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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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屋根裏から聞こえる謎の声

猫探しの依頼を終えた翌日。


俺は便利屋の事務所で、朝からコーヒーを飲んでいた。


「平和だ……」


昨日は大変だった。


三毛猫のミケ。


あいつは間違いなく、ただの猫ではない。


俺は世界チャンピオン。


そして元総合格闘家。


さらに元キックボクサー。


そんな俺が。


猫一匹に散々振り回された。


思い出すだけで、少し悔しい。


「魔王さん」


先輩が声をかけてきた。


「何ですか?」


「昨日の猫、面白かったですね」


「面白くないです」


「かなり面白かったですよ」


「俺は真剣でした」


「猫とにらめっこしてましたよね」


「……」


「世界チャンピオンが」


「……」


「猫と」


「言うな」


俺はコーヒーを飲んだ。


すると。


事務所の電話が鳴った。


プルルルル。


店長が電話を取る。


「はい、便利屋です」


しばらく話している。


「はい……」


「屋根裏……?」


俺は顔を上げた。


店長が俺を見る。


「はい、分かりました。すぐに向かわせます」


電話を切った。


「魔王さん」


「はい」


「次の依頼です」


「何ですか?」


店長は依頼書を渡した。


『屋根裏から謎の声が聞こえるので確認してほしい』


「……」


俺は依頼書を二度見した。


「謎の声?」


「はい」


先輩が言った。


「またですか?」


「……」


俺は嫌な予感がした。


「空耳さんじゃないですよね?」


先輩。


「誰ですか?」


「……何でもないです」


---


依頼人の家へ


俺たちは車で依頼人の家へ向かった。


運転は先輩。


俺は助手席。


後部座席には、懐中電灯、工具箱、脚立などが積まれている。


先輩が言った。


「屋根裏に何がいると思います?」


「分かりません」


「猫じゃないですか?」


「昨日のミケですか?」


「まさか」


「でも、あいつならあり得ます」


「屋根裏まで?」


「ドアを開ける猫ですから」


先輩が笑った。


「魔王さん、すっかりミケを警戒してますね」


「一度、猫に負けましたから」


「だから負けてませんって」


俺は窓の外を見る。


「……」


そのとき。


頭の中で声がした。


――魔王。


「……」


俺は固まった。


――魔王。


「空耳さん?」


先輩がこちらを見る。


「どうしました?」


「いや」


俺は小声で言った。


「何でもない」


――聞こえているだろう。


「……」


――屋根裏へ行け。


「なんで?」


――行けば分かる。


「急に何なんだよ」


――……。


「空耳さん?」


返事がない。


「おーい」


……。


「また消えた」


先輩が言った。


「誰と話してるんですか?」


「独り言です」


「最近、独り言が多いですね」


「……」


俺は黙った。


---


依頼人の家


住宅街の一軒家。


俺たちは玄関前に立った。


チャイムを押す。


ピンポーン。


女性が出てきた。


「便利屋さんですか?」


「はい」


先輩が答える。


「屋根裏の件で伺いました」


「ありがとうございます!」


女性はかなり困った顔をしている。


「本当に怖くて……」


俺は聞いた。


「どんな声が聞こえるんですか?」


「それが……」


女性が小声になる。


「男の人の声なんです」


「男?」


「はい」


「何と言っているんです?」


女性は少し迷ってから答えた。


「……『来るな』って」


俺と先輩が顔を見合わせる。


「……」


「……」


俺は言った。


「それは……」


先輩が続ける。


「怖いですね」


女性が頷く。


「夜になると聞こえるんです」


「毎晩ですか?」


「ここ三日ほど」


「屋根裏には何かありますか?」


「古い荷物を置いてあります」


「分かりました」


俺は懐中電灯を持つ。


「確認しましょう」


---


屋根裏への階段


屋根裏へ続く階段。


ギシ……


俺が一段目に足を乗せる。


ギシ……


二段目。


ギシ……


三段目。


先輩が後ろから言った。


「魔王さん」


「はい」


「こういうの苦手ですか?」


「別に」


「怖くない?」


「怖くないです」


「本当に?」


「……」


俺は少し考えた。


「人と戦う方が慣れてます」


「それもどうかと思いますけど」


さらに上る。


ギシ……


ギシ……


そして。


屋根裏の入口。


俺が扉に手をかける。


「開けます」


ガチャ。


ギィィィィ……。


屋根裏は暗かった。


古い段ボール。


家具。


布団。


古い扇風機。


そして。


奥に。


何かがある。


「……」


俺は懐中電灯を照らす。


何もない。


「普通ですね」


先輩が言った。


「そうですね」


その瞬間。


――来るな。


「!」


俺は振り返った。


「聞こえた!」


先輩。


「え?」


「今!」


「何が?」


「声!」


先輩が耳を澄ます。


「……」


「聞こえないです」


「俺には聞こえた」


女性が下から叫ぶ。


「聞こえましたか!?」


「はい!」


俺は屋根裏の奥を見る。


「誰だ!」


返事はない。


「出てこい!」


先輩。


「魔王さん、便利屋ですよね?」


「今は調査中です」


「格闘技の試合みたいになってません?」


---


声の正体を探す


俺たちは屋根裏を調べ始めた。


段ボール。


なし。


クローゼット。


なし。


古い布団。


なし。


棚。


なし。


「どこだ……」


俺は耳を澄ます。


静かだ。


しかし。


突然。


――来るな。


「そこだ!」


俺が指を差す。


古いタンス。


「タンス?」


先輩が言う。


「はい」


俺はタンスを調べる。


裏側。


何もない。


上。


何もない。


中。


古い服。


「……」


俺は考えた。


「声は、この辺から聞こえた」


先輩。


「じゃあ壁の向こう?」


俺は壁を叩く。


コン。


コン。


コン。


すると。


コン。


返事が返ってきた。


「……」


俺と先輩が固まる。


コン。


俺が叩く。


コン。


返事。


「……」


先輩が小声で言った。


「魔王さん」


「はい」


「これ……」


「はい」


「本当に何かいますよ」


俺は拳を握った。


「……」


先輩がすぐ言う。


「殴らないでください」


「まだ何もしてません」


「拳を握ってます」


「癖です」


---


壁の中?


俺は壁に耳を当てた。


「……」


何も聞こえない。


もう一度。


「……」


すると。


小さな声。


――魔王。


俺は飛び上がった。


「うわっ!」


先輩も驚く。


「どうしました!」


「空耳さん!」


「誰ですか!」


俺は周囲を見る。


「今、聞こえた!」


――魔王。


「どこにいるんだ!」


――ここだ。


「どこだよ!」


――お前のすぐそばだ。


俺は周囲を見る。


誰もいない。


「……」


俺は頭を抱えた。


「やっぱり俺、格闘技のやりすぎで頭がおかしくなったのかな」


先輩が真顔になる。


「……」


「何ですか?」


「私には何も聞こえません」


「……」


――魔王。


「いるんだよ!」


先輩。


「誰に言ってるんですか!」


「空耳!」


――空耳ではない。


「じゃあ姿を見せろ!」


――まだ早い。


「何で!」


――お前にはまだやることがある。


「何を?」


――屋根裏を調べろ。


「それだけ?」


――そうだ。


「分かったよ」


俺はため息をついた。


「……」


先輩が心配そうに俺を見る。


「魔王さん」


「はい」


「本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫です」


「病院、一度行きます?」


「行きません」


---


隠し扉


俺は再び屋根裏を調べた。


すると。


床板の一枚だけ。


少し浮いている。


「……?」


俺はしゃがむ。


「これ」


先輩が近づく。


「何ですか?」


「床板が浮いてます」


「本当ですね」


二人で持ち上げる。


ギィ。


床板が外れた。


その下には。


小さな空間。


「……」


先輩が懐中電灯を照らす。


古い箱が一つ。


「箱?」


俺は取り出した。


埃だらけ。


かなり古い。


女性が下から叫ぶ。


「何かありましたか!?」


先輩が答える。


「箱がありました!」


俺は箱を開ける。


中には。


古い写真。


古い新聞。


そして。


一冊の古いノート。


俺はノートを手に取る。


表紙には。


何も書かれていない。


ページを開く。


最初のページ。


そこには。


一行だけ。


『魔王は、まだ魔王ではない。』


「……」


俺の手が止まった。


「……」


先輩が覗き込む。


「何て書いてあるんです?」


俺は答えられなかった。


なぜなら。


次のページに。


俺の名前が書かれていたからだ。


『魔王』


そして。


その下には。


見覚えのない文字。


――「その声を聞いた者は、やがて世界を変える。」


俺はノートを閉じた。


「……」


先輩。


「魔王さん?」


俺は顔を上げた。


「これ」


「はい」


「持って帰ります」


「依頼人に見せなくていいんですか?」


俺は迷った。


そして。


「……まず、店長に相談しましょう」


そのとき。


頭の中に声がした。


――それでいい。


「空耳さん?」


――まだ、誰にも話すな。


「……」


――特に、そのノートのことは。


「なんで?」


返事はなかった。


「空耳さん?」


……。


「また消えた」


俺はノートを握りしめた。


屋根裏には。


もう何の声も聞こえなかった。


ただ。


床板の下に残された古い箱だけが。


俺の人生が再び大きく動き始めていることを。


静かに知らせていた。


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