ゴプリン襲来
ドス……。
ドス……。
ドス……。
ゴプリンが、ゆっくりと近づいてくる。
その巨体は筋骨隆々。
灰色の肌。
黒いブーツ。
そしてボクサーパンツ。
顔は――プリン。
しかも、お皿に乗ったプリンのような形をしている。
魔王軍は、全員が警戒していた。
商人は荷車の横で震えている。
「……来ます」
魔王が拳を握る。
「みんな、無理に倒そうとしないで」
昆布が頷いた。
「はい。まずは相手の動きを見ます」
そして――
ゴプリンが、ついに父の目の前まで来た。
ドスン。
父さんが一歩下がる。
「近くで見ると、かなり大きいな」
魔王が言った。
「父さん、気をつけて」
父さんは木の盾を構えた。
「任せろ」
そして――
「メンタルガード!」
父さんの周囲に、見えない何かが張り巡らされる。
商人が驚いた。
「メンタル……?」
昆布が説明する。
「お父さんの得意技です。精神的な攻撃に非常に強い」
父さんが頷く。
「怒られるのには慣れている」
「そこ自慢するところなの?」
魔王が突っ込んだ。
ゴプリンは父さんを見た。
そして――
ゆっくりと右腕を引いた。
父さんが叫ぶ。
「来るぞ!」
ゴプリンの腕が――
振り下ろされた。
ドゴォン!!
「うおっ!」
父さんの木の盾に拳が直撃する。
バキッ!!
木の盾が真っ二つに割れた。
「盾が!」
勇気が叫ぶ。
父さんの手から、割れた盾が落ちる。
カラン……。
父さんは盾を見る。
「……壊れたな」
魔王が叫ぶ。
「父さん、大丈夫!?」
「大丈夫だ」
父さんがゴプリンを見る。
すると――
ゴプリンが父さんの体を両手で掴んだ。
「え?」
次の瞬間。
父さんの体が――
持ち上がった。
「うわっ!」
父さんが宙に浮く。
魔王が驚く。
「父さん!」
「大丈夫だ!」
しかし、ゴプリンの足元が――
フラフラしていた。
右へ。
左へ。
プリンのような顔が――
ぷるん。
「……?」
昆布が気づく。
「待ってください」
ゴプリンが父さんを持ち上げたまま、必死にバランスを取っている。
右足を少し出す。
左足を戻す。
体を傾ける。
頭を少し傾ける。
ぷるん。
昆布が呟く。
「……プリンを落とさないように調整しています」
魔王が言った。
「そこまでして守るの!?」
商人が頷く。
「ゴプリンは、プリンを絶対に落とさないんです」
「本人の頭なのに?」
「はい」
「大変だな……」
ゴプリンはようやくバランスを取ると――
父さんを投げ飛ばした。
「うわああああ!」
ドサッ!
父さんが地面を転がる。
魔王が駆け寄ろうとする。
「父さん!」
しかし父さんは――
すぐに立ち上がった。
「痛い」
「痛いんだ!」
「痛いものは痛い」
「でも立つの早いな!」
父さんは服についた土を払った。
「サラリーマンは簡単には倒れない」
「そこにサラリーマン精神を持ち込むな!」
---
その瞬間。
殴打が前に出た。
「次は俺だ!」
殴打はバットを握る。
物理攻撃専門。
その力はプロ野球選手として鍛えられた強靭な肉体から生まれている。
「いくぞ!」
ドン!
殴打の拳がゴプリンの腹に入る。
ドスッ!
さらにもう一発。
ドゴッ!
さらにもう一発。
「殴打!」
「殴打!」
「殴打!」
殴打が名前通りに殴り続ける。
ゴプリンの体が揺れる。
しかし――
顔のプリンが、
ぷるん。
右に傾く。
ゴプリンが体を左に傾ける。
ぷるん。
今度は反対側。
ゴプリンが右に体を傾ける。
ぷるん。
商人が説明する。
「プリンが落ちないように調整しています」
殴打が叫ぶ。
「殴ってもプリンを守ってるのかよ!」
ゴプリンは殴られながらも――
プリンだけは絶対に落とさない。
「すごい執念だな……」
魔王が呟いた。
---
すると、ゴプリンが突然――
腕を大きく引いた。
殴打の目が見開かれる。
「!」
ゴプリンの拳が――
振りかぶられる。
昆布が叫んだ。
「殴打さん!」
殴打が振り返る。
「何だ!」
「離れて!」
「了解!」
殴打が横へ飛ぶ。
その直後――
ブンッ!!
ゴプリンの拳が空を切った。
「危なかった!」
殴打が叫ぶ。
拳が地面のすぐ上を通過する。
昆布が全員を見る。
「分かりました」
魔王が聞く。
「何が?」
昆布は冷静に説明した。
「ゴプリンは、プリンが落ちないように常に身体のバランスを調整しています」
「うん」
「そのため、動きそのものは非常に遅いです」
「うん」
「しかし、一度攻撃動作に入ると、力は非常に強い」
殴打が頷く。
「確かに」
昆布が続ける。
「ですから――」
指を一本立てる。
「攻撃動作を見たら、すぐに離れてください」
五利武が言う。
「つまり、攻撃を避けてから反撃する」
「その通りです」
魔王が頷いた。
「昆布、頼りになるな」
「軍師ですから」
「頼もしい」
---
魔王が前へ出た。
ゴプリンと向き合う。
「じゃあ、僕が動きを止める」
魔王はゴプリンを見る。
目を細める。
「魔王の睨み」
ギロッ!
ゴプリンが――
ピタッ。
止まった。
「止まった!」
勇気が叫ぶ。
「今だ!」
しかし――
ぷるん。
ゴプリンのプリンが少し揺れる。
すると――
ゴプリンが、また動き始めた。
「え?」
魔王が驚く。
「もう動いた?」
昆布が観察する。
「一瞬だけ止まりました」
魔王が言う。
「僕の睨みが効かない?」
昆布が首を振る。
「効いています。ただ、効果時間が短いというより……」
「何?」
「プリンのバランス調整を再開したようです」
「そこなの!?」
ゴプリンがゆっくりと歩き始める。
ドス……。
ドス……。
魔王は少し考えた。
「じゃあ、これならどうだ」
魔王は言った。
「混乱しろ」
ゴプリンの体が――
ピタッ。
一瞬止まる。
しかし――
動く。
「……」
魔王が困惑する。
「これもダメ?」
ゴプリンは何事もなかったかのように歩いてくる。
昆布が顎に手を当てる。
「おそらく……」
「うん」
「脳もプリンなので、混乱しないのかもしれません」
「そんなことある!?」
商人が真顔で言った。
「ゴプリンですから」
「説明になってない!」
---
殴打と五利武が左右から攻撃を仕掛ける。
「いくぞ!」
「了解!」
殴打がバットを叩き込む。
ドン!
五利武が素早く近づき――
ドゴッ!
さらに殴打。
ドン!
五利武。
ドゴッ!
二人の物理攻撃がゴプリンに連続して入る。
しかし――
ゴプリンは倒れない。
「まだいける!」
殴打がもう一度攻撃する。
ドン!
五利武も攻撃する。
ドゴッ!
ゴプリンの体が揺れる。
だが――
プリンは落ちない。
ぷるん。
ぷるん。
ぷるん。
商人が言った。
「すごいですね」
魔王が聞く。
「何が?」
「プリンです」
「そこ?」
「全然落ちません」
「ゴプリンの強さを評価してよ!」
昆布はゴプリンを観察していた。
「物理攻撃のダメージは通っています」
殴打が聞く。
「じゃあ、もう少し殴れば?」
「可能ですが……」
昆布がゴプリンを見る。
「効率が悪いです」
「どういうことだ?」
「ゴプリンの筋肉が非常に厚い」
殴打がゴプリンの腕を見る。
「確かに」
五利武も見る。
「硬そうだな」
昆布が続ける。
「そして、攻撃を受けるたびにプリンを守るために身体の重心を調整しています」
魔王が言った。
「だから攻撃の衝撃を逃がしてるのか」
「そうです」
昆布はゴプリンの頭を見る。
そして――
「あと狙うのは……」
全員が昆布を見る。
昆布が静かに言った。
「頭しかありません」
魔王が目を見開く。
「頭?」
「はい」
殴打が聞く。
「でも頭って……」
五利武がゴルフクラブを見る。
「これか?」
昆布は頷いた。
「五利武さん」
「分かった」
五利武がクラブを握る。
魔王が慌てる。
「ちょっと待って」
五利武が止まる。
「何?」
魔王がゴプリンを見る。
「プリンだよ?」
「知ってる」
「頭だよ?」
「知ってる」
「クラブで?」
「うん」
魔王は困った顔をする。
「……大丈夫かな」
昆布が冷静に答える。
「やるしかありません」
---
ゴプリンが再び腕を引いた。
昆布が叫ぶ。
「全員、離れて!」
殴打が飛ぶ。
父も下がる。
勇気と母も離れる。
鍋もフライパンを持ったまま逃げる。
便意も走る。
「便意さん!」
「はい!」
「杖を振り回しながら逃げないでください!」
「すみません!」
ゴプリンの拳が――
ブンッ!
空を切る。
その隙に――
五利武が走った。
「今だ!」
五利武がゴルフクラブを振り上げる。
そのクラブの先には――
ゴプリンのプリン。
「うおおおおお!」
ブンッ!!
ゴンッ!!
ゴプリンの頭に、ゴルフクラブが直撃した。
次の瞬間――
ぷるん。
プリンが大きく揺れた。
「!」
もう一度――
ぷるるるるん。
そして――
パァン!!
プリンが弾けた。
「うわっ!」
同時に――
パリン!!
お皿が割れた。
全員が固まる。
「……」
「……」
「……」
ゴプリンの巨体が――
スッ……
消えていく。
灰色の腕。
筋肉質な体。
黒いブーツ。
ボクサーパンツ。
すべてが光の粒のようになって消えていく。
そして最後に残ったのは――
ヒビの入ったお皿。
そして――
ぷるん。
その上に乗ったプリンだけだった。
「……」
魔王がプリンを見る。
五利武も見る。
殴打も見る。
父も見る。
勇気も見る。
母も見る。
鍋も見る。
便意も見る。
昆布も見る。
商人だけが――
「ああ!」
嬉しそうな声を上げた。
「倒しましたね!」
魔王が振り返る。
「……倒した?」
商人が頷く。
「はい!」
魔王はプリンを見る。
「これが?」
「はい」
「ゴプリン?」
「ゴプリンです」
魔王は首を傾げる。
「……倒したというより、プリンになっただけじゃない?」
商人が笑った。
「でも大丈夫です」
「何が?」
「ゴプリンのプリンは美味しいですよ」
「食べられるの!?」
「はい」
父さんが近づいてくる。
「どれ」
魔王が振り返る。
「父さん?」
父さんはプリンを見る。
「食べてみるか」
商人からスプーンを受け取る。
そして――
パクッ。
父さんが静かに咀嚼する。
魔王が聞く。
「どう?」
父さんは真顔で答えた。
「確かに、美味しいプリンだな」
「感想が普通!」
母さんがすぐに手を挙げた。
「私にも食べさせて」
商人がスプーンを渡す。
母さんはプリンをすくう。
「いただきます」
パクッ。
母さんの顔が明るくなる。
「本当に美味しい」
鍋も近づいてくる。
「料理人として気になるな」
パクッ。
「……」
鍋が真剣な顔をする。
「これは……」
魔王が聞く。
「どう?」
「普通にプリンだ」
「でしょうね!」
勇気も少し食べる。
「甘い……」
殴打も食べる。
「うまい!」
五利武も食べる。
「これはいいな」
魔王は困惑していた。
「俺たち……さっきまで戦ってたよね?」
昆布が答える。
「はい」
「ゴプリンと」
「はい」
「それで今、みんなでプリン食べてるよね?」
「はい」
魔王は頭を抱えた。
「魔王軍って何なんだ……」
昆布が真面目に答える。
「護衛軍です」
「そうだった」
商人が笑う。
「さすが魔王様のパーティーは強いですね」
魔王は少し照れながら言った。
「いや、みんなが頑張ったからですよ」
父が頷く。
「特に五利武だな」
五利武が笑う。
「ゴルフクラブが役に立った」
殴打が肩を叩く。
「いいスイングだったぞ」
五利武は嬉しそうだった。
しかし――
そのとき。
少し離れたところにいた便意が、急に黙った。
「……」
魔王が気づく。
「便意?」
返事がない。
「どうした?」
便意は森の奥を見ていた。
「……何かいます」
全員が止まった。
昆布が立ち上がる。
「何ですか?」
便意が指差す。
「後ろから……」
茂み。
木々。
薄暗い森。
その奥から――
何かが近づいている。
魔王がプリンを置いた。
「……また魔物?」
昆布が目を細める。
「まだ分かりません」
父が立ち上がる。
「全員、警戒」
勇気が構える。
殴打がバットを握る。
五利武がゴルフクラブを持つ。
鍋がフライパンを構える。
母が魔法の準備をする。
便意が杖を握る。
そして魔王は――
森の奥を見つめた。
何かの足音が近づいてくる。
商人が青ざめる。
「まさか……」
魔王が聞く。
「何です?」
商人は答えなかった。
ただ、森の奥を見つめている。
そして――
木々の隙間から。
何かの影が現れた。
その影が――
こちらへ近づいてくる。
昆布が叫んだ。
「全員、隊形を!」
魔王軍が一斉に動く。
魔王が拳を握る。
「……今度は何なんだ?」
影が――
森から飛び出した。




