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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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風の魔法

森の中。


魔王軍は、薬草を積んだ荷車を隣町へ運んでいた。


先ほどのゴプリンとの戦いで、全員かなり疲れている。


しかし、薬草はまだ大量に残っている。


鍋が言った。


「料理人としても、かなり完成度の高いプリンだった」


魔王は頭を抱えた。


「ゴプリンの話、もう終わりにしようよ」


昆布が周囲を確認する。


魔王が振り返る。


「どうしたんです?」


商人の顔が青ざめている。


「後ろ……」


「後ろ?」


「後ろを見てください」


全員が振り返る。


そこには――


森の道。


木々。


茂み。


そして――


黒いブーツ。


ドス。


ドス。


ドス。


ゆっくりと歩いてくる。


魔王が目を細める。


「……まさか」


父さんが呟く。


「来たな」


勇気が叫ぶ。


「ゴプリン!」


商人が震える声で言った。


「今度は……後ろからゴプリンだ!」


魔王軍全員が振り返った。


確かにいる。


ゴプリンだ。


灰色の肌。


筋骨隆々の体。


ボクサーパンツ。


黒いブーツ。


そして――


プリンの顔。


ゴプリンは何事もなかったように歩いている。


ドス……


ドス……


ドス……


魔王が驚く。


「……倒したよね?」


五利武が言った。


「倒したはずだ」


殴打も頷く。


「プリンになった」


父さんが付け加える。


「食べた」


母さんも言う。


「食べたわね」


鍋も頷く。


「かなり美味しかった」


魔王が叫ぶ。


「そこじゃない!ゴプリンはこの辺にたくさんいるのか?」


ゴプリンは――


ドス……


ドス……


と歩いてくる。


商人が震える。


「どうして……」


昆布が冷静に観察する。


「皆さん、慌てないでください」


魔王が聞く。


「昆布、どうする?」


昆布はゴプリンを見る。


そして――


「やっぱり、動きが遅いですね」


「そこ?」


「重要です」


ゴプリンが一歩進む。


ドス。


また一歩。


ドス。


昆布は腕を組んだ。


「追いつくまで、かなり時間がかかります」


魔王が頷く。


「確かに」


商人が言った。


「でも、力はものすごく強いですよ」


「それは分かってます」


昆布は便意を見る。


「便意さん」


「はい」


「風の魔法、使えますか?」


便意が目を丸くする。


「風の魔法ですか?」


「はい」


「やったことはありません」


「試してみましょう」


便意は杖を握る。


「分かりました」


全員が便意を見る。


便意は杖を空へ掲げる。


そして――


「風の魔法!」


……


……


何も起こらない。


葉っぱ一枚、動かない。


魔王が空を見る。


「……」


父さんも見る。


「……」


殴打も見る。


「……」


五利武も見る。


「……」


鍋が言った。


「風が来ないな」


「見れば分かります」


便意が杖を見つめる。


「おかしいですね」


昆布が聞く。


「何か感じますか?」


便意は真剣な顔をする。


「……特に何も」


「そうですか」


昆布はゴプリンを見る。


ドス。


ドス。


ドス。


「では」


昆布はあっさり言った。


「ゴプリンが遅いので、普通に進みましょう」


「魔法、もう諦めた!」


便意が慌てる。


「ちょっと待ってください!」


昆布は歩き始めた。


「問題ありません」


「僕の魔法は!?」


「後で練習しましょう」


「はい……」


魔王も苦笑する。


「便意、頑張ろう」


「はい!」


こうして一行は再び歩き始めた。


ガラガラガラ。


荷車を引く商人。


後ろから押す殴打と五利武。


前を歩く魔王と父。


横を歩く昆布。


後ろを守る勇気と母。


そのさらに後ろ――


ドス……


ドス……


ドス……


ゴプリン。


---


しばらく歩いた。


魔王が後ろを見る。


ゴプリンはまだ遠い。


「まだあんなところにいる」


昆布が頷く。


「予定通りです」


五利武が言う。


「このペースなら、隣町まで追いつかないんじゃないか?」


昆布が答える。


「その可能性はあります」


殴打が笑う。


「だったら問題ないな」


商人は少し安心した。


「そうですね……」


その瞬間。


ふわっ。


風が吹いた。


「……?」


魔王の髪が揺れる。


サワサワ……


木の葉が揺れる。


母さんが顔を上げた。


「そよ風が気持ちいいね」


勇気も目を閉じる。


「本当だ」


魔王も笑う。


「ちょうどいい風だね」


昆布がふと便意を見る。


「便意さん」


「はい?」


「今の……」


「はい?」


「風の魔法ですか?」


便意は杖を見る。


空を見る。


また杖を見る。


「……」


そして困った顔をした。


「自分でも、天気のせいなのか、魔法なのか分かりません」


「どっちなんですか?」


魔王が聞く。


「分かりません」


「魔法使いなのに?」


「はい」


昆布はしばらく考えた。


そしてゴプリンを見る。


「どちらにしろ……」


ゴプリンのプリンが――


そよ風で揺れていた。


ぷるん。


ぷるるん。


ゴプリンが止まる。


「……」


一歩進む。


ぷるん。


もう一歩。


ぷるん。


ゴプリンはプリンが落ちないように身体を調整する。


右へ。


左へ。


また右へ。


昆布が言った。


「ゴプリンのプリンが風に揺れて、さらに遅くなりました」


魔王が見る。


「本当だ」


父さんも見る。


「かなり遅くなった」


殴打が笑う。


「さっきより遅いぞ」


五利武も笑う。


「風で弱体化してるじゃないか」


商人が驚く。


「こんなことがあるんですか……」


昆布は頷いた。


「あります」


「あるんですか?」


「今、目の前で起きています」


魔王が言った。


「昆布、これならどうする?」


昆布はゴプリンを見ながら答えた。


「このまま進みましょう」


「それだけ?」


「はい」


「攻撃しない?」


「必要ありません」


「魔法も?」


「必要ありません」


「ハエ叩きも?」


「必要ありません」


魔王が頷く。


「なるほど」


昆布が続ける。


「ゴプリンは非常に強いですが、非常に遅い」


「うん」


「こちらが無理に戦う必要はありません」


「うん」


「護衛任務の目的は、ゴプリンを倒すことではなく――」


昆布が商人を見る。


「薬草を隣町まで安全に運ぶことです」


商人が感動したように頷く。


「なるほど……」


魔王も笑った。


「そうだね」


父さんが言った。


「戦わなくて済むなら、その方がいい」


殴打が少し残念そうに言う。


「俺は殴ってもいいんだぞ?」


昆布が即答する。


「必要ありません」


「……はい」


五利武も肩を落とす。


「ゴルフクラブも?」


「必要ありません」


「……はい」


鍋が聞く。


「フライパンは?」


「必要ありません」


便意が聞く。


「魔法は?」


昆布は便意を見る。


「……練習しましょう」


「はい!」


---


一行は再び歩き始めた。


ガラガラガラ。


薬草を乗せた荷車が進む。


森の木々を抜ける。


小さな丘を越える。


そして――


ゴプリンは後ろから、


ドス……


ドス……


ドス……


とついてくる。


しかし――


プリンが風に揺れる。


ぷるん。


ゴプリンが止まる。


また歩く。


ドス。


ぷるん。


また止まる。


ドス。


ぷるん。


魔王が振り返る。


「……本当に遅いな」


父さんが頷く。


「風が吹くたびに止まるな」


母さんが笑う。


「かわいいわね」


商人が振り返る。


「かわいい……ですか?」


「だってプリンが揺れてるもの」


「まあ……そう言われれば」


勇気も笑う。


「敵というより、後ろからついてくる大きなプリンですね」


魔王が言った。


「ゴプリンだからね」


昆布が地図を広げた。


「もうすぐ隣町です」


商人が安心した。


「本当ですか?」


「はい」


魔王が前を見る。


木々の向こうに――


遠く町の建物が見えてきた。


「見えた!」


勇気が叫ぶ。


殴打と五利武も荷車を押す。


「もう少し!」


「頑張ろう!」


商人の顔にも笑顔が戻る。


「ありがとうございます!」


魔王が笑う。


「もう少しですね」


しかし――


そのとき。


昆布が立ち止まった。


「……」


魔王が聞く。


「どうした?」


昆布は隣町の方を見つめていた。


「町の入口に……」


「何かある?」


「人が集まっています」


父さんが目を細める。


「本当だな」


商人も見る。


「……?」


町の入口には、何人もの人影があった。


こちらを待っているようにも見える。


昆布は地図を畳む。


「まだ何が起きているかは分かりません」


魔王が頷く。


「まずは薬草を届けよう」


「はい」


一行は歩き続けた。


ガラガラガラ……。


そして、そのはるか後ろから――


ドス……


ドス……


ぷるん。


ドス……


ぷるん。


ゴプリンも、ゆっくりとついてきていた。


果たして隣町では、何が待っているのか。


そして――


なぜ、この地域では薬草が不足しているのか。


魔王軍の護衛クエストは、まだ終わらない。


次回へ続く。次回は隣町で「薬草不足」の情報が村だけでなく複数地域に広がっていることが分かり、単なる護衛クエストから少しずつ大きな謎へつなげられます。ゴプリンについても、完全に敵として処理せず「なぜついてくるのか」という別の小さな謎を残せます。

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