魔王軍、騎馬戦に参戦
森の中。
ゴプリンと三重カッププリンの戦いは、まだ続いていた。
二体は互いの身体を殴るのではなく、頭のカップを狙って動き回っている。
魔王は二体を見ながら、ふと思った。
「……ゴプリンが俺を魔王と認めてくれた」
勇気が振り返る。
「そうですね」
魔王は三重カッププリンの頭を見る。
「そして、あの三重カッププリンはカップの数が多い」
昆布も頷く。
「三つあります」
「ゴプリンは一つですよね」
「はい」
「これは平等じゃない」
魔王は真剣な顔になった。
「ハンデが大きい」
昆布。
「確かに」
魔王は拳を握った。
「俺達も協力しよう」
昆布がすぐに頷く。
「そうですね。みんなで戦いましょう」
そして昆布は周囲を見る。
「お父さんが先頭」
父さん。
「分かった」
「後ろは殴打さんと五利武さんで騎馬を作りましょう」
殴打。
「了解」
五利武。
「任せてください」
魔王。
「……」
「本当に騎馬戦になった」
昆布はゴプリンを見る。
「ゴプリン」
「……?」
「これはみんなの戦いだ」
「騎馬に乗れ」
ゴプリンはしばらく騎馬を見た。
殴打と五利武が足を踏ん張っている。
父さんが前に立っている。
ゴプリンが一歩下がる。
そして――
「……乗る」
ゴプリンはその場で軽く跳んだ。
ヒュッ。
ドン!
見事に騎馬の上へ乗った。
魔王が驚く。
「すごい!」
五利武。
「軽い!」
殴打。
「いや、結構重い!」
五利武。
「どっちなんですか!」
ゴプリンは騎馬の上で姿勢を整える。
編笠をしっかり押さえる。
頭の上には、もちろんプリン。
昆布が言った。
「ゴプリン、カップを守りながらお願いします」
「……うん」
魔王が三重カッププリンを見る。
「これで二対一……いや、もっといるけど」
昆布。
「魔王軍全員です」
魔王。
「そうでした」
三重カッププリンがこちらを見た。
「……仲間を集めたか」
魔王。
「はい」
「こっちは魔王軍ですから」
三重カッププリン。
「ならば――全員まとめて倒す!」
ドン!
三重カッププリンが地面を蹴った。
ものすごい跳躍だった。
「来るぞ!」
昆布が叫ぶ。
三重カッププリンが空高く飛ぶ。
狙いは――
ゴプリン。
いや。
その下の父さん。
三重カッププリンは父さんの頭を踏み台にして、さらに高く跳ぼうとしていた。
父さん。
「来たな!」
三重カッププリンの足が――
ドン!
父さんの頭に乗った。
「痛い!」
しかし父さんは倒れない。
「メンタルガード!」
三重カッププリンはそのまま上へ跳ぶ。
そしてゴプリンの編笠へ手を伸ばした。
「取ってやる!」
魔王が叫ぶ。
「ゴプリン!」
その瞬間。
魔王は三重カッププリンを睨んだ。
「――止まれ!」
魔王の睨み。
三重カッププリンの身体が――
ピタッ。
空中で一瞬止まった。
「……!」
しかし一分間止まるわけではない。
ほんの一瞬。
三重カッププリンの身体がバランスを崩す。
「うおっ!」
ゴプリンはその瞬間を逃さなかった。
「……返して!」
ブン!
ゴプリンの拳が三重カッププリンに当たった。
ドン!
三重カッププリンの身体が横へ飛ぶ。
そして――
パキン!
一番外側のカップが割れて落ちた。
カラッ。
森の地面に転がる。
魔王。
「取れた!」
昆布。
「一つ減りました!」
三重カッププリンは地面に倒れた。
しかし、すぐに起き上がった。
頭には――
二つのカップ。
魔王が言った。
「二重カッププリンになった……」
昆布。
「二重カッププリンですね」
魔王。
「そこを正式名称みたいに言わないでください」
父さんが拳を握る。
「よし、一つ壊したな」
そして構える。
「メンタルガード!」
魔王。
「それ、攻撃じゃないですよ!」
父さん。
「気持ちだ」
「気持ちで守るんだ」
魔王。
「はい」
そのとき、勇気が両手を広げた。
「魔王軍!」
「頑張れ!」
「魔王様を守るぞ!」
その声が森に響く。
勇気の補助魔法が発動した。
魔王軍の身体が、少しだけ光る。
魔王。
「おお!」
殴打。
「力が出てくる!」
五利武。
「身体が軽い!」
父さん。
「メンタルも強くなった気がする」
便意。
「僕も少し元気になりました!」
鍋。
「料理も作れそうです!」
魔王。
「今は料理いらないです!」
昆布は冷静に頷く。
「勇気さんの補助魔法、かなり有効です」
勇気。
「よし!」
三重カッププリン――いや、二重カッププリンが立ち上がる。
「……俺は負けない」
そして――
今度は正面から来なかった。
昆布が気づく。
「後ろです!」
魔王。
「え?」
二重カッププリンは、騎馬の横を大きく回り込んでいた。
そして――
騎馬の後ろへ回る。
昆布。
「ゴプリン、後ろ!」
ゴプリンが振り返る。
二重カッププリンが跳んだ。
「もらった!」
その瞬間。
便意が前へ出た。
「ウォーター!」
シュッ。
手から――
ちょろ。
水が少し出た。
魔王軍全員。
「…………」
便意。
「…………」
自分の靴を見る。
靴が少し濡れている。
魔王。
「……」
昆布。
「……」
勇気。
「……」
殴打。
「……」
五利武。
「……」
父さん。
「……」
母さん。
「……」
魔王が言った。
「ダメか」
便意。
「すみません……」
しかし、その瞬間。
二重カッププリンが騎馬の後ろへ到達した。
「今度こそ!」
ドン!
殴打の頭を踏む。
殴打。
「ぐおっ!」
二重カッププリンはそのままゴプリンへ手を伸ばす。
「編笠を――」
ゴプリンは編笠を両手でしっかり掴んだ。
「……取らせない」
ギュッ!
二重カッププリンが引っ張る。
ゴプリンも引っ張る。
編笠が伸びる。
魔王。
「編笠ってそんなに丈夫なんですか!?」
昆布。
「かなり頑丈ですね」
二重カッププリン。
「離せ!」
ゴプリン。
「……嫌だ」
そして――
ゴプリンが身体をひねった。
ブン!
二重カッププリンが宙に放り出される。
「うわあああ!」
ゴプリンは騎馬から飛び降りた。
「……!」
空中で身体を回転させる。
そして――
ドン!
かかと落とし。
二重カッププリンの外側のカップに直撃した。
パキン!
外側のカップが割れて落ちる。
カラカラカラ。
二重カッププリンは地面を転がった。
魔王。
「また一つ!」
昆布。
「残り一つです!」
二重カッププリンはゆっくり起き上がった。
頭には――
一つの蓋付きカッププリン。
魔王。
「一重カッププリン……」
昆布。
「普通のゴプリンに戻りましたね」
魔王。
「名前が戻っていく!」
ゴプリンは再び騎馬の上へ飛び乗った。
「……!」
編笠を押さえる。
そして一つの蓋付きカッププリンが構えた。
その姿は――
最初のゴプリンとほとんど同じだった。
しかし。
その表情には強い意志があった。
「俺は……魔王になる!」
魔王。
「まだ言ってる!」
三重――いや、一重カッププリンが再び突進してくる。
そのとき。
殴打が前へ出た。
「交代だ」
鍋が振り返る。
「俺と交代するのか?」
殴打。
「そうだ」
鍋。
「分かった」
殴打と鍋が騎馬を組む。
魔王。
「鍋さんも騎馬できるんですか?」
鍋。
「中華鍋を振って腕を鍛えてる」
五利武。
「頼もしい!」
鍋が騎馬の後ろについた。
そして――
「行くぞ!」
ダッ!
騎馬の後ろから、殴打が大きくジャンプした。
「うおおお!」
魔王。
「殴打さんが飛んだ!」
殴打は空中でバットを構える。
一重カッププリンはゴプリンへ向かって走っていた。
殴打。
「フルスイング!」
ブンッ!
バットが振り抜かれる。
ゴン!
直撃。
一重カッププリンの身体が――
「うおおおお!」
後ろへ吹き飛ぶ。
ドサッ!
地面に倒れた。
魔王軍。
「やった!」
しかし――
魔王が気づいた。
「……あれ?」
昆布。
「どうしました?」
魔王。
「倒れたけど……」
一重カッププリンを見る。
地面に倒れている。
しかし――
頭の上の蓋付きカッププリンは、
落ちていない。
魔王。
「プリンが落ちてない!」
昆布。
「確かに」
殴打。
「すごいな」
五利武。
「身体は倒れてるのに……」
母さん。
「お皿とカッププリンが、ものすごくしっかりくっついてるのね」
昆布が真剣な顔で近づく。
「これは……」
カッププリンを見る。
「お皿とカッププリンの間に、接着剤でもあるのか?」
魔王。
「そんなわけないでしょう」
昆布。
「では、便意さん」
便意。
「はい」
昆布。
「水の魔法をお願いします」
便意は頷いた。
「分かりました」
両手を前へ出す。
「ウォーター!」
シュッ。
ちょろ。
水が出た。
しかし――
便意の靴に当たった。
ポタ。
便意。
「…………」
魔王軍。
「…………」
昆布。
「…………」
魔王。
「……」
勇気。
「……」
便意。
「すみません」
魔王。
「ダメか」
便意。
「……はい」
一重カッププリンは倒れたまま。
プリンも落ちない。
昆布が考える。
「もう少し強い魔法が必要かもしれません」
便意。
「でも、どうすれば……」
そのとき。
勇気が便意の肩に手を置いた。
「便意さんなら出来る」
便意。
「……」
勇気。
「頑張れ」
便意の身体が――
少し光った。
「……!」
魔王が驚く。
「便意さんが光った!」
昆布。
「勇気さんの補助魔法でしょうか」
勇気。
「そうです」
便意は両手を見る。
そして――
「……やってみます」
深呼吸。
「ホットウォーター!」
次の瞬間。
ドバアアアアアアアアッ!
魔王。
「え?」
昆布。
「え?」
勇気。
「え?」
父さん。
「おお!」
母さん。
「まあ!」
殴打。
「水だ!」
五利武。
「多すぎる!」
鍋。
「料理には使えそうだ!」
魔王。
「鍋さん、今はそれどころじゃない!」
大量の温水が便意の手から噴き出した。
ゴォォォォォ!
魔王軍。
「うわあああああ!」
一重カッププリン。
「なにいいいい!」
全員が一斉に水に流される。
魔王。
「便意さん!」
便意。
「止まりません!」
昆布。
「止めてください!」
便意。
「どうやって!?」
ゴォォォォォ!
魔王軍が流される。
父さん。
「メンタルガード!」
水。
「ザバーン!」
父さん。
「水には効かない!」
魔王。
「当たり前です!」
ゴプリンも流される。
しかし、編笠を両手で必死に押さえている。
「……プリン……!」
魔王。
「ゴプリン、そこだけは守るんですね!」
さらに水が押し寄せる。
魔王軍全員が――
ドサッ!
ドサッ!
ドサッ!
ドサッ!
森の地面に倒れた。
全員びしょ濡れ。
髪も服もびしょびしょ。
父さんが起き上がる。
「……すごい水だったな」
魔王も起き上がる。
「もっとうまく調節して!」
便意。
「すみません!」
「でも……」
便意は自分の手を見る。
「出せました」
魔王は少し驚いた。
「……確かに」
昆布も頷いた。
「初めて、ちゃんと水の魔法を使えましたね」
勇気。
「やりましたね!」
便意。
「ありがとうございます!」
魔王軍はびしょ濡れのまま笑った。
しかし――
まだ一人、倒れている。
一重カッププリンだ。
魔王が振り返る。
「そういえば……」
一重カッププリンを見る。
「大丈夫かな?」
昆布が近づく。
「……倒れたままです」
ゴプリンも近づく。
「……」
一重カッププリンの頭を見る。
そして――
魔王が目を見開いた。
「……あ!」
カップが――
お皿から離れていた。
一重カッププリンの身体は倒れたまま。
しかし頭から、
蓋付きカッププリンが少し離れた場所に転がっている。
昆布が確認する。
「……カップが外れています」
ゴプリンがゆっくり近づく。
そして――
「……勝った」
魔王軍全員が顔を見合わせた。
勇気。
「勝った……!」
殴打。
「勝ったな」
五利武。
「カップが取れた!」
父さん。
「よし!」
母さん。
「よかったわね」
便意。
「……水を出しすぎましたけど」
魔王。
「結果的には役に立ちました」
昆布。
「非常に大きな成果です」
ゴプリンは倒れている一重カッププリンを見つめる。
そして静かに言った。
「……カップ……返して」
森の中に静かな風が吹いた。
一重カッププリンは――
まだ動かない。
そして魔王軍は、この戦いが終わったことで、ようやく本当の問題に気づき始める。
奪われたカップ。
ゴプリンの両親。
仲間たち。
そして――
「次の魔王になる」と言い続けた一重カッププリン。
彼がなぜ、そこまでして魔王になろうとしたのか。
その理由は、まだ誰にも分からなかった。




