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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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虚無僧ゴプリンと蜂と蚊

二丁目の町を出た魔王軍は、しばらく街道を歩いていた。


昨日までは町の人々に警戒されていたゴプリンも、今日は巨大な編笠をかぶっている。


その姿は、どう見ても――


筋骨隆々の虚無僧だった。


ゴプリンは先頭を歩いている。


スタスタ。


スタスタ。


スタスタ。


魔王軍もその後ろを歩いていた。


魔王がゴプリンの背中を見ながら言った。


「それにしても、ゴプリンはどこに行くんですかね?」


昆布が答えた。


「おそらく、何かを探しているんでしょう」


「やっぱり、地下で言っていた『あいつ』ですかね?」


「その可能性が高いです」


魔王は少し考えた。


「でも……」


ゴプリンを見る。


巨大な編笠。


筋肉。


黒い服。


そして頭の上には、もちろんプリン。


魔王は言った。


「また、プリンの匂いで蜂が寄ってくるんじゃないですか?」


母さんが頷いた。


「そうねえ。昨日も大変だったものね」


勇気が周囲を見る。


「花畑が近くなってきました」


魔王軍全員が立ち止まった。


その先には――


一面の花畑。


色とりどりの花が咲いている。


風が吹くと、花が一斉に揺れた。


母さんが言った。


「綺麗ねえ」


魔王も頷く。


「本当に綺麗ですね」


昆布は花畑の奥を見る。


「ですが……」


魔王。


「何です?」


昆布。


「蜂がいます」


全員が花畑を見る。


ブーン。


ブーン。


ブーン。


魔王軍全員の顔が固まった。


魔王が静かに言った。


「……ハエ叩き、持ってます?」


勇気が答えた。


「あります」


殴打。


「ある」


五利武。


「ある」


父さん。


「ある」


便意。


「あります」


母さん。


「もちろん」


昆布。


「準備済みです」


魔王が頷いた。


「よし」


全員がハエ叩きを構えた。


ゴプリンは何も知らず、花畑へ入っていく。


スタスタ。


ブーン。


一匹の蜂がゴプリンに近づいた。


さらに一匹。


二匹。


三匹。


やがて――


ブーンブーンブーン。


大量の蜂がゴプリンの周りに集まり始めた。


魔王が叫ぶ。


「来た!」


ゴプリンは立ち止まった。


しかし、頭を大きく動かさない。


なぜなら――


頭にはプリンがあるからだ。


ゴプリンは右手を上げた。


パシン!


左手。


パシン!


右。


パシン!


左。


パシン!


蜂が次々と落ちていく。


魔王軍が目を丸くする。


勇気。


「ゴプリンが蜂を叩き落としている!」


五利武。


「すごく速い!」


殴打。


「俺より速いかもしれない」


魔王。


「いや、殴打さんは蜂を打つ競技じゃないです」


殴打。


「そうだった」


ゴプリンは頭をほとんど揺らさずに、両手だけを高速で動かしている。


パシン!


パシン!


パシン!


パシン!


まるで巨大な筋肉の塊が、二本のハエ叩きになったかのようだった。


しかもゴプリンは歩いている。


スタスタ。


パシン!


スタスタ。


パシン!


スタスタ。


パシン!


魔王が驚いた。


「歩きながら蜂を叩いてる……」


昆布が分析する。


「しかも編笠でプリンが安定して、頭がほとんど動いていません」


母さんが感心する。


「プリンを守るためね」


ゴプリン。


「……プリン……大事」


パシン!


一匹の蜂が落ちた。


魔王。


「そこだけは絶対に譲らないんですね」


ゴプリンはそのまま花畑を進んでいく。


ブーン!


パシン!


ブーン!


パシン!


ブーン!


パシン!


その姿を見て、魔王軍も続いた。


魔王は魔王の睨みを使う。


「……止まれ」


魔王が意識して蜂を睨む。


ピタッ。


蜂が空中で止まった。


勇気がハエ叩きを振る。


パシン!


殴打。


パシン!


五利武。


パシン!


父さん。


パシン!


便意。


パシン!


母さん。


パシン!


昆布。


パシン!


魔王軍は一列になって花畑を進んでいった。


昆布が言った。


「この方法、かなり効率的ですね」


魔王が答える。


「でも、俺たちの旅ってこんなんでしたっけ?」


昆布。


「最初の依頼も蚊退治でした」


魔王。


「そうでしたね」


勇気。


「薬草を取りに行ったら蜂でした」


魔王。


「そうでしたね」


殴打。


「井戸に行ったらカエルだった」


魔王。


「そうでしたね」


五利武。


「ゴプリンに会った」


魔王。


「そうでしたね」


便意。


「地下に行ったら水を吸うモンスターがいた」


魔王。


「そうでしたね」


魔王はしばらく黙った。


「……俺たち、本当に魔王軍なんですか?」


昆布。


「一応」


魔王。


「一応なんだ」


やがてゴプリンが花畑を抜けた。


魔王軍も続いて抜ける。


そこから先は、木々が密集した茂みだった。


ゴプリンは迷わず、その中へ入っていく。


魔王が言った。


「また茂みですか」


昆布が頷く。


「ゴプリンは迷っていないようです」


「やっぱり何かを感じてるんでしょうね」


魔王軍もゴプリンについていく。


茂みの中は暗い。


木々の葉が太陽を遮り、地面には湿った土が広がっている。


すると――


プーン。


魔王が顔をしかめた。


「……来ましたね」


母さん。


「蚊ね」


勇気。


「ハエ叩き、準備!」


全員が構えた。


しかし――


ゴプリンはすでに動いていた。


パチン!


右手。


パチン!


左手。


パチン!


両手。


パチン!


パチン!


パチン!


蚊が次々と落ちていく。


魔王が驚く。


「また速い!」


五利武。


「両手でやってる!」


殴打。


「しかも歩きながら!」


ゴプリンは止まらない。


スタスタ。


パチン!


スタスタ。


パチン!


スタスタ。


パチン!


そして頭はほとんど揺らさない。


母さんが笑った。


「ゴプリンさん、本当にプリンを守るのが上手になったわね」


ゴプリン。


「……守る」


パチン!


魔王軍も負けてはいない。


バシン!


バシン!


バシン!


魔王は魔王の睨みを使う。


「……止まれ」


蚊が止まる。


パシン!


勇気が落とす。


「魔王様、便利ですね!」


魔王。


「便利屋ですから」


昆布。


「そこは関係あるんでしょうか」


「ないと思います」


そんな会話をしながら、一行は茂みの奥へ進んでいく。


しばらくすると――


ゴプリンが突然、立ち止まった。


ピタッ。


魔王軍も止まる。


魔王が不思議そうに言った。


「どうしたんですか?」


ゴプリンは答えない。


ただ、前を見ている。


巨大な編笠の影で、表情はよく見えない。


魔王軍はゴプリンの前方を見る。


昆布が目を細めた。


「……何かあります」


魔王。


「何が?」


昆布。


「人影です」


全員が前を見る。


木々の隙間。


薄暗い森。


その向こうに――


誰かが立っていた。


人間なのか。


モンスターなのか。


遠くてよく分からない。


ただ、一つだけ分かることがあった。


その人影は――


こちらを見ている。


魔王が小さな声で言った。


「……誰でしょう?」


ゴプリンが一歩前へ出る。


そして、静かに言った。


「…………あいつ?」


魔王軍全員が息を呑んだ。

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