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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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勇者候補、なぜか魔王軍に入る

 翌朝。


 魔王は、いつも通り便利屋事務所のシャッターを開けた。


 ガラガラガラ……。


「よし。今日も普通に便利屋をやろう」


 魔王は深呼吸した。


 昨日までとは違う。


 今日は決意していた。


 勇者候補者たちには、はっきり言おう。


 ――ここは勇者養成所ではない。


 ――フライパン勇者養成所でもない。


 ――ましてや魔王軍でもない。


 ただの便利屋だ。


「よし」


 魔王は事務所の中へ入った。


「おはようございます! 魔王先生!」


「おはようございます、魔王様!」


「おはようございます! 今日も修行お願いします!」


「……」


 魔王は入り口で固まった。


「なんでいるんだよ」


 事務所の中には、昨日までの勇者候補者たちが全員いた。


 しかも――


 掃除をしている。


 机を拭いている。


 コピー機を使っている。


 お茶まで用意している。


「何してるんだ?」


 勇気が元気に答えた。


「魔王軍の朝練です!」


「違う!」


「でも、魔王様の役に立ちたいので!」


「だから俺は魔王軍なんて作ってない!」


 剣太郎が手を挙げた。


「では、これは何でしょう?」


 彼が指差した先には、大きな紙が貼られていた。


 そこには――


 『魔王軍・便利屋支部』


 と書かれている。


「誰が作った!」


 全員が田中を見る。


「私です」


「なんでだよ!」


「昨日、魔王先生がおっしゃったじゃないですか」


「何を?」


「『ここは普通の便利屋だ』と」


「うん」


「つまり魔王軍の表向きの姿が便利屋なんだと」


「違う!」


「なるほど!」


 勇気が感心した。


「カモフラージュですね!」


「違うって!」


---


第一回・魔王軍会議


 結局。


 候補者たちは帰らなかった。


 魔王は諦めて、全員を椅子に座らせた。


「いいか」


「はい!」


「俺は魔王じゃない」


「はい!」


「……」


 魔王は少し黙った。


「いや、名前は魔王だけど」


「はい!」


「でも、お前らが考えてるような魔王じゃない」


「はい!」


「普通に便利屋をやってるだけだ」


「はい!」


「だから、俺の部下になる必要もない」


 全員が顔を見合わせる。


 そして――


「嫌です」


「なんでだよ!」


 勇気が立ち上がった。


「僕は魔王さんの部下になります!」


「理由は?」


「魔王さんは強いからです!」


「格闘技をやめたんだけど」


「でも世界チャンピオンですよね?」


「昔の話だ」


「それでも僕は、魔王さんから学びたいです」


 美咲も立ち上がった。


「私もです」


「なんで?」


「魔王さんは、人を傷つけることを嫌がります」


「……」


「強いのに、できるだけ相手を傷つけないようにしていました」


「まあ……」


「だから尊敬しています」


 魔王は少し照れた。


「……そういうこと言われると困るな」


 田中も立ち上がった。


「私もです」


「お前は高速土下座だろ」


「はい!」


「それを誇るな」


「魔王様に仕えたいです!」


「だから魔王様って呼ぶな」


---


勇気、第一号になる


 勇気は魔王の前に立った。


「魔王さん」


「何だ?」


「僕を正式な部下にしてください」


「……」


「お願いします!」


 深々と頭を下げる。


 魔王は困った。


「部下になったって、何するんだ?」


「便利屋の仕事をします!」


「……」


「依頼を受けます!」


「うん」


「掃除もします!」


「うん」


「荷物も運びます!」


「うん」


「猫も探します!」


「うん」


「勇者にもなります!」


「最後だけ矛盾してる」


「でも、魔王さんを倒すのは最後にします」


「最後っていつだよ」


「魔王さんが『もういいよ』と言った時です」


「……」


 魔王は頭を掻いた。


「分かったよ」


「本当ですか!」


「ただし」


「はい!」


「便利屋の仕事をちゃんとやること」


「はい!」


「勝手に人を殴らないこと」


「はい!」


「フライパンを武器として持ち歩かないこと」


「……」


「何で黙る」


「フライパンだけは……」


「料理に使え」


「はい!」


 こうして。


 勇気は――


 魔王の部下第一号


 になった。


---


次々と加入する候補者たち


 それを見た他の候補者たちも黙っていなかった。


「私も入ります!」


「俺も!」


「私も!」


「僕も!」


 次々と手が上がる。


「待て待て!」


 魔王が叫ぶ。


「そんな簡単に入るな!」


「どうしてですか?」


「だって、うちは給料払えるか分からないぞ」


 全員が黙った。


 魔王は少し安心した。


「そうだろ?」


 ところが。


 勇気が答えた。


「給料より、魔王さんの下で働きたいです!」


「……」


 美咲も頷く。


「私も」


 剣太郎も頷く。


「私も」


 田中も頷く。


「私も」


 魔王は頭を抱えた。


「なんでだよ……」


 そこへ、勇気が言った。


「でも、魔王さん」


「何だ?」


「給料が出ないなら、まかないだけでも……」


「お前、急に現実的になるな」


---


魔王軍、正式発足?


 その日の午後。


 便利屋の仕事で、庭の木を切る依頼が入った。


 魔王は候補者たちを連れて依頼先へ向かった。


「じゃあ、みんなでやるぞ」


「はい!」


 木を切る。


 枝を運ぶ。


 掃除する。


 落ち葉を集める。


 誰も文句を言わない。


 魔王は少し驚いた。


「……」


 思っていたより、ちゃんと働く。


「お前ら」


「はい!」


「便利屋、意外と向いてるんじゃないか?」


 全員が嬉しそうな顔をした。


「ありがとうございます!」


「魔王様に褒められた!」


「だから魔王様じゃない!」


 魔王はツッコんだ。


 しかし――


 少しだけ嬉しかった。


---


 夕方。


 事務所に戻ると、誰かがホワイトボードを書き換えていた。


 以前は、


 魔王公認・フライパン勇者養成所


 だった。


 しかし今は――


 魔王軍・便利屋部


 になっている。


「……」


 魔王は無言で見つめた。


「誰が変えた?」


 勇気が手を挙げた。


「僕です!」


「なんでだよ!」


「正式に部下になったので!」


「部下になったら何でも書き換えていいのか?」


「だめですか?」


「だめだ」


「じゃあ何にします?」


 魔王は少し考えた。


「……普通に『便利屋』でいい」


「はい!」


 勇気はホワイトボードを消した。


 そして大きく、


 便利屋


 と書いた。


「これでいいですね」


「うん」


 魔王は満足した。


 ところが、その下に小さな文字が追加された。


 ――魔王軍所属。


「おい!」


「小さく書きました!」


「大きさの問題じゃない!」


---


その夜


 魔王はベッドに横になった。


「空耳さん」


『何だ?』


「大変なことになった」


『勇者候補者が増えたか?』


「それだけじゃない」


『何だ?』


「みんな俺の部下になった」


『ほう』


「俺、魔王軍なんて作ってないのに」


『良かったではないか』


「良くない」


『なぜだ?』


「俺は普通に便利屋をやりたいんだよ」


『だが、お前の周りには仲間が増えた』


「……」


『それは悪いことではない』


 魔王は天井を見た。


「……まあな」


『勇者候補者たちも、お前を慕っている』


「……」


『お前はもう一人ではない』


「空耳さん」


『何だ?』


「今日は珍しくまともなこと言うな」


『たまにはな』


「ありがとう」


『ただし――』


「何?」


『本物の勇者が来た時は、そいつらがお前を守るぞ』


「……」


 魔王は苦笑した。


「それじゃあ、勇者と魔王の戦いじゃなくて――」


『何だ?』


「勇者対勇者候補にならないか?」


『……』


「空耳さん?」


『それは……』


「うん」


『面白そうだな』


「面白がるな!」


---


 翌朝。


 魔王が事務所に行くと――


 また新しい看板が出ていた。


 今度はさらに大きい。


 そこには、


 『魔王様の部下・大募集!』


 と書かれている。


「……」


 魔王は看板を見た。


 そして事務所の中を見る。


 勇気。


 美咲。


 剣太郎。


 田中。


 そして、さらに増えた勇者候補者たち。


 全員が魔王を見ている。


「魔王さん!」


「はい!」


「今日も修行お願いします!」


「……」


 魔王はため息をついた。


「分かった」


「おお!」


「ただし、今日は便利屋の仕事だ」


「はい!」


「午前中は庭掃除」


「はい!」


「午後は家具の組み立て」


「はい!」


「夕方は猫探し」


「はい!」


「そして――」


 魔王はフライパンを指差した。


「フライパンは料理に使う!」


「はい!」


 全員が返事をした。


 こうして。


 魔王が望んでもいなかった組織――


 魔王の部下たちによる便利屋集団


 が、少しずつ形になっていった。


 本人だけは最後まで認めなかった。


「俺は魔王軍なんか作ってないからな!」


「はい、魔王様!」


「だからその呼び方やめろ!」


 しかし誰もやめなかった。


 そして――


 まだ誰も知らない。


 いつか本当に、


 「魔王を倒すために来た本物の勇者」


 が、この便利屋を訪れることを。


 その時。


 魔王を守るのは――


 かつて魔王を倒すために集まった、フライパン勇者候補者たちになるのである。

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