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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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「魔王」と書かれたノート

屋根裏から見つかった古い箱。


そして、その中に入っていた一冊のノート。


俺は依頼人の家を出たあとも、ずっとそのことを考えていた。


車の助手席に座っている。


運転しているのは先輩。


俺は膝の上にノートを置いている。


「……」


「魔王さん」


「はい」


「さっきからずっとノートを見ていますけど」


「はい」


「読まないんですか?」


「読もうと思ってます」


「じゃあ、読めばいいじゃないですか」


「……怖いんですよ」


「何が?」


俺はノートの表紙を見る。


「俺の名前が書いてあるんです」


先輩が一瞬黙った。


「……確かに不気味ですね」


「ですよね」


「でも」


「はい」


「魔王さんの名前なんて、そんなに珍しくないですよね」


「どこがですか?」


先輩が考える。


「……いや」


「ですよね?」


「普通の人は『魔王』って名前じゃないですね」


「そうなんですよ!」


俺はノートを抱えた。


「俺の名前なんですよ!」


「だったら早く調べましょう」


「はい……」


俺はページを開いた。


---


最初のページ


一ページ目。


そこには、あの一文。


『魔王は、まだ魔王ではない。』


二ページ目。


何もない。


三ページ目。


何もない。


四ページ目。


何もない。


「……」


俺はページをめくり続ける。


十ページ。


二十ページ。


三十ページ。


「空白ばっかりですね」


先輩が言った。


「はい」


「もしかして」


「はい?」


「ノートを買っただけで満足するタイプの人だったんじゃないですか?」


「それは俺じゃないですか」


「え?」


「俺も昔、ノート買っただけで勉強した気になったことあります」


「あります?」


「あります」


「世界チャンピオンなのに?」


「世界チャンピオンになる前です」


「関係ないですよね」


---


謎の文字


さらにページをめくる。


すると。


五十ページ目。


小さな文字があった。


『名前は重要ではない。』


「……」


俺は眉をひそめた。


その下。


『重要なのは、その名前を背負った者が何をするかだ。』


「……」


俺は黙って読んだ。


その文章には、続きがあった。


『魔王という名前を持つ少年は、人々から恐れられるだろう。』


「……」


「どうしました?」


先輩が聞く。


俺は答えない。


次の文章。


『だが、その少年は、人を傷つけることを望まない。』


俺の手が止まった。


「……」


先輩が覗き込む。


「何て書いてあるんです?」


俺は小さな声で読んだ。


「……『人を傷つけることを望まない』」


先輩が俺を見る。


「魔王さん、そのままですね」


「……」


俺は苦笑した。


「なんで俺のことを知ってるんだ?」


---


空耳登場


その瞬間。


頭の中に声がした。


――当然だ。


「!」


俺は顔を上げた。


「空耳さん!」


先輩が驚く。


「またですか?」


「はい!」


――何だ。


「これ、知ってる?」


――何をだ。


「このノート」


――……。


「知ってるんだな?」


――知らん。


「今、間があっただろ」


――気のせいだ。


「絶対知ってる」


――知らん。


「じゃあ、この文章は何?」


――読めば分かる。


「いや、読んでも分からないから聞いてるんだよ!」


先輩が横から言った。


「魔王さん」


「はい」


「誰と会話してるんですか?」


「空耳さんです」


「……」


先輩が深いため息をついた。


「もう慣れました」


「慣れないでください」


---


さらにページをめくる


俺はノートを読み続けた。


そこには奇妙な記録が残されていた。


『魔王は強くなる。』


その下。


『しかし、力を求めているわけではない。』


さらに。


『むしろ普通の生活を望む。』


俺はページをめくる。


『仕事をしたいと言うだろう。』


「……」


「……」


先輩も黙った。


俺はページをめくる。


『便利屋になる可能性もある。』


「……」


俺はノートを閉じた。


「……」


先輩も黙っている。


「……」


数秒間。


車内が静まり返った。


「魔王さん」


「はい」


「これ」


「はい」


「かなり怖くないですか?」


「怖いです」


「便利屋になることまで書いてありますよ」


「そうなんですよ!」


俺はノートを開いた。


「なんで知ってるんだよ!」


――だから言っただろう。


「空耳さん!」


――何だ。


「このノートについて何か知ってるんだろ?」


――……。


「答えて!」


――まだ言えん。


「なんで!」


――お前にはまだ早い。


「またそれか!」


---


便利屋事務所に戻る


事務所に到着した。


俺はノートと箱を持って店長のところへ行った。


「店長」


「どうしました?」


「これ」


箱を机に置く。


「屋根裏で見つけました」


店長が箱を見る。


「依頼人の家で?」


「はい」


「依頼人には?」


「まだ詳しく話してません」


店長は箱を開けた。


中を見る。


「古いですね」


「はい」


「この写真もかなり古い」


店長が一枚の写真を取り出す。


俺も見る。


古い家。


今の依頼人の家と同じ場所らしい。


その前に。


一人の男性が立っている。


「誰でしょう?」


店長が首を傾げる。


写真の裏を見る。


そこには日付が書かれていた。


昭和四十七年。


「かなり古いですね」


俺は写真を見つめた。


すると。


写真の隅に。


小さな文字があった。


俺は拡大するように目を近づけた。


「……」


「どうしました?」


「店長」


「はい」


「これ……」


写真の男性の横。


古い家の壁。


そこに。


小さく。


『魔王』


と書かれていた。


「……」


全員が黙った。


---


俺の名前は偶然なのか?


俺は椅子に座った。


頭が混乱している。


俺は父さんがつけた名前だ。


父さんは昔。


母さんとパチンコ店で出会った。


そして結婚して。


俺が生まれた。


父さんが、


「名前は魔王でいいんじゃね」


と言った。


それだけだった。


少なくとも。


俺はそう思っていた。


「……」


俺は写真を見る。


昔の写真。


そこにある「魔王」という文字。


ノートに書かれた「魔王」。


そして。


俺自身。


「偶然……だよな?」


俺は呟いた。


空耳の声が聞こえる。


――偶然ではない。


「……」


俺は固まった。


「空耳さん」


――何だ。


「今、偶然じゃないって言った?」


――言った。


「じゃあ、何なんだよ?」


――それはまだ言えん。


「またかよ!」


――いずれ分かる。


「いつだよ!」


――そのうちだ。


「便利屋の仕事みたいに『そのうち』で済ませるな!」


返事はなかった。


「……」


俺は天井を見る。


「空耳さん?」


無音。


「……」


「また消えた」


店長が言った。


「何がです?」


「いや、何でもありません」


---


その日の帰り道


俺は箱を持って家に帰った。


玄関を開ける。


「ただいま」


「おかえり」


母さんの声。


「今日も仕事大変だった?」


「まあまあ」


「何かあった?」


「……ちょっと変な依頼があって」


俺は箱を見る。


母さんが気づいた。


「何それ?」


「屋根裏から見つかったもの」


「屋根裏?」


「うん」


母さんは箱を見る。


そして。


突然。


「あら」


「どうしたの?」


母さんの顔色が少し変わった。


「その箱……」


「知ってるの?」


母さんは箱をじっと見た。


「……見たことがある気がする」


「え?」


「でも、気のせいかもしれない」


「どこで?」


母さんはしばらく考えた。


そして。


「あなたが生まれる前だったかな……」


「……」


俺は息を止めた。


「父さんと一緒に、昔の家を整理していたときに似たような箱を見たことがある」


「父さんも?」


「そう」


「何が入ってた?」


母さんは首を振った。


「覚えてない」


「そっか」


俺は箱を持って自分の部屋へ向かった。


そのとき。


頭の中で。


――魔王。


「……」


俺は立ち止まった。


――その箱を開けろ。


「空耳さん?」


――今夜だ。


「何が入ってるんだ?」


――お前が知るべきものだ。


「怖いこと言うなよ」


――大丈夫だ。


「本当に?」


――たぶん。


「たぶんかよ!」


返事はない。


俺はため息をついた。


「……」


そして。


自分の部屋に入った。


机の上に箱を置く。


ゆっくりと蓋に手をかける。


カチッ。


蓋が開く。


中には。


一枚の古い写真。


そして。


小さな封筒。


封筒には。


俺の名前が書かれていた。


『魔王へ』


「……」


俺は言葉を失った。


俺が生まれる前から存在していたかもしれない古い箱。


そこに入っていた。


俺宛ての手紙。


俺は震える手で封筒を持ち上げた。


「……誰が書いたんだよ」


そして。


封筒の裏を見る。


そこには。


たった一行。


『お前がこの手紙を読む頃、空耳はすでにお前のそばにいる。』


「……」


俺はゆっくり顔を上げた。


「……空耳さん?」


沈黙。


「おーい」


返事はない。


「空耳さん?」


……。


「またかよ」


俺は封筒を握りしめた。


そして思った。


この手紙を書いた人物は。


一体、何者なのか。


そして。


なぜ俺の名前を知っているのか。


俺の平凡な便利屋生活は。


どうやら。


また少しずつ。


普通ではなくなり始めていた。

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