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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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魔王の能力、再設定会議

 その夜。


 魔王は自分の部屋のベッドに座っていた。


 右腕には包帯が巻かれている。


 昼間、勇者レオンに剣で斬られた傷だ。


「……痛い」


 魔王は包帯を見つめた。


「便利屋を始めたはずなのに、何で剣で斬られてるんだよ」


 しばらく黙っていたが、やがていつものように天井を見上げた。


「空耳さん」


『何だ?』


「いたのかよ」


『呼んだだろ』


「まあいいや」


 魔王は腕を上げた。


「空耳さん、ちょっと相談がある」


『言ってみろ』


「魔王って、キックボクサーなの?」


『……』


「俺は、ただの優しい元キックボクサーなんだけど」


『……』


「今日、剣で斬られて腕に切り傷ができたんだけど」


『……』


「このままで良いの?」


 沈黙。


 魔王は目を細める。


「空耳さん?」


『……あっ!』


「やっぱり!」


『いや、違う!』


「何か忘れてたでしょ!」


『忘れてなどいない!』


「今の『あっ!』は完全に忘れてた人の声だったぞ!」


『……』


「俺、何も悪いことしてないのに、そのうち勇者に殺されそうなんだけど」


『……』


「どうするの?」


 長い沈黙の後。


 空耳が、妙に落ち着いた声で言った。


『……やっと気付いたか』


「やっぱり忘れてたんだね!」


『違う。お前が気付くのを待っていた』


「その言い訳、何回目だよ」


---


 空耳は咳払いをした。


『そもそも、お前は魔王だ』


「そこは分かってる」


『そして、魔王はキックボクサーではない』


「じゃあ何なんだよ」


『毒を吐いたり、相手を混乱させたり、邪悪な魔法を使ったりする』


「……」


 魔王は自分の腕の包帯を見る。


「今の俺と全然違うじゃん」


『……』


「毒を吐いたことなんて一度もないぞ」


『それは今から覚えればいい』


「覚えたくない」


『混乱させる能力も必要だ』


「どうやって?」


『相手の頭を混乱させる』


「具体的には?」


『例えば……』


 空耳は考えた。


『右と言われたら左に行きたくなる』


「それ、ただの反抗期じゃない?」


『魔法だ』


「反抗期魔法?」


『違う』


---


 空耳はさらに考え込んだ。


『魔王らしい能力……』


「うん」


『邪悪な炎』


「火事になるから嫌だ」


『暗黒雷撃』


「近所迷惑」


『猛毒の霧』


「誰が掃除するんだよ」


『巨大な魔物を召喚』


「餌代どうするんだよ」


『……』


「便利屋やってるから、現実的な問題が気になるんだよ」


『魔王なのに現実的だな』


「元々、普通に生活してたんだから仕方ないだろ」


---


 しばらく沈黙した。


『分かった』


「何が?」


『お前に合った魔王の能力を考える』


「最初からそうしてくれ」


『まず、相手を傷つけない』


「重要」


『だが、勇者には簡単に負けない』


「それも重要」


『そして、便利屋の仕事にも使える』


「そこも重要」


 魔王は少し期待した。


「どんな能力?」


『……』


「空耳さん?」


『今、考えている』


「考えるの遅いな」


『ラス……』


「ん?」


『何でもない』


「今、何か言いかけなかった?」


『言ってない』


「怪しい」


---


 やがて空耳が言った。


『一つ目』


「うん」


『魔王の威圧』


「威圧?」


『お前が本気で睨むと、相手は動けなくなる』


「それ、怖くない?」


『魔王だからな』


「でも俺、優しいから睨むの苦手なんだよ」


『では、普通の顔でいい』


「普通の顔?」


『相手が勝手に恐怖を感じる』


「便利だな」


『魔王だからな』


「それならいいかも」


---


『二つ目』


「まだあるの?」


『魔王の結界』


「何それ?」


『剣や魔法の威力を弱める』


「今日それが欲しかった」


『ただし、相手にはほとんどダメージを与えない』


「それいいな」


『お前向きだ』


「人を殴りたくないからな」


---


『三つ目』


「何?」


『魔王の回復』


「おお!」


『自分や仲間の傷を治せる』


「それ、便利屋でも使えるじゃん」


『そうだろう』


「これなら仕事中に怪我しても安心だな」


『……』


「どうした?」


『魔王の能力としては少し地味だな』


「いいじゃん!」


---


 空耳はさらに考えた。


『四つ目。魔王の命令』


「命令?」


『魔物を従わせる』


「それは魔王っぽいな」


『ただし――』


「ただし?」


『お前が命令できるのは、危険なことだけではない』


「どういうこと?」


『例えば、「人を襲うな」』


「うん」


『「道路に出るな」』


「うん」


『「勝手に冷蔵庫を開けるな」』


「……」


『「事務所の掃除をしろ」』


「それ便利屋じゃん!」


『魔王軍による清掃部隊だ』


「そんな魔王軍いるか!」


---


 魔王は少し考えた。


「でも、それなら勇者が来ても安心じゃない?」


『そうだな』


「魔物が襲ってくるんじゃなくて、みんなで掃除してるんだろ?」


『勇者は困るだろうな』


「何で?」


『魔王城に入ったら、全員が掃除している』


「勇者が剣を抜く」


『魔物がモップを持つ』


「勇者が盾を構える」


『魔物が雑巾を持つ』


「勇者が叫ぶ」


『魔王軍、床を磨く』


「……」


 魔王は吹き出した。


「それ、魔王軍じゃなくて清掃業者だろ!」


『便利屋と魔王軍の兼業だ』


「絶対嫌だ」


---


 空耳は最後に言った。


『そして五つ目』


「何?」


『お前が最も信頼している能力』


「……」


 魔王は嫌な予感がした。


『ボディーブロー』


「やっぱりそれか!」


『お前はそれで世界チャンピオンになった』


「でも魔王の能力じゃないだろ」


『魔王の能力にすればいい』


「どうやって?」


『魔王のボディーブロー』


「そのまんまだな」


『名前は重要だ』


「効果は?」


『相手の防御力を少しずつ削る』


「……」


 魔王は目を輝かせた。


「それ、ゲームっぽいな」


『そうだ』


「じゃあ、ガードされても?」


『ダメージは蓄積する』


「俺の得意技そのものじゃん」


『だから、お前に一番合っている』


 魔王は腕を組んだ。


「……悪くない」


---


 しかし。


 魔王はふと気付いた。


「待てよ」


『何だ?』


「そんなに能力が増えたら、俺、本当に魔王っぽくならない?」


『それが目的だ』


「でも……」


『何だ?』


「俺、普通に便利屋やりたいんだけど」


『……』


「魔王になりたいわけじゃないんだけど」


『……』


「空耳さん?」


『……』


「また黙った」


 魔王はため息をついた。


「まあいいか」


 ベッドに横になる。


「とりあえず、明日は仕事だ」


 しかしその時。


『あ』


「何?」


『まだ一つ忘れていた』


「何を?」


『勇者対策だ』


「……」


「今まで忘れてたの?」


『……』


「空耳さん?」


『考えてみる』


「絶対忘れてたな」


 返事はなかった。


 魔王は布団をかぶった。


「頼むから、これ以上設定を増やさないでくれ……」


 しかし翌朝。


 魔王が目を覚ますと――


 自分の部屋の壁に、見覚えのない文字が浮かんでいた。


『魔王能力・再設定中』


「…………」


 魔王はしばらくそれを見つめた。


「空耳さん……」


 返事はない。


「これ、勝手に設定変更されてるよな?」


 返事はない。


「……」


 魔王は壁を見ながら呟いた。


「俺の人生、ゲームのアップデートみたいになってないか?」


 もちろん。


 その質問に答える声は――


 まだ聞こえなかった。

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