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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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剣を抜こうとする勇者

魔王の家。


今日も平和だった。


リビングでは魔王軍がくつろいでいる。


テレビでは昼の情報番組が流れていた。


「昨日のプロ野球選手、すごかったですね」


勇気が言った。


「うん」


魔王はコーヒーを飲みながら頷いた。


「まさか混乱させた結果、野球の練習を始めるとは思わなかった」


「千本ノックは疲れましたけどね」


「俺も」


魔王は腰をさすった。


すると――


ピンポーン。


全員が玄関を見る。


「……」


魔王がため息をつく。


「また来たか」


空耳さんが言った。


『勇者じゃな。』


「今日は100本にしよう」


勇気が玄関へ向かおうとする。


しかし魔王が手を上げた。


「俺が行く」


玄関を開ける。


そこに立っていたのは、一人の青年だった。


勇者らしい服装。


マント。


革のブーツ。


そして腰には――


立派な剣。


今までの勇者とは違う。


少なくとも、見た目だけならかなり勇者らしい。


青年は魔王を見ると、堂々と宣言した。


「魔王!」


「はい」


「今日こそ、お前を倒す!」


「……」


魔王は剣を見た。


「ちゃんと剣持ってるね」


「当然だ!」


「今までバットとかフライパンだったから」


「俺は本物の勇者だ!」


「そうなんだ」


青年は腰に手を伸ばした。


「では……」


剣の柄を握る。


「我が聖剣を――」


「……」


魔王軍が玄関から見ている。


「抜く!」


青年は力を入れた。


グッ。


「……」


ググッ。


「……」


「抜けない」


魔王が首をかしげる。


「固いの?」


「いや!」


青年はさらに力を入れた。


「こういう時は……!」


グッ!


「…………」


「…………」


青年は突然、ズボンに手をかけた。


魔王が固まった。


「え?」


勇気も固まった。


「え?」


魔王軍全員が固まる。


「ちょっと待って」


青年は真剣な顔をしている。


「何?」


魔王が尋ねる。


「剣を抜く」


「うん」


「だから――」


青年はズボンを脱ごうとする。


「なんで!?」


魔王が慌てて止めた。


「剣はそっちじゃない!」


「え?」


「腰!」


「腰?」


「剣!」


「これ?」


青年は剣の柄を握る。


「そう!」


「……」


青年は考え込んだ。


「でも、抜けない」


「だからズボンを脱ぐんじゃない!」


「じゃあどうするんだ?」


「剣を鞘から抜くんだよ!」


「なるほど!」


青年は納得した。


そして――


もう一度剣の柄を握る。


「こうか!」


グッ!


スポッ!


「抜けた!」


青年が聖剣を高く掲げた。


「見よ! これが俺の聖剣だ!」


魔王軍から拍手が起きた。


「おお!」


「今度はちゃんと勇者っぽい!」


「最初はどうなるかと思った」


魔王は深く息を吐いた。


「危なかった……」


空耳さんが笑う。


『面白い勇者じゃな。』


「笑ってる場合じゃないよ」


青年は剣を構えた。


「魔王! 覚悟しろ!」


「はいはい」


魔王は少し考えた。


「じゃあ……」


空耳さんが言う。


『笑いの呪いを使うか?』


「いや」


魔王は青年を見る。


「まず、普通に話してみよう」


「何?」


「なんで俺を倒しに来たの?」


青年は胸を張った。


「勇者だからだ!」


「理由になってないよ」


「魔王だから倒す!」


「俺、何も悪いことしてないけど」


「魔王だから!」


「それだけ?」


「……」


青年が黙る。


魔王軍も黙る。


勇気が小声で言った。


「もしかして……」


魔王が頷く。


「うん」


「何も知らずに来た?」


「たぶん」


青年が小さな声で言った。


「……魔王って悪いやつじゃないのか?」


魔王は答えた。


「少なくとも、君のズボンを脱がせるような魔王ではないよ」


「それは分かってる!」


「ならよかった」


青年は少し恥ずかしそうに剣を下ろした。


「……さっきのことは忘れてくれ」


「うん」


「絶対だぞ」


「うん」


「魔王軍も」


「はい」


「空耳さんも」


『無理じゃな。』


「空耳さん!」


魔王が頭を抱えた。


しかし青年は気を取り直した。


「とにかく!」


再び剣を構える。


「戦う!」


「やっぱり戦うの?」


「勇者だからな!」


魔王はため息をついた。


「じゃあ、新能力を使うか」


「新能力?」


「うん」


青年が警戒する。


「どんな能力だ?」


魔王はニコッと笑った。


青年の顔が引きつる。


「……」


「……」


「……」


「笑わないぞ!」


「もう警戒してる」


「絶対に笑わない!」


魔王がもう一度笑う。


ニコッ。


「……」


青年の口元が震えた。


「フッ……」


「効いてきた?」


「効いてない!」


「フフ……」


「やめろ!」


「ハハ……」


「……!」


「ハハハハハハ!」


青年は大笑いし始めた。


「またか!」


魔王軍が笑う。


「始まった!」


「一分間だ!」


青年は剣を持ったまま笑い続ける。


「ハハハハハ!」


「剣、危ないから置こうか」


「ハハハ……分かった!」


青年は剣を鞘に戻した。


魔王は少し安心した。


一分が経つ。


「……はぁ……」


青年が息を整える。


「今度こそ!」


魔王は睨んだ。


ギロッ。


「……!」


青年が停止した。


「……」


「動けない?」


「……」


「うん」


「……」


「じゃあ、最後に」


魔王は一言。


「混乱しろ」


青年の目が泳いだ。


「……」


「……」


青年は突然、自分の腰を見る。


「……」


そして――


剣の柄に手を伸ばした。


魔王が警戒する。


「また剣を抜くのか?」


青年は真剣な顔で言った。


「剣を……」


「うん」


「抜くには……」


「うん」


「ズボンを……」


魔王が即座に叫んだ。


「違う!」


「えっ!?」


「そこはもう間違えるな!」


魔王軍が一斉に笑い出した。


「混乱してる!」


「完全に最初に戻った!」


青年は混乱したまま頭を抱える。


「剣を抜く……ズボン……剣……ズボン……」


「なんでその二つがセットになってるんだよ!」


空耳さんが大笑いする。


『実に見事な混乱じゃ!』


「空耳さん、楽しんでるでしょ!」


青年はしばらく悩んでいた。


そして突然――


「分かった!」


魔王が身構える。


「何?」


青年は剣を鞘から抜いた。


「こうだ!」


「そう!」


「これが正しい!」


「最初からそれでいいんだよ!」


青年は剣を掲げた。


「……」


そして少し考える。


「ところで魔王」


「何?」


「俺、何をしに来たんだ?」


「俺を倒しに来たんだよ」


「そうだった!」


青年は驚いた。


「じゃあ戦う!」


「……」


魔王は頭を抱えた。


「混乱の効果、切れたの?」


空耳さんが言った。


『もう少しじゃ。』


魔王は青年を見た。


「じゃあ、もう一回混乱させようか?」


「いや!」


青年は即答した。


「もういい!」


「そう?」


「十分だ!」


青年は剣を鞘に戻した。


そして深々と頭を下げた。


「今日は帰る!」


「うん」


「魔王!」


「何?」


「次に来るときは、ちゃんと剣の抜き方を覚えてくる!」


「いや、俺に言うことじゃないだろ」


「じゃあな!」


青年は走って帰っていった。


魔王は玄関先で見送る。


「……」


勇気が横に立つ。


「魔王様」


「何?」


「今日の勇者……」


「うん」


「最初から最後まで、剣よりズボンのほうが目立ってましたね」


「……」


魔王は苦笑した。


「忘れよう」


空耳さんが言った。


『わしは覚えておくぞ。』


「空耳さんは忘れて」


『無理じゃ。』


魔王軍が笑う。


魔王も笑った。


「……しかし」


魔王はふと思った。


「勇者って、もっと格好いいものじゃなかったのか?」


勇気が答えた。


「魔王様も最初からずっと普通の一軒家に住んでますからね」


「それもそうか」


魔王は庭を眺めた。


魔王の城。


普通の一軒家。


そしてそこへやって来る勇者たち。


バットを持ったプロ野球選手。


チャーハンを作る勇者。


そして――


剣を抜くのにズボンを脱ごうとした勇者。


魔王は小さく笑った。


「……勇者って、面白いな」


『お前が言うな。』


「なんで?」


『一番おかしいのは魔王じゃ。』


「俺は普通だよ」


魔王軍全員が首を横に振った。


「いや、それはないです」


「なんでだよ!」


魔王の家に笑い声が響いた。


今日もまた、


魔王の城は平和だった。

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