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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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ゴプリンが見つめていたもの

隣町の井戸。


その底には、地上からは想像もできないほど長い、暗い通路が伸びていた。


魔王軍は、その通路の入口で立ち止まっていた。


先頭にいるのは魔王。


その隣には父。


少し後ろに昆布。


さらに後ろには勇気、殴打、五利武、便意、鍋、母。


そして最後尾には――。


ゴプリン。


いや。


ゴプリンはもう、魔王軍の後ろではなかった。


いつの間にか全員の前に出ている。


「……」


ゴプリンは暗い通路の奥を見つめていた。


魔王は首をかしげた。


「ゴプリン?」


反応はない。


「何か見つけたのか?」


「……」


やはり返事はない。


五利武がゴルフクラブを肩に担いだ。


「敵じゃないか?」


昆布がすぐに首を横に振る。


「まだ分かりません」


「じゃあ、行ってみる?」


殴打が言った。


昆布は少し考えた。


「……慎重に行きましょう」


父が木の盾を構える。


「俺が前に出ます」


魔王が言う。


「いや、父さん。今回はゴプリンが先にいるから、ゴプリンについていこう」


「そうですね」


魔王軍は、ゴプリンの後を追った。


地下通路は湿っていた。


壁から水滴が落ちている。


ぽた。


ぽた。


ぽた。


足元には細い水の流れができていた。


魔王は足元を見ながら歩く。


「地下なのに、ちゃんと水があるんだな」


昆布が周囲を観察する。


「はい。ただ……」


「ただ?」


「水の流れが不自然です」


「不自然?」


「本来なら、もっと一定方向に流れているはずです」


昆布はしゃがみ込んだ。


水を指で触る。


「流れが途中で分かれています」


魔王も覗き込む。


「本当だ」


母が後ろから顔を出す。


「地下って迷路みたいね」


便意が言う。


「迷ったらどうします?」


昆布が即答する。


「戻ります」


便意「……」


魔王「それが一番安全だな」


五利武が言った。


「でも、ゴプリンは迷ってないぞ」


全員が前を見る。


ゴプリンは迷いなく進んでいた。


ドス。


ドス。


ドス。


ゆっくりとした足取り。


しかし方向だけは正確だった。


魔王が感心する。


「ゴプリン、すごいな」


昆布も頷く。


「何かを知っている可能性があります」


父が言った。


「もしかすると、この地下のことを以前から知っているのかもしれません」


鍋が腕を組む。


「ということは、ゴプリンは地下探検のプロ?」


便意が言う。


「プリンの地下探検家……」


魔王「なんだ、その肩書き」


殴打「意外と強そうだな」


魔王「どこが?」


五利武「地下プリン探検隊」


魔王「隊にするな」


そんな会話をしながら歩いていると――。


ゴプリンが突然止まった。


ドス。


魔王軍も止まる。


ゴプリンは、目の前を見つめていた。


「……」


魔王も、その視線の先を見る。


「……あれ?」


暗闇の中。


青い光が見えた。


ぼんやりとした青。


水面のように揺らめいている。


魔王が一歩近づく。


「魔法石……?」


昆布が目を細める。


「はい」


そこには巨大な青い魔法石があった。


高さは人間の身長ほど。


壁に埋め込まれるように設置されている。


その周囲には、水路が何本も伸びている。


まるで地下の水を集める巨大な装置のようだった。


魔王が呟く。


「これが……水の魔法石か」


昆布が頷いた。


「おそらくそうです」


五利武が近づく。


「これが水を作ってるのか?」


昆布は首を横に振った。


「水を作っているというより……」


昆布は周囲の水路を見る。


「地下水を集めて、井戸へ送っていたのだと思います」


魔王は魔法石を見上げた。


「じゃあ、こいつが町の井戸を支えてたってことか」


「はい」


その瞬間。


ゴプリンが魔法石の前に近づいた。


ドス。


ドス。


そして――。


じっと見つめる。


「……」


魔王がゴプリンを見る。


「ずっとこれを見てたのか?」


ゴプリンは答えない。


昆布が魔法石を調べ始めた。


「……」


指先で表面を確認する。


そして――。


「あ」


小さな声を漏らした。


魔王が振り向く。


「どうした?」


「割れています」


「え?」


全員が魔法石を見る。


確かに。


青い魔法石の中央には、大きな亀裂が入っていた。


一本。


二本。


三本。


亀裂は内部へ伸びている。


しかも、その亀裂はかなり深い。


魔王が近づく。


「これ……かなり割れてるな」


昆布が頷く。


「はい」


さらに昆布は魔法石の中央を覗き込んだ。


すると――。


魔法石の内部に何かが見えた。


黒い。


小さな球体。


まるで黒い石のようなもの。


しかし、それもまた――。


割れていた。


魔王「……中に何か入ってるぞ」


昆布「はい」


父「黒いですね」


母「小さいわね」


便意「梅干しみたいですね」


魔王「なんで梅干しなんだよ」


便意「黒梅干し」


魔王「そんな梅干しあるのか?」


鍋「食べてみる?」


魔王「食べるな」


鍋「冗談です」


魔王「鍋さんが言うと冗談に聞こえないんだよ」


昆布は慎重に魔法石を観察していた。


「この黒いものが……核でしょう」


「核?」


魔王が聞き返す。


「はい。魔法石そのものを動かしている中心部なのかもしれません」


昆布は指を近づける。


しかし触らない。


「問題は……」


「問題は?」


「その核も割れています」


全員が黙った。


魔王は魔法石と黒い核を交互に見る。


「……外側も割れてる」


「はい」


「中も割れてる」


「はい」


「ということは……」


魔王は腕を組む。


「誰かが壊した?」


昆布はすぐには答えなかった。


しばらく考えたあと、ゆっくり口を開く。


「まだ分かりません」


そして魔法石を指差す。


「おそらく、この水の魔法石が地下水を井戸に集めていたのでしょう。魔法石が割れてしまったから、地下の水脈が乱れて、薬草が育たなくなってきたのかもしれません。」


魔王は黙って魔法石を見つめる。


今まで起きたことが、少しずつ一本につながっていく。


村の薬草不足。


森の薬草不足。


隣町の薬草不足。


井戸の水不足。


森に増えたモンスター。


そして――。


この地下にある、壊れた水の魔法石。


魔王は呟いた。


「……全部、これが原因なのかもしれないな」


昆布が頷く。


「可能性は高いです」


「じゃあ、これを直せば……」


「水が戻る可能性はあります」


魔王の顔が少し明るくなる。


「じゃあ、直せないか?」


昆布「……」


魔王「……」


昆布「……」


魔王「昆布?」


昆布「難しいと思います」


魔王「やっぱり?」


「魔法石の構造が分かりません。それに、内部の核まで割れています」


魔王は腕を組む。


「じゃあ、割れた原因を調べるしかないか」


昆布が頷いた。


「そうですね」


魔王は魔法石をじっと見る。


そして、ふと呟いた。


「魔法石が割れたんだろうか?」


少し間を置く。


「……それとも誰かに割られたんだろうか」


その言葉が地下に響いた。


誰も答えない。


水の音だけがする。


ぽた。


ぽた。


ぽた。


そのときだった。


ゴプリンが動いた。


「……」


魔王が振り向く。


「ゴプリン?」


ゴプリンは魔法石を見ていなかった。


別の方向を見ていた。


暗い地下通路の奥。


そのさらに奥。


ゴプリンはそこをじっと見つめている。


「どうした?」


魔王が近づく。


ゴプリンはゆっくりと指を上げた。


そして――。


「ずっと……」


魔王「……え?」


ゴプリンが言った。


「……あっち……」


全員が固まった。


便意が目を丸くする。


「しゃべった」


殴打「しゃべったな」


五利武「普通にしゃべった」


鍋「プリン、しゃべれるんだ」


母「よかったわね」


父「よかったですね」


魔王「いや、そこじゃない」


ゴプリンは暗闇を指差した。


「あっち……」


そしてもう一度。


「……あいつ」


魔王「……あいつ?」


ゴプリンは頷いた。


「あいつ……」


昆布がすぐに反応した。


「誰ですか?」


ゴプリンは答えない。


ただ暗闇を指差している。


魔王が聞く。


「そこに誰かいるのか?」


「……」


「ゴプリン?」


「……」


「誰なんだ?」


ゴプリンは突然――。


腰を落とした。


魔王「ん?」


五利武「なんだ?」


殴打「構えるぞ」


父「盾を――」


次の瞬間。


ゴプリンが跳んだ。


「え?」


魔王軍全員が見上げる。


ゴプリンの巨体が――。


地下通路の天井へ向かって跳んでいく。


ドンッ!


天井に手をつく。


そして――。


さらに跳ぶ。


ドンッ!


ドンッ!


ドンッ!


まるで巨大なプリンが弾むように、ゴプリンは井戸の上へ向かっていく。


魔王が叫ぶ。


「ちょっと待て!」


ドンッ!


「ゴプリン!」


ドンッ!


「どこ行くんだ!」


ドンッ!


最後に――。


ゴプリンは井戸の入口から外へ飛び出した。


魔王軍は全員、呆然とした。


静寂。


そして――。


魔王が呟いた。


「……しゃべれたんかい」


昆布が頷く。


「しゃべれたみたいですね」


便意「しかも、かなり重要なことを言ってました」


魔王「そうなんだよ」


五利武「『あいつ』って誰だろうな」


殴打「気になるな」


父「追いますか?」


魔王は井戸の上を見上げる。


「……追うしかないだろ」


昆布「はい」


魔王「ただし」


全員を見る。


「今度は、ちゃんと階段で帰ろう」


便意「階段あります?」


魔王「ない」


便意「じゃあどうするんです?」


魔王「……」


魔王軍全員が井戸を見上げた。


深い。


かなり深い。


父「登りますか」


五利武「ロープあります」


殴打「使えるのか?」


五利武「たぶん」


昆布「たぶんでは困ります」


母「じゃあ、私が先に上がってみましょうか?」


魔王「母さんが?」


母「昔から木登りは得意なのよ」


魔王「初耳だよ」


鍋「私も昔、木登りしてました」


便意「僕はしてません」


魔王「誰も聞いてない」


結局、魔王軍は井戸の壁に取り付けられていた古い足場とロープを使い、慎重に地上へ戻ることになった。


最後に魔王が井戸から這い上がる。


「……疲れた」


昆布「地下探索、お疲れ様でした」


魔王「魔王なのに、井戸から出るだけで疲れるんだな」


五利武「普通の人間だからな」


魔王「俺、魔王だよな?」


殴打「一応」


魔王「一応って何だよ」


そのとき――。


遠くの森の方から、


「ドス……」


という音が聞こえた。


魔王が振り向く。


「……ゴプリン?」


もう一度。


「ドス……」


さらに遠くから。


「ドス……ドス……」


ゴプリンが森へ向かって走っている。


ただし、ものすごく遅い。


魔王「……追いかけるか」


昆布「はい」


父「行きましょう」


便意「でも、ゴプリンの方が速いですね」


魔王「いや」


魔王はゴプリンを見ながら言った。


「たぶん、あいつは俺たちを待ってる」


昆布「……私もそう思います」


魔王軍は歩き出した。


ゴプリンの姿は、すでに森の中へ消えていた。


しかし――。


ゴプリンが最後に言った言葉。


「あっち……あいつ……」


その言葉だけが、魔王の頭から離れなかった。


誰かがいる。


壊れた水の魔法石。


割れた黒い核。


そして、何かを追っているゴプリン。


魔王は歩きながら、小さく呟いた。


「……一体、何がこの世界で起きてるんだ?」


誰も答えなかった。


ただ、森の奥から――。


風が吹いてきた。


そしてその風に乗って、


ほんの一瞬だけ。


地下から聞こえたものと同じような――


低い音が聞こえた。


ゴゴゴゴゴ……。


魔王は足を止めた。


「……今の、聞いた?」


昆布も立ち止まった。


「はい」


二人は森を見る。


そして魔王軍は、ゴプリンの後を追って森の奥へ進んでいった。

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