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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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モンスターが井戸に水を入れる

「ニャアアアアアア!」


巨大猫ミケは、森の中をものすごい勢いで走っていた。


その背中には、昆布が乗っている。


「ミケさん! もう少しだけ速度を――」


「ニャー!」


「聞いてませんね!」


昆布はミケの背中にしっかりつかまりながら、前方を見た。


森が途切れた。


その向こうに――


二丁目の町が見えてきた。


「見えました!」


昆布は少し姿勢を正した。


「ミケさん、町の中ではゆっくりお願いします」


「ニャー」


ミケは速度を落とした。


そして町の入口へ入っていく。


ドス……。


ドス……。


巨大な猫が歩いてくる。


その背中には人間が一人乗っている。


町の人々が振り返った。


「……?」


「何だ、あれ?」


「猫?」


「いや、あんな大きな猫がいるか?」


昆布はミケから降りた。


「ありがとうございました、ミケさん」


「ニャー」


ミケは尻尾を振った。


昆布は町の人々の前に立つ。


「皆さん、聞いてください!」


町の人々が昆布を見る。


「私は魔王軍の軍師、昆布です!」


ざわざわ……。


「魔王軍?」


「また魔王軍が来たのか?」


「大丈夫なのか?」


町の人々は少し警戒している。


昆布は落ち着いた声で話し始めた。


「皆さんの井戸の水が出なくなっていることは、先ほど聞きました」


町長らしき男性が頷いた。


「そうだ。ずっと水が出なくて困っている」


「その原因について、私たちは地下で調査していました」


「地下?」


「はい」


昆布は頷く。


「そこで、水を吸い取る能力を持った二体のモンスターと出会いました」


町の人々の顔が強張る。


「モンスター……?」


「はい」


「そのモンスターが水を吸い取っていたのか?」


「最初はそうでした」


昆布は正直に答えた。


町の人々がざわめく。


「やっぱりモンスターが原因じゃないか!」


「危険なんじゃないのか?」


「逃げたほうがいいんじゃ……」


昆布は手を上げた。


「ですが、話をしてください」


町の人々が静かになる。


「彼らは、自分たちが強くなりたいという理由で水を吸い取っていました」


「……」


「しかし、水を全部吸い取ってしまえば、他のモンスターも、人間も、植物も生きられなくなる」


昆布は続ける。


「それを説明したところ、二体は自分たちの考えが間違っていたことを理解しました」


町の人々は黙って聞いている。


「そして今度は、水を世界に戻そうとしています」


一人の町人が恐る恐る手を挙げた。


「……本当に信用して大丈夫なのか?」


昆布は頷いた。


「私たち魔王軍が責任を持ちます」


「責任を?」


「はい」


昆布は胸を張った。


「吸水と吸着、そしてゴプリンが、井戸に水を入れるために、あとでやってきます」


「ゴプリン?」


「はい」


「それもモンスターか?」


「そうです」


町の人々がまたざわめく。


昆布は少し声を大きくした。


「モンスターではありますが、話が分かる協力的なモンスターです!」


そして続けた。


「そのおかげで、井戸水が復活する可能性があります」


町長が尋ねる。


「もし危険な動きをしたら?」


昆布は即答した。


「その場合は、俺達魔王軍で抑えます」


町長が昆布を見る。


「本当に?」


「約束します」


昆布は真剣だった。


「何か危険なことをしようとしたら、すぐに止めます」


町の人々は互いに顔を見合わせた。


まだ不安そうだった。


そのとき――


「……来た」


誰かが呟いた。


「え?」


町の入口を見る。


「モンスターが来た!」


町中が一瞬で騒然となった。


「来たぞ!」


「モンスターだ!」


「離れろ!」


「子どもを下げろ!」


町の人々は一斉に井戸から離れた。


建物の陰へ隠れる者もいる。


遠巻きに様子を見る者もいる。


昆布は振り返った。


「大丈夫です!」


しかし――


「ドス……」


「ドス……」


「ドス……」


ゴプリンが歩いてくる。


その後ろから、


「ドスドスドス……」


吸水と吸着がやってくる。


町の人々はさらに距離を取った。


ゴプリンは町の人々を見る。


「……」


そして頭を少し下げた。


ぷるん。


プリンが揺れた。


町人の一人が小声で言った。


「……頭にプリン?」


別の町人が答える。


「俺にもそう見える」


「モンスターだよな?」


「たぶん」


「でもプリン乗ってるぞ」


「そこは関係ないだろ」


ゴプリンは井戸を見る。


「……井戸」


昆布が頷いた。


「そうです。ここです」


吸水と吸着も井戸を見る。


二人は井戸の前に立った。


町の人々はさらに後ろへ下がる。


「何をするんだ?」


「水を戻すんだろ?」


「本当に?」


昆布は叫んだ。


「皆さん、少し離れていてください!」


町の人々はさらに離れた。


「これでいいか?」


「十分です!」


昆布は二人を見る。


「では、お願いします」


吸水と吸着は顔を見合わせた。


「やるぞ」


「分かった」


二人は井戸に向かって――


頭を向けた。


「……」


「……」


昆布が少し嫌な予感を覚えた。


「待ってください」


二人が振り返る。


「なんだ?」


昆布が言う。


「水を戻す量は、少しずつですよ」


二人は頷いた。


「分かった」


「少しずつだな」


「絶対ですよ」


「分かった」


「本当に絶対ですよ」


「分かったって」


昆布は安心した。


「では、お願いします」


吸水と吸着が井戸へ向き直る。


そして――


「せーの!」


シュゴォォォォォォォォォォォォ!!


「え?」


大量の水が噴き出した。


ドババババババババババ!!


「ちょっと!」


昆布が叫ぶ。


「多いです!」


しかし止まらない。


ドババババババババ!!


井戸の中へ大量の水が流れ込んでいく。


「すごい!」


「水だ!」


「井戸に水が!」


町の人々が驚く。


昆布は叫んだ。


「吸水さん! 吸着さん! 少しずつって言いましたよね!」


「これでも少しだ!」


「どこがですか!」


「前より少ない!」


「前が多すぎたんですよ!」


吸着が叫ぶ。


「でも、ちゃんと井戸に入ってるぞ!」


「それはそうですけど!」


ドババババババババ!!


井戸の水位がどんどん上がっていく。


「おお……!」


町人たちの表情が変わっていく。


「水が……」


「戻ってきた……」


「本当に戻ってきたぞ!」


町長が井戸へ近づく。


恐る恐る中を覗く。


「……!」


井戸の底に――


水が溜まっている。


しかも、どんどん増えている。


町長の顔が明るくなった。


「水だ!」


「水があるぞ!」


「井戸が戻った!」


「やった!」


町の人々から歓声が上がった。


子どもたちも走ってくる。


「水!」


「本当に水だ!」


「飲めるの?」


大人たちが井戸を確認する。


「きれいだ!」


「これなら使える!」


町の人々は喜び始めた。


さっきまでモンスターから離れていた人々が、少しずつ井戸の近くへ戻ってくる。


ゴプリンはその様子を見ていた。


「……」


そして、


「……よかった」


小さく呟いた。


昆布が振り返った。


「ゴプリンさん?」


「……水」


「はい」


「……薬草も……元気になる?」


昆布は微笑んだ。


「きっと、少しずつ戻っていくと思います」


ゴプリンは嬉しそうに頷いた。


ぷるん。


「ゴプリンさん、頭!」


母がいないので誰も注意できない。


昆布が慌てて言った。


「ゴプリンさん、プリンが!」


ゴプリンは両手で頭を押さえた。


「……大事」


「そうです」


町長はそんな様子を見ていた。


そして、ゆっくりゴプリンのところへ近づいた。


ゴプリンが少し身構える。


しかし町長は――


頭を下げた。


「ありがとう」


ゴプリンが目を丸くする。


「……」


「水を戻してくれてありがとう」


ゴプリンは少し困ったように頭をかいた。


ぷるん。


「あ!」


またプリンが揺れた。


「……危ない」


町長が思わず笑った。


「そのプリンも大事なんだな」


「……大事」


ゴプリンは真剣に答えた。


町長は笑った。


「分かった」


そして吸水と吸着を見る。


「君たちもありがとう」


二人は驚いた。


「……俺たち?」


「そうだ」


吸水が少し照れながら言った。


「……水を戻しただけだ」


吸着も頷く。


「俺たちは、前は全部吸い取ろうとしてたけどな」


町長は笑った。


「今度は戻してくれた。それだけで十分だ」


二人は互いを見る。


そして少し嬉しそうに笑った。


「……悪くないな」


「何が?」


「水を戻すの」


「そうだな」


昆布はその様子を見ながら、ほっとした。


――そのとき。


町長が昆布に近づいてきた。


「魔王軍の皆さん」


「はい」


「今日は、この町に泊まって行きなさい」


昆布が目を丸くする。


「泊まって……いいんですか?」


「もちろんだ」


町長は笑った。


「井戸の水を戻してくれたんだ。今日くらい、ゆっくりしていってくれ」


町の人々からも声が上がる。


「泊まっていけ!」


「水が戻ったんだから、お祝いだ!」


「食事も出そう!」


昆布は驚いた。


「……ありがとうございます」


すると吸水が言った。


「俺たちも?」


町長が頷く。


「もちろん」


吸着も驚いた。


「ゴプリンも?」


「もちろん」


ゴプリンは、


「……泊まる」


嬉しそうに頷いた。


ぷるん。


昆布が慌てて言う。


「プリン!」


「……大丈夫」


しかしゴプリンの頭のプリンは、


ぷるん……。


町長が笑った。


「本当に大事なんだな」


ゴプリンは頷いた。


「……大事」


町の人々にも笑いが広がった。


そして昆布は、遠くの森を振り返った。


「……魔王様たちも、そろそろこちらへ来る頃ですね」


吸水が言った。


「魔王も喜ぶかな」


吸着が答える。


「水が戻ったからな」


昆布は頷いた。


「はい」


そして――


二丁目の町の井戸には、


久しぶりにたっぷりの水が戻っていた。


モンスターを恐れていた町の人々も、


少しずつ彼らを受け入れ始めていた。


ただし――


「吸水さん」


「なんだ?」


「次に水を戻すときは、本当に少しずつお願いします」


「分かった」


「吸着さんもですよ」


「分かった」


昆布は二人をじっと見る。


「……本当に?」


二人が同時に答えた。


「たぶん」


「たぶんじゃない!」


町中に笑い声が響いた。

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