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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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ハエ叩きによる総攻撃

旅立ちの村。


魔王便利屋――。


いや。


今ではもう、魔王軍の臨時本部になりつつある勇者の家で、朝の会議が行われていた。


テーブルの周りには、魔王軍のメンバーが全員集まっている。


魔王。


勇気。


殴打。


五利武。


鍋。


便意。


昆布。


そして、魔王の父と母。


昨日は森に入って、蚊というモンスターを十匹以上倒した。


報酬は100ゴウ。


その100ゴウは、魔法の薬草五つに全部使った。


そして今日は――。


昆布が村人から聞いた話を伝えるために、会議を開いていた。


「村で、薬草が届かなくなったそうです」


魔王が顔を上げる。


「薬草?」


「はい」


昆布は地図を広げた。


「この村では、森の奥で採れる薬草を使って、薬を作っています」


母が頷く。


「薬草は大事ですね」


「ところが最近、森の奥にモンスターが住み着いてしまったそうです」


勇気が驚く。


「またモンスターですか?」


「はい」


殴打が腕を組んだ。


「今度は何だ?」


昆布は地図を指差した。


「薬草が生えている場所の近くに、モンスターの住処があります」


五利武が言った。


「強いモンスターなのか?」


「そこまでは分かっていません」


魔王は考えた。


「でも、薬草が取れないと村の人が困るんだよな?」


「そうです」


「じゃあ、助けよう」


勇気が立ち上がった。


「魔王軍、出動ですね!」


魔王も頷く。


「よし」


そのときだった。


昆布が静かに言った。


「ただし」


全員が昆布を見る。


「前回の反省をしましょう」


魔王は思わず苦笑した。


「蚊のこと?」


「はい」


前回。


魔王軍は森に入った。


そして、出てきたのは大量の蚊。


全員が、


「蚊に刺された」


「痒い」


「痒い」


と言いながら、手で蚊を叩き続けた。


その結果、十匹以上の蚊を倒した。


そして村人には、


「モンスターを10匹も倒してくれたんですか!」


と大喜びされた。


魔王は言った。


「確かに、前回は手で叩いたからな」


昆布が頷く。


「今回は、もっと効率的な方法を準備しました」


「何?」


昆布が部屋の隅を指差した。


そこには――。


大量のハエ叩きが置いてあった。


魔王は絶句した。


「……これ?」


「はい」


勇気がハエ叩きを持ち上げた。


「ハエ叩きです!」


殴打も一本取る。


「軽い」


五利武も持つ。


「振りやすいな」


鍋も持った。


「料理には使わないんですか?」


「使わない」


魔王が即答する。


便意までハエ叩きを持った。


「これで魔法は使えますか?」


「使えないと思う」


「そうですか」


父も一本持つ。


母も一本持つ。


魔王は全員を見た。


「……本当にこれで行くの?」


昆布は真顔だった。


「前回、蚊が相手だったので」


「うん」


「今回は、何のモンスターか分かりません」


「うん」


「ですが、虫系モンスターである可能性もあります」


「なるほど」


「その場合、ハエ叩きは非常に有効です」


魔王はしばらく考えた。


「……確かに」


そして魔王も一本持った。


「じゃあ行くか」


「はい!」


魔王軍は、全員ハエ叩きを持って森へ向かった。


---


森。


前回と同じ道を進んでいく。


魔王軍は慎重だった。


前回は、


「蚊がいる!」


というだけで、全員が騒いだ。


今回は違う。


武器を持っている。


ハエ叩きを。


魔王は歩きながら、自分のハエ叩きを見た。


「俺、異世界の魔王なんだよな?」


勇気が答える。


「はい!」


「魔王軍なんだよな?」


「はい!」


「なんでハエ叩き持ってるんだろうな」


勇気は少し考えた。


「……虫退治だから?」


「そうだけど」


昆布が前を歩きながら言う。


「目的は薬草の回収です」


「そうだった」


「戦闘が目的ではありません」


「うん」


「できれば戦わずに済ませます」


魔王は頷いた。


「いつもの方針だな」


昆布が微笑む。


「はい」


---


しばらく歩くと、森の空気が変わってきた。


木々が密集している。


道も狭くなっている。


昆布が立ち止まった。


「この辺りです」


魔王も足を止めた。


「モンスターの住処は?」


「この先です」


昆布はリュックから双眼鏡を取り出した。


魔王が驚く。


「双眼鏡なんて持ってきたの?」


「軍師ですから」


「準備がいいな」


昆布は双眼鏡を覗いた。


しばらく無言。


「……」


魔王が聞く。


「どう?」


「……います」


勇気が緊張する。


「何が?」


昆布は双眼鏡から目を離さない。


「大量にいます」


殴打がハエ叩きを握り直す。


「何匹だ?」


昆布が数える。


「一匹、二匹、三匹……」


「何匹?」


「……数えるのをやめます」


「そんなに?」


昆布が頷いた。


「かなりいます」


五利武が聞く。


「大型か?」


「いえ」


「人間くらい?」


「いえ」


「じゃあ、何だ?」


昆布は双眼鏡を下ろした。


そして言った。


「ハチです」


全員が固まった。


「……ハチ?」


魔王が聞き返す。


「はい」


勇気がハエ叩きを見る。


「これ……使えますか?」


昆布は真剣に考えた。


「形状としては、使えると思います」


殴打がハエ叩きを構える。


「やるしかない」


五利武も構えた。


「俺も行こう」


鍋も構える。


「料理人ですが、今回は戦います」


便意も構える。


「私も」


父は静かにハエ叩きを持った。


母も持った。


魔王は全員を見る。


「……ハチだぞ?」


昆布が答える。


「前回の蚊よりは、強いと思います」


「だよな」


魔王はハエ叩きを握った。


「刺されると痛いぞ」


「だからこそ」


昆布が言った。


「魔王様の出番です」


魔王は頷いた。


「分かった」


全員がモンスターの住処へ近づいていく。


すると――。


ブンブンブンブン。


大量の羽音が聞こえてきた。


勇気が青ざめる。


「……音がすごいです」


殴打が言う。


「かなりいるな」


五利武も言った。


「これはゴルフクラブよりハエ叩きの方が良さそうだ」


「比較対象がおかしい」


魔王が突っ込む。


昆布が双眼鏡を再び覗く。


「薬草は、ハチの巣の近くにあります」


魔王が聞く。


「薬草は取れそう?」


「はい」


「じゃあ、まずハチをどうにかしないとな」


魔王は一歩前へ出た。


大量のハチが飛んでいる。


ブンブン。


ブンブン。


魔王は目を細めた。


そして――。


魔王の睨み。


「…………」


魔王がハチの群れを睨む。


その瞬間。


ブン――。


ハチの動きが止まった。


空中で止まっている。


まるで時間が止まったようだった。


勇気が目を丸くする。


「止まりました!」


殴打も驚く。


「すごい」


五利武がハエ叩きを持ち上げる。


「今なら……」


昆布が静かに言った。


「総攻撃です」


魔王が振り返る。


「総攻撃?」


昆布はハエ叩きを構えた。


「はい」


そして――。


「今です!」


バシッ!


一匹。


バシッ!


二匹。


バシッ!


三匹。


「いけー!」


勇気が走る。


バシッ!


バシッ!


バシッ!


殴打は両手でハエ叩きを持った。


「うおおおお!」


バシッ!


バシッ!


バシッ!


五利武は素早かった。


右。


左。


右。


左。


「速攻!」


バシッ!


バシッ!


バシッ!


鍋も一生懸命叩く。


「すみません!」


バシッ!


「すみません!」


バシッ!


「料理人なのに!」


バシッ!


便意も必死だった。


「えい!」


バシッ!


「えい!」


バシッ!


「えい!」


バシッ!


父は無言で叩いている。


バシッ。


バシッ。


バシッ。


母も負けていない。


「ごめんなさいね」


バシッ。


「ごめんなさい」


バシッ。


魔王もハエ叩きを振る。


「これは……」


バシッ!


「意外と……」


バシッ!


「忙しいな!」


バシッ!


昆布は周囲を確認しながら指示を出している。


「右側、まだいます!」


「はい!」


「勇気さん、そちら!」


「分かりました!」


「五利武さん、左!」


「任せろ!」


「殴打さん、奥です!」


「分かった!」


「便意さん、前!」


「はい!」


「鍋さん、無理しないでください!」


「はい!」


昆布の指示が飛び交う。


魔王軍は一斉に動く。


バシッ!


バシッ!


バシッ!


ブン――。


一匹。


また一匹。


ハチの群れが次々と地面に落ちていく。


魔王は思った。


「……これ、戦いなのか?」


昆布が答える。


「討伐です」


「そうだな」


最後の数匹を叩き落とす。


そして――。


静かになった。


森に、風の音だけが残った。


魔王軍全員がハエ叩きを持ったまま立っている。


勇気が息を切らしている。


「……終わった」


殴打が言う。


「かなりいたな」


五利武も肩で息をする。


「疲れた」


便意はハエ叩きを見つめる。


「これは……魔法より疲れます」


魔王も息を吐いた。


「ハエ叩きでここまで疲れるとは思わなかった」


昆布は双眼鏡で周囲を確認した。


「もう大丈夫そうです」


魔王が聞く。


「薬草は?」


昆布が指差した。


「あちらです」


そこには、緑色の薬草がたくさん生えていた。


「おお……」


母が嬉しそうに近づく。


「これが薬草ですね」


「はい」


魔王軍は慎重に薬草を採取した。


鍋も丁寧に袋へ入れていく。


「これだけあれば、村の薬屋さんも助かりますね」


魔王が頷く。


「そうだな」


昆布が言う。


「必要な量だけ採りましょう」


「全部取らないの?」


「全部取ると、また薬草がなくなります」


魔王は感心した。


「なるほど」


昆布は続ける。


「来年も生えるように、残しておくことが大切です」


「さすが軍師」


魔王軍は必要な分だけ薬草を採った。


そして村へ戻った。


---


旅立ちの村。


薬草を必要としていた商人が待っていた。


「薬草は……?」


魔王が袋を置く。


「持ってきました」


商人が目を丸くする。


「こんなに!」


「森の奥にありました」


商人は薬草を一つ手に取った。


「これです!」


嬉しそうな顔をする。


「これで薬を作れます!」


母が笑う。


「よかったですね」


商人は深く頭を下げた。


「本当にありがとうございます」


そして報酬を差し出した。


「約束の200ゴウです」


魔王が受け取る。


「200ゴウ……」


昨日の報酬は100ゴウだった。


今日は200ゴウ。


魔王は思った。


「……倍になった」


勇気が喜ぶ。


「すごい!」


殴打も頷く。


「前回より稼いだな」


五利武が言う。


「これならゴルフクラブを――」


「買わない」


魔王が即答する。


便意が聞く。


「便通大魔王は――」


「買わない」


「まだ何も言ってません」


「言うと思ったから」


鍋が笑った。


昆布は200ゴウを見ながら言った。


「今回は、報酬をすぐに使わない方がいいでしょう」


魔王が頷く。


「そうだな」


「前回は100ゴウ全部を魔法の薬草に使いました」


「うん」


「今回は200ゴウあります」


「うん」


「まず必要なものを整理しましょう」


魔王は笑った。


「昆布がいると安心するな」


昆布は少し照れながら答えた。


「軍師ですから」


そのとき、商人が言った。


「皆さん、本当にありがとうございました」


魔王軍は顔を見合わせる。


勇気が笑う。


「こちらこそ!」


魔王も笑った。


「困っている人がいたら、また呼んでください」


商人は驚いた。


「いいんですか?」


「便利屋ですから」


魔王はそう言った。


商人は笑顔になった。


「では、またお願いします!」


---


その日の夕方。


勇者の家。


魔王軍は食卓を囲んでいた。


テーブルの上には200ゴウ。


魔王が眺める。


「100ゴウから200ゴウか」


昆布が頷く。


「順調です」


魔王は笑った。


「異世界に来て、初めてちゃんと稼いだ気がするな」


勇気が言う。


「しかも村の人を助けました!」


母も頷く。


「薬草は薬になりますものね」


父が言う。


「いい仕事だったな」


殴打はハエ叩きを見ている。


「次もこれを使うのか?」


五利武が答える。


「虫ならな」


鍋が笑う。


「次は包丁かもしれませんよ」


魔王が慌てる。


「いや、できれば料理に使おう」


便意が言う。


「私は魔法を使いたいです」


昆布が頷いた。


「便意さんは、まず魔法の練習ですね」


便意が胸を張る。


「分かりました!」


そしてスマートフォンを取り出す。


「スマホさん、魔法の呪文を読んでください」


スマートフォンが機械音声で、


「ファイアー」


と読み上げる。


便意が口を開く。


「ファイ――」


止まる。


「……」


魔王が見る。


便意がもう一度。


「ファイアー!」


何も起きない。


魔王が言う。


「……やっぱり自分で覚えないとな」


便意は肩を落とした。


「はい」


昆布が笑った。


「でも、少しずつでいいですよ」


便意も頷いた。


魔王は200ゴウを見る。


100ゴウは薬草五つになった。


200ゴウは、まだ使っていない。


魔王は財布にしまった。


「よし」


昆布が言う。


「今日は休みましょう」


「そうだな」


勇気が大きく伸びをする。


「今日は疲れました!」


殴打も頷く。


「ハエ叩きは意外と重労働だった」


五利武も言う。


「明日はゴルフの方が楽かもしれない」


鍋は台所へ向かう。


「夕飯を作りますね」


母も立ち上がる。


「手伝います」


魔王は椅子に座ったまま、少し笑った。


異世界に来て、まだ何も分からない。


魔王のことも。


モンスターのことも。


この世界のことも。


けれど――。


一つずつ仕事をして。


一つずつ村の人と関わって。


少しずつ、この世界での居場所ができている。


魔王は思った。


「……悪くないな」


昆布が聞く。


「何か言いました?」


「いや」


魔王は笑った。


「なんでもない」


そして魔王軍は、勇者の家で夕食を待った。


テーブルの上には――。


200ゴウ。


魔法の薬草五つ。


そして、今日使ったハエ叩きが七本。


異世界での魔王軍の冒険は、まだ始まったばかりだった。

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