最強の脱水モンスター
地下洞窟の奥。
巨大な地下空間には、二人の吸水モンスターがいた。
二人とも地面に座りながら、頭から地下水を吸い上げている。
ゴォォォォォ……。
ゴォォォォォ……。
二人が吸い上げるたびに、水路の水位が少しずつ下がっていく。
魔王軍は、その光景をじっと見ていた。
魔王が小声で言う。
「……あれ、本当に止めないとまずいよな」
昆布が頷いた。
「はい」
そして一歩前へ出る。
「私が話をします」
魔王が昆布を見る。
「大丈夫か?」
「はい」
昆布は二人の吸水モンスターを見た。
そして、父に向かって言った。
「お父さん、先頭でお願いします」
父は頷いた。
「分かった」
そして一歩前へ出る。
「メンタルガード」
「いや、今回は攻撃される前提なんだな」
魔王が小声で言った。
父は真顔だった。
「念のためです」
「まあ……父さんらしいか」
昆布は吸水モンスターたちに近づいた。
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昆布、交渉開始
「ちょっとお二人にお話ししたいのですが」
昆布が声をかける。
二人の吸水モンスターが同時に振り返った。
「何だ」
「何か用か?」
昆布は落ち着いている。
「今は何をされているんですか?」
二人は頭から水を吸いながら答えた。
「出来るだけたくさんの水を吸ってるんだ」
「見れば分かりますね」
魔王が小声で言う。
「昆布、そこから聞くの?」
昆布は続けた。
「お二人とも、すごい吸水力ですね」
二人は顔を見合わせた。
「そうだろう」
「俺たちは水を吸うのが得意なんだ」
少し誇らしげだ。
昆布は頷いた。
「確かに素晴らしい能力だと思います」
「だろう?」
「俺なんか、あっちの水路まで一気に吸えるぞ」
「俺はもっとだ!」
「俺の方が多く吸える!」
「俺だ!」
「俺だ!」
二人はまた競争を始めた。
魔王が頭を抱える。
「また始まった……」
殴打が言った。
「水の量で勝負してるな」
五利武が頷く。
「スポーツみたいだ」
便意が言った。
「吸水競技ですね」
魔王が振り返る。
「そんな競技ないから」
---
世界中の水を吸う
昆布は二人が落ち着くのを待ってから聞いた。
「ところで、お二人は最終的にどうされたいんですか?」
二人は胸を張った。
「決まっている」
「世界中の水を吸い込んでやる」
「……」
魔王軍が黙った。
昆布だけは冷静だった。
「世界中の水を?」
「ああ」
「全部ですか?」
「全部だ」
「海も?」
「もちろんだ」
「川も?」
「吸う」
「湖も?」
「吸う」
「井戸も?」
「吸う」
昆布は少し考えた。
「雨も?」
二人は一瞬黙った。
「……吸う」
魔王が思わず口を挟んだ。
「雲から?」
「そうだ」
「すごいな」
「だろう?」
二人は得意げだ。
昆布はさらに聞いた。
「世界中の水を吸い込んだら、どうなるんですか?」
二人は待っていましたとばかりに答えた。
「他のモンスターが水を飲めなくなる!」
「植物も水を飲めなくなる!」
「そして俺たちだけが大量の水を持っている!」
「最強になれる!」
昆布は頷いた。
「なるほど」
「分かったか?」
「はい」
「俺たちの作戦は完璧なんだ」
「最強のモンスターは魔王になれる」
もう一人も頷く。
「そうだ。だから俺たちが次の魔王になる!」
魔王軍の視線が、一斉に魔王へ向いた。
魔王は小声で言った。
「俺、ここにいるんだけどな……」
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昆布の一言
昆布は二人に向かって言った。
「最強ですね」
二人は嬉しそうに胸を張った。
「そうだろ」
「俺たちは最強になるんだ」
「なるほど」
昆布はまた頷いた。
そして――。
静かに聞いた。
「ところで」
「何だ?」
「他のモンスターと植物が水を飲めなくなったら、どうなるんでしょう?」
二人は黙った。
「……」
「……」
昆布は続ける。
「水がなければ、植物は枯れます」
「……」
「植物がなくなれば、草を食べる生物も困ります」
「……」
「そして水を飲めないモンスターも、生きていけません」
二人は顔を見合わせた。
昆布は淡々と続ける。
「最終的には、お二人以外に誰もいなくなりますね」
「……」
「……」
洞窟が静かになった。
水の音だけが聞こえる。
サァァァァ……。
一人が小さな声で言った。
「……それじゃダメじゃん」
もう一人も頷いた。
「……ダメだな」
魔王が思わず言った。
「気づくの早いな」
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最強になった後
二人は真剣に考え始めた。
「俺達が最強になって……」
「他のモンスターを部下にする予定だった」
「そうだったな」
「でも……」
一人が眉をひそめる。
「脱水モンスターの部下なんか弱そうだな」
もう一人も頷いた。
「水が飲めないからな」
「走れない」
「戦えない」
「食べ物もなくなる」
「部下がいなくなる」
二人は深刻な顔になった。
「……最強なのに一人ぼっちだ」
「嫌だな」
魔王が思わず言った。
「最強って、そういうことじゃないと思うぞ」
二人が魔王を見る。
「じゃあ、どういうことだ?」
魔王は少し考えた。
「……俺にも分からない」
「分からんのかい!」
二人から同時にツッコまれた。
魔王は苦笑した。
「だって俺、魔王になりたくてなったわけじゃないし」
昆布が横で頷く。
「その通りですね」
「昆布まで言うのか」
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別の強さ
昆布が二人に言った。
「水を戻してくれたら、色んな生物が元気になって世界を守れますよ」
「世界を守る?」
「はい」
「俺たちが?」
「そうです」
二人は顔を見合わせた。
「水を吸うんじゃなくて?」
「はい」
「水を戻す?」
「はい」
「それで強くなれるのか?」
昆布は頷いた。
「違う形でも強くなる方法があるかもしれません」
二人は黙って考えた。
「……」
「……」
やがて一人が言った。
「俺たちは、水をたくさん吸える」
「はい」
「だったら……」
もう一人が言った。
「吸った水を、必要なところに戻せばいい?」
昆布が頷く。
「それなら、お二人の吸水能力が役立ちます」
「……」
「……」
二人は顔を見合わせた。
そして――。
「そうか」
「水を世界に循環させないとな」
二人の目が輝いた。
「俺たちが水を集める!」
「そして必要な場所に戻す!」
「それなら他のモンスターも元気になる!」
「植物も元気になる!」
「部下も増える!」
昆布が頷いた。
「最後の目的だけ少し気になりますが、方向性としては良いと思います」
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まさかの放水
二人は立ち上がった。
「よし!」
「やるぞ!」
「まずは今吸った水を戻す!」
魔王が嫌な予感を覚えた。
「ちょっと待て」
「いくぞ!」
二人は頭を上げた。
「せーの!」
ゴォォォォォォォォォォォ!
次の瞬間――。
二人の頭から、
大量の水が噴き出した。
ドバァァァァァァァァァァァ!!
「うわあああああ!」
魔王軍全員が逃げる。
「待て待て待て!」
「水が多すぎます!」
昆布が叫ぶ。
父は、
「メンタルガード!」
と叫びながら立っていた。
しかし防御できるのは精神であって、水ではない。
「お父さん、水は防げません!」
魔王が叫ぶ。
「分かっています!」
「じゃあ何で立ってるんですか!」
「先頭だからです!」
「責任感が強すぎる!」
水はどんどん増えていく。
ザァァァァァァァァ!
洞窟の床を水が走る。
「このままだと溺れる!」
勇気が叫ぶ。
母がゴプリンを見る。
「ゴプリンちゃん!」
ゴプリンは必死に頭のプリンを守っていた。
「……プリン……」
ぷるん。
「プリンは大丈夫?」
「……大丈夫」
「良かった」
魔王は叫んだ。
「プリンより先に自分を心配して!」
---
昆布、再び軍師になる
昆布が水の流れを見る。
「全員、落ち着いてください!」
魔王が叫ぶ。
「昆布、何とかして!」
「まず、私たちが洞窟から脱出する必要があります!」
「そうだな!」
昆布は二人の吸水モンスターを見る。
「ちょっと待って下さい!」
二人が水を吐き出しながら振り返る。
「何だ?」
「どうした?」
昆布が叫ぶ。
「私たちが溺れてしまいます!」
二人は止まった。
「……」
「……」
昆布は続ける。
「私達が洞窟から脱出するまで待ってて下さい」
二人は顔を見合わせた。
「……そうか」
「水を戻すのにも順番があるんだな」
「はい」
昆布は頷いた。
「水を戻すこと自体は良いことです」
「そうか」
「ただし、人がいる場所で一気に戻すと危険です」
「分かった」
一人が頷いた。
「じゃあ――」
もう一人が言った。
「外でやろう」
「そうしてください」
昆布はホッとした。
魔王も胸を撫で下ろす。
「助かった……」
---
地上へ向かって
魔王軍は、二人の吸水モンスターと一緒に出口へ向かうことになった。
しかし――。
問題が一つあった。
段差である。
行きは下ってきた。
帰りは当然、登らなければならない。
ゴプリンが最初の段差の前で止まった。
「……」
魔王も止まる。
「ゴプリン?」
「……」
ゴプリンは段差を見る。
そしてプリンを見る。
「……」
魔王は察した。
「そうか」
母も気づいた。
「プリンが落ちちゃうものね」
「うん」
ゴプリンは真剣な顔をしている。
昆布が言った。
「ゆっくり登りましょう」
ゴプリンは頷いた。
ドス。
前脚を段差にかける。
ゆっくり。
ゆっくり。
そして――。
ドス。
「ぷるん」
魔王が言った。
「今ちょっと揺れたぞ」
ゴプリンが止まる。
「……」
プリンを確認する。
無事。
「……大丈夫」
また進む。
ドス。
ぷるん。
ドス。
ぷるん。
「帰るだけなのに、ものすごく時間がかかるな」
五利武が言った。
殴打が答える。
「プリンが大事だからな」
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吸水モンスターも登る
二人の吸水モンスターも続いた。
ところが――。
「……」
「……」
二人も段差を見ている。
魔王が聞く。
「どうした?」
一人が言った。
「水を吸いすぎて重い」
もう一人も言った。
「俺もだ」
「……」
魔王はため息をついた。
「自分で吸った水だろ」
「そうだ」
「じゃあ、吐けば?」
二人が顔を見合わせる。
「……」
「ここで?」
「ダメだ!」
昆布が即座に止めた。
「洞窟内で吐いたら、また水浸しになります!」
「そうだった」
二人は真面目に頷いた。
魔王は思った。
――この二人、悪い奴ではない。
ただ、とにかく水の扱いが下手だ。
---
地上の光
長い時間をかけて、魔王軍は少しずつ段差を登っていった。
ドス。
ぷるん。
ドス。
ぷるん。
そして――。
前方に、小さな光が見えた。
「出口だ!」
勇気が叫んだ。
「やっとだ!」
魔王も笑顔になる。
母が言った。
「外の空気が感じるわ」
父も頷いた。
「もう少しですね」
昆布は後ろを見る。
二人の吸水モンスター。
そしてゴプリン。
さらに壁に張り付く大量の緑色の小さな生き物。
地下水脈。
壊れた魔法石。
黒い核。
そして、まだ分からない「あいつ」。
昆布は静かに考えていた。
今回分かったことは多い。
しかし――。
分からないことも、まだ多い。
魔王が昆布を見る。
「昆布」
「はい?」
「どうした?」
「いえ」
昆布は少し笑った。
「まだ調べることがたくさんありそうだと思いまして」
魔王は出口の光を見る。
「……そうだな」
そして――。
魔王軍は、二人の吸水モンスターとともに、長い地下洞窟から地上へ向かって進んでいった。
その先に待っているのは、
乾きかけた森。
弱っている薬草。
そして――。
二人が大量に吸い込んだ地下水を、世界へ戻すという大仕事だった。
魔王は空を見上げた。
「……便利屋の仕事って、水道工事まで入ってたっけ?」
父が答えた。
「最近は何でも屋になっていますね」
「便利屋だからな」
「そういう問題ですか?」
昆布が静かに笑った。
その後ろでゴプリンが、
ドス。
ぷるん。
と最後の段差を登った。




