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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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魔王軍、役割を決める

夜。


魔王の家――。


いつもなら、とっくに眠っている時間だった。


一軒家の二階。


魔王はベッドに横になりながら、天井を見つめていた。


隣の部屋からは、両親が寝る準備をしている音が聞こえる。


一階では、魔王軍の何人かがまだ起きているらしい。


今日も一日、便利屋の仕事だった。


掃除。


荷物運び。


庭の手入れ。


ゴルフの練習。


なぜかゲーム大会。


そして夕食。


魔王軍の活動内容としては、かなり平和だった。


魔王は天井を見ながら、ぽつりと呟いた。


「……空耳さん」


返事はない。


「空耳さん?」


やはり返事はない。


魔王は少し待った。


「……寝た?」


すると。


『起きておる』


「いるのかよ」


『呼ばれたからのう』


「呼ばなくてもいる時あるじゃん」


『それは気のせいじゃ』


「俺の頭の中で勝手に出てくる人が、気のせいって言うなよ」


『まあ、細かいことは気にするな』


「……空耳さん」


『なんじゃ』


魔王は少しだけ黙った。


そして、真面目な声で言った。


「俺を魔王にするんでしょ」


『そうじゃ』


「……なんだか最近、魔王への道が何も進んでない気がする」


しばらく沈黙があった。


そして空耳が言った。


『何を言っている』


「え?」


『お前は誰にも攻撃せず、勇者候補達と協力してきた』


「……うん」


『勇者を魔王軍に取り入れる魔王なんかなかなかいないぞ』


魔王は天井を見つめたまま、目を丸くした。


「……空耳さんは、そういう風に見てたんだ」


『もちろんじゃ』


「いや、なんか……」


魔王は少し笑った。


「俺、ずっと魔王らしいこと何もしてないと思ってた」


『何をもって魔王らしいとするかじゃ』


「普通はさ」


魔王は指を一本立てた。


「勇者を倒したり」


二本目。


「世界征服を企んだり」


三本目。


「魔王城を作ったり」


そして四本目。


「部下に命令したり」


空耳は少し考えてから答えた。


『お前は全部やっておるではないか』


「やってないよ」


『勇者は倒しておる』


「……倒してるけど、笑わせたり混乱させたりしてるだけだよ」


『それでも戦いを止めておる』


「まあ……」


『世界征服は?』


「便利屋の仕事で忙しい」


『魔王城は?』


「一軒家」


『部下への命令は?』


「みんな仲間だから命令したくない」


空耳がしばらく黙った。


『……なるほど』


「何?」


『今のお前が、かなり魔王らしい』


「どこが?」


『普通の魔王なら、勇者を倒して終わりじゃ』


「うん」


『しかしお前は、勇者を倒さず、仲間にしておる』


「……」


『そして、その者たちの得意分野を見つけておる』


魔王は少しだけ起き上がった。


「得意分野……?」


『料理が得意な勇者』


「いたな」


『掃除が得意な勇者』


「いた」


『ゴルフを教えるのが得意な勇者』


「いたな……」


『野球が得意な勇者』


「それはプロだから」


『ゲームが得意な勇者』


「それもプロゲーマーだった」


『警察官として人を守るのが得意な勇者』


「……」


魔王は黙った。


確かに。


最近、魔王軍にはいろいろな人間が集まっている。


勇者になろうとしていた者。


勇者として魔王を倒そうとした者。


しかし魔王に攻撃を止められ、自分の本当の得意分野に気づいていった者。


魔王はそれを思い出した。


「……そう考えると、俺たちって結構変な集団だよね」


『魔王軍じゃ』


「それはそうだけど」


『そろそろ頃合いじゃのう』


空耳の声が、少しだけ低くなった。


「何が?」


『役割をはっきりさせよう』


魔王は首を傾げた。


「役割?」


『そうじゃ』


「誰の?」


空耳は即答した。


『魔王軍のだ』


「……魔王軍の役割?」


『そうじゃ』


魔王はベッドの上で正座した。


「今まで決めてなかったの?」


『なんとなく決まっておった』


「なんとなく?」


『勇者は勇者』


「うん」


『料理人は料理人』


「うん」


『掃除が得意な者は掃除』


「うん」


『野球選手は野球』


「……まあ、そうだね」


『しかし、正式な役割として整理してはいない』


魔王は腕を組んだ。


「確かに」


『魔王軍なのだから、そろそろ役割が必要じゃ』


「……」


魔王は少し考えた。


「じゃあ、まず俺は?」


空耳は間髪入れずに言った。


『魔王』


「それは決まってるでしょ」


『では魔王じゃ』


「説明になってないよ」


『魔王とは魔王じゃ』


「空耳さん、たまに説明を放棄するよね」


『忘れた』


「何を?」


『今、何を説明しようとしていたか』


「またかよ」


魔王はため息をついた。


しかし、すぐに空耳が続けた。


『まあ、お前は魔王軍の中心じゃ』


「……中心」


その言葉を聞いて、魔王は少しだけ嬉しくなった。


「じゃあ、次は?」


『お母さんじゃ』


「母さん?」


『母さんは魔女だ』


「……」


魔王は瞬きをした。


「母さん?」


『魔女じゃ』


「名前はそうだけど」


『うむ』


「魔法使えるようになるの?」


『知らん』


「知らないのかよ!」


魔王はベッドから飛び起きた。


「ちょっと母さんを呼んでくる」


『今からか?』


「今からだよ」


魔王は部屋を出た。


廊下を歩いて、両親の部屋へ向かう。


コンコン。


「母さん、起きてる?」


「起きてるわよ」


「ちょっといい?」


「どうしたの?」


魔王がドアを開ける。


母親はベッドに腰掛けていた。


魔王は真面目な顔で言った。


「母さん、魔法使えるらしいよ」


母親は固まった。


「……私が?」


「空耳さんが言ってる」


『こんばんは』


「こんばんは」


母親は当然のように空耳へ挨拶した。


もう慣れている。


「それで、私が魔法使えるの?」


『可能性はある』


「じゃあ!」


母親の目が輝いた。


「お化粧する魔法と!」


「……」


「お掃除をする魔法と!」


「……」


「美肌の魔法と!」


「……」


「料理する魔法と!」


「……」


「空を飛べる魔法と!」


「……」


「食器を洗う魔法と!」


魔王は黙って母親を見た。


母親はさらに続ける。


「洗濯する魔法!」


「庭の草を自動で抜く魔法!」


「布団を干す魔法!」


「冷蔵庫の中身を確認する魔法!」


「買い物に行かなくても食材が届く魔法!」


「肩こりを治す魔法!」


「髪を乾かす魔法!」


「靴を磨く魔法!」


「家中のほこりを全部消す魔法!」


「あと――」


『ちょっと待って』


空耳が止めた。


母親が振り向く。


「何?」


『存在しない魔法が多い』


「え?」


『そして、要らない魔法も多い』


母親は少し不満そうな顔をした。


「要らない?」


『うむ』


「全部魔法で出来たら良いのに」


『人間は便利を求めすぎじゃ』


「空耳さんにだけは言われたくないわね」


「母さん、それは俺も思う」


『なぜじゃ』


「だって空耳さん、魔法の話をしながら便利なことばっかり考えてるじゃん」


『……』


空耳が黙る。


母親が笑った。


「ほら」


『いや、わしは魔王軍の構成を考えておるだけじゃ』


「じゃあ、母さんは何役なの?」


空耳は答えた。


『お母さんは、回復役が良いな』


魔王は頷いた。


「俺もそう思う」


母親は少し驚いた。


「回復役?」


『そうじゃ』


「私が?」


『魔王軍には回復役が必要じゃ』


母親は腕を組んだ。


「……確かに」


魔王も頷く。


「勇者候補がこれだけ増えてくると、怪我した時に困るし」


『お前自身も無茶をするからのう』


「俺は無茶してないよ」


『世界チャンピオンが何を言っておる』


「それは昔の話!」


母親が笑った。


「じゃあ、私が魔王軍の回復役ね」


『うむ』


「でも」


母親が人差し指を立てた。


「回復だけじゃなくて、美肌もできる?」


『……』


魔王が吹き出した。


「母さん、まだ諦めてなかったの?」


「だって便利じゃない」


『……研究すれば可能かもしれん』


「空耳さん、乗るなよ!」


母親は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、魔法の練習してみようかな」


「本当に使えるの?」


『やってみれば分かる』


「どうやるの?」


空耳は少し考えた。


『まず、手を前に出せ』


母親が手を前に出す。


『そして、回復したいと思え』


母親は目を閉じた。


「回復したい……」


何も起きない。


「……」


「……」


『……』


母親が目を開けた。


「何も起きないけど?」


『まだ力が足りんのかもしれん』


「じゃあ、もっと強く!」


母親は両手を前に出した。


「回復したい!」


何も起きない。


「回復したい!」


何も起きない。


「ものすごく回復したい!」


何も起きない。


魔王が言った。


「母さん、何を回復したいの?」


「……」


母親が考える。


「肩」


「そこ?」


「最近ちょっと凝ってるのよ」


魔王は苦笑した。


「自分を回復したいんじゃん」


『それも立派な回復魔法じゃ』


「そうなの?」


『回復魔法は対象が自分でも他人でもよい』


「じゃあ母さん、自分を回復できるの?」


『知らん』


「また知らないのかよ!」


母親は肩を回した。


「でも、なんとなく温かくなってきた気がする」


「え?」


魔王が母親を見る。


母親の手の周りに、ほんの少しだけ淡い光が浮かんだ。


「……光った?」


魔王が目を見開く。


空耳も黙っている。


「空耳さん?」


『……』


「どう?」


『使えるようじゃ』


「本当に?」


『うむ』


母親は自分の手を見つめた。


小さな光。


それは次第に消えていった。


母親は嬉しそうに笑った。


「私、本当に魔法使えるんだ」


魔王も笑った。


「すごいじゃん、母さん」


母親は少し照れながら言った。


「じゃあ、これから魔王軍の回復役ね」


『そうじゃ』


「分かった」


母親は胸を張った。


「じゃあ、みんなが怪我したら私が治す」


魔王は頷いた。


「うん」


そして少し考えてから言った。


「でも……」


「何?」


「できれば、みんな怪我しないようにしよう」


母親は笑った。


「そうね」


空耳が静かに言った。


『それがお前らしい』


魔王は少し照れた。


「……魔王なんだけどね」


『だからこそじゃ』


その夜。


魔王は初めて思った。


自分が魔王になるということは。


誰かを倒すことではないのかもしれない。


誰かを従わせることでもない。


それぞれの得意なことを見つけて。


それぞれの役割を与えて。


困った時には助け合う。


そんな集団を作ることなのかもしれない。


魔王は再びベッドに横になった。


「空耳さん」


『なんじゃ』


「魔王軍って……結構いいチームになってきたね」


『そうじゃな』


「明日、みんなの役割も決めよう」


『うむ』


「勇者だった人たちも」


『もちろんじゃ』


「便利屋として働いてくれてる人たちも」


『うむ』


「料理の人も」


『うむ』


「掃除の人も」


『うむ』


「ゴルフの人も」


『うむ』


「野球の人も」


『うむ』


「ゲームの人も」


『うむ』


「警察官の人も」


『うむ』


魔王は満足そうに頷いた。


「なんか……」


少し間を置いて。


「魔王軍っていうより、会社みたいになってきたな」


『魔王軍株式会社』


「嫌だよ」


『便利屋部門』


「それ完全に今の仕事じゃん」


『人事部門』


「誰がやるの?」


『お前じゃ』


「嫌だよ!」


『社長』


「もっと嫌だ!」


魔王は布団をかぶった。


「もう寝る」


『おやすみ』


「空耳さんも寝て」


『わしには睡眠という概念が――』


「じゃあ静かにして」


『……』


「……」


しばらくして。


『魔王』


「何?」


『魔王軍のロゴはどうする?』


「寝かせてくれ!」


夜の魔王の家に、魔王の叫び声が響いた。


しかし。


その声を聞いた母親は、布団の中で笑っていた。


そして翌朝。


魔王軍には、正式な「役割」が与えられることになる。


それは、普通の魔王軍では絶対に存在しないような役割ばかりだった。

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