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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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ゴプリン、蜂と蚊に襲われる

隣町の井戸から地上へ戻った魔王軍は、そのまま森の中へ入っていった。


そして、商人から報酬をもらった。


先ほどまで地下にいたせいか、森の光がやけに眩しく感じる。


魔王は目を細めながら、森の奥を見た。


「ゴプリン、どこまで行ったんだ?」


少し先から、


「ドス……」


という音が聞こえた。


魔王が耳を澄ます。


「いた」


昆布も周囲を確認する。


「森の奥へ進んでいます」


「追おう」


魔王軍は再び歩き始めた。


先頭は魔王。


そのすぐ前をゴプリンが歩いている。


いや、歩いているというより――。


ドス。


ドス。


ドス。


ゆっくり進んでいる。


魔王が声をかける。


「ゴプリン!」


ゴプリンが振り返る。


「……?」


「お前、何を探してるんだ?」


「……」


ゴプリンは答えない。


そして再び歩き出す。


ドス。


ドス。


ドス。


魔王は昆布を見る。


「やっぱり、何かを探してるよな」


「はい」


昆布は頷いた。


「地下の魔法石を見つけたことも考えると、ゴプリンはこの森の異変を知っている可能性があります」


魔王「でも、何を探してるのか分からない」


昆布「はい」


魔王「しゃべれるようになったのに?」


昆布「しゃべることと、説明できることは別ですから」


魔王「なるほど」


便意が横から口を挟む。


「僕も魔法は使えません」


魔王「急にどうした」


「説明も苦手です」


魔王「知ってる」


便意「……」


しばらく森を進むと、木々の間から明るい場所が見えてきた。


「お花畑だ」


母が嬉しそうに言った。


そこには色とりどりの花が咲いていた。


赤。


黄色。


白。


紫。


一面に広がっている。


魔王軍全員が足を止める。


「綺麗ですね」


勇気が言った。


鍋も頷く。


「こういう場所、いいな」


殴打が周囲を見る。


「ゴプリンは?」


魔王が前を見る。


「……いた」


ゴプリンは花畑の中央にいた。


花を見ているのかと思った。


しかし――。


ゴプリンの周囲から、


ブーン……。


ブーン……。


ブーン……。


大量の羽音が聞こえてきた。


魔王が眉をひそめる。


「……嫌な音だな」


昆布が双眼鏡を取り出す。


覗く。


「……蜂です」


魔王「何匹?」


昆布「かなりいます」


五利武「かなりって?」


昆布「数える気にならないくらいです」


魔王「それは多いな」


次の瞬間。


ブワァァァァァッ!


大量の蜂がゴプリンに群がった。


「ゴプリン!」


魔王が叫ぶ。


ゴプリンが腕を振る。


しかし――。


ゆっくり。


ものすごくゆっくり。


ゴプリンは暴れている。


ドス。


ブン。


ドス。


ブン。


魔王が叫ぶ。


「もっと速く!」


ゴプリンが少し速く動こうとする。


すると――。


頭の上のプリンが、


ぷるん。


ゴプリンが止まる。


「……」


魔王「プリンが落ちそうなんだな」


昆布「そうですね」


ゴプリンは再び、


ゆっくり。


ゆっくり。


腕を振る。


しかし蜂は容赦しない。


ブンブンブン!


「痛そう!」


勇気が叫ぶ。


ゴプリンの腕。


肩。


背中。


顔。


あちこちが蜂に刺されている。


ぷく。


ぷく。


ぷく。


皮膚がどんどん膨らんでいく。


魔王「ゴプリン、大丈夫か!」


ゴプリン「……大丈夫」


魔王「しゃべった!」


五利武「そこじゃないだろ」


魔王「そうだった」


昆布が叫ぶ。


「魔王様!」


「分かってる!」


魔王は一歩前に出た。


そして蜂の群れを見る。


「……止まれ」


魔王の目つきが変わった。


「魔王の睨み!」


その瞬間。


ブンッ!


蜂たちの動きが止まった。


空中で完全に静止する。


魔王「よし!」


昆布「今です!」


殴打がハエ叩きを構える。


「了解!」


バシッ!


五利武もハエ叩きを持つ。


「いくぞ!」


バシッ!


勇気も。


バシッ!


父も。


バシッ!


便意も。


バシッ!


鍋も。


バシッ!


そして母まで。


バシッ!


魔王「全員ハエ叩き持ってるな!」


昆布「以前の蚊の経験から準備していました」


魔王「学習してるな……」


魔王軍は一斉に蜂を叩いていく。


バシッ!


バシッ!


バシッ!


バシッ!


蜂が次々と地面へ落ちる。


しかし――。


ゴプリンだけはその場に立ったまま。


全身がボコボコになっていた。


「……」


魔王「ゴプリン」


ゴプリン「……」


魔王「痛いだろ?」


「……少し」


魔王「少し?」


昆布がゴプリンを見る。


「かなり腫れています」


ゴプリン「……少し」


魔王「強がってるだろ」


そのとき母がゴプリンの前に歩いてきた。


「ちょっと待ってね」


母が両手をゴプリンへ向ける。


小さな光が生まれた。


淡い光がゴプリンの身体を包む。


「回復魔法」


ふわっ。


光が蜂に刺された場所へ集まっていく。


ぷく。


ぷく。


と膨らんでいた皮膚が、少しずつ元に戻っていく。


ゴプリンが自分の腕を見る。


「……」


もう腫れていない。


ゴプリンは母を見る。


「……ありがとう」


母が微笑む。


「どういたしまして」


そしてゴプリンは魔王を見る。


「魔王様も……ありがとう」


魔王「俺は蜂を止めただけだけどな」


ゴプリン「……ありがとう」


魔王は少し照れた。


「……まあ、いいけど」


便意が小声で言う。


「仲良くなってますね」


魔王「そうだな」


昆布も頷いた。


「ゴプリンは敵ではない可能性が高いですね」


五利武「最初は敵だと思ったけどな」


殴打「俺も」


勇気「でも、ゴプリンは誰も襲っていません」


父「むしろ蜂に襲われていました」


魔王「……」


魔王はゴプリンを見る。


全身を蜂に刺されながらも、プリンだけは必死に守っていた。


魔王「……プリン、大事なんだな」


ゴプリン「……大事」


魔王「そこだけは即答なんだ」


ゴプリンは頷いた。


「……プリンだから」


魔王「理由になってるような、なってないような……」


母が笑った。


「可愛いわね」


魔王「母さん、ゴプリンを気に入った?」


母「ええ」


ゴプリン「……」


母「でも、甘い匂いがするから、蜂には気をつけないとね」


ゴプリンが頷く。


「……うん」


魔王「蜂に襲われる理由、本人も分かってたんだな」


ゴプリンは再び歩き始めた。


ドス。


ドス。


ドス。


魔王軍も後を追う。


花畑を抜ける。


森は再び暗くなっていった。


木々が密集し、道が狭くなる。


ゴプリンは迷わない。


ずっと同じ方向へ進んでいる。


昆布が地図を見る。


「この先は、かなり深い森です」


魔王「何かあるのか?」


「地図上では何もありません」


魔王「じゃあ、ゴプリンは何を目指してるんだ?」


昆布「分かりません」


魔王「……」


魔王はゴプリンを見る。


「まあ、ついていくしかないか」


そのとき。


ゴプリンが茂みの前で止まった。


ドス。


「ここ?」


魔王が聞く。


ゴプリンが茂みを見る。


「……」


そして――。


茂みの中へ入っていく。


ガサガサ。


魔王軍も続く。


ガサ。


ガサ。


ガサ。


魔王が茂みを抜けた瞬間――。


「……ん?」


耳元で何かが鳴った。


プーン。


魔王「……」


もう一度。


プーン。


魔王「……まさか」


昆布が顔を上げる。


「魔王様」


「分かってる」


「大量です」


「やっぱりか!」


茂みの向こう。


そこには――。


大量の蚊が飛んでいた。


「うわぁぁぁ!」


便意が叫ぶ。


「また虫!」


五利武「ハエ叩き!」


殴打「持ってるぞ!」


父「俺も!」


勇気「僕も!」


鍋「あります!」


母「私も」


魔王「なんで全員、すぐ出せるんだよ!」


昆布「備えです」


魔王「備えが良すぎる!」


だが――。


蚊たちは魔王軍ではなく、


ゴプリンへ向かった。


ブワァァァァァ!


「ゴプリン!」


ゴプリンが腕を振る。


しかし。


やっぱり。


ゆっくり。


ぷるん。


頭のプリンが揺れる。


ゴプリンはプリンを守るため、激しく動けない。


その間にも蚊がどんどん近づく。


チク。


チク。


チク。


ゴプリンの顔。


腕。


背中。


足。


次々に刺される。


「またか!」


魔王が叫ぶ。


ゴプリンは、


「……」


ゆっくり暴れている。


ぷるん。


魔王「プリン落とすなよ!」


ゴプリン「……うん」


魔王「そこは絶対守るんだな!」


昆布「魔王様!」


魔王「分かった!」


魔王は再び目を細める。


「魔王の睨み!」


ブンッ!


蚊の群れが空中で止まった。


「今です!」


魔王軍が一斉に動く。


バシッ!


バシッ!


バシッ!


バシッ!


バシッ!


蚊が次々と落ちていく。


殴打「多い!」


五利武「まだいる!」


勇気「右!」


父「左!」


便意「上!」


鍋「下!」


魔王「全部じゃねえか!」


昆布「それだけ多いということです!」


魔王軍総出でハエ叩きを振り回す。


バシッ!


バシッ!


バシッ!


バシッ!


やがて――。


森が静かになった。


「……終わった?」


便意が恐る恐る顔を上げる。


昆布が確認する。


「はい」


魔王「ゴプリンは?」


全員が振り向く。


ゴプリンは――。


やっぱりボコボコだった。


「……」


魔王「また刺されたな」


ゴプリン「……うん」


母が近づく。


「ゴプリンさんは、蚊にも刺されやすいのね」


ゴプリン「……うん」


母は再び両手をかざす。


「回復魔法」


ふわっ。


柔らかな光がゴプリンを包む。


蚊に刺された跡が、少しずつ消えていく。


ゴプリンはじっと母を見ていた。


「……」


やがて、全部の腫れが消えた。


母が微笑む。


「これで大丈夫」


ゴプリンは小さく頷く。


「……ありがとう」


魔王が笑う。


「もう三回目だな」


ゴプリン「……」


魔王「蜂のときもありがとうって言ってたし」


ゴプリン「……ありがとう」


魔王「いや、今じゃなくて」


五利武が笑った。


「ゴプリン、律儀だな」


殴打「強いのに虫には弱い」


父「しかもプリンを守りながらだから、余計に大変ですね」


便意「プリンがなかったらもっと速く動けるんですか?」


ゴプリン「……たぶん」


魔王「たぶんなんだ」


昆布が少し考える。


「でも、ゴプリンがあのプリンを守ることには意味があるのかもしれません」


魔王「どういうこと?」


昆布「分かりません」


魔王「また分からないのかよ」


昆布「ただ――」


昆布はゴプリンの頭を見る。


「ゴプリンは、あのプリンを守るために、わざと動きを遅くしているように見えます」


魔王「……」


確かに。


ゴプリンは自分が傷ついても、プリンを落とさない。


それは戦闘のときも同じだった。


あれほど強い身体を持ちながら、頭のプリンだけは必死に守っている。


魔王「……まあ、大切なものがあるってことだな」


母が頷く。


「そうね」


ゴプリンは再び歩き始めた。


ドス。


ドス。


ドス。


魔王軍も後を追う。


しかし――。


少し歩いたところで、魔王が気づいた。


「……あれ?」


「どうしました?」


昆布が聞く。


魔王「ゴプリン、さっきからずっと同じ方向に進んでるよな」


「はい」


「でも、地下の魔法石から離れてないか?」


昆布が地図を見る。


そして顔を上げた。


「……いいえ」


「え?」


「この方向は、地下水脈が続いている方向です」


魔王はゴプリンを見る。


ゴプリンは森の奥を見つめている。


「……」


そして小さく呟いた。


「……あっち」


魔王「また『あっち』か」


ゴプリン「……あっち」


昆布が周囲を見回す。


「魔王様」


「ん?」


「この先に何かあるかもしれません」


魔王は頷いた。


「行こう」


魔王軍はさらに森の奥へ進んでいく。


しかしその先には――。


今まで誰も見たことのない、巨大な木々に囲まれた場所が待っていた。


そして、その地面には――。


地下へ続くような、


巨大な亀裂


が走っていた。


ゴプリンは、その亀裂の前で立ち止まった。


ドス。


「……」


魔王軍全員が、亀裂を見つめる。


昆布が静かに言った。


「……地下水脈は、まだこの先に続いています」


魔王は亀裂の奥を覗き込んだ。


暗い。


深い。


何も見えない。


だが――。


奥から、かすかに音が聞こえる。


ゴゴ……


魔王「……まただ」


昆布「はい」


ゴゴゴ……。


ゴプリンが亀裂の前に立つ。


そして――。


「……あいつ」


魔王「……」


ゴプリンが暗闇を見つめる。


「……いる」


魔王軍は、誰も動かなかった。


森の奥。


巨大な亀裂。


地下へ続く水脈。


そして――。


ゴプリンが追っている「あいつ」。


魔王は息を呑んだ。


「……ゴプリン」


ゴプリンは答えなかった。


ただ、暗闇を見つめ続けていた。


――その先に何がいるのか。


魔王軍はまだ知らない。

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