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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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RPGとは何なのか? 二人とも分からなくなる

 翌朝。


 便利屋の事務所。


 魔王と勇気は、いつものように机を挟んで向かい合っていた。


 昨日から、二人の間には一つの大きな問題が残っている。


 ――RPGとは何なのか。


 勇気は、RPGを「対戦車ロケット弾」だと思っていた。


 魔王はそれを訂正しようとしていた。


 ところが。


 魔王自身も、RPGという言葉の正式名称を――


 完全には覚えていなかった。


「……」


「……」


 二人は黙っている。


 やがて勇気が口を開いた。


「魔王さん」


「何?」


「昨日の話なんですけど」


「うん」


「RPGって、結局なんなんですか?」


「……」


 魔王は腕を組んだ。


「ゲームだよ」


「それは分かりました」


「うん」


「でも、正式名称は?」


「……」


 魔王の脳内に、昨日見たゲーム画面が浮かぶ。


 勇者。


 モンスター。


 剣。


 魔法。


 経験値。


 レベルアップ。


 魔王。


「……ロール……」


「はい」


「ロール……」


「はい」


「……」


 魔王は眉間にしわを寄せた。


「ロールパン」


「やっぱり!」


 勇気が立ち上がった。


「ロールパンなんですね!」


「いや……」


「ロールパンを育てるゲーム!」


「たぶん違う」


「たぶん?」


「俺も正式名称を忘れた」


「ええっ!?」


 勇気が驚く。


「魔王さん、知らないんですか!?」


「昔ちょっとやったことがあるだけだからな」


「でも魔王さん、昨日はずいぶん詳しく説明してましたよ」


「雰囲気で説明してただけだ」


「雰囲気!?」


「勇者が敵を倒して、レベルが上がって、最後に魔王を倒す」


「それだけ?」


「それだけ」


「……」


 勇気は腕を組んだ。


「では、ロールパンがレベルアップして、最後に魔王を倒すゲーム」


「そうなるな」


「やっぱりパンなんですね」


「いや、俺もそこは納得してない」


「じゃあ、何なんですか?」


「……」


 魔王は頭を抱えた。


「俺に聞くな」


「魔王さんなのに?」


「魔王だからゲームに詳しいとは限らないんだよ」


「なるほど」


 勇気は素直に頷いた。


「では、調べましょう」


「そうだな」


 魔王はパソコンを開いた。


 検索画面を表示する。


「RPG……」


 魔王が入力した。


 検索結果が出る。


 魔王と勇気が画面を覗き込む。


「ロールプレイングゲーム……」


 魔王が読み上げた。


「……あ」


「ありましたね!」


「これだ」


「ロールプレイングゲーム!」


「そうそう!」


「つまりロールパンではない!」


「そうだな!」


 二人は納得した。


 しかし――


 数秒後。


 勇気が首を傾げた。


「でも、ロールプレイングって何ですか?」


「……」


 魔王が黙る。


「魔王さん?」


「……役割を演じる、みたいな意味だった気がする」


「役割?」


「そう」


「パンの役割?」


「違う」


「勇者の役割?」


「たぶん」


「じゃあ、勇者役を演じるゲーム?」


「そう」


「なるほど!」


 勇気は納得した。


 ところが魔王は、急に不安になった。


「……待て」


「はい?」


「だったら、なんで魔王を倒すんだ?」


「勇者だからでは?」


「そうだけど……」


 魔王はゲーム画面を見た。


 勇者が剣を持っている。


 モンスターがいる。


 そして最後に魔王がいる。


「……」


 魔王は考えた。


「勇者が魔王を倒す」


「はい」


「魔王は倒される」


「はい」


「つまり――」


 魔王の顔が険しくなる。


「俺はゲームのラスボスなんだな」


「そういうことですね」


「嫌だな」


「なぜですか?」


「倒されるから」


「でもゲームの中ですよ」


「そうだけど」


 魔王は少し考えた。


「じゃあ、俺がゲームの魔王なら、どうやって勇者を倒すんだ?」


「強い武器を使うんじゃないですか?」


「俺はボディーブローしか得意じゃないぞ」


「魔王なのに?」


「魔王だけど」


「剣は?」


「嫌だ」


「魔法は?」


「分からない」


「火を吐くとか」


「母さんじゃないんだから」


「お母さんは魔法使えるんですか?」


「いや、空耳さんが勝手に言ってただけ」


「そうでしたね」


 二人はまた黙った。


 すると勇気が突然、手を叩いた。


「そうだ!」


「何?」


「武器ならあります!」


「何が?」


 勇気はバッグから何かを取り出した。


「これです!」


 ――フライパン。


「……」


 魔王はフライパンを見る。


「なんで持ってるんだ?」


「勇者候補ですから」


「関係ないだろ」


「昨日から装備しています」


「昨日のバナナといい、なんで勇者装備を持ち歩いてるんだよ」


「勇者には武器が必要です」


「フライパンは武器じゃないだろ」


「でも、硬いです」


「確かに」


 魔王はフライパンを受け取った。


 コンコン。


 叩いてみる。


「……まあ、硬いな」


「ですよね」


「でもこれで魔王を倒すの?」


「勇者なら」


「……」


 魔王はゲーム画面を見る。


 勇者。


 魔王。


 フライパン。


 そして、さっきまで話していたロールプレイングゲーム。


「……」


 魔王の中で、何かがつながった。


「分かった」


「何がですか?」


「RPGって――」


「はい」


「フライパンで魔王を倒すゲームなんだ」


「なるほど!」


「いや、違うと思うけど」


「でも分かりやすいです!」


「そうだな」


「勇者がフライパンを持って」


「うん」


「レベルアップして」


「うん」


「最後に魔王をフライパンで倒す!」


「……」


 魔王は少し考えた。


「それなら俺でも理解できる」


「僕もです!」


「じゃあ、RPGはフライパンで魔王を倒すゲーム」


「はい!」


「決定だな」


「決定です!」


 魔王と勇気は固い握手を交わした。


 ――完全に間違っている。


 しかし二人は満足していた。


---


 そこへ。


 事務所の電話が鳴った。


 プルルルル!


「はい、便利屋です」


『あの、すみません』


「はい」


『庭に大きなカラスがいまして……』


 魔王は昨日の話を思い出した。


「ああ、巨大なカラスですね」


『はい』


「分かりました。伺います」


 電話を切る。


 勇気が立ち上がった。


「行きましょう!」


「うん」


「魔王さん!」


「何?」


「武器は?」


「いらない」


「フライパンは?」


「置いていけ」


「でも勇者には武器が――」


「便利屋に武器はいらない」


「では、ロールプレイングゲームでは?」


「フライパン」


「はい!」


「だから違うって」


 魔王は頭を抱えた。


「……いや、俺ももう分からなくなってきた」


「僕もです」


「じゃあ、二人とも分からないってことでいいか」


「はい!」


 二人は事務所を出た。


 その直後。


 魔王が振り返った。


「勇気」


「はい?」


「フライパン置いてけ」


「はい!」


 勇気はフライパンを事務所に置いた。


 そして二人は依頼先へ向かった。


 しかし――


 その頃、事務所の机の上では。


 置き忘れたフライパンが、なぜか日の光を反射して輝いていた。


 まるで――


 勇者の伝説の武器のように。


 もちろん、ただのフライパンである。


 魔王たちはまだ知らない。


 この先、彼らの世界では、


「勇者」


「魔王」


「便利屋」


「フライパン」


「ロールプレイングゲーム」


 という、本来なら絶対に一緒になるはずのない五つの言葉が、どんどん一つの物語に巻き込まれていくことを。


 そして何より――


 魔王本人が、自分がラスボスになる意味をまだ全然理解していないことを。

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