↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/168

魔王、勇者に家を掃除してもらう

魔王の家。


普通の一軒家である。


魔王が住んでいるから「魔王の城」と呼ばれているだけで、外観はいたって普通だ。


庭があり、玄関があり、リビングがあり、台所がある。


そして――


「……ちょっと汚れてきたな」


魔王はリビングを見回した。


先日の野球の練習以来、家の中に細かい砂が入り込んでいる。


廊下の隅にはほこり。


テレビ台の下にも何かが溜まっている。


窓のサッシには細かいゴミ。


魔王は腕を組んだ。


「掃除しないとな」


勇気が言った。


「魔王様、最近忙しかったですからね」


「うん」


「魔王軍も手伝いますよ」


「ありがとう」


魔王は掃除道具を見た。


掃除機。


雑巾。


箒。


モップ。


「でも、細い隙間とか掃除難しいんだよね」


「分かります」


そのときだった。


ピンポーン。


全員が玄関を見る。


魔王は嫌な予感がした。


「……」


空耳さんが言う。


『勇者じゃ。』


「なんで毎回分かるの?」


『わしの勘じゃ。』


「信用できるの?」


『半分くらい。』


「微妙だな……」


魔王が玄関へ向かう。


ガチャ。


ドアを開けた。


そこに立っていたのは――


清掃員だった。


作業服。


帽子。


腰には掃除道具。


手には箒。


魔王は首をかしげた。


「……清掃員?」


清掃員は無言だった。


そして――


箒を高く振り上げた。


「!」


魔王軍が叫ぶ。


「勇者だ!」


「やっぱり!」


清掃員は箒を構えた。


「魔王!」


「はい」


「今日こそ――」


魔王は先に笑った。


ニコッ。


「……」


清掃員の顔が引きつる。


「フッ……」


「……」


「フフ……」


「……」


「ハハハハハ!」


清掃員は突然、大笑いした。


「ハハハハハハ!」


箒を振り上げたまま、笑い続ける。


魔王軍は慣れた様子で時計を見る。


「一分間!」


「はい!」


「長いな……」


魔王は少し離れて見守る。


やがて一分が経つ。


「……はぁ……」


清掃員が息を整える。


「魔王……!」


魔王は睨んだ。


ギロッ。


「……!」


清掃員が完全に停止する。


「動けない……」


「うん」


「これが……魔王の睨み……」


「そう」


魔王が視線を戻す。


「もう動いていいよ」


清掃員が動き出した。


そして魔王は一言。


「混乱しろ」


「……」


清掃員の目が泳ぐ。


「……」


「……」


突然、清掃員は箒を持ったまま――


床を見た。


「……」


そして、しゃがみ込んだ。


サッ。


サッ。


サッ。


箒を動かし始める。


「……?」


魔王が首をかしげる。


「掃除してる」


勇気が言った。


「本当に?」


「はい」


清掃員は無言で床を掃き続ける。


サッ。


サッ。


サッ。


やがて――


「ここ、汚れていますね」


「え?」


清掃員は廊下へ移動した。


サッ。


サッ。


「ここも」


サッ。


サッ。


「こっちも」


魔王軍が顔を見合わせる。


「掃除が始まった……」


「すごい集中力だ」


「勇者なのに?」


「勇者だからこそ?」


魔王は考えた。


「……せっかくだし、掃除してもらおうか」


「魔王様!?」


「混乱してるんだから、今のうちに」


魔王軍の一人が手を上げた。


「じゃあ、ここお願いします!」


「はい」


清掃員はすぐに動いた。


「テレビの裏!」


「はい」


「窓!」


「はい」


「廊下!」


「はい」


「階段!」


「はい」


「玄関!」


「はい」


清掃員はものすごい勢いで掃除を始めた。


魔王軍はすっかり掃除の指示係になっていた。


「そこです!」


「はい!」


「もう少し右!」


「はい!」


「その隅!」


「はい!」


「そこ、ほこりがあります!」


「分かりました!」


魔王はその様子を見ていた。


「……」


掃除が上手い。


ものすごく上手い。


しかも動きに無駄がない。


掃除機をかける。


雑巾で拭く。


箒で掃く。


窓を磨く。


棚を整理する。


「この人、本当に清掃員なんじゃない?」


勇気が言った。


「たぶん勇者です」


「でも掃除してる」


「はい」


魔王は台所を見た。


そしてふと思い出す。


「そういえば……」


魔王はテレビ台の横を指差した。


「細い隙間とか掃除難しいんだよね」


清掃員が振り向いた。


「どこですか?」


「ここ」


魔王が指を差す。


家具と壁の間。


掃除機のヘッドが入らないほど細い。


「こういうところ」


清掃員はしゃがみ込んだ。


「なるほど」


そして掃除道具を取り出した。


細長いブラシ。


「これを使います」


「それ何?」


「隙間用のブラシです」


清掃員は細い隙間にブラシを入れる。


スッ。


サッ。


サッ。


「こうすれば綺麗になりますよ」


「おお……」


「奥から手前に出すと、ゴミが取りやすいです」


「なるほど」


「無理に掃除機を入れると傷つけることもあるので、こういう場所は専用のブラシが便利です」


魔王は感心した。


「詳しいな」


「掃除が好きなので」


「へえ」


魔王は笑った。


「俺、掃除苦手なんだよね」


清掃員は笑った。


「大丈夫です。コツを覚えれば簡単ですよ」


「教えてよ」


「もちろん」


こうして――


魔王は掃除の講習を受け始めた。


「まず、上から下です」


「上から下?」


「上のほこりを先に落とすんです」


「なるほど」


「床を先に掃除すると、また汚れますから」


「確かに」


魔王軍も集まってきた。


「じゃあ窓は?」


「上から下です」


「棚は?」


「上から下」


「階段は?」


「上から下」


勇気が笑った。


「全部、上から下ですね」


清掃員は真剣に答えた。


「基本です」


魔王は感心した。


「勇者なのに掃除のプロだな」


「勇者なのに?」


「いや、褒めてる」


「ありがとうございます」


掃除は続いた。


リビング。


廊下。


台所。


階段。


玄関。


二階。


窓。


ベランダ。


庭。


家中がどんどん綺麗になっていく。


魔王軍は途中から完全に仕事を任せていた。


「ここお願いします!」


「はい!」


「こっちも!」


「はい!」


「その棚の裏!」


「分かりました!」


「庭の隅も!」


「任せてください!」


魔王は掃除の様子を見ながら呟いた。


「……すごい」


勇気が言った。


「魔王様」


「何?」


「この人、勇者やめて清掃会社に就職したほうがいいんじゃないですか?」


「俺もそう思う」


そして数時間後。


――家は見違えるほど綺麗になっていた。


床はピカピカ。


窓は透明。


棚も整理されている。


玄関も綺麗。


庭も整っている。


魔王はリビングを見回した。


「……」


「……」


「すごい」


魔王軍も感動していた。


「こんなに綺麗だったんですね」


「前がどれだけ汚かったんだよ」


「魔王様の家、広く感じます」


魔王は笑った。


「俺もそう思う」


そのとき――


清掃員が立ち上がった。


「……あれ?」


「どうしたの?」


魔王が振り返る。


清掃員は辺りを見回していた。


「俺……」


「うん」


「何してたんだ?」


魔王は答えた。


「掃除してた」


「……」


「君が」


清掃員は自分の手を見る。


箒。


雑巾。


ブラシ。


そして、ものすごく疲れている。


「……」


「疲れた?」


「ものすごく……」


清掃員はその場に座り込んだ。


「俺……魔王を倒しに来たんじゃなかったか?」


「そうだったよ」


「なのに……」


清掃員は家を見回した。


「ずいぶんと家を綺麗にしてますね」


魔王は笑った。


「君がやったんだよ」


「……俺が?」


「うん」


「全部?」


「全部」


清掃員は呆然とした。


「……」


そして窓を見る。


ピカピカだ。


床を見る。


ピカピカだ。


玄関を見る。


ピカピカだ。


「……」


清掃員は深いため息をついた。


「俺に勇者は向いてないかもしれない」


魔王は頷いた。


「そうかもしれないね」


「でも……」


清掃員は少し笑った。


「掃除は楽しかった」


「じゃあ、清掃員の仕事は向いてるんじゃない?」


「……そうかもしれない」


清掃員は立ち上がった。


「もっと鍛えてから、また来る」


魔王は即座に答えた。


「もう来なくていいよ」


「……」


清掃員が少し寂しそうな顔をする。


魔王は家の中を見回した。


ピカピカの床。


ピカピカの窓。


整理された棚。


綺麗な玄関。


そして――


細い隙間まで綺麗になっている。


魔王は考えた。


「……」


そして言い直した。


「いや」


「?」


「やっぱり定期的に来て」


「え?」


「月一くらいで」


「……」


「掃除の仕方も教えてほしい」


清掃員は笑った。


「魔王……」


「うん」


「お前、本当に魔王なのか?」


「一応」


「勇者を倒す気は?」


「ない」


「俺を倒さないのか?」


「掃除してくれる人を倒す理由がないよ」


清掃員は笑った。


「……分かった」


「来てくれる?」


「うん」


「助かる」


「ただし」


「?」


「次は混乱させるなよ」


魔王は苦笑した。


「それは……」


空耳さんが横から言った。


『善処しよう。』


「空耳さん、俺じゃないんだから勝手に約束しないで」


魔王軍が笑う。


清掃員も笑った。


「じゃあ、また来る」


「うん」


清掃員は箒を持って玄関へ向かった。


そして靴を履く。


ドアを開ける。


外へ出る前に、振り返った。


「魔王」


「何?」


「今日は……ありがとう」


「こっちこそ」


「家、綺麗にしておいたから」


「うん」


「また掃除しよう」


「ぜひ」


ドアが閉まった。


静かになった家。


魔王はリビングを見回した。


「……」


勇気が言う。


「魔王様」


「何?」


「家、めちゃくちゃ綺麗になりましたね」


「うん」


「新能力、便利ですね」


「そうだね」


空耳さんが言った。


『しかし、魔王よ。』


「何?」


『混乱の魔法で勇者を掃除好きにするとはな。』


「俺も想定してなかったよ」


『次は何をさせる?』


魔王は首を横に振った。


「いやいや」


「俺は勇者で遊んでるんじゃないよ」


魔王軍が一斉に魔王を見る。


「……」


「……」


「何?」


勇気が言った。


「魔王様」


「うん」


「今日、勇者に家全部掃除してもらいましたよね?」


「……」


「昨日は野球選手と千本ノックしましたよね?」


「……」


「その前はチャーハンを作ってもらいました」


「……」


魔王は少し考えた。


「……」


そして小さな声で言った。


「……結果的には、遊んでるのかな?」


魔王軍が大笑いした。


魔王も笑った。


ピカピカになった魔王の城。


そこは今日も――


勇者を倒す場所ではなく、


勇者の才能を発見する場所になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。