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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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魔王軍、初めてのモンスター討伐

旅立ちの村を出発してから、しばらく経った。


魔王軍は森の中を歩いていた。


先頭を歩くのは昆布。


地図を片手に、周囲を注意深く見ている。


その後ろに魔王。


さらに勇気、殴打、五利武、鍋、便意、母、父が続いている。


全員、いつでも対応できるように準備していた。


殴打はバットを持っている。


五利武はゴルフクラブを持っている。


便意はスマートフォンを持っている。


母は回復の準備。


父はいつものように堂々としている。


そして鍋は――。


「お腹空いた人います?」


「今はいい」


魔王が答えた。


「モンスターが出るかもしれないからな」


鍋は頷いた。


「分かりました」


少し歩く。


また歩く。


さらに歩く。


森の中は静かだった。


鳥の鳴き声。


木々のざわめき。


遠くから聞こえる風の音。


しかし――。


モンスターは出てこない。


「……」


魔王が周囲を見る。


「モンスター出ませんね」


勇気も辺りを見る。


「出ませんね」


殴打がバットを肩に担ぎ直す。


「まだ出ません」


五利武もゴルフクラブを下ろす。


「出ませんね」


便意はスマートフォンを見ている。


「魔法を使う必要もなさそうです」


魔王軍はしばらく歩いた。


そして魔王が言った。


「でも、あれだけ重症な村人が来たんだから、相当強いんじゃないですか」


全員が頷く。


勇気が言った。


「そうですよね」


殴打も真剣な顔になる。


「村人さんは、かなり苦しそうでした」


五利武も頷く。


「森に入るだけで、あれほどの被害が出るのであれば……」


昆布は地図を見る。


「警戒しておく必要があります」


魔王が頷く。


「そうだな」


昆布は周囲を見回した。


「モンスターがどこから出てくるか分かりません」


「うん」


「数も分かりません」


「うん」


「強さも分かりません」


「うん」


「なので、全員――」


昆布が言った。


「油断しないでください」


「分かった」


全員が身構える。


魔王も少し姿勢を低くする。


殴打はバットを握る。


五利武はクラブを構える。


勇気は拳を握る。


便意はスマートフォンを両手で持つ。


父は胸を張る。


母は回復魔法の準備。


鍋は食料袋を抱える。


そして――。


一行はさらに森の奥へ進んだ。


……。


……。


……。


何も出ない。


「…………」


魔王が言った。


「本当に出ないな」


昆布も困った顔をする。


「そうですね」


「モンスターって、こんなに出ないものなのか?」


「分かりません」


勇気が言った。


「もしかしたら、僕たちが怖すぎるんじゃないですか?」


魔王が振り返る。


「俺たちが?」


「はい」


殴打を見る。


「バット」


五利武を見る。


「ゴルフクラブ」


便意を見る。


「魔法」


父を見る。


「防御」


母を見る。


「回復」


鍋を見る。


「料理」


昆布を見る。


「軍師」


そして魔王を見る。


「魔王」


魔王は少し考えた。


「……料理は戦力なのか?」


鍋が言った。


「食事は大事ですよ」


「まあ、それはそうだな」


その瞬間。


「ん?」


魔王が腕を払った。


「何かいる」


全員が止まった。


昆布が振り返る。


「モンスターですか?」


魔王は腕を見る。


「いや……」


小さな羽音。


「ブーン……」


勇気が顔をしかめる。


「……蚊?」


「ブーン……」


さらに一匹。


さらにもう一匹。


「ブーン……」


「…………」


殴打が空を見る。


「蚊ですね」


五利武も言う。


「蚊です」


便意が言う。


「魔法を使う必要は……」


「ブーン!」


蚊が便意の顔の近くを飛んだ。


「うわ!」


便意が逃げる。


「来た!」


魔王が腕を叩く。


パン!


「……」


魔王は手を見る。


「逃げた」


勇気が叫ぶ。


「僕も刺された!」


パン!


パン!


「痒い!」


「私も!」


パン!


「痒い!」


「俺も!」


パン!


パン!


森の中に、突然、


パン!


パン!


パン!


という音が響き始めた。


魔王軍全員が蚊と戦っていた。


殴打がバットを持ちながら叫ぶ。


「魔王様!」


「どうした!」


「バットじゃ無理です!」


「そうだな!」


五利武も言う。


「ゴルフクラブも!」


「うん!」


「狭すぎます!」


「そうだな!」


便意がスマートフォンを見る。


「ファイアー!」


何も起きない。


「駄目だ!」


魔王が叫ぶ。


「蚊に魔法使うな!」


「すみません!」


鍋が両手を叩く。


パン!


「やった!」


「鍋さん、倒しましたか?」


「分かりません!」


母も手を叩く。


パン!


「一匹いなくなりました」


父も、


パン!


「メンタルガード。防御した」


魔王が振り返る。


「父さん、メンタルガード関係ある?」


「痒みを抑える」


「パン!」


勇気が蚊を叩く。


「倒した!」


殴打も叩く。


パン!


「俺も!」


五利武も、


パン!


「私も!」


便意も、


パン!


「やりました!」


魔王も、


パン!


「……」


手を開く。


「潰れた」


昆布だけが冷静だった。


「皆さん」


「何?」


「一度、集合してください」


全員が昆布のところへ集まる。


「どうした?」


昆布は周囲を確認する。


「まず、現状を整理します」


「うん」


「我々は森に入りました」


「はい」


「モンスターを探しました」


「はい」


「モンスターは見つかりませんでした」


「はい」


「代わりに――」


昆布は言った。


「蚊が大量に出ました」


「はい」


「そして」


昆布が全員を見る。


「全員、刺されました」


「痒い」


「痒い」


「痒い」


「痒い」


全員が腕や首を掻いている。


昆布は続けた。


「ですので……」


魔王が聞く。


「どうする?」


昆布は少し考えた。


「とりあえず、潰せるものは潰しましょう」


「それしかないな」


再び――。


パン!


パン!


パン!


パン!


パン!


森の中で、魔王軍による蚊との戦いが始まった。


「いた!」


パン!


「こっち!」


パン!


「逃げた!」


パン!


「そっち!」


パン!


「いた!」


パン!


「やった!」


パン!


「もう一匹!」


パン!


「まだいる!」


パン!


気がつけば、魔王軍全員が無言で蚊を追いかけていた。


殴打がバットを置く。


「……」


五利武もクラブを置く。


「……」


便意はスマートフォンをポケットにしまう。


「……」


魔王が言った。


「これ、俺たち何しに来たんだ?」


昆布が答えた。


「モンスター討伐です」


「そうだったな」


「今のところ、蚊討伐です」


「蚊ってモンスターなのかな?」


昆布は少し考えた。


「分かりません」


そして――。


しばらくすると、蚊の姿が見えなくなった。


昆布が周囲を見る。


「……」


「どうした?」


魔王が聞く。


「いなくなりました」


「蚊が?」


「はい」


魔王が腕を見る。


「痒いけどな」


勇気も腕を掻く。


「痒いです」


母が言った。


「あとで治しましょう」


魔王が昆布を見る。


「モンスターは?」


「いません」


「蚊は?」


「いません」


「……」


魔王は少し考えた。


「帰る?」


昆布は即答した。


「一度戻りましょう」


全員が頷いた。


「賛成」


「異論なし」


「痒いですし」


「戻りましょう」


こうして――。


魔王軍の初めてのモンスター討伐は、謎のまま終了した。


森を出て、旅立ちの村へ戻る。


勇者の家に着くと、おばあちゃんが出迎えた。


「あら、お帰りなさい」


「ただいま戻りました」


魔王が答える。


おばあちゃんは全員を見る。


「どうでした?」


魔王は答えに困った。


「えーっと……」


昆布を見る。


昆布が頷く。


「正直に言いましょう」


「そうだな」


魔王は言った。


「モンスターは出ませんでした」


「まあ」


「ただ、蚊がたくさん出まして」


おばあちゃんが笑う。


「蚊は嫌ですねえ」


「十匹以上は潰したと思います」


「まあまあ」


その時、鍋が台所を見た。


「おばあちゃん」


「はい?」


「料理、お手伝いします」


「まあ、助かるわ」


鍋はすぐに台所へ向かった。


「今日は何を作るんですか?」


「煮物ですよ」


「では、手伝います」


魔王軍が少し休んでいる間、鍋はおばあちゃんの料理を手伝うことになった。


そして魔王は、ベッドで休んでいる村人のところへ向かった。


村人は少し元気になっていた。


「おお……帰ってきたんですね」


「はい」


魔王が椅子に座る。


「村を出て、森に入ったんですけど」


「はい」


「蚊しか出ませんでした」


村人は驚いた。


「蚊ですか?」


「はい」


「何匹くらい?」


魔王は考えた。


「十匹以上は潰したと思います」


村人の顔が明るくなった。


「おお!」


「?」


「モンスターを十匹も倒してくれたんですか!」


「……」


魔王が固まった。


昆布も固まった。


勇気も固まった。


村人は嬉しそうに袋を取り出した。


「これは報酬です!」


「え?」


「百ゴウです!」


魔王の手に、100ゴウが渡された。


「…………」


魔王は硬貨を見る。


「これ……」


「はい」


「本当に?」


「もちろんです!」


魔王は昆布を見る。


昆布も驚いている。


「魔王様」


「うん」


「依頼達成ですね」


「……蚊だけど」


「依頼上は、モンスターを十匹倒したことになっています」


魔王は村人に聞いた。


「ちなみに……」


「はい?」


「そのモンスターって、蚊ですか?」


村人は頷いた。


「おそらく」


「おそらく?」


「今はモンスター同士の争いも多いんです」


魔王軍が顔を見合わせる。


村人は続ける。


「そのため、色んなモンスターが入り乱れています」


「なるほど」


「森に強いモンスターがいたと思ったら、別のモンスターに追い出されたり、逆に弱いモンスターが奥から出てきたり……」


昆布が聞く。


「つまり?」


「たまたま、弱いモンスターがいたんでしょうね」


「…………」


魔王軍は全員、何とも言えない顔になった。


勇気が言う。


「蚊が……モンスター……」


殴打がバットを見る。


「バットの出番もありませんでした」


五利武がゴルフクラブを見る。


「ゴルフクラブの出番もありませんでした」


便意がスマートフォンを見る。


「魔法の出番もありませんでした」


父が言う。


「防御の出番もなかった」


母が言う。


「回復の出番もありませんでした」


鍋が台所から顔を出す。


「料理は出番がありました」


魔王が笑った。


「それは良かった」


昆布が考え込む。


「……」


「昆布?」


「今回の討伐について、少し考えたいことがあります」


「何?」


「我々は、強いモンスターとの戦いを想定していました」


「うん」


「しかし実際には、蚊でした」


「うん」


「つまり――」


昆布が真顔になる。


「敵の強さは、事前には分からないということです」


魔王が頷く。


「確かにな」


「ですから、今後も慎重に行動すべきです」


「そうだな」


勇気が言う。


「でも、十匹倒せたんですよね?」


魔王が100ゴウを見る。


「そうみたいだな」


五利武が言う。


「簡単でしたね」


殴打も頷く。


「かなり簡単でした」


便意が言う。


「僕の魔法も必要ありませんでした」


父が言う。


「防御も不要だった」


母が笑う。


「怪我もしていませんし」


魔王は腕を掻く。


「いや、蚊には刺されたけど」


「痒いですね」


勇気が言う。


「痒いです」


全員が頷く。


昆布が言った。


「ですが、考えてみれば――」


「うん」


「今回、最も必要だった武器は」


全員が昆布を見る。


昆布が言った。


「ハエ叩きだったかもしれません」


「…………」


魔王が笑った。


「確かに」


殴打がバットを見る。


「バットよりハエ叩き」


五利武がゴルフクラブを見る。


「ゴルフクラブよりハエ叩き」


便意がスマートフォンを見る。


「魔法よりハエ叩き」


父が言う。


「防御よりハエ叩き」


母が笑う。


「回復よりハエ叩き」


鍋が台所から言った。


「料理よりハエ叩きですか?」


「いや、料理は必要だよ」


魔王が即答した。


鍋が安心した。


「良かったです」


そして魔王は100ゴウを眺めた。


「……これで百ゴウか」


昆布が頷く。


「はい」


「蚊十匹で?」


「恐らく」


「一匹十ゴウ?」


「計算上は」


勇気が笑う。


「じゃあ、もっと蚊を倒せばお金持ちになれますね!」


昆布がすぐに止めた。


「勇気さん」


「はい?」


「蚊を探す旅ではありません」


「あ、そうでした」


魔王も笑う。


「俺たちはモンスターを倒すために来たんだったな」


昆布が頷く。


「はい」


「でも今回は蚊だった」


「はい」


「……」


魔王は少し考える。


「なんか、簡単だったな」


殴打が頷く。


「はい」


五利武も頷く。


「はい」


勇気も。


「はい」


便意も。


「はい」


父も。


「はい」


母も。


「はい」


鍋も。


「はい」


最後に昆布だけが言った。


「ただし、簡単だったからといって、次も簡単とは限りません」


全員が黙った。


魔王が昆布を見る。


「……さすが軍師」


昆布は頷いた。


「油断は禁物です」


魔王は100ゴウを握りしめた。


「よし」


「はい」


「次はもう少し、モンスターらしいモンスターに会おう」


全員が頷いた。


その頃。


旅立ちの村の外。


森の奥深くでは――。


何かの気配が動いていた。


しかし、それが何なのか。


魔王軍にはまだ分からない。


そして彼らは知らない。


この世界では、モンスターたちの間で何かが起きていることを。


ただ今は――。


魔王軍にとっての最初の討伐実績は、


「モンスター十匹討伐」


である。


ただし、その実態は――。


蚊、十匹以上。


そして魔王軍は、初めての報酬として、


100ゴウ


を手に入れた。


魔王は硬貨を見ながら呟いた。


「……これで何が買えるんだろう?」


昆布が答えた。


「明日、調べましょう」


勇気が笑う。


「楽しみですね!」


鍋がおばあちゃんの料理を運んでくる。


「皆さん、ご飯ですよ」


魔王軍全員が振り向いた。


「食べよう!」


結局その日の魔王軍は、


モンスター討伐よりも、


おばあちゃんの料理のほうを楽しんだのだった。

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