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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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魔王、出動

「魔王さん」


朝の便利屋事務所。


店長に呼ばれた俺は、振り返った。


「はい?」


「今日の依頼なんですが」


「はい」


店長は一枚の依頼書を持っていた。


「猫探しです」


「……猫?」


「はい」


俺は依頼書を受け取った。


『迷子の猫の捜索』


依頼人の名前。


住所。


そして猫の特徴。


「三毛猫……名前はミケ……」


俺は真剣に読んだ。


先輩が横から覗き込む。


「初めての本格的な捜索ですね」


「はい」


俺は胸を張った。


「任せてください」


先輩が眉をひそめる。


「何でそんなに自信満々なんですか?」


「俺、プロですよ」


「便利屋の?」


「はい」


「世界チャンピオンの?」


「それもあります」


「猫探しの?」


「……」


俺は少し考えた。


「今日からです」


「経験ゼロじゃないですか」


---


出発前の作戦会議


店長が言った。


「依頼人によると、昨日の夜から帰ってきていないそうです」


「なるほど」


「名前はミケ」


「はい」


「三毛猫です」


「はい」


「臆病ですが、人には慣れています」


俺はメモを取る。


「好きなものは?」


「猫用のおやつだそうです」


「重要ですね」


先輩が頷く。


「あと、狭いところに入り込む癖があるそうです」


俺はメモに、


『狭いところ』


と書いた。


そして、その下に、


『ボディーブローとローキック禁止』


と書いた。


先輩が見る。


「何でですか?」


「習慣になっておりますので」


「猫探しですよ?」


「分かってます」


「猫をローキックする予定だったんですか?」


「ありません」


「じゃあ何で書いたんです?」


「自分への戒めです」


「何の戒めですか」


---


いざ出発


俺たちは会社の軽ワゴンに乗り込んだ。


運転席は先輩。


助手席は俺。


後部座席には猫用のおやつ、捕獲用のネット、段ボール、懐中電灯などが積まれている。


俺はシートベルトを締めた。


「お願いします」


「はい」


エンジンがかかる。


ブーン……。


車が動き出した。


俺は窓の外を見る。


「……」


普通だ。


街を走る。


コンビニ。


学校。


公園。


住宅街。


俺はなんだか嬉しくなった。


「便利屋っていいですね」


「何がですか?」


「こうやって普通に街を走って、困っている人を助けに行く」


「魔王さん、格闘技時代より楽しそうですね」


「はい」


俺は笑った。


「リングに行くときは、相手を倒しに行く感じでしたから」


「今は?」


「猫を倒しに行きます。じゃなくて、探しに行きます」


「平和ですね」


「最高です」


---


しかし、街がざわつき始める


信号待ち。


横断歩道に人が並んでいる。


その中の一人が、こちらの車を見る。


「あれ?」


俺は気づかなかった。


別の人が言った。


「……あの車」


「何?」


「あれ、魔王じゃない?」


「え?」


俺は帽子を深くかぶる。


「……」


先輩が笑う。


「気づかれましたね」


「マスクもしてるのに」


「世界チャンピオンですから」


「もう普通に働きたいんですけど」


「有名人は大変ですね」


信号が青になる。


車が進む。


俺は小さくため息をついた。


「便利屋として有名になるならいいんですけどね」


先輩。


「便利屋として?」


「はい」


「『世界チャンピオンの魔王が猫を探してくれる』って?」


「それはちょっと嫌です」


「なぜです?」


「猫を探すだけなのに、世界チャンピオンの名前がつくと大げさじゃないですか」


先輩。


「もう十分大げさですよ」


---


コンビニ休憩


途中で先輩がコンビニに車を止めた。


「ちょっと飲み物買います」


「はい」


俺も降りた。


店内へ入る。


店員さんが俺を見る。


「……」


俺も見る。


店員さん。


「……」


俺。


「……」


店員さんが突然。


「あっ!」


俺は反射的に帽子を深くかぶった。


「すみません!」


店員さんが笑顔になる。


「魔王さんですよね?」


「……はい」


「いつもテレビ見てます!」


「ありがとうございます」


「ボクシングの試合、すごかったです!」


「ありがとうございます」


「キックボクシングも見ました!」


「ありがとうございます」


「総合格闘技も!」


「……ありがとうございます」


店員さんが商品を見た。


「今日は何のお仕事ですか?」


俺は答えた。


「猫探しです」


「……」


店員さん。


「……え?」


「猫探しです」


「世界チャンピオンが?」


「はい」


店員さんは少し考えた。


「……次の対戦相手はライオン?」


「いえ、もう格闘技引退しました。でも、ライオンだと思って相手します」


俺は真顔で答えた。


先輩が横から吹き出した。


「魔王さん!」


「何ですか?」


「ミケを過大評価しすぎです!」


「いや、猫は素早いから」


「まだ会ってないですよ!」


「そうだった」


---


車内で作戦を立てる


再び車に乗る。


先輩が言った。


「魔王さん」


「はい」


「猫を探すとき、まず何をします?」


「聞き込みです」


「正解」


「近所の人に聞きます」


「そうです」


「それから足跡」


「はい」


「毛」


「はい」


「鳴き声」


「はい」


「餌」


「いいですね」


俺は頷いた。


「最後に――」


「最後に?」


「俺が走ります」


先輩が黙った。


「……」


「どうしました?」


「何で走るんですか?」


「猫を追いかけるためです」


「逃げますよ」


「……」


俺は考えた。


「じゃあ、歩きます」


「そういう問題じゃないです」


---


依頼人の家に到着


住宅街をしばらく走り。


目的地に到着した。


先輩が車を止める。


「着きました」


俺は車を降りる。


「よし」


帽子を直す。


メガネを確認。


マスクを確認。


そして。


気合を入れる。


「行きましょう」


「はい」


玄関の前に立つ。


先輩がチャイムを押す。


ピンポーン。


しばらくすると。


女性が出てきた。


「あの……便利屋さんですか?」


「はい」


先輩が答える。


「猫の捜索で伺いました」


女性の表情が明るくなる。


「ありがとうございます!」


俺も頭を下げる。


「必ず見つけます」


女性は俺を見る。


「……」


俺も見る。


「……」


女性が首を傾げる。


「あの……」


「はい?」


「もしかして……」


俺は覚悟した。


「……魔王さん?」


「……はい」


女性の目が大きくなる。


「世界チャンピオンの?」


「はい」


「どうして便利屋に?」


俺は笑った。


「いろいろありまして」


女性は困ったように笑った。


「……猫を探してもらうのに、こんなすごい人が来るとは思いませんでした」


俺は少し照れた。


「猫探しは初めてですけど」


「初めてなんですか?」


「はい」


先輩が小声で言う。


「言わなくてもいいです」


「……」


俺は黙った。


---


ミケの情報


家の中に入る。


女性が写真を見せてくれた。


そこには。


可愛らしい三毛猫が写っていた。


「この子です」


俺は写真を見る。


「……かわいいですね」


先輩。


「魔王さん、顔が緩んでますよ」


「緩んでないです」


「かなり緩んでます」


「……」


俺は写真を見る。


ミケ。


大きな目。


ふわふわの毛。


そして。


少し生意気そうな顔。


「……」


俺はなぜか嫌な予感がした。


「この子」


「はい?」


「頭良さそうですね」


女性が笑った。


「そうなんです」


「……」


「人の行動をよく見ていて」


俺は写真を見る。


「……」


女性が続ける。


「ドアを開ける方法も覚えてしまったんです」


「……」


先輩を見る。


「……」


先輩も俺を見る。


「魔王さん」


「はい」


「もしかすると」


「はい」


「今日の依頼」


「……」


俺は小さく頷いた。


「ただの猫探しじゃないかもしれません」


そのとき。


庭の方から。


ガタン。


という音がした。


全員が振り向く。


「……?」


女性が言った。


「今の音……」


俺はゆっくり立ち上がった。


「行ってみましょう」


庭へ出る。


しかし。


何もいない。


植木。


物置。


自転車。


そして。


地面に。


小さな三毛猫の足跡。


「……」


俺はしゃがみ込む。


先輩が言った。


「見つけました?」


俺は足跡を指差す。


「ミケのものかもしれません」


その足跡は。


庭の奥へ続いていた。


俺は立ち上がった。


「行きましょう」


そして。


俺たちは歩き始めた。


その先に。


世界チャンピオンの俺が、人生で一番苦戦することになる相手がいるとは知らずに。


――三毛猫、ミケ。


俺はまだ知らなかった。


この猫が。


ただ逃げるだけの猫ではないことを。

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