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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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勇者、ゴルフを教える

魔王便利屋事務所。


そこは、魔王が経営する便利屋である。


そして同時に――。


最近では、勇者がなぜか才能を発見して帰っていく場所にもなっていた。


掃除が得意な勇者。


料理が得意な勇者。


野球が得意な勇者。


剣を抜くのが少し苦手な勇者。


そして、そのたびに魔王軍は思っていた。


「ここ、本当に便利屋なのか?」


しかし、誰も答えを出せない。


なぜなら、経営者本人である魔王が一番分かっていなかったからだ。


その日も魔王便利屋事務所では、魔王軍がのんびりしていた。


勇気がソファに座りながら言った。


「魔王様、今日は依頼ありませんね」


「そうだな」


「平和ですね」


「うん。俺はこのまま平和に暮らしたい」


魔王がそう言った瞬間だった。


――ピンポーン。


全員が止まった。


勇気がゆっくり立ち上がる。


「……来ましたね」


「何が?」


「勇者です」


「いや、まだ分からないだろ」


「この流れで普通のお客さんが来るとは思えません」


「偏見だぞ」


魔王軍全員が玄関を見る。


魔王がため息をついた。


「まあ、俺が出るよ」


魔王が玄関へ向かう。


そして扉の向こうから聞こえてきた。


「こんにちはー!」


男の声だった。


魔王が扉越しに聞く。


「どちら様ですか?」


「ゴルフクラブのご案内です!」


魔王軍が顔を見合わせた。


「……ゴルフ?」


玄関の外にいたのは、ゴルフウェアを着た男だった。


帽子。


ポロシャツ。


ゴルフパンツ。


そして肩には大きなゴルフクラブケース。


いかにもゴルファーという格好である。


男は明るく言った。


「突然すみません! 新しいゴルフクラブをお持ちしまして!」


「営業か」


勇気が小声で言う。


「勇者じゃない可能性もありますね」


別の魔王軍が頷く。


「普通に営業マンかもしれない」


「最近は勇者ばかりだったからな」


「今回は本当に営業かもしれません」


魔王も頷いた。


「そうだな。営業の人かもしれない」


すると男が続けた。


「もしよかったら、ゴルフクラブ触ってみませんか?」


「触る?」


「はい!」


男は笑顔で言った。


「スイングしてもいいですよ!」


魔王軍が一斉に固まった。


「……」


「……」


「……」


勇気が魔王を見る。


魔王も勇気を見る。


そして魔王軍全員が同時に言った。


「勇者だな」


「だから、まだ分からないって」


魔王が言う。


「営業かもしれないだろ」


「魔王様」


勇気が真剣な顔をした。


「ゴルフクラブのスイングは速いので気を付けてください」


「いや、営業マンだったらそんなもの振り回さないだろ」


「でも、勇者なら振り回します」


「それはそうだけど……」


魔王は玄関の扉に手をかけた。


そして振り返る。


「とりあえず、話だけ聞いてみよう」


「お気をつけて!」


「はいはい」


魔王が扉を開けた。


「こんにちは」


「どうも!」


ゴルフウェアの男が笑顔で頭を下げた。


「今日はですね、こちらの新型――」


男がゴルフクラブケースを開ける。


魔王軍が息をのむ。


「……」


男が一本のクラブを取り出す。


魔王の目が細くなった。


――この男。


何かがおかしい。


ただの営業マンではない。


男がクラブを握った。


その瞬間。


魔王は微笑んだ。


「……」


魔王の笑顔。


笑いの呪い。


男が突然、


「……ぷっ」


笑った。


「ふふ……」


「?」


魔王軍が見守る。


男は肩を震わせ始めた。


「ははははは!」


「来た!」


勇気が叫ぶ。


「勇者だ!」


男は笑いながらクラブを構えた。


「ははははは!」


ブンッ!


ものすごい音がした。


「うわっ!」


魔王が横へステップする。


ブンッ!


クラブが空を切った。


魔王は一歩後ろへ下がる。


「速いな」


男は笑いながら再び振った。


ブンッ!


魔王が横へ動く。


ブンッ!


さらにかわす。


「魔王様!」


「大丈夫!」


魔王は冷静だった。


「でも、笑ってるのに、スイングはすごく真剣だな」


男は笑いながらクラブを振る。


「ははははは!」


「笑いながらゴルフするな!」


勇気が叫ぶ。


魔王はクラブの軌道を見ながら、体をわずかにずらす。


ブンッ!


またかわす。


そして魔王は思った。


(やっぱり……)


魔王が男を見る。


「君」


「はははは!」


「営業じゃないだろ」


男が笑いながら答える。


「ははははは!」


魔王は一瞬ためらった。


そして――。


魔王の睨み。


男の動きが止まった。


ピタッ。


ゴルフクラブを振りかぶった姿勢のまま固まる。


静寂。


魔王軍が小声で言う。


「……やはり」


「勇者だった」


魔王はため息をついた。


「やっぱり勇者だったか」


男は動けない。


魔王は腕を組む。


「どうして営業マンのふりをして、ゴルフクラブを振り回すんだよ」


勇者は動かない。


魔王軍が答える。


「勇者だからです」


「理由になってないだろ」


しばらくすると、笑いの呪いの効果が切れた。


勇者が息を整える。


「……ふう」


そして魔王を見る。


「さすがに、ゴルフクラブのスイングはかわせないと思ったが……」


魔王は苦笑する。


「危なかったよ」


「魔王は強いな」


「いや、俺は避けただけだ」


「それが強いんですよ」


「そうか?」


勇者はゴルフクラブをケースに戻した。


魔王は少し考える。


そして――。


「混乱しろ」


魔王軍が一斉に顔を上げる。


「出ました!」


勇者が首をかしげる。


「……?」


そして、ゴルフクラブケースを肩に担いだ。


「では……」


勇者は玄関から外へ出ていった。


魔王が見送る。


「どこへ行くんだ?」


「分かりません」


勇気が言う。


「混乱しています」


「そうだな」


外から音が聞こえてきた。


――ブンッ!


――ブンッ!


――ブンッ!


魔王軍が顔を見合わせる。


「……スイングしてる」


「何してるんだ?」


魔王は玄関から外を覗いた。


勇者は庭に立っていた。


そして何度もゴルフクラブを振っている。


ブンッ!


ブンッ!


ブンッ!


「……」


魔王軍もそっと外を覗く。


勇者が振り返った。


そして、笑顔で言った。


「皆さん!」


「はい?」


「ゴルフレッスン、受けませんか?」


魔王軍全員が黙った。


そして勇気が小声で言った。


「混乱したな」


「完全に混乱してる」


「でも……」


魔王軍の一人がゴルフクラブを見る。


「せっかくだから、受けてみるか?」


勇気が頷く。


「俺、ゴルフやったことないです」


「私も」


「俺も」


魔王が言った。


「……俺もない」


全員が勇者を見る。


勇者は満面の笑みだった。


「大丈夫です!」


「なんでそんなに自信あるんだ」


「まずは構えからです!」


勇者は地面に立つ。


「足は肩幅くらい」


魔王軍が真似する。


「クラブはこう持ちます」


全員がクラブを握る。


「そして、力を入れすぎない」


魔王は真剣に聞いている。


「なるほど」


勇気も真剣だ。


「魔王様、これは便利屋の仕事に使えますか?」


「何に使うんだよ」


「ゴルフの依頼が来たときに」


「そんな依頼あるのか?」


「分かりません」


「分からないのかよ」


勇者が続ける。


「では、ゆっくり振ってみましょう!」


魔王軍が一斉に振る。


――ブン。


「おお!」


勇気が喜ぶ。


「振れました!」


「当たり前だ」


「もう一回!」


――ブン!


――ブン!


――ブン!


最初はぎこちなかった。


しかし、勇者は丁寧に教えた。


「もっと肩の力を抜いて」


「はい!」


「腕だけで振らず、体全体を使って」


「こうですか?」


「そうです!」


「魔王様、うまい!」


「そうか?」


「綺麗です!」


魔王は少し嬉しそうだった。


「じゃあ、もう一回」


ブンッ!


「いいですね!」


「魔王様、ゴルフ向いてますよ」


「本当か?」


「はい!」


勇者は魔王軍一人一人を見ていく。


「あなたは少し手に力が入りすぎています」


「こう?」


「そうです」


ブンッ!


「おお!」


「綺麗です!」


「本当だ!」


別の魔王軍も振る。


「どうですか?」


「もっと腰を――」


ブンッ!


「いい!」


魔王軍がどんどん上達していく。


最初はただクラブを振っていただけだった。


それが、いつの間にか全員が真剣になっていた。


「もう一回!」


「はい!」


「今度はもっと綺麗に!」


「はい!」


ブンッ!


ブンッ!


ブンッ!


庭にスイング音が響く。


魔王も夢中になっていた。


「もう一回やってみよう」


「魔王様、フォーム綺麗ですよ」


「本当?」


「はい!」


勇者も見本を見せる。


「こうです」


ブンッ!


「おお……」


「速い!」


「これがプロのスイングか!」


「いや、私はプロじゃないですよ」


「じゃあ勇者のスイングか」


「それも違います」


「じゃあ何だ?」


「ゴルフの先生を目指している人のスイングです」


「もう目指し始めてるのかよ」


魔王がツッコむ。


しかし勇者は止まらない。


「では、次は実際にボールを打ってみましょう!」


「おお!」


魔王軍の目が輝いた。


ボールを置く。


勇者が構える。


「ゆっくり」


魔王軍が構える。


「目線はボール」


全員がボールを見る。


「そして――」


カンッ!


ボールが飛んだ。


「おおお!」


魔王軍から歓声が上がる。


「飛んだ!」


「ちゃんと飛んだ!」


「すごい!」


次々に打っていく。


最初は左右に飛んでいた。


しかし勇者が一人一人にアドバイスする。


「少し体が早く開いてます」


「はい!」


「もう少しだけ頭を残して」


「はい!」


カンッ!


「真っ直ぐ!」


「やった!」


「すごいです!」


魔王もボールを打つ。


カンッ!


ボールが真っ直ぐ飛んでいく。


「……」


魔王軍が黙る。


「どうした?」


勇気が言った。


「魔王様……」


「何?」


「めちゃくちゃ綺麗です」


「そうなの?」


「真っ直ぐです」


「へえ」


魔王は嬉しそうだった。


そして勇者も何度も見本を見せる。


カンッ!


カンッ!


カンッ!


「すごい!」


「やっぱり上手い!」


「教えるのも上手い!」


「先生向いてるんじゃないか?」


勇者は笑顔で言った。


「そうですか?」


魔王が頷く。


「うん」


「じゃあ、もう一回!」


「まだやるの?」


「はい!」


――ブンッ!


――ブンッ!


――ブンッ!


気づけば夕方になっていた。


庭にはゴルフボールが転がっている。


魔王軍は全員、汗だくだった。


「疲れた……」


勇気が地面に座り込む。


「腕が……」


「私も……」


魔王も肩を回す。


「ゴルフって、結構疲れるんだな」


勇者は笑っている。


「でも皆さん、すごく上手になりましたよ」


「本当?」


「はい」


そして、その瞬間。


勇者の表情が変わった。


「……あれ?」


「ん?」


勇者が周囲を見る。


「俺は……」


魔王軍が静かになる。


勇者が自分の手にあるゴルフクラブを見る。


「俺は何をしていたんだ?」


魔王が答える。


「君は俺たちにゴルフを教えてた」


「……俺が?」


「そう」


「なんで?」


「俺が混乱させたから」


「混乱?」


勇者は頭を抱える。


「俺……魔王を倒しに来たはずなんだけど」


魔王は頷いた。


「うん」


「それが……」


勇者は庭を見る。


大量のゴルフボール。


疲れ切った魔王軍。


汗だくの自分。


「ゴルフレッスンをしていた?」


「そう」


「……」


勇者はしばらく黙った。


そして魔王軍の一人が言った。


「でも、あなた」


「はい?」


「ゴルフを教えるの、すごく上手ですね」


「……そうですか?」


「はい」


「説明も分かりやすかったです」


「一人一人ちゃんと見てくれました」


「褒め方も上手でした」


「また教えてほしいです」


勇者は考え込んだ。


そして、ぽつりと言った。


「……勇者、向いてないのかな」


魔王が答える。


「うん」


「即答ですか」


「だって、俺を倒すどころか、俺たちにゴルフ教えてたから」


「……」


勇者は苦笑した。


「じゃあ……」


少し考えてから、顔を上げる。


「勇者は諦めて、ゴルフの先生でも目指すか」


魔王は即答した。


「その方がいい」


「そんなにですか?」


「うん」


「魔王様!」


勇気が割って入る。


「この人、ゴルフの先生になったら絶対人気出ますよ」


「そうだな」


「教え方が上手ですから」


「それに――」


別の魔王軍が言った。


「俺たち、もう一度教えてもらいたいです」


勇者は笑った。


「じゃあ……本当に目指してみようかな」


魔王が言う。


「頑張れ」


「ありがとうございます」


勇者はゴルフクラブをケースに戻した。


そして深々と頭を下げる。


「今日はありがとうございました」


「こちらこそ」


「また来てもいいですか?」


魔王軍が一斉に答えた。


「ぜひ!」


魔王だけが少し考えた。


「……まあ、ゴルフなら」


「ありがとうございます!」


こうして勇者は帰っていった。


しかし――。


魔王軍はその場から動かなかった。


勇気が言う。


「魔王様」


「何?」


「打ちっぱなし、行きませんか?」


魔王が振り返る。


「……行く?」


「はい」


「みんな?」


「はい!」


結局、その日の夜。


魔王軍全員でゴルフ練習場へ向かうことになった。


もちろん魔王も一緒である。


魔王軍は一人ずつ打席に立つ。


カンッ!


真っ直ぐ。


カンッ!


また真っ直ぐ。


カンッ!


綺麗に真っ直ぐ。


「すごい……」


魔王が呟く。


「全員、ちゃんと飛んでる」


勇気が得意げに言った。


「勇者先生のおかげです」


「そうだな」


魔王も打席に立つ。


クラブを握る。


構える。


そして――。


カンッ!


真っ直ぐ。


ボールは綺麗な放物線を描いて飛んでいった。


魔王軍から拍手が起きる。


「魔王様!」


「ナイスショット!」


「綺麗です!」


魔王は少し照れながらクラブを下ろした。


「……ゴルフ、意外と面白いな」


勇気が笑う。


「また勇者に教えてもらいましょう」


「ああ」


魔王は練習場を見渡した。


そして、ふと呟く。


「……」


「どうしました?」


魔王は真顔になった。


「勇者の方が便利屋になってないか?」


魔王軍が一斉に黙った。


「……」


「……確かに」


「掃除して」


「料理して」


「野球して」


「ゴルフまで教えて」


勇気が指を折りながら数える。


「最近の勇者、魔王を倒す仕事より、人の役に立つ仕事ばかりしてますね」


魔王はため息をついた。


「俺、何なんだろうな」


すると魔王軍が答えた。


「魔王です」


「……そうだった」


魔王は苦笑した。


そしてもう一度、ゴルフクラブを握る。


「じゃあ、もう一球打つか」


「はい!」


夜のゴルフ練習場に、


――カンッ!


という気持ちのいい音が響いた。


魔王軍は楽しそうに笑っていた。


魔王も笑っていた。


そして誰も、


「ここに勇者が魔王を倒しに来た」


などとは思っていなかった。


むしろ――。


「次はドライバーを教えてもらおう」


「俺はアプローチもやりたいです!」


「パターも!」


「魔王様、今度みんなでコース行きましょう!」


「……」


魔王はクラブを握ったまま固まった。


「コース?」


魔王軍が頷く。


「はい!」


魔王は空を見上げた。


「……俺、魔王なのにゴルフ始めちゃったよ」


その横で勇気が笑う。


「平和でいいじゃないですか」


「……まあ、そうだな」


魔王は少しだけ笑った。


「勇者を倒すよりは、ずっといい」


その夜、魔王便利屋事務所の一番新しい仕事は――


「ゴルフの練習相手」


になった。今回は「勇者の才能発掘」という流れをさらに強めつつ、最後に魔王軍までゴルフにハマる形にしました。次は「勇者が便利屋の仕事そのものを依頼される」方向へ広げても、かなり遊べます。

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