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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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遂に異世界へ

ある日の朝。


魔王の家は、いつもと変わらなかった。


母が朝食を作り、父が新聞を読む。


勇気はテーブルを拭き、鍋は味噌汁を作っている。


殴打はテレビで野球を見ていた。


五利武はゴルフクラブを磨いている。


便意はスマートフォンを片手に、魔法の練習をしていた。


「ファイ……」


便意が手を前に出す。


「ファイア!」


小さな火がポッと現れた。


「おお!」


魔王が拍手する。


「成功した!」


「はい!」


便意も嬉しそうだった。


「私も、ようやく魔術師らしくなってきました!」


そのときだった。


魔王の頭の中に、聞き慣れた声が響いた。


『魔王よ』


「空耳さん?」


『そろそろ、本当の世界に来ないか?』


魔王はコーヒーカップを置いた。


「……本当の世界?」


『そうだ』


「ここじゃないの?」


『違う』


「外国?」


『外国ではない』


「じゃあ……火星?」


『火星でもない』


「月?」


『違う』


魔王は腕を組んだ。


「じゃあ、どこ?」


空耳さんは、いつもより少しだけ真剣な声で言った。


『全く違う世界だ』


リビングの空気が変わった。


勇気が顔を上げる。


殴打もテレビから目を離した。


五利武もクラブを置く。


鍋も母も父も魔王を見る。


魔王が聞いた。


「……異世界?」


『そうだ』


魔王はしばらく黙っていた。


そして、


「本当にそんな世界があるの?」


『ある』


「どうやって行くの?」


『入口がある』


「どこに?」


空耳さんは答えた。


『お客さんの屋根裏で見つけたダンボールがあるじゃろう』


魔王は目を細めた。


「ああ……」


記憶をたどる。


「そういえば、あったな」


勇気が聞いた。


「何ですか、そのダンボール?」


魔王が説明する。


「昔、便利屋の仕事でお客さんの屋根裏を片付けたときに見つかったんだ」


「普通のダンボールですか?」


「うん。見た目は普通だった」


魔王は少し考える。


「ただ、中から変な声が聞こえたんだよ」


便意が眉をひそめる。


「それ、普通じゃないですよ」


「俺もそう思った」


空耳さんが言った。


『あのダンボールは、魔王便利屋事務所にある』


魔王が驚く。


「空耳さん、よく覚えてるね」


『あれは大事なものだからな』


「大事なの?」


『非常に大事だ』


魔王は少し不安になった。


「何に使うの?」


『異世界へ行くために使う』


「……」


魔王はダンボールを想像する。


普通の茶色い箱。


どう考えても異世界に繋がっているようには見えない。


「ロケットに乗るよりは安そうだけど」


『金はかからん』


「じゃあ、行ってみるか」


『そうだ。今すぐ取りに行け』


「分かった」


魔王は立ち上がった。


そして、ふと思った。


「でも、どこにあるか教えてよ」


『……』


「空耳さん?」


『……』


「まさか」


『魔王便利屋事務所だ』


「それは分かってるよ!」


---


■魔王便利屋事務所


魔王軍は全員で魔王便利屋事務所へ向かった。


久しぶりに見る事務所。


魔王は鍵を開けた。


勇気が中を覗く。


「結構、荷物が残ってますね」


「便利屋の先輩たちが辞めるときに、いろいろ置いていったからな」


父が言う。


「もっと給料の良い会社に行ったんだったな」


「うん」


魔王は少し寂しそうに笑う。


「みんな元気かな」


母が言った。


「元気よ、きっと」


「そうだね」


そして――。


魔王軍はダンボール探しを始めた。


「普通のダンボールなんですよね?」


昆布が聞く。


『そうだ』


「何か目印は?」


『ない』


「文字は?」


『ファンタジーの世界へようこそと書いてある』


「色は?」


『茶色』


昆布が周囲を見る。


「……ほとんど全部茶色ですね」


魔王が頭を抱える。


「だから見つからないんだよ」


勇気が一つの箱を持ち上げる。


「これですか?」


『違う』


「これは?」


『違う』


「じゃあ、これは?」


『違う』


殴打が棚の下を見る。


「これはどうですか?」


『違う』


五利武が別の箱を持ってくる。


「これは?」


『違う』


「全部違いますね」


鍋が一つの箱を開けた。


「これは鍋です」


魔王が振り返る。


「……」


鍋が鍋を持っている。


「私の名前だから、もしかしたらと思って」


魔王は笑った。


「それは普通に鍋だよ」


便意が箱を開ける。


「これは……」


魔王が近づく。


「何?」


「便通大魔王の空きボトルです」


魔王は頭を抱えた。


「なんで事務所にあるんだよ!」


母が笑う。


「人気商品だったからじゃない?」


「だからそういう問題じゃないって」


昆布は事務所の奥を見た。


「かなり広いですね」


「昔はここでいろんな仕事をしてたからな」


魔王は少し懐かしそうに辺りを見た。


そのとき――。


勇気が声を上げた。


「あっ!」


全員が振り返る。


「ありました!」


魔王が駆け寄る。


「どこ?」


勇気が指差した。


そこには、一つのダンボールが置かれていた。


茶色。


普通の大きさ。


普通のテープ。


少しだけ古びている。


魔王が持ち上げる。


「……これ?」


空耳さんが答えた。


『そうだ』


魔王は箱をじっと見る。


「本当に普通だな」


殴打が触る。


「何の変哲もありません」


五利武も確認する。


「軽いですね」


昆布が調べる。


「魔力も感じません」


便意も手をかざす。


「私にも何も感じません」


魔王は空耳さんに聞いた。


「本当にこれが異世界への入口なの?」


『そうだ』


「普通のダンボールだけど」


『普通のダンボールだ』


「……」


魔王はさらに困惑した。


「じゃあ、どうやって異世界に行くの?」


『家に持って帰れ』


「それだけ?」


『それだけだ』


---


■家に帰ったダンボール


魔王はダンボールを家に持ち帰った。


自分の部屋の中央に置く。


全員が箱を囲む。


魔王が言った。


「……本当に普通だな」


父が頷く。


「普通だ」


母も、


「普通ね」


鍋も、


「普通の箱ですね」


五利武も、


「完全に普通です」


便意も、


「異世界への入口には見えません」


昆布は箱の周りを一周した。


「少なくとも、外見上は普通です」


魔王は箱を指差した。


「空耳さん」


『何だ?』


「これ、捨てていい?」


『ダメだ!』


魔王が飛び上がる。


「うわっ!」


『絶対に捨てるな!』


「急に大声出すなよ!」


『これは重要なものだ!』


「だから、何なの?」


空耳さんは答えた。


『そのダンボールが、わしの世界とお前の世界を繋いでいる』


魔王の顔が引きつる。


「……」


「……」


「……」


全員が箱を見る。


魔王が言った。


「怖い」


母が頷く。


「怖いわね」


父も頷く。


「怖いな」


勇気が言う。


「でも行ってみたいです」


殴打も頷く。


「私もです」


五利武も、


「未知の世界、興味があります」


鍋は、


「料理が楽しみです」


便意は、


「魔法が楽しみです!」


昆布は、


「情報収集の価値があります」


魔王はため息をついた。


「みんな、意外と乗り気だな」


空耳さんが言った。


『中に入るのだ』


魔王が箱を見る。


「……これに?」


『そうだ』


「どうやって?」


『入れ』


魔王は箱の蓋を開けた。


中は空っぽ。


本当に何もない。


「ほら」


魔王は全員に見せる。


「ただの空箱だよ」


昆布が頷く。


「そのようですね」


魔王は少し笑った。


「これで異世界に行けるなら、便利屋の仕事にも使えるかもな」


「ゴミ入れようか」


空耳が怒る。


「ゴミ箱にするな」


魔王は箱に足を入れようとした。


そのとき――。


父が前に出た。


「待て」


「父さん?」


父は真剣な顔をしている。


「まず俺が行こう」


魔王が驚く。


「父さんが?」


父は頷いた。


「俺は防御力が高い」


魔王は少し考える。


「……まあ、そうだけど」


父は拳を握った。


「メンタルガード!」


魔王が呆れる。


「メンタルガード関係ある?」


母が言った。


「だって怖いでしょ」


父が頷く。


「怖いからメンタルガードだ」


「そんな能力だったっけ?」


父はダンボールの前に立った。


「行ってくる」


魔王が言う。


「無理だと思ったらすぐ戻ってきて」


「分かった」


父はダンボールに片足を入れた。


何も起きない。


もう片方の足を入れる。


何も起きない。


父はそのまま箱の中へ入っていく。


腰まで。


胸まで。


そして――。


頭まで。


父の姿が、


ダンボールの中へ沈んでいった。


「……」


「……」


「……」


勇気が小声で言う。


「消えました」


魔王が箱を覗き込む。


「父さん?」


返事がない。


「父さん!」


すると――。


箱の中から声が聞こえた。


「聞こえるか?」


「父さん!」


「大丈夫だ」


魔王が聞く。


「どこにいるの?」


「知らない部屋だ」


「何がある?」


「机」


「……」


「タンス」


「それ、報告いる?」


「あと窓」


「窓もあるんだ」


「外が見える」


「何が見える?」


少し沈黙。


「……知らない森」


魔王の表情が変わった。


「本当に異世界なんだ」


父が言った。


「そうみたいだ」


そして――。


「戻るぞ」


「戻れるの?」


「分からん」


「え?」


次の瞬間。


ダンボールが少し揺れた。


そして父が――。


箱の中から、


ぬるっと出てきた。


「……」


魔王が父を見る。


「父さん」


「何だ?」


「大丈夫?」


「ああ」


「何か怖いものは?」


父は少し考えた。


「知らないおばあちゃんがいた」


魔王が固まる。


「……おばあちゃん?」


「うん」


「何してた?」


「台所にいた」


「……」


「料理をしていた」


鍋の目が輝いた。


「料理……!」


魔王が言う。


「鍋さん、まだ行かないでね」


---


■魔王が入る


魔王はダンボールを見る。


「……本当に行けるんだ」


空耳さんが言った。


『そうだ』


魔王は深呼吸した。


「よし」


そして箱の中へ入る。


一歩。


二歩。


すると――。


足元の感触が変わった。


木の床。


魔王は目を見開いた。


「……」


そこには、


知らない部屋があった。


窓。


机。


タンス。


そして――。


部屋の隅に、一つのダンボールが置かれている。


魔王は近づいた。


「これか」


父が頷く。


「俺はここから出てきた」


魔王は箱から出た。


そして部屋を見回す。


「本当に異世界だ」


父が言った。


「ああ」


魔王は振り返る。


「じゃあ、みんなも来られるな」


---


勇気が入る。


消える。


そして異世界側の箱から出てくる。


「……!」


「どう?」


魔王が聞く。


「すごいです!」


「何が?」


「本当に異世界です!」


「それは見れば分かるよ」


次に殴打。


「行ってきます」


消える。


出てくる。


「異世界ですね」


「感想が短い」


五利武も入る。


「では」


消える。


「……」


戻る。


「本当に異世界でした」


鍋も入る。


「行ってきます」


戻ってくる。


「料理教えて来ました」


「やっぱりそこなんだ」


便意も入る。


戻ってくる。


「魔法の世界です!」


「魔法は見た?」


「見てません!」


「じゃあまだ分からないじゃん」


そして母。


「じゃあ、私も」


母がダンボールへ入る。


「メンタルガード」


魔王が笑う。


「母さんも?」


「怖いもの」


母が消える。


そして戻ってきた。


「本当に異世界ね」


最後に昆布。


昆布は箱をじっと見た。


「では、私も」


消える。


しばらくして戻る。


「どうだった?」


魔王が聞く。


昆布は考える。


「この転移には一定の規則があるようです」


「もう分かったの?」


「まだ完全ではありません」


昆布は部屋の隅にある箱を見る。


「こちらの世界にも、同じような箱が存在しています」


魔王が頷く。


「俺たちは、そこから出てくる」


「はい」


「つまり、このダンボールは――」


「世界と世界をつなぐ通路です」


魔王は箱を見る。


「……」


普通のダンボール。


何の変哲もない箱。


それが二つの世界を繋いでいる。


魔王は少しだけ背筋が寒くなった。


「……不思議だな」


---


■知らないおばあちゃん


魔王は部屋の扉を見る。


「外に出てみるか」


父が頷く。


「おばあちゃんがいるぞ」


「そうだったな」


魔王はドアノブに手をかけた。


ギィ……。


扉が開く。


その先には、


小さな台所があった。


そして――。


一人のおばあちゃんがいた。


おばあちゃんは魔王を見る。


一瞬、驚いた。


しかし、すぐに笑顔になった。


「あら」


魔王は緊張する。


「勇者様…」


おばあちゃんは言った。


「ご飯出来てるわよ」


魔王は目を瞬く。


「……え?」


おばあちゃんは笑っている。


「勇者様」


魔王は固まった。


「……勇者?」


後ろにいる勇気を見る。


勇気も驚いている。


「僕ですか?」


おばあちゃんは頷いた。


「ええ。勇者様でしょう?」


魔王は困惑した。


「僕たちは――」


そのとき。


後ろから、


ぞろぞろ。


勇気。


殴打。


五利武。


鍋。


便意。


昆布。


母。


父。


次々と部屋から出てくる。


おばあちゃんの笑顔が、


少しずつ引きつっていく。


一人。


二人。


三人。


四人。


五人。


六人。


七人。


八人。


最後に魔王。


おばあちゃんは全員を見回した。


「……」


そして、


「あら?」


少し間を置いて――。


「なんか今日、勇者多くない?」


魔王軍全員が沈黙した。


おばあちゃんは台所を見る。


テーブルを見る。


鍋を見る。


そして言った。


「そんなにご飯作ってないわよ」


魔王は申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません……」


勇気も頭を下げる。


「すみません!」


殴打も、


「突然お邪魔して申し訳ありません」


五利武も、


「失礼しました」


鍋は料理を見ながら、


「とても美味しそうです」


魔王が鍋を見る。


「今そこじゃない」


便意も、


「ご飯……」


「便意さんも我慢」


昆布は周囲を見回す。


「完全に想定外ですね」


魔王が苦笑する。


「軍師でも想定外なんだ」


昆布は頷く。


「はい」


母が優しく言った。


「突然大勢で来てごめんなさいね」


父も頭を下げる。


「申し訳ない」


おばあちゃんは困ったように笑った。


「まあ……あなた…方のお家よ」


魔王が顔を上げる。


「本当ですか?」


「ええ」


おばあちゃんは笑う。


「勇者様なんでしょう?」


魔王は苦笑した。


「……名前は魔王です」


おばあちゃんは首を傾げる。


「勇者魔王様?」


魔王軍は顔を見合わせた。


そして魔王が言った。


「お構いなく」


勇気も続ける。


「お構いなく!」


殴打も、


「お構いなく」


五利武も、


「お構いなく」


鍋も、


「お構いなく」


便意も、


「お構いなく……」


昆布も、


「お構いなく」


母も、


「お構いなく」


最後に父。


「お構いなく」


全員で頭を下げる。


そして――。


ぞろぞろと、


元の部屋へ戻っていった。


一人。


また一人。


さらに一人。


おばあちゃんは、その様子を呆然と見ていた。


最後に父が戻る前に振り返る。


「おばあちゃん」


「はい?」


「ご飯、ありがとう」


おばあちゃんは笑った。


「また後でね、勇者様」


父は部屋へ戻った。


扉が閉まる。


魔王は全員を見る。


「……」


勇気が口を開いた。


「魔王様」


「何?」


「僕たち、勇者様って呼ばれてましたね」


「うん」


昆布が言った。


「この世界では、私たちが何らかの理由で勇者として認識されている可能性があります」


魔王は首を傾げた。


「俺も?」


「はい」


「俺、魔王なんだけど」


昆布は真顔で答える。


「この世界では違うのかもしれません」


魔王はしばらく黙った。


そして、


「……異世界って、やっぱり変だな」


空耳さんの声が響いた。


『そうだろう』


魔王が振り返る。


「空耳さん」


『何だ?』


「知ってた?」


『何を?』


「この世界のこと」


『……』


「空耳さん?」


『……少しだけ』


魔王は目を細めた。


「少しだけ?」


『うむ』


「どこまで知ってるの?」


『それは――』


空耳さんが黙る。


「……」


魔王はため息をついた。


「まあ、いいや」


今はまだ、何も分からない。


この世界がどんな場所なのか。


なぜ自分たちが勇者と呼ばれるのか。


あのおばあちゃんは何者なのか。


そして、あの普通のダンボールがなぜ二つの世界を繋いでいるのか。


何一つ分からない。


ただ一つ分かっていることがある。


魔王軍は、


ついに異世界へ来た。


そして――。


最初に出会った異世界の住人は、


魔王軍に剣を向ける戦士でも、


恐ろしい魔物でも、


王国の兵士でもなかった。


ただの、


優しいおばあちゃんだった。


魔王は部屋の隅に置かれたダンボールを見る。


普通のダンボール。


どこにでもある箱。


けれど、その中に入れば――。


世界が変わる。


魔王は静かに呟いた。


「……さて」


全員を見る。


「これからどうする?」


昆布が答えた。


「まずは情報収集です」


鍋が続ける。


「そして食料ですね」


勇気が言う。


「町も探しましょう!」


便意が手を挙げる。


「魔法も!」


殴打と五利武も頷く。


母は笑う。


父は腕を組む。


魔王はみんなを見て、


小さく笑った。


「よし」


魔王軍は立ち上がった。


こうして――。


魔王軍の異世界生活が、


始まった。

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