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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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湿地帯でジャンプ

旅立ちの村を出発した国王と魔王軍は、街道をさらに進んでいた。


先ほどバナナモンスターを五利武が素早く飛ばしたおかげで、道中は順調だった。


五利武はゴルフクラブを肩に担いでいる。


殴打が横から話しかけた。


「五利武さん」


「はい」


「さっきの二匹、かなり飛んだな」


「そうですね」


「どこまで飛んだんだろう?」


昆布が答える。


「かなり遠くまで飛んでいったと思います」


便意。


「バナナって飛ぶんですね」


魔王。


「モンスターだからね」


便意。


「普通のバナナだったら飛ばないですよね」


魔王。


「飛ばないよ」


父。


「でも空を飛ぶバナナがあったら便利じゃないか?」


魔王。


「何に使うの?」


父。


「通勤」


魔王。


「バナナで通勤するの?」


ネクタイ。


「遅刻するぞ」


父。


「はい!」


魔王。


「だから今日は休みなんだって!」


---


そんな会話をしながら進んでいると、景色が変わってきた。


道の両側に水たまりが増える。


草が伸びている。


地面も柔らかくなってきた。


昆布が双眼鏡を取り出した。


「……」


魔王。


「また何か見えた?」


昆布。


「この先、湿地帯です」


殴打。


「……」


五利武。


「……」


便意。


「……」


鍋。


「……」


母。


「……」


父。


「……」


全員が一瞬、黙った。


魔王。


「……どうしたの?」


殴打。


「いや」


殴打が言った。


「前にも湿地帯で大変な目に遭ったよな」


魔王。


「そうだね」


便意。


「カエルに食べられましたね」


父。


「俺がな」


魔王。


「そうだった」


母。


「パパ、大丈夫だった?」


父。


「ああ」


少し間を置いて、


「口の中で結構回されたけどな」


ネクタイ。


「それも仕事だ」


父。


「カエルの口の中で回される仕事って何だ!」


魔王。


「そこだけは正しい」


---


一行は湿地帯へ入った。


ぐちゃっ。


魔王。


「……」


もう一歩。


ぐちゃっ。


殴打。


「足が沈むな」


五利武。


「本当ですね」


便意。


「靴が汚れます」


鍋。


「洗うの大変そうですね」


母。


「お洗濯、大変ね」


父。


「俺のスーツは大丈夫だ」


魔王。


「不思議なスーツだから?」


父。


「ああ」


父が足元を見る。


ぐちゃっ。


泥が跳ねた。


黒いスーツのズボンに泥がつく。


父。


「……」


魔王。


「大丈夫?」


父。


「……大丈夫だ」


ネクタイ。


「身だしなみを整えろ」


父。


「はい!」


魔王。


「そこはネクタイが注意するんだ」


---


さらに進む。


すると霧が出てきた。


白い霧が湿地帯全体を覆っている。


前方が見えない。


魔王。


「かなり霧が濃いね」


昆布。


「視界が悪いです」


五利武。


「ゴルフだったらボールが見えませんね」


殴打。


「野球だったら?」


五利武。


「ボールが見えません」


殴打。


「同じじゃないか」


五利武。


「はい」


魔王。


「スポーツの話は今いいよ」


鍋。


「料理なら霧でもできますよ」


魔王。


「鍋は何でも料理にするな」


鍋。


「料理人なので」


---


昆布が慎重に前を見る。


「おそらく巨大なカエルモンスターがいます」


魔王軍。


「そうですね」


国王。


「……」


国王が馬車から顔を出す。


「なぜ、そんなに普通に返事をするんだ?」


魔王。


「前に会いましたから」


国王。


「いつも巨大なカエルに?」


魔王。


「はい」


国王。


「いつも襲われるのか?」


父。


「俺が食べられました」


国王。


「……」


父。


「でも大丈夫でした」


国王。


「なぜだ?」


父。


「メンタルガードです」


国王。


「……なるほど」


ネクタイ。


「精神力は大事だ」


父。


「はい!」


魔王。


「国王陛下、もう気にしないでください」


国王。


「いや、気になる」


---


そのとき。


ドン。


地面が揺れた。


魔王。


「ん?」


ドン。


また揺れる。


馬車が、


ガタッ。


と揺れた。


兵士。


「何だ!?」


昆布が地面を見る。


「……」


ドン。


魔王。


「地震?」


昆布。


「違います」


ドン。


「じゃあ何?」


昆布。


「一定の間隔です」


ドン。


殴打。


「誰かが歩いてる?」


昆布。


「そうかもしれません」


父。


「かなり大きいな」


ネクタイ。


「足音には注意しろ」


父。


「はい!」


魔王。


「父さん、ネクタイに言われる前から注意して!」


---


また、


ドン!


地面が揺れる。


ゴプリンがゆっくりと立ち止まった。


「……」


魔王。


「ゴプリン?」


ゴプリン。


「……揺れる」


魔王。


「うん」


ゴプリン。


「……プリンも揺れる」


魔王。


「そっち?」


ゴプリンは頭の鋼鉄のプリンカップを両手で押さえた。


カン。


「……大丈夫」


母。


「プリンカップが揺れないようにね」


ゴプリン。


「……うん」


便意。


「プリンが揺れたら大変ですね」


ゴプリン。


「……大事」


魔王。


「プリンへの警戒だけ異常に高いな」


---


そのとき。


遠くから、


ドン!


ドン!


ドォォン!


と連続して地響きが聞こえた。


魔王。


「これ、どんどん近づいてない?」


昆布。


「その可能性があります」


魔王。


「前にもカエルモンスターがいたよね?」


昆布。


「いました」


魔王。


「いつもゴーゴーって寝てたよね?」


昆布。


「そうですね」


魔王。


「だったら今回も寝てるのかな?」


ドォン!


魔王。


「寝てる音じゃないよね」


昆布。


「はい」


殴打。


「寝返りとか?」


魔王。


「カエルの寝返りで地面が揺れるの?」


五利武。


「かなり大きなカエルですね」


魔王。


「元々大きいよ」


便意。


「食事の時間かもしれません」


魔王。


「また食べられるのは嫌だよ」


父。


「俺もだ」


ネクタイ。


「同じ失敗を繰り返すな」


父。


「はい!」


魔王。


「父さんは失敗してないよ!」


---


昆布が双眼鏡を覗く。


「……見えません」


魔王。


「霧だからね」


昆布。


「もう少し慎重に進みましょう」


魔王。


「うん」


一行はゆっくり進んだ。


一歩。


ぐちゃ。


もう一歩。


ぐちゃ。


父。


「……」


魔王。


「父さん?」


父。


「靴が抜けそうだ」


魔王。


「大丈夫?」


父。


「メンタルガード」


魔王。


「それ、靴にも使えるの?」


父。


「分からん」


ネクタイ。


「足元を確認しろ」


父。


「はい!」


父が足元を見る。


ぐちゃっ。


今度は反対の足が沈む。


父。


「……」


魔王。


「大丈夫?」


父。


「大丈夫だ」


ネクタイ。


「仕事は続けろ」


父。


「はい!」


魔王。


「湿地帯が仕事場になってる!」


---


すると霧の向こうに、大きな影が見えた。


魔王。


「……何かいる」


昆布。


「はい」


影が――。


跳んだ。


ドォォォォン!


全員。


「!」


馬車が大きく揺れる。


国王。


「今のは何だ!?」


昆布。


「大きな巨体がジャンプしました」


魔王。


「カエル?」


昆布。


「カエルモンスターがジャンプしているのでしょうか」


魔王。


「いつも寝てたのに、食事の時間か?」


殴打。


「起きたら腹が減るからな」


鍋。


「食事なら任せてください」


魔王。


「鍋さん、カエルに料理出さないでね」


鍋。


「敵意がなければ出します」


魔王。


「カエルのサイズを見てから決めて」


---


影がまた跳ぶ。


ドォォン!


五利武。


「大きいですね」


便意。


「僕たちより大きいです」


魔王。


「そりゃそうだよ」


便意。


「じゃあファイアーで――」


魔王。


「まだ何もしてない!」


便意。


「すみません」


昆布。


「攻撃は正体を確認してからです」


便意。


「はい」


昆布。


「それと、湿地帯なので……」


便意。


「?」


昆布。


「ウォーターも禁止です」


便意。


「分かりました」


魔王。


「昆布さん、先回りしてるね」


昆布。


「前回の反省です」


便意。


「僕も反省してます」


殴打。


「俺は忘れてないぞ」


便意。


「すみません」


---


突然――。


霧の向こうから声が聞こえた。


「俺が次の魔王になってやる!」


全員。


「……」


魔王。


「……今、何て言った?」


もう一つの声。


「いや、次の魔王は俺だ!」


殴打。


「二人いるぞ」


五利武。


「本当ですね」


便意。


「魔王になりたいって言ってます」


父。


「またか」


魔王。


「カエルモンスターも魔王になりたいのか?」


昆布。


「……」


昆布が耳を澄ます。


「魔王様」


「うん」


昆布。


「カエルモンスターの声じゃない気がします」


魔王。


「え?」


昆布。


「先ほどまで聞いていたカエルモンスターとは、声質が違います」


魔王。


「じゃあ……」


霧の向こうを見る。


「新しいモンスターか?」


昆布。


「その可能性が高いです」


国王。


「新たな魔王候補か……」


母。


「また魔王になりたい人が出てきたのね」


魔王。


「人じゃないけどね」


母。


「そうだったわね」


ゴプリン。


「……魔王」


魔王。


「どうした?」


ゴプリン。


「……いっぱい」


魔王。


「確かに」


---


霧の向こうから、さらに声がする。


「俺のほうが強い!」


「俺だ!」


「俺が次の魔王だ!」


「いや、俺だ!」


殴打。


「……」


五利武。


「……」


鍋。


「……」


便意。


「……」


父。


「……」


魔王。


「……」


昆布。


「……」


母。


「……」


全員が同時に魔王を見る。


魔王。


「何?」


殴打。


「魔王、人気だな」


魔王。


「僕がなりたいわけじゃないんだけど」


父。


「魔王の座って、そんなに人気なのか?」


魔王。


「知らないよ」


ネクタイ。


「出世したい者は多い」


魔王。


「だから会社じゃないって!」


---


また巨大な影が跳ぶ。


ドォォォォン!


ゴプリン。


「……大きい」


母。


「本当に大きいわね」


鍋。


「お腹が空いてるんでしょうか」


魔王。


「鍋、まだ食事の心配してるの?」


鍋。


「料理人ですから」


便意。


「僕もお腹空いてきました」


魔王。


「さっき朝食食べたばかりだよ」


便意。


「湿地帯を歩いているので」


殴打。


「俺も腹減った」


五利武。


「私も少し」


魔王。


「みんな食べるんだね」


ゴプリン。


「……プリン」


魔王。


「ゴプリンはいつもプリンだね」


---


昆布は双眼鏡を構え直した。


霧の向こう。


巨大な影。


二つ。


そして――。


さらに別の何かが動いている。


昆布。


「……」


魔王。


「何か分かった?」


昆布。


「まだです」


魔王。


「三匹いる?」


昆布。


「……」


昆布は黙った。


ドン。


ドン。


ドォン。


三つの地響き。


魔王。


「……」


昆布。


「魔王様」


「うん」


昆布。


「どうやら、この先には――」


その瞬間。


霧の中から、


「俺が次の魔王だ!」


「いや、俺だ!」


という声が響いた。


魔王。


「……」


そしてまた、


ドォォォン!


地面が大きく揺れた。


馬車が揺れる。


兵士たちがよろめく。


父は足を踏ん張る。


父。


「メンタルガード!」


魔王。


「地面が揺れてるだけだよ!」


父。


「そうだった!」


ネクタイ。


「冷静に対応しろ」


父。


「はい!」


魔王。


「父さんはもう何にでも返事するな!」


霧はまだ晴れない。


正体もまだ見えない。


ただ一つ分かっているのは――。


この湿地帯には、巨大な何者かがいる。


しかも、その何者かは――。


「次の魔王」の座をめぐって争っている。


魔王はため息をついた。


「……また魔王になりたいモンスターか」


昆布。


「そうかもしれません」


魔王。


「でも、カエルじゃないんだよね?」


昆布。


「はい」


魔王。


「じゃあ、何なんだろう?」


その問いに答えるように――。


霧の向こうから、


ドォォォン!


という巨大な着地音が響いた。


そして二つの声が重なる。


「次の魔王は――」


「俺だ!」


魔王軍は、霧の向こうを見つめた。

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