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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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空飛ぶバナナ

始まりの村。


朝。


魔王便利屋事務所兼、魔王軍の集合場所となっている勇者の家の前に、一台の荷車が置かれていた。


ただし――


荷物は何も載っていない。


空っぽである。


魔王は荷車を見ながら首をかしげた。


「……空っぽだな」


商人がうなずく。


「はい」


「これ、何を運ぶんですか?」


「王都で武器や防具を仕入れて、村まで持って帰る予定です」


「なるほど」


魔王は荷車を見た。


「じゃあ、行きは空っぽなんですね」


「そういうことです」


「……」


魔王はもう一度荷車を見た。


「護衛するものがない」


「ありますよ」


商人が指を差す。


「私がいます」


「そうだった」


商人が笑った。


「ですから、魔王軍の皆さんには、私と空の荷車を王都まで護衛していただきたいのです」


昆布が荷車の周りを一周する。


「荷物がない分、軽いですね」


殴打が荷車を少し押してみる。


「軽い!」


五利武も押す。


「これならかなり速く進めますね」


父も荷車を見る。


「帰りは武器と防具で重くなるわけですね」


「はい」


魔王が言う。


「じゃあ、帰りの方が大変なんじゃないか?」


昆布がうなずいた。


「その通りです」


「じゃあ、今回の護衛任務は……」


魔王が考える。


「行きは比較的楽」


「そうですね」


「帰りは大変」


「そうですね」


「……」


魔王は商人を見る。


「帰りはどうするんですか?」


商人が笑った。


「タイミングが合えば護衛して欲しい」


「良いですよ!」


---


おばあちゃんが玄関から出てきた。


「気をつけて行ってらっしゃい、勇者様!」


「はい!」


勇気が元気よく答える。


ゴプリンも後ろから出てくる。


虚無僧の編笠。


筋骨隆々の身体。


そして、その編笠に守られたプリン。


おばあちゃんはゴプリンを見る。


「ゴプリンちゃんも気をつけてね」


「……うん」


母が言った。


「おばあちゃん、行ってきます」


「はい。皆さん、ちゃんと食べるのよ」


父が手を上げる。


「帰ったらビールをお願いします」


「お父さん!」


母が呆れる。


「まだ朝ですよ」


「王都まで歩くんですよ」


父が真面目な顔をする。


「水分補給は大切です」


「ビールは水分補給じゃありません」


昆布が即答した。


「お父さん、それは違います」


「そうですか?」


「違います」


父は少し考えた。


「では帰ってから」


「そこは諦めないんですね」


魔王が笑った。


そして魔王軍は、商人と空の荷車を連れて、始まりの村を出発した。


---


村を出てしばらく歩く。


道はなだらかな草原へ続いていた。


風が吹く。


空は青い。


荷車は軽快に進んでいく。


殴打と五利武が後ろから押している。


「軽いですね」


「本当に軽い」


五利武が言う。


「いつもの半分くらいの力で動く」


昆布は周囲を警戒していた。


「今のところ異常ありません」


魔王も前方を見る。


「平和だな」


勇気が笑う。


「こういう旅もいいですね」


母も空を見上げた。


「天気もいいし」


便意はスマートフォンを眺めている。


「今日は魔法の練習でもしましょうか」


魔王が振り返る。


「この前、ウォーターで靴だけ濡らしてたけど大丈夫?」


「今日は違います」


便意が自信満々に言う。


「今日はファイアーです」


「危なくない?」


「大丈夫です」


便意がスマートフォンを見る。


「ファイアー」


「……」


何も起こらない。


「……」


もう一度。


「ファイアー!」


何も起こらない。


昆布が言った。


「いつもの便意さんですね」


「いつものって言わないでください!」


魔王が笑っていると――


その時だった。


「……ん?」


勇気が空を見上げた。


「何か飛んでない?」


魔王も空を見る。


「鳥?」


「いや……」


昆布が目を細める。


「鳥ではありません」


「じゃあ何?」


昆布が双眼鏡を取り出した。


そして空を見た。


「……」


「どう?」


魔王が聞く。


昆布がしばらく黙っている。


「……バナナです」


「は?」


魔王が空を見る。


「バナナ?」


「はい」


「バナナが?」


「飛んでいます」


全員が空を見る。


そこには――


黄色いバナナが飛んでいた。


一本。


二本。


三本。


五本。


十本。


何本もの黄色いバナナが空を飛んでいる。


しかも普通のバナナではない。


皮が途中まで開いている。


その皮が、


パタパタ。


パタパタ。


と羽のように動いている。


「…………」


魔王はしばらく無言だった。


「なんで?」


勇気も無言。


「バナナですね……」


「うん」


殴打が言う。


「完全にバナナだ」


五利武も見上げる。


「飛んでるな」


父も見る。


「飛んでますね」


母が笑った。


「まあ、いろんなモンスターがいるのね」


鍋が言う。


「美味しそうですね」


「鍋さん!」


魔王が振り返る。


「食材として見ないでください!」


「でもバナナですよ」


「そうだけど!」


ゴプリンも空を見上げる。


「……」


バナナが、


パタパタ。


パタパタ。


と飛んでいる。


すると――


遠くから、かすかな声が聞こえてきた。


「……俺が……」


「?」


魔王が耳を澄ます。


「……俺が次の……」


昆布が双眼鏡を下ろす。


「今、何か聞こえませんでしたか?」


「聞こえた」


魔王が言う。


「俺が次の……って」


殴打が首をかしげる。


「何の話だ?」


さらに風に乗って声が聞こえる。


「俺が……次の魔王になる!」


「……」


全員が固まった。


魔王が空を見る。


「……また?」


勇気が苦笑する。


「またですね」


昆布が分析する。


「どうやら、あのバナナたちも魔王の後継者になろうとしているようです」


魔王は頭を抱えた。


「なんでみんな魔王になりたいんだよ……」


父が言う。


「人気職ですね」


「職業じゃない!」


---


商人が遠くのバナナを見ながら言った。


「まだかなり遠いですね」


「そうですね」


「遠い空だから、気付かれなければ大丈夫ですね」


商人は落ち着いていた。


魔王も少し安心する。


「そうだな」


母も空を見ながら言った。


「それにしても……」


「はい?」


「バナナも久しぶりに食べたいわね」


その瞬間。


空を飛んでいたバナナたちが――


ピタッ。


止まった。


「……」


「……」


魔王軍も止まった。


バナナたちが、ゆっくりとこちらを向く。


パタパタ。


パタパタ。


黄色い身体。


開いた皮。


そして――


怒ったような声が響いた。


「……今、何と言った?」


母が首をかしげる。


「え?」


「バナナを食べたいだと?」


魔王が青ざめる。


「まずい」


昆布も双眼鏡を下ろした。


「聞かれましたね」


バナナの一匹が叫ぶ。


「俺達をなめやがって!」


別のバナナが続く。


「俺達を食べようとするなら!」


さらに別のバナナ。


「戦うしかない!」


魔王が母を見る。


「お母さん……」


「ごめんなさい」


母は少し申し訳なさそうにした。


「ただ、食べたいって言っただけなのに」


「それが宣戦布告になったみたいですよ」


勇気が言う。


「バナナに?」


「バナナに」


昆布が双眼鏡を構える。


「来ます!」


「何本?」


「二本!」


「少ないな」


殴打が言う。


「いや、油断しないでください」


昆布が叫ぶ。


「空中からの攻撃です!」


「了解!」


魔王軍が構える。


空から――


二本のバナナが急降下してきた。


「行くぞ!」


「俺が次の魔王になる!」


「俺こそ次の魔王だ!」


二本のバナナが、皮をパタパタさせながら猛烈な速度で飛んでくる。


魔王は目を細めた。


「……戦いたくないな」


昆布が言う。


「いつもの方針で行きましょう」


「うん」


昆布が指示を出す。


「①状況を見る」


「はい」


「②得意な人に任せる」


「はい」


「③無理をしない」


「はい」


「④魔王様を無駄に働かせない」


「はい」


「⑤できれば戦わない」


魔王がうなずく。


「完璧だ」


その瞬間。


バナナが突っ込んできた。


「バナナアタック!」


魔王が反射的に身をかわす。


ヒュン!


黄色い物体が横を通り過ぎる。


「速い!」


五利武が驚く。


「しかも空中だから軌道が読みにくい!」


一匹のバナナが急旋回する。


「もう一度!」


パタパタパタパタ!


「来ます!」


昆布が叫ぶ。


「お父さん、前へ!」


父が一歩前に出る。


「メンタルガード」


バナナが突っ込む。


「バナナアタック!」


ドン!


父が少し後ろへ下がる。


「……」


「お父さん!」


「大丈夫です」


父は立っている。


「メンタルガードです」


「バナナ相手でも使えるんだ……」


魔王が驚いた。


二匹目のバナナが上空から旋回する。


「今度は俺だ!」


「ゴプリンさん!」


昆布が叫ぶ。


ゴプリンが前を見る。


バナナが急降下してくる。


「バナナアタック!」


ゴプリンは――


動かなかった。


「……」


バナナが迫る。


「……」


ゴプリンは、頭のプリンを守るように、ゆっくりと身体を傾けた。


バナナはゴプリンの肩をかすめる。


ヒュン!


「外した!」


バナナが驚く。


ゴプリンは編笠を押さえる。


「……プリン、大事」


「そこだけは絶対なんですね」


勇気が笑った。


---


一方。


母は少し困った顔で空を見ていた。


「でも、本当にバナナなんだから……」


魔王が言う。


「今は食べる話はしない方がいいですよ」


「そうね」


母はバナナに向かって叫んだ。


「ごめんなさい!」


バナナたちが空中で止まる。


「謝った?」


「……」


魔王も前へ出る。


「そうです。母さんは、ただバナナが食べたいって言っただけです」


バナナが怒鳴る。


「俺達を食べるつもりだろ!」


「いや……」


魔王は困った。


「普通のバナナなら……」


「普通じゃない!」


「そうだな!」


魔王も納得してしまった。


「飛んでるもんな」


「そうだ!」


バナナが胸を張る。


「俺達は空飛ぶバナナだ!」


「そこは誇るんだ……」


昆布が呟く。


すると別のバナナが叫ぶ。


「そして俺は次の魔王になる!」


「俺だ!」


「俺こそ!」


二匹のバナナがまた言い争いを始める。


魔王軍は顔を見合わせた。


「……」


昆布が小さく言う。


「やはり後継者争いですね」


魔王がため息をつく。


「また始まった……」


五利武が聞く。


「これ、放っておいていいんですか?」


昆布が考える。


「今のところ、彼ら同士で争っています」


「じゃあ……」


魔王が言う。


「俺たちは関係ない?」


昆布がうなずく。


「その可能性は高いです」


「じゃあ帰ろう」


魔王が荷車を押し始める。


「王都に行くんだった」


殴打と五利武も荷車を押す。


「そうでした」


「武器と防具を仕入れるんでした」


商人も歩き始める。


「では、行きましょう」


魔王軍はそのまま歩き出した。


ところが――


空から声が聞こえた。


「待て!」


魔王が止まる。


「……」


振り返る。


バナナが二本。


こちらを見ている。


「……何?」


「お前!」


「俺?」


「お前が魔王か?」


魔王は少し黙った。


「……」


勇気を見る。


昆布を見る。


ゴプリンを見る。


そして答える。


「便利屋です」


バナナが困惑する。


「……?」


魔王は荷車を指差した。


「今は護衛任務中です」


「魔王じゃないのか?」


「いや、まあ……」


魔王は頭をかいた。


「周りからは魔王って呼ばれてますけど」


バナナの目が輝いた。


「やっぱり魔王だ!」


「違うって!」


「お前を倒せば、俺が次の魔王だ!」


「話聞いて!」


バナナ二匹が同時に飛び上がる。


パタパタパタパタ!


「来るぞ!」


昆布が叫ぶ。


魔王はため息をついた。


「……またか」


そして魔王軍の旅は――


王都へ向かうはずだったのに。


空飛ぶバナナ二匹との戦いへと突入することになった。


魔王は空を見上げる。


「……王都、遠いな」


商人が静かに答えた。


「まだ、かなりあります」


「そうですよね……」


ゴプリンが編笠を押さえる。


「……バナナ」


「どうした?」


「……甘い」


魔王が振り返る。


「ゴプリンまで食べる気か!」


ゴプリンは首を横に振った。


「……違う」


「じゃあ何?」


「……プリンがいい」


「結局それか!」


始まりの村から王都へ向かう道。


魔王軍の新たな護衛任務は、まだ始まったばかりだった。

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