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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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勇者・勇気、魔王軍に正式加入する

朝食が終わった。


魔王の一軒家は、いつものように少し騒がしい。


食器を片付ける者。


掃除を始める者。


庭を確認する者。


なぜか玄関でゴルフクラブを振っている者。


そして、昨日決めたばかりの「魔王軍の役割」について話し合っている者。


魔王は、その光景を眺めながら思った。


「……本当に魔王軍になってきたな」


すると。


空耳の声が聞こえた。


『次は勇気じゃ』


「勇気?」


『呼ぶのじゃ』


魔王は頷いた。


「分かった」


魔王は一階にいる勇気を呼んだ。


「勇気!」


「はい! 魔王様!」


元気な声が返ってくる。


数秒後。


バタバタバタッ!


勇気が階段を駆け上がってきた。


「魔王様! 何でしょうか!」


「ちょっと部屋に来て」


「はい!」


勇気は魔王の部屋に入った。


魔王。


勇気。


そして、姿は見えないが声だけ聞こえる空耳。


三人が部屋に揃った。


勇気は直立している。


「何か重要な話でしょうか!」


「うん」


魔王はベッドの横に腰を下ろした。


「昨日から、魔王軍の役割を決めてるんだ」


「役割ですか!」


「そう」


「ついに俺にも役割が!」


勇気の目が輝いた。


『うむ』


空耳の声が響く。


勇気が敬礼した。


「空耳さんもいらっしゃるんですね!」


『もちろんじゃ』


「今日は何を決めるんですか?」


空耳が言った。


『勇気は勇者だ』


「……」


「……」


勇気と魔王が同時に固まった。


「……え?」


勇気が聞き返した。


魔王も同時に言う。


「勇気が?」


『勇者じゃ』


「……」


「……」


勇気は魔王を見る。


魔王も勇気を見る。


二人とも、かなり驚いていた。


勇気が恐る恐る言った。


「……俺、勇者だったんですか?」


「俺も知らなかった」


『今決まった』


「今決まったの!?」


魔王が叫んだ。


「勇者って、そんな簡単に決まるの!?」


『役割というものは、決めるものじゃ』


「昨日まで勇気は普通に魔王軍の一員だったじゃん!」


『勇者でも魔王軍には入れる』


「いやいやいや!」


魔王は頭を抱えた。


「ちょっと待って」


勇気も混乱している。


「魔王様」


「うん」


「俺は……」


勇気が恐る恐る尋ねる。


「魔王様を倒すんですか?」


「……」


魔王も上を見る。


「空耳さん」


『なんじゃ』


「勇気が俺を倒すのか?」


『いや』


「え?」


『魔王の味方になった勇者じゃ』


「……」


勇気も魔王も、もう一度固まった。


「勇者なのに?」


『勇者なのに』


「魔王の味方?」


『魔王の味方じゃ』


魔王は腕を組んだ。


「……そんな設定、良いのか?」


『良い』


「勇者って普通、魔王を倒すんじゃないの?」


『それは一つの可能性じゃ』


「可能性?」


『勇者という存在が、全員同じ性格とは限らん』


「……」


『勇者にも色々な性格がいる』


空耳は続けた。


『正義感が強い勇者』


「うん」


『金に弱い勇者』


「いるの?」


『料理が好きな勇者』


「いた」


『掃除が好きな勇者』


「いた」


『ゴルフが好きな勇者』


「いたな」


『野球が好きな勇者』


「プロ野球選手だったね」


『ゲームが好きな勇者』


「プロゲーマーだった」


『警察官の勇者』


「昨日いた」


『そして――』


空耳が言った。


『魔王を応援する勇者』


魔王は勇気を見る。


勇気も自分を指差した。


「俺ですか?」


『お前じゃ』


勇気の顔が、一気に明るくなった。


「俺が勇者!」


「魔王軍の勇者!」


『そうじゃ』


「魔王様の味方!」


『そうじゃ』


勇気は拳を握った。


「やった!」


魔王は苦笑した。


「そんなに嬉しい?」


「嬉しいですよ!」


勇気は胸を張った。


「俺、ずっと魔王様の役に立ちたいと思ってましたから!」


「……」


魔王は少し驚いた。


勇気は続ける。


「魔王様は優しいです」


「え?」


「誰かを傷つけるのが嫌いなのに、みんなを守ろうとしてます」


「……」


「だから俺も、魔王様を助けられる人になりたいです!」


魔王は少しだけ照れた。


「……ありがとう」


『そこでじゃ』


空耳が話を進める。


『勇気の能力を決めよう』


勇気が姿勢を正す。


「はい!」


魔王も聞く。


「勇気の能力?」


『勇気らしい能力じゃ』


「勇気らしい?」


『うむ』


空耳は少し考えた。


そして言った。


『励ます』


勇気が目を輝かせた。


「励ます!」


『そして、防御力を上げる補助魔法』


「防御力を?」


魔王が聞いた。


『そうじゃ』


「攻撃魔法じゃないんだ」


『勇気は攻撃するより、仲間を支える方が向いておる』


勇気は嬉しそうに笑った。


「俺、補助魔法なんですね!」


『そうじゃ』


「いいですね!」


魔王が聞く。


「具体的にはどんな魔法なの?」


空耳が答える。


『勇気が仲間を励ますと、その者の防御力が上がる』


「……」


魔王は勇気を見る。


「それ、結構強くない?」


『強いぞ』


「どれくらい?」


『気持ち次第じゃ』


「気持ち?」


『本気で励ませば励ますほど、防御力が上がる』


勇気が拳を握る。


「じゃあ!」


勇気は魔王の前に立った。


「魔王様!」


「え?」


「大丈夫です!」


「何が?」


「何があっても大丈夫です!」


「……」


「魔王様は強い!」


「うん……」


「優しい!」


「うん」


「世界チャンピオン!」


「それは昔の――」


「便利屋としても一流!」


「……」


「そして!」


勇気はさらに声を張り上げた。


「俺たち魔王軍がついてます!」


その瞬間。


フワッ。


勇気の周囲から淡い光が広がった。


魔王の身体を包む。


「……!」


魔王は驚いた。


「何これ?」


『補助魔法じゃ』


「本当に防御力が上がってる?」


『うむ』


魔王は自分の腕を見た。


何かが変わったようには見えない。


しかし。


なんとなく身体の周りに、薄い膜があるような感覚がする。


「すごい……」


勇気は嬉しそうだった。


「俺、魔王様を守れた!」


「うん」


魔王も笑った。


「これは頼りになるな」


「本当ですか!」


「本当だよ」


勇気の顔がさらに明るくなる。


「よし!」


勇気は拳を握った。


「もっと練習します!」


『ただし』


空耳が言った。


「はい?」


『励ますのにも限界がある』


「限界?」


『あまり連続で励ますと疲れる』


「なるほど」


『そして』


「はい」


『励まし方を間違えると、逆効果になる』


勇気が固まった。


「逆効果?」


『例えば』


空耳が言った。


『魔王に向かって』


少し間を置いて。


『「魔王様、今日も顔色悪いですね」』


「それは励ましてないよ!」


魔王が即座に突っ込んだ。


勇気も慌てる。


「すみません!」


「勇気は言ってないよ」


「はい!」


『「もう少し頑張らないとダメですよ」も駄目じゃ』


「それも励ましじゃないよ!」


『「失敗しても気にするな。どうせみんな失敗する」も駄目』


「空耳さん、例が妙にリアルなんだけど」


『経験談じゃ』


「誰の?」


『忘れた』


「またかよ」


勇気が笑った。


「でも、分かりました!」


魔王が聞く。


「何が?」


「俺は、みんなを元気にする勇者になります!」


「……」


「みんなが疲れた時!」


勇気が拳を握る。


「俺が励まします!」


「うん」


「怖い時も!」


「うん」


「不安な時も!」


「うん」


「魔物が出た時も!」


「そこは俺が何とかする」


「はい!」


勇気は元気よく答えた。


「魔王様が前で戦うなら、俺は後ろから支えます!」


「……」


魔王は少し考えた。


そして言った。


「それなら」


魔王は手を差し出した。


「これからもよろしく、勇者」


勇気は一瞬、驚いた。


そして。


満面の笑みを浮かべた。


「はい!」


勇気は魔王の手を強く握った。


「よろしくお願いします、魔王様!」


その時。


部屋の外から声が聞こえた。


「勇気、何してるの?」


魔王軍の仲間たちだった。


「今、勇者になりました!」


「え?」


「俺、勇者です!」


「……」


廊下にいた者たちが顔を見合わせる。


「勇者って、魔王軍に入れるの?」


勇気が胸を張る。


「入れます!」


「魔王を倒さないの?」


「倒しません!」


「じゃあ何するの?」


勇気は笑った。


「励まします!」


一同が黙った。


そして。


「……勇気らしいな」


「確かに」


「すごく勇気らしい」


魔王も笑った。


「じゃあ正式決定だね」


空耳が宣言する。


『勇者・勇気』


「はい!」


『役割――』


一同が聞く。


『魔王軍・補助勇者』


勇気が拳を突き上げた。


「補助勇者!」


魔王軍から拍手が起きた。


「おめでとう!」


「勇者!」


「魔王軍の勇者!」


「魔王様の味方!」


勇気は嬉しそうに笑っていた。


その光景を見ながら、魔王はふと思った。


勇者。


魔王。


本来なら敵同士。


しかし。


この世界では、それだけが答えではないのかもしれない。


勇者が魔王を倒さなければならない。


そんな決まりは、誰が作ったのだろう。


魔王が世界を支配しなければならない。


それも、誰が決めたのだろう。


魔王は仲間たちを見る。


料理をする勇者。


掃除をする勇者。


ゴルフを教える勇者。


野球をする勇者。


ゲームをする勇者。


人々を守る警察官。


回復魔法を覚えた母親。


そして。


精神的な防御力が異常に高い父親。


その中心にいる、自分。


魔王。


「……変な魔王軍だな」


勇気が笑った。


「最高じゃないですか!」


「そうだな」


空耳が静かに言った。


『役割というものは、戦うためだけにあるのではない』


魔王はその言葉を聞いて、少しだけ笑った。


「……うん」


その日。


魔王軍に初めて、正式な「勇者」が誕生した。


ただし。


その勇者が守るのは。


世界ではなく。


魔王だった。


そして何より。


魔王軍の仲間たちだった。


勇気は新しい役割を手に入れた。


「励ます勇者」。


一見すると地味な能力。


しかし。


誰かが心折れそうになった時。


誰かが立ち上がれなくなった時。


誰かが「もう無理だ」と言った時。


その力は。


どんな攻撃魔法よりも強くなるのかもしれなかった。

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