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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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三重カッププリン

森の奥。


魔王軍は、茂みの向こうに立っている人影をじっと見つめていた。


ゴプリンも動かない。


巨大な編笠。


黒い服。


筋骨隆々の身体。


魔王は目を細めた。


「……誰なんでしょう?」


昆布が答える。


「まだ距離があります。もう少しよく見てみましょう」


魔王軍は少しずつ近づいた。


一歩。


また一歩。


人影の姿が、だんだんとはっきりしてくる。


最初に見えたのは――


黒いブーツ。


「ブーツ……」


次に見えたのは――


灰色の肌。


「灰色の肌……」


さらに近づく。


筋骨隆々の身体。


そして――


ボクサーパンツ。


殴打が黙った。


五利武も黙った。


便意も黙った。


父さんも黙った。


母さんだけが少し首を傾げる。


「……あら?」


魔王が言った。


「筋骨隆々……」


昆布が続ける。


「灰色の肌……」


勇気。


「ブーツ……」


魔王。


「ボクサーパンツ……」


全員。


「ゴプリン?」


しかし、違った。


そのモンスターには、ゴプリンと同じように首の上に皿があった。


そして――


頭にはカップに入った蓋付きプリン。


その上に空のカップ。


さらにその上に、もう一つ空のカップ。


魔王は目を疑った。


「……え?」


昆布も目を見開く。


「……三つ?」


魔王が叫んだ。


「ゴプリンにカップが付いてる!」


一同が見る。


魔王。


「しかも、三重!」


「どういう事だ!」


昆布が呟いた。


「……三重カッププリン」


魔王。


「名前みたいになってる!」


昆布。


「特徴をそのまま言っただけです」


三重カッププリンは、こちらを睨んでいる。


その隣で、ゴプリンが一歩前へ出た。


「……カップを取られた」


魔王。


「え?」


ゴプリン。


「……お父さんと、お母さんのも」


昆布が三重カッププリンを見る。


「つまり、三重カッププリンは、ゴプリンとお父さんプリンとお母さんプリンの三つのカップを奪ったということですか?」


ゴプリンは頷いた。


「……うん」


魔王はさらに疑問を抱いた。


「そもそも、ゴプリンって最初はみんなカップと蓋付きプリンなんですか?」


「……うん」


「全員?」


「……うん」


勇気が驚く。


「ゴプリンの一族、みんなプリンなんですね」


ゴプリン。


「……プリン」


母さんが頷いた。


「そうなのねえ」


魔王。


「そこは納得するところなんですか?」


三重カッププリンが低い声で言った。


「俺が一番強い」


「俺が次の魔王になる」


ゴプリンは三重カッププリンを見つめた。


「……みんな、仲が良かった」


「お父さんも」


「お母さんも」


「仲間も」


「……みんなプリンだった」


ゴプリンの声は静かだった。


「……でも、あいつ」


三重カッププリンを見る。


「……仲間のカップを奪った」


昆布が確認する。


「三重カッププリンが次の魔王になろうとして、他のゴプリンを倒したということですか?」


ゴプリン。


「……うん」


魔王は三重カッププリンを見る。


「でも、魔王になるために仲間のカップを奪う必要があるんですか?」


三重カッププリン。


「俺が強ければいい」


「俺が一番強ければ、俺が魔王になる」


その言葉を聞いたゴプリンが、三重カッププリンをまっすぐ見た。


そして――


はっきりと言った。


「……次の魔王は」


一瞬、森が静かになった。


ゴプリン。


「……魔王様だ」


魔王。


「え?」


全員が魔王を見る。


魔王。


「……俺?」


ゴプリンは頷く。


「……魔王様」


魔王。


「いやいやいや!」


思わず両手を振る。


「俺は魔王になりたいわけじゃないですよ!」


昆布が冷静に言う。


「しかし、以前から魔王様は魔王と呼ばれています」


魔王。


「そうですけど!」


勇気。


「実際、魔王様は強いです」


魔王。


「戦いたくないんです!」


殴打。


「でも強い」


五利武。


「かなり強い」


父さん。


「間違いなく強い」


母さん。


「優しいしね」


便意。


「僕も魔王様がいいと思います」


魔王。


「なんで僕だけ話が進んでるんですか!」


三重カッププリンは魔王を睨む。


「お前が……次の魔王?」


魔王。


「いや、俺は便利屋です」


三重カッププリン。


「……便利屋?」


「はい」


「……魔王なのに?」


「一応そうです」


「……」


三重カッププリンはしばらく魔王を見つめた。


そして拳を握る。


「ならば――」


「俺が倒して、俺が魔王になる!」


魔王。


「話がややこしくなった!」


三重カッププリンが地面を蹴った。


ドン!


ゴプリンも前へ出る。


ドン!


二体の巨体が真正面からぶつかった。


ドォン!


木々が揺れる。


魔王軍が一斉に後ろへ下がる。


昆布が叫ぶ。


「全員、距離を取ってください!」


父さんが前へ出ようとする。


「メンタル――」


昆布。


「お父さん、今回はまだ大丈夫です!」


父さん。


「分かった」


二体は激しく殴り合っている。


ドン!


ドン!


ドン!


ゴプリンが拳を振る。


三重カッププリンが避ける。


三重カッププリンが腕を振る。


ゴプリンが受け止める。


魔王が叫ぶ。


「すごい!」


殴打。


「二人とも強い!」


五利武。


「動きも速い!」


便意。


「僕は安全なところにいます!」


母さん。


「それがいいわね」


魔王。


「便意さんはそれでいいです!」


ゴプリンが一度距離を取った。


そして頭の上の編笠を指差した。


「……頭のカップを取った方が勝ち」


魔王。


「え?」


ゴプリン。


「……頭のカップを取った方が勝ち」


魔王。


「ちょっと待ってください」


ゴプリン。


「……?」


魔王は二体の頭を見る。


カップ。


カップ。


カップ。


そしてプリン。


魔王。


「それって――」


「騎馬戦かよ!」


勇気が吹き出した。


「確かに!」


五利武。


「帽子取りみたいですね」


殴打。


「体育祭か」


父さん。


「懐かしいな」


母さん。


「私は見るほうが好きだったわ」


昆布は真剣に考えていた。


「しかし、合理的です」


魔王。


「昆布さんまで真面目に分析しないでください!」


昆布。


「身体への攻撃より、カップを狙うほうが双方にとって安全です」


魔王。


「いや、そもそも戦わなければいいんです!」


しかし、二体にはもう聞こえていない。


ゴプリンが走る。


スタスタスタ。


三重カッププリンも走る。


ドドドドド。


ゴプリンが横へ回り込む。


三重カッププリンが振り返る。


ゴプリンの手が一番上のカップへ伸びる。


カチッ。


指がカップに触れた。


「……!」


三重カッププリンが身体をひねる。


ゴプリンの手が空を切った。


昆布。


「三重カッププリン、カップを守りました!」


魔王。


「本当に騎馬戦だ!」


今度は三重カッププリンがゴプリンへ突っ込む。


ゴプリンは頭を揺らさないように身体を低くする。


三重カッププリンの手が編笠の端をかすめる。


しかし――


取れない。


ゴプリンは素早く横へ回る。


三重カッププリンも追う。


二体の周囲を、魔王軍がぐるぐる回っている。


勇気。


「どっちが勝つんでしょう?」


昆布。


「カップを取ったほうです」


魔王。


「それは分かってます!」


母さん。


「でも、プリンが落ちたら負けなのかしら?」


魔王。


「そこまでルールあるんですか!?」


昆布。


「確認してみましょうか?」


魔王。


「今それを聞くの!?」


ゴプリンが叫ぶ。


「……プリンは落とさない!」


魔王。


「そこだけは絶対なんですね!」


ゴプリンと三重カッププリンが再び睨み合う。


ゴプリン。


「……カップを返して」


三重カッププリン。


「嫌だ」


ゴプリン。


「……お父さんと、お母さんの」


三重カッププリン。


「俺が魔王になるために必要なんだ」


ゴプリン。


「……違う」


三重カッププリン。


「何が違う?」


ゴプリンは魔王を見る。


「……次の魔王は」


そして、もう一度言った。


「……魔王様だ」


魔王。


「だから俺はなりたくないんですって!」


三重カッププリンが叫ぶ。


「黙れ!」


そして再びゴプリンへ突進した。


ゴプリンも構える。


二体がぶつかる。


ドォン!


しかし今度は――


二体とも相手の身体ではなく、


頭のカップだけを狙っていた。


魔王軍は息を呑んだ。


昆布が呟く。


「……勝負が決まります」


森の中。


二体のプリンモンスター。


一つの編笠。


三つのカップ。


そして――


次の魔王を巡る、奇妙な戦い。


その決着は、まだついていなかった。

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