RPGの誤解、世界中に広がる
巨大カラスの依頼から帰ってきた夕方。
魔王と勇気は、便利屋事務所の机を挟んで座っていた。
机の上には、お茶。
そして――
フライパン。
勇気は真剣な顔でフライパンを見つめている。
「魔王さん」
「何だ?」
「やっぱり、これは勇者の武器ですよね」
「違うと思う」
「でも、RPGですから」
「……」
魔王は少し考えた。
「まあ、フライパンで魔王を倒すゲームってことで、一応まとまったからな」
「はい!」
「これ以上、深く考えない方がいい気がする」
「分かりました!」
その時だった。
ガチャッ。
事務所の扉が開いた。
入ってきたのは、父さんだった。
「おう、魔王」
「父さん」
「母さんが晩ご飯作るから早く帰って来いって」
「分かった」
父さんは机の上のフライパンを見た。
「なんだ、そのフライパン」
勇気が立ち上がった。
「勇者の武器です!」
「?」
父さんが魔王を見る。
「どういうことだ?」
魔王は説明した。
「RPGってあるだろ?」
「ああ」
「勇者がフライパンで魔王を倒すゲームらしい」
「……」
父さんが黙った。
「……そうなのか?」
「たぶん」
「お前、詳しいのか?」
「最初の方しかやったことない」
「なるほど」
父さんは頷いた。
「じゃあ、最後はフライパンで戦うのか」
「そうなるな」
勇気が胸を張った。
「伝説のフライパンです!」
父さんも納得した。
「そうか」
――誤解、一人追加。
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その夜。
食卓。
母さんが味噌汁を運んでいた。
「今日は何してたの?」
魔王が答える。
「RPGの話」
「RPG?」
母さんが首を傾げる。
「何それ?」
父さんが説明した。
「勇者がフライパンで魔王を倒すゲームだ」
「へぇ」
母さんが頷く。
「料理番組みたいね」
「……」
魔王が少し考える。
「確かに」
「最後は料理対決?」
母さんが聞く。
勇気が真剣な顔で言った。
「最終的には、巨大なフライパンで戦います」
「すごいわねぇ」
母さんも納得した。
――誤解、二人追加。
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翌日。
便利屋事務所。
電話が鳴った。
「はい、便利屋です」
『庭の草むしりをお願いしたくて』
「分かりました」
依頼先へ向かう。
依頼人のおばあさんが出迎えてくれた。
「ありがとうねぇ」
「いえ」
草むしりをしている途中。
おばあさんが勇気に聞いた。
「若い人はゲームとかやるの?」
勇気が元気に答える。
「はい!」
「どんなゲーム?」
「RPGです!」
「へぇ」
「勇者がフライパンで魔王を倒すゲームです!」
「まあ!」
おばあさんが驚いた。
「最近のゲームは料理もするのねぇ」
「はい!」
「大変ねぇ」
「レベルアップすると、大きいフライパンになります!」
「すごいわねぇ」
――誤解、町内に拡散。
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三日後。
便利屋事務所。
母さんが帰ってきた。
「魔王!」
「どうした?」
「スーパーで変なこと聞いたわ!」
「何?」
「近所の奥さんがね」
「うん」
「最近のゲームは、フライパンで魔王を倒すらしいって言ってたわ」
「……」
魔王と勇気が固まる。
「広がってる!」
勇気が青ざめた。
「伝説が!」
「伝説じゃない!」
「じゃあ、何ですか?」
「間違い!」
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その夜。
魔王はベッドに寝転んだ。
「空耳さん」
『何だ』
「大変だ」
『どうした』
「RPGが、フライパンで魔王を倒すゲームって話が広がってる」
『……』
空耳が黙った。
「空耳さん?」
『それは困るな』
「だろ?」
『本当は鍋だった』
「違うだろ!」
『勇者の武器は鍋だ』
「変な設定を増やすな!」
『フライパンは中盤装備』
「装備ランク作るな!」
『鉄のフライパン』
『鋼のフライパン』
『ドラゴンフライパン』
『聖なるフライパン』
「なんだその世界!」
『最終装備は――』
「何?」
『魔神の中華鍋』
「大きくなっただけじゃないか!」
空耳が笑った。
『ハッハッハ』
「笑うな!」
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翌朝。
便利屋事務所。
勇気が新聞を持って飛び込んできた。
「魔王さん!」
「どうした!」
「見てください!」
地方新聞の小さな記事。
『子ども会で人気の新遊び』
『勇者ごっこ』
『フライパンで魔王を倒そう』
「……」
「……」
魔王は新聞を閉じた。
「広がりすぎだろ」
勇気が嬉しそうに言う。
「文化になりましたね」
「間違った文化だよ!」
「でも」
勇気が真面目な顔になる。
「魔王さん」
「何だ?」
「もし本当にRPGが違っていたとしても」
「うん」
「楽しいなら、それでいいんじゃないですか?」
「……」
魔王は少し考えた。
「まあ」
「はい」
「確かに、みんな楽しそうだな」
「はい!」
魔王は机の上のフライパンを見た。
ただのフライパン。
スーパーで二千九百八十円くらいの普通のフライパン。
しかし今では――
勇者の伝説の武器になっている。
「……変な世界になったな」
その時。
ガチャッ。
事務所の扉が開いた。
見知らぬ男が立っていた。
男は真剣な顔をしていた。
「ここが……」
男が言った。
「伝説のフライパン勇者を育てる便利屋ですか?」
「違う!」
魔王のツッコミが、事務所中に響いた。
しかし、もう遅かった。
誤解は、さらに広がっていくのだった。




