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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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勇者、宅配で来る

翌日。


仕事は休みだった。


久しぶりの休日。


俺は朝から自分の部屋にこもっていた。


両親はというと――。


「じゃあ、行ってくるからね」


母さんが玄関で靴を履いている。


「どこ行くの?」


俺が聞くと、母さんは笑った。


「お父さんと買い物」


「へえ」


父さんも玄関に立っている。


「昼飯は適当に食えよ」


「分かった」


「冷蔵庫に昨日の残りがあるから」


「うん」


「あと、今日は休みなんだから、たまには外に――」


「ゲームする」


父さんが黙った。


「……そうか」


母さんが笑う。


「せっかくの休日だものね」


「うん」


二人は仲良く出かけていった。


玄関のドアが閉まる。


カチャ。


「……」


家が静かになった。


俺は小さく笑った。


「よし」


今日は完全な休日だ。


仕事なし。


トレーニングなし。


依頼なし。


そして。


俺は今まで格闘技で稼いだファイトマネーを使って買った、最新のゲーム機の電源を入れた。


テレビ画面に表示されるタイトル。


本格派ファンタジーRPG。


俺はコントローラーを握った。


「ついに俺もRPGデビューか……」


空耳から散々、


「勇者」


「魔王」


「モンスター」


「ラスボス」


という言葉を聞かされてきた。


正直。


今まで意味がよく分からなかった。


だから今日は勉強も兼ねてRPGをやってみることにした。


「えーっと……」


ゲーム開始。


主人公が村を出る。


モンスターが現れる。


戦闘開始。


「おお!」


俺は感動した。


「これがRPGか!」


主人公が剣を振る。


モンスターを倒す。


経験値が入る。


レベルアップ。


「なるほど」


俺は頷いた。


「敵を倒すと強くなるのか」


俺は画面を見ながら呟いた。


「空耳さんが言ってたのはこれか」


その瞬間。


――そうだ。


「うわっ!」


俺はコントローラーを落としそうになった。


「急に出てくるなよ!」


――お前、やっとRPGを始めたか。


「うん」


――どうだ?


「結構面白い」


――そうだろう。


「でも」


――何だ?


「主人公、レベル1なのに結構強くない?」


――ゲームだからな。


「でも、レベル1で魔王のところ行ったら死ぬよ」


――だからレベルを上げるのだ。


「なるほど」


俺は感心した。


そのとき。


ピンポーン。


玄関のチャイムが鳴った。


「ん?」


ゲームを一時停止する。


ピンポーン。


「宅配かな?」


俺は立ち上がった。


「何か注文したっけ?」


玄関へ向かう。


ピンポーン。


「はいはい」


「宅配でーす」


俺は扉を開けた。


そこに立っていたのは。


Tシャツ。


短パン。


スニーカー。


そして。


木製のバットを持った男。


「……」


俺は男を見る。


男も俺を見る。


「……」


俺は思った。


――宅配業者って、こんな格好だったっけ?


そして。


男はいきなり。


バットを振り上げた。


「えっ!?」


俺は反射的に身体を動かした。


「危ない!」


バットが振り下ろされる。


俺は横に避ける。


そして。


身体が勝手に動いた。


ドスッ!


ボディーブロー。


男の腹に拳が入った。


「ぐっ……!」


男が怯んで後ろへ下がる。


「……」


俺も固まった。


「しまった」


俺は拳を見る。


「反射で……」


男が再びバットを振り上げる。


「また!?」


俺はもう一度。


ドスッ!


ボディーブロー。


「ぐっ!」


男が後ろへよろめく。


そして――。


シュンッ。


「……」


消えた。


「……」


俺は玄関に立ったまま固まった。


「……消えた」


冷たい汗が背中を流れる。


「……」


俺は周囲を見る。


誰もいない。


道路にもいない。


庭にもいない。


「……何だったんだ?」


そこへ。


両親が帰ってきた。


「ただいま」


母さんが俺を見る。


「魔王?」


父さんも俺を見る。


「何やってるんだ?」


俺は玄関前で固まっていた。


「……」


母さんが首を傾げる。


「魔王、玄関前で何やってるの?」


「いや」


俺は慌てた。


「今、バットで……」


母さんの顔が変わる。


「バット?」


「……いや!」


俺は言い直した。


「宅配来たかと思って!」


「宅配?」


「うん」


「何か届いたの?」


「いや……」


「じゃあ、どうしたの?」


「勘違いだった」


母さんは玄関の外を見る。


「荷物もないわね」


「うん」


母さんが首を傾げる。


「ピンポンダッシュかしら」


父さんが言う。


「物騒だな」


俺は笑顔を作った。


「そうだね」


心の中では。


――物騒なのはピンポンダッシュじゃない。


――バットを持った男だ。


---


部屋に戻る


俺は自分の部屋へ戻った。


ドアを閉める。


鍵をかける。


ベッドに座る。


そして。


「空耳さん」


呼びかける。


「空耳さん!」


返事はない。


「おーい!」


沈黙。


「……」


俺はため息をついた。


「こういうときに限って出てこないんだよな」


すると。


――何だ?


「うわっ!」


俺はベッドから少し飛び上がった。


「いたのかよ!」


――ずっといた。


「強盗が消えたぞ!」


――あれは勇者だ。


「は?」


俺は眉をひそめた。


「何言ってんの?」


――あれは勇者だ。


「いやいや」


俺は手を広げる。


「Tシャツ、短パン、スニーカー、木のバットだぞ?」


――勇者だ。


「ただの強盗だろ!」


――違う。


「じゃあ何なんだよ」


――最小限の装備でラスボスに挑んでみた系の勇者だ。


「そんな系統あるのかよ!」


――ある。


「ないだろ!」


――ある。


「絶対ない!」


――少なくとも、あれは勇者だ。


俺は頭を抱えた。


「ボディーブロー二発も打ったぞ」


――少しレベル上げしてきたんだな。


「いやいやいや!」


俺は立ち上がる。


「レベル上げって何だよ!」


――前回より少し強くなっていた。


「ゲームみたいに言うなよ!」


――ゲームだ。


「俺の人生だよ!」


---


なぜ宅配だったのか


俺は椅子に座った。


「そもそも」


――何だ。


「なんで俺の家に来たんだよ」


――勇者だからだ。


「答えになってない」


――魔王を倒すためだ。


「だから、俺はまだ魔王じゃないだろ」


――お前が住んでいる。


「普通の一軒家だよ!」


――魔王の城だ。


「違う!」


俺は机を叩いた。


「普通の家!」


――魔王が住んでいる。


「だから?」


――魔王の城だ。


「その理屈なら」


俺は指を一本立てた。


「コンビニに魔王が住んでたら、コンビニが魔王城になるのか?」


――そうだ。


「ならない!」


――なる。


「ならない!」


――魔王が住めばなる。


「そんな設定聞いたことないぞ!」


---


最後の呪文


俺は聞いた。


「じゃあ、なんで『宅配でーす』って言ったんだ?」


――魔王の扉を開ける最後の呪文が、今は「宅配でーす」なんだ。


「……」


俺はしばらく黙った。


「それ」


――何だ。


「ただの強盗だろ」


――勇者だ。


「強盗だよ!」


――勇者だ。


「バット持ってたぞ!」


――勇者も武器を持つ。


「木のバットだぞ!」


――武器なら何でもいい。


「もっと剣とかあるだろ!」


――最小限の装備なのだ。


「財布も持ってなかったぞ!」


――勇者だからな。


「そこは持ってこいよ!」


---


魔王の城問題


俺は思い出した。


「そういえば」


――何だ。


「魔王と勇者は魔王の城で戦うんじゃなかったのか?」


――その通りだ。


「だったら」


俺は胸を張った。


「魔王の城に行けばいいじゃん」


――だから来たのだ。


「ここが?」


――魔王が住んでいるから、魔王の城だろ?


「だから!」


俺は部屋を見回した。


ベッド。


机。


テレビ。


ゲーム機。


漫画。


洗濯物。


「普通の……一軒家だ!」


――細かいことは気にするな。


「いや、重要だろ!」


――魔王の城として使える。


「使えない!」


俺はベッドに座り直した。


「……」


そして。


「空耳さん」


――何だ。


「俺」


――うむ。


「勇者に負けないように」


――うむ。


「もっと強くしてくれ」


少し間があった。


そして。


――ダメだ。


「なんで?」


――勇者が勝てない魔王なんか、クソゲーだ。


「……」


俺は首を傾げた。


「すね毛?」


――何?


「今、すね毛って言った?」


――言っていない。


「俺を誰のすね毛にしようとしてるんだ?」


――何を言っている。


「俺をすね毛にしないでくれ」


――するか!


「よかった」


――俺は「クソゲー」と言ったのだ。


「クソゲー?」


――そうだ。


「それ何?」


――面白くないゲームのことだ。


「……」


俺は真剣に考えた。


「つまり」


――何だ。


「俺を、うんこに変えるわけではないんだな?」


――違う!


「よかった」


――お前、何でそんな方向に考えるんだ!


「いや、クソって言うから」


――落ち着け!


「はい」


――クソゲーだ。


「分かった」


――魔王が一方的に勝つだけのゲームなんて面白くない。


「……」


――だから、お前には勇者と戦う経験が必要だった。


俺は玄関の方を思い出した。


バット。


Tシャツ。


短パン。


スニーカー。


「……」


俺は呟いた。


「経験としては、かなり怖かったんだけど」


――いい経験になっただろう。


「ならないよ」


――なぜだ。


「普通の休日を過ごしたかった」


――ゲームもしただろう。


「途中だったんだよ!」


俺はテレビを見る。


ゲーム画面には。


主人公が町の入口で立っていた。


「せっかくレベル上げしてたのに……」


――お前自身がレベル上げされたと思えばいい。


「嫌だよ」


――なぜだ。


「俺はゲームの主人公じゃない」


――違う。


「何が?」


――お前は。


少し間があった。


――魔王だ。


「……」


俺は黙った。


「だから俺は、普通の人間だって」


――いずれ分かる。


「またそれかよ」


――そのうち、もっと強い勇者が来る。


「……」


「もう来なくていいよ」


――来る。


「来るの?」


――来る。


「今度は何を持ってくる?」


――知らん。


「剣?」


――分からん。


「槍?」


――分からん。


「魔法?」


――分からん。


「せめて宅配じゃないことを祈るよ」


――それは期待しない方がいい。


「何でだよ!」


返事はなかった。


「……空耳さん?」


沈黙。


「また消えた」


俺はベッドに倒れ込んだ。


そして天井を見上げる。


「……俺、本当に便利屋だけやってていいのかな」


静かな部屋。


ゲームのBGMだけが流れている。


俺は目を閉じた。


「勇者と戦うとか、魔王になるとか……」


そして小さく呟いた。


「……普通に暮らしたいだけなんだけどな」

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