↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
96/162

ヌルヌル地獄――魔王軍、寝ながら戦う

始まりの村から王都へ向かう街道。


魔王軍と商人は、空の荷車を押しながら歩いていた。


その上空には――


二匹の黄色いバナナが飛んでいる。


「俺が次の魔王になる!」


「いや、俺だ!」


二匹は空中で言い争いながら、


パタパタパタパタ!


と皮を羽のように動かしていた。


魔王は空を見上げる。


「……あの二匹、まだやってるな」


勇気も見上げる。


「ずっと『俺が次の魔王になる』って言ってますね」


昆布は双眼鏡で観察していた。


「かなり自己主張が強いモンスターですね」


殴打が言う。


「魔王になりたいなら、まず地上に降りてくればいいのにな」


五利武が笑う。


「空中の方が有利なんでしょう」


「確かに」


魔王は荷車を押しながら答えた。


「こっちは地上だからな」


その時だった。


一匹のバナナが突然、空中で止まった。


「……?」


魔王が見上げる。


「どうした?」


バナナは皮を大きく広げた。


パタッ。


パタパタッ。


そして――


サラサラサラサラ……


白い粉が落ちてきた。


「……?」


魔王は立ち止まる。


「何だ、あれ?」


昆布も双眼鏡を向ける。


「白い粉ですね」


鍋が言った。


「小麦粉でしょうか?」


「また食材扱いしてる!」


魔王が突っ込む。


白い粉は空から大量に降ってくる。


サラサラサラサラ。


「ちょっと待って!」


母が言う。


「結構降ってきてるわよ!」


「避けますか?」


勇気が言う。


しかし――


避ける前に。


白い粉が魔王軍の周囲に降り注いだ。


地面が白くなる。


「……」


魔王は一歩前へ出た。


「とりあえず進もう」


一歩。


ズルッ!


「うわっ!」


魔王の足が大きく滑った。


「魔王様!」


勇気が手を伸ばす。


しかし勇気も一歩踏み出した瞬間――


ズルッ!


「わっ!」


勇気の身体が大きく傾く。


「勇気!」


母が助けようとする。


しかし――


ズルッ!


「きゃっ!」


母も滑った。


「お母さん!」


父が助けようと前へ出る。


ズルッ!


「……!」


父も足を滑らせた。


「お父さんまで!」


殴打が駆け寄る。


ズルッ!


「うわっ!」


五利武も、


ズルッ!


「なんだこの地面!」


鍋も、


ズルッ!


「危ない!」


便意も、


ズルッ!


「また僕ですか!」


昆布も、


ズルッ!


「……」


全員が地面の上で足をバタバタさせていた。


「立てない!」


魔王が叫ぶ。


バタバタ!


右足。


バタバタ!


左足。


「止まらない!」


魔王は両腕を広げ、必死に身体のバランスを取る。


「魔王様、私もです!」


勇気も足をバタバタさせている。


「お父さん!」


「大丈夫です!」


父も足を高速で動かす。


タタタタタタ!


「すごい!」


勇気が驚く。


「お父さん、足が速い!」


「メンタルガード!」


「それ、足元には関係ないですよ!」


父は真顔だった。


「気持ちです」


「また精神論!」


---


ゴプリンも大変なことになっていた。


「……」


ゴプリンはゆっくり一歩踏み出す。


ズルッ。


身体が横へ流れる。


「……!」


ゴプリンは両手を広げた。


そして、


バタ。


バタ。


バタ。


足を動かして姿勢を保つ。


しかし頭の上には――


プリン。


「プリン!」


ゴプリンは慌てて編笠を押さえる。


身体は滑る。


足はバタバタ。


しかし頭だけは絶対に動かさない。


魔王が叫ぶ。


「ゴプリン! プリンを守れ!」


「……うん!」


ゴプリンは必死にバランスを取った。


「ゴプリンさん、すごいですね」


昆布が感心する。


「身体は滑っているのに、プリンだけは全く揺れていません」


「鍛錬の成果だな」


殴打が言う。


「プリンのためにそこまで鍛えたのか?」


ゴプリンは真顔で答えた。


「……大事」


「ですよね」


---


ところが。


問題は別にあった。


空を飛んでいるバナナたちである。


「ハハハハ!」


「どうだ!」


二匹のバナナが上空から魔王軍を見下ろしている。


「地上では立てないだろう!」


「俺達は空中だ!」


パタパタパタパタ!


魔王軍は地面で、


バタバタ。


ズルッ。


バタバタ。


ズルッ。


を繰り返している。


魔王が空を見る。


「……」


バナナを見る。


地面を見る。


またバナナを見る。


「……攻撃できないな」


勇気が言う。


「はい」


殴打も空を見る。


「俺のバットでも届かない」


五利武もクラブを持ちながら言う。


「私も届きませんね」


父も言う。


「走って近づくこともできません」


「そもそも走れません」


昆布が冷静に訂正した。


「今の我々は、歩くことすら困難です」


「そうだった」


魔王は足をバタバタさせながら答える。


「……」


その時。


魔王の足が大きく滑った。


「うわっ!」


身体が横へ流れる。


ドサッ!


魔王が地面に倒れた。


「魔王様!」


勇気が駆け寄ろうとする。


ズルッ!


「わっ!」


勇気も倒れる。


ドサッ!


「……」


魔王が地面に寝たまま言った。


「……もう立たなくてもいいんじゃないか?」


昆布が振り返る。


「魔王様?」


「立てないんだから」


魔王は仰向けになった。


「寝てた方が安定する」


昆布が少し考える。


「……確かに」


魔王が聞く。


「昆布さん。どうする?」


昆布は周囲を見る。


魔王。


勇気。


父。


母。


殴打。


五利武。


鍋。


便意。


ゴプリン。


全員が滑っている。


空には二匹のバナナ。


昆布は冷静に状況を整理する。


「立てない」


「はい」


「走れない」


「はい」


「空中のバナナには、通常の物理攻撃が届かない」


「そうですね」


「しかし、こちらにも魔法があります」


便意が手を上げる。


「僕ですか?」


「そうです」


便意が少し不安そうになる。


「でも、ウォーターしか……」


「魔法か」


昆布は言った。


「もしくは、タイミングが合えば打撃で攻撃するしかありません」


魔王がうなずく。


「なるほど」


昆布はさらに続ける。


「ただし――」


地面を見る。


「立てません」


「はい」


「ならば」


昆布は魔王軍を見る。


「寝ながら攻撃しましょう」


「…………」


全員が黙った。


魔王が聞き返す。


「寝ながら?」


「はい」


「攻撃するの?」


「はい」


「寝たまま?」


「はい」


魔王は少し考えた。


「……そんな戦い方、ある?」


昆布は真顔だった。


「今、我々に選択肢はありません」


「確かに」


殴打が仰向けになりながら言った。


「立てないなら寝るしかない」


五利武も地面に寝転ぶ。


「寝ながらなら、クラブを振れます」


「地面に当たるぞ」


「……そうですね」


鍋も寝ながら包丁を見ている。


「私も何かできます」


「料理するなよ」


魔王が注意する。


母は地面に座りながら言った。


「じゃあ、私はみんなを回復するわ」


父は仰向けになっている。


「私はメンタルガードです」


「寝ながらメンタルガード?」


「できます」


「何でもできるな、お父さん」


ゴプリンは――


地面に寝転ぶことはしなかった。


プリンがあるからだ。


「ゴプリンさんは?」


昆布が聞く。


ゴプリンは両足を広げて踏ん張りながら答える。


「……立つ」


「なるほど」


「……プリン……落とさない」


「素晴らしいです」


昆布がうなずく。


そして魔王軍は――


立って戦うのではなく。


地面に寝転がって、空飛ぶバナナを迎え撃つという、これまで誰も見たことのない戦闘態勢を取ることになった。


空ではバナナが笑っている。


「何をしている!」


「寝たぞ!」


「もう戦う気がないのか!」


魔王は地面から空を見上げる。


「違う!」


「じゃあ何だ!」


魔王は叫んだ。


「こっちは――」


少し間を置いて。


「寝ながら戦うんだ!」


「…………」


バナナたちが沈黙した。


「寝ながら?」


「そう!」


昆布が立ち上がろうとして――


ズルッ!


「……」


また転んだ。


「やっぱり寝ている方がいいですね」


魔王が言った。


「昆布さん、それでいいと思う」


そして二匹のバナナが、空中で羽を広げる。


パタパタパタパタ!


「面白い!」


「それなら俺達が上から攻撃してやる!」


魔王軍は地面。


バナナ軍は空。


奇妙な戦いの第二ラウンドが――


今、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。