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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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同名です

旅立ちの村。


小さな村の朝は、静かだった。


鳥が鳴き、風が吹き、畑では村人たちが作業をしている。


そんな平和な村の中に、一軒の家がある。


そこは、勇者の家だった。


そして、その家の中では――。


「……お腹空いた」


魔王が言った。


「さっき食べたばかりですよ」


母が合流していた。。


「異世界に来たら、なんかお腹が空くんだよ」


「異世界だからですか?」


勇気が聞く。


「知らないけど」


鍋が台所を見ながら言った。


「おばあちゃん、何か作ってますね」


「そうだな」


殴打も頷く。


そこへ、勇者のおばあちゃんが入ってきた。


「皆さん、朝ご飯ですよ」


「ありがとうございます」


魔王軍全員が頭を下げる。


おばあちゃんは、魔王を見た。


そして少し不思議そうな顔をする。


「ところで……」


「はい?」


「あなたが魔王様ですか?」


魔王は少し考えた。


「はい」


おばあちゃんは驚いた。


「まあ!」


勇気が小声で言った。


「魔王様って、この世界にもいるんですね」


昆布が腕を組む。


「待ってください」


「どうした、昆布?」


「今の会話、少しおかしくありませんか?」


「どこが?」


「魔王様は魔王様ですよね」


「そうだな」


「でも、この世界にも『魔王』がいるんですよね?」


「そうらしいな」


昆布は真剣な顔になった。


「もしかして……」


魔王を見る。


「魔王様と、この世界の魔王は――」


一同が魔王を見る。


魔王も皆を見る。


「……何?」


勇気が恐る恐る聞いた。


「同姓同名ですか?」


「…………」


魔王は固まった。


殴打が首を傾げる。


「同姓同名?」


五利武も言う。


「魔王様、苗字も魔王なんですか?」


「いや、違う」


「では、どういうことですか?」


魔王は困った顔をした。


「同性ではないですけど、同名です」


「…………」


全員が黙った。


鍋が言った。


「魔王様」


「はい」


「それ、余計に分かりにくくなってません?」


「俺もそう思う」


便意が手を挙げる。


「つまり、魔王様と魔王は同じ名前だけど、別人ということでしょうか?」


「そう」


昆布が頷く。


「それなら話は通ります」


勇気が安心する。


「よかった。魔王様がこの世界の魔王と同一人物だったら、話が大変ですからね」


父が牛乳を飲みながら言った。


「もう十分大変だと思うけど」


その時だった。


家の外から声が聞こえた。


「勇者様ー!」


全員が振り向く。


「誰か来たぞ」


魔王が言う。


おばあちゃんが玄関へ向かう。


「はーい」


扉を開けると、村人が立っていた。


「大変なんです!」


「まあ、どうしました?」


「最近、魔王の力が弱まって、魔物たちが暴れています!」


魔王軍の空気が変わった。


昆布が立ち上がる。


「例の依頼ですね」


村人は魔王軍を見る。


そして魔王の姿を見つける。


「おお!」


「?」


「魔王様!」


魔王が振り返る。


「はい」


村人は深々と頭を下げた。


「どうか……魔王を倒してください!」


「…………」


魔王は黙った。


勇気も黙った。


殴打も黙った。


五利武も黙った。


鍋も黙った。


便意も黙った。


昆布だけが頭を抱えた。


「ややこしい……」


村人は気づいていない。


「魔王様のお力なら、きっと魔王を倒せます!」


魔王は手を上げた。


「あの」


「はい!」


「一ついいですか?」


「もちろんです!」


「俺、魔王なんですけど」


「はい!」


「あなたが倒してほしい魔王とは、別人です」


「…………」


村人が固まった。


「え?」


「俺の名前が魔王なんです」


「……魔王様なのに?」


「そうです」


「魔王様は魔王なんですか?」


「はい」


「では、魔王様が魔王を倒すんですか?」


「そういうことになります」


「…………」


村人は混乱した。


「魔王様が……魔王を……」


勇気が横から説明する。


「同名です」


「同名?」


「はい」


「魔王様と魔王が?」


「はい」


「同じ名前?」


「はい」


村人は頭を抱えた。


「この村では、こんなにややこしいことになるとは……」


昆布が立ち上がった。


「整理しましょう」


全員が昆布を見る。


「現在、我々の前にいる魔王様は、別世界から来た魔王様です」


「はい」


「そして、この世界には別の魔王が存在します」


「はい」


「我々が倒すよう依頼されたのは、この世界の魔王です」


「はい」


「つまり――」


昆布が魔王を見る。


「魔王様が、別の魔王を倒す」


魔王が頷く。


「そういうことだな」


勇気が言った。


「魔王様が魔王を倒したら……」


五利武が続ける。


「魔王が魔王を倒した」


殴打が言う。


「魔王が魔王に勝った」


鍋が言う。


「魔王が魔王を倒して、魔王じゃなくなるんですか?」


「俺は別に魔王を辞める予定はないぞ」


便意が言った。


「でも、村人からすると『魔王を倒した魔王様』になりますね」


父が言った。


「肩書きが長いな」


母も笑う。


「じゃあ、魔王様は『魔王を倒した魔王様』ですね」


魔王は頭を抱えた。


「ややこしいな……」


その時。


空耳さんの声が聞こえた。


『いいじゃないか』


魔王が顔を上げる。


「空耳さん」


『魔王が魔王を倒す』


「……」


『面白いだろ?』


「面白いけど、俺が一番ややこしいんだよ」


『そうか?』


「そうだよ」


『じゃあ、名前を変えるか?』


魔王は即答した。


「嫌だ」


『だよな』


「俺は魔王でいいよ」


昆布が静かに言った。


「では、区別するために……」


「どうする?」


「こちらの魔王様を『魔王様』」


「うん」


「この世界の魔王を『異世界魔王』と呼びましょう」


「それなら分かりやすいな」


勇気が笑った。


「よし!」


村人も少し安心した。


「では、魔王様!」


「はい」


「どうか、異世界魔王を倒してください!」


魔王は頷いた。


「分かりました」


そして魔王軍を見る。


「みんな、行くぞ」


「はい!」


「五匹のモンスターを倒すぞ!」


「はい!」


昆布が地図を広げる。


「まずは情報収集です」


「さすが昆布」


「いきなり戦いません。魔物の出現場所、数、行動パターンを確認します」


殴打がバットを持つ。


「物理攻撃は任せてください」


五利武がゴルフクラブを持つ。


「素早い攻撃なら私が」


便意がスマートフォンを持つ。


「魔法は……」


スマートフォンを見る。


『ファイアー』


便意が胸を張る。


「ファイアー!」


何も起きない。


「…………」


魔王が言う。


「便意」


「はい」


「自分で言わないと駄目なんじゃなかったか?」


「そうでした」


鍋が笑う。


勇気が拳を握る。


「みんなで頑張りましょう!」


父が言う。


「防御する」


母が微笑む。


「怪我をしたら私が治します」


魔王は全員を見る。


そして、少し笑った。


「よし」


こうして――。


別世界から来た魔王と、その仲間たちは。


この世界の魔王を倒すために、旅立ちの村を出発することになった。


しかし魔王には、一つだけ気になることがあった。


「なあ、昆布」


「はい?」


「俺たちがこの世界の魔王を倒したら、村の人たちはどう呼ぶんだろうな?」


昆布は少し考えた。


「……」


そして真顔で答えた。


「『魔王を倒した魔王様』でしょうね」


「長いな」


「かなり長いです」


勇気が笑った。


「でも、かっこいいですよ!」


魔王は苦笑した。


「そうかなあ……」


旅立ちの村の小さな道を。


魔王軍は歩き始めた。


その先に待っているのが、五匹のモンスターなのか。


それとも、もっと大きな事件なのか。


まだ誰も知らない。

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