿は分からない。


 見えているのは、ほんの一部分だけ。


 そして――。


 巨大なモンスターの目らしきものが、


 ゆっくりと閉じた。


「ゴー……」


 再び、いびき。


 魔王軍は誰も動かなかった。


「……目がある」


 魔王が小声で言う。


「はい」


 昆布が頷く。


「ですが、まだ正体は分かりません」


「巨大なモンスターなのは間違いない」


「そう思います」


 父さんが言った。


「でも、あんなに大きなモンスターが寝ているなら……」


 全員が巨大な影を見る。


「……起こさない方がいいな」


 父さんが言った。


 全員が静かに頷いた。


 巨大なモンスターは、まだ眠っている。


 その姿は丘にしか見えない。


 しかし確かに、そこには生き物がいる。


 そして――目がある。


 魔王軍は、この巨大モンスターを起こさずに王都への道を通り抜けられるのか。


 そもそも、この巨大モンスターは何なのか。


 昆布は双眼鏡を握り直した。


「……もう少し観察しましょう」


 魔王は小声で答えた。


「うん」


 誰も知らない。


 この湿地帯で眠っている巨大モンスターが、魔王軍の旅に新たなクエストをもたらすことを。


 そして、その正体が明らかになるまでには――。


 まだ少し時間が必要だった。

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