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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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健太、サラリーマンになる

その夜。


俺は眠れなかった。


ベッドに横になって。


天井を見る。


「……」


今日の試合。


俺は勝った。


しかも。


KO。


でも。


全然嬉しくなかった。


相手は意識を失った。


幸い、しばらくして意識を取り戻した。


それでも。


俺の頭には。


ずっと同じことが浮かんでいた。


――もし。


――あのまま意識が戻らなかったら?


俺は寝返りを打った。


「……怖いな」


ボクシングは。


相手を殴るスポーツだ。


それは分かっている。


でも。


俺のパンチは。


普通より強い。


いや。


「イージーモード」にしてもらった今でさえ。


普通より強い。


俺は拳を見る。


「……」


そして。


また考えた。


「やっぱり、ボディーブローだけで勝てないかな」


顔を狙わなければいい。


相手の身体を狙う。


腹を狙う。


それなら。


頭へのダメージを減らせる。


「うん」


俺は一人で頷いた。


「これだ」


――魔王。


「!」


出た。


また。


謎の声。


「何だよ」


――お前。


「うん」


――ボディー好きだな。


「……」


俺は少しムッとした。


「だってさ」


――何だ。


「顔を殴ったら」


――うん。


「相手が死んじゃいそうで危ないだろ」


――……。


「だからボディーのほうが安全だろ」


――お前。


「何?」


――本当にボクサーか?


「何でみんなそれ言うんだよ!」


俺は布団を蹴った。


「俺だって勝ちたいんだよ!」


――なら。


「うん?」


――またパンチを強くしてやろうか。


「……」


俺は。


しばらく。


無言になった。


「なんでだよ」


――何?


「パンチ力が強くなったら」


俺は両手を広げた。


「余計危ないだろ!」


――……。


「今でも怖いんだぞ!」


――そうか。


「そうだよ!」


――なら。


「何?」


謎の声が。


妙に楽しそうに言った。


――もっと考えろ。


「……」


――ハッハッハ。


「おい!」


――ハッハッハ。


「悩んでんだから笑うなよ!」


――……。


「おい?」


返事がない。


「……」


「消えた?」


沈黙。


「急に出てきて」


俺は布団をかぶる。


「急にいなくなるな!」


返事はない。


「……」


俺はため息をついた。


「もういい」


目を閉じる。


「寝よう」


しかし。


五分後。


「……」


目が冴えている。


「寝られない」


結局。


俺は明け方まで。


ボディーブローについて考えていた。


---


翌朝


朝。


俺は健太を迎えに行った。


いつもなら。


健太の家の前で。


「健太ー!」


と叫ぶ。


しかし。


今日は。


少しだけ。


嫌な予感がしていた。


「健太!」


玄関が開く。


「おう」


健太が出てきた。


俺は笑う。


「今日もジム行くぞ」


すると。


健太は。


「……魔王」


「何?」


「ちょっと話がある」


「?」


健太は。


少し困ったような顔をした。


「俺」


「うん」


「ボクシング辞めようと思ってさ」


「……」


俺は。


何も言えなかった。


「……え?」


健太は続けた。


「昨日の試合で考えたんだ」


「……」


「俺、強くなりたい」


「うん」


「でも」


健太は笑った。


「ボクシングで生活する必要もないかなって」


「……」


「だから」


健太は。


拳を握ってから。


すぐに開いた。


「普通のサラリーマンやるわ」


俺は。


しばらく。


何も言わなかった。


「……」


そして。


健太が笑った。


「魔王は世界チャンピオンなれよ」


「……」


「俺は」


健太は胸を張った。


「サラリーマンで世界チャンピオンになるから」


俺は眉をひそめた。


「……」


「何だよ?」


俺は真顔で聞いた。


「サラリーマンの世界チャンピオンって何だ?」


「……」


「そんな大会あるのか?」


健太が吹き出した。


「ないよ!」


「ないのかよ!」


「例えだよ!」


「何の例えだよ!」


「仕事で世界一になるってこと!」


「それなら最初からそう言え!」


「お前、本当に例えが通じないな!」


「だって世界チャンピオンって言ったじゃん!」


「ボクシングの話じゃない!」


「紛らわしい!」


二人で笑った。


でも。


俺は。


笑いながら。


少しだけ。


寂しかった。


---


二人で歩く。


いつもなら。


ジムへ向かう道。


でも。


今日は。


健太の職場探しの話だった。


「どんな仕事するんだ?」


「まだ決めてない」


「営業?」


「いや」


「事務?」


「分からない」


「IT?」


「パソコン苦手」


「じゃあ何?」


「サラリーマン」


「職種を聞いてるんだよ!」


健太が笑う。


「そのうち決める」


「そうか」


しばらく歩く。


「魔王」


「ん?」


「俺たち」


「うん」


「高校の頃からずっと一緒だったな」


「そうだな」


「ボクシングも一緒に始めた」


「うん」


「プロにも一緒になった」


「うん」


「試合にも出た」


「うん」


健太が少し笑う。


「でも」


「……」


「ここからは別々だな」


俺は。


何も言わなかった。


ただ。


「……そうだな」


と答えた。


---


ジムの前


いつものジム。


俺たちは。


そこまで来た。


健太は。


入口を見つめる。


「……」


俺も。


見る。


昨日まで。


毎日のように入っていた場所。


二人で汗を流した場所。


二人で負けた場所。


二人で初勝利を喜んだ場所。


そして。


今日。


健太は。


ここから離れる。


「じゃあ」


健太が言った。


「俺、帰るわ」


「……」


「魔王」


「何?」


「頑張れよ」


「健太も」


「俺はサラリーマンになる」


「世界チャンピオン?」


「そう」


「どんな大会だよ」


「だから比喩だって!」


二人は笑った。


そして。


健太が歩き出す。


俺は。


その背中を見る。


「健太!」


振り返る。


「何?」


俺は言った。


「……ありがとう」


健太は少し驚いた。


そして。


笑った。


「こっちこそ」


そう言って。


歩いていった。


---


一人になった魔王


俺は。


一人でジムに入った。


「おはようございます」


トレーナーが驚く。


「健太は?」


「……辞めるそうです」


「そうか」


トレーナーは。


少し寂しそうな顔をした。


「残念だな」


「はい」


俺はリングを見る。


「でも」


「うん」


「健太なら、どんな仕事でも頑張ると思います」


トレーナーが笑った。


「そうだな」


俺はグローブをつける。


「俺も」


「……」


「もっと強くなります」


そして。


サンドバッグの前に立った。


「……」


拳を構える。


バンッ!


サンドバッグが揺れる。


俺は。


拳を見た。


「……」


健太がいなくなった。


今まで。


横にいた。


笑っていた。


俺をからかっていた。


一緒に練習していた。


でも。


これからは。


一人。


「……」


俺は。


少しだけ寂しくなった。


そのとき。


――魔王。


「……」


また。


謎の声。


「何?」


――寂しいか?


俺は。


少し考えた。


「……うん」


――そうか。


「でも」


俺はサンドバッグを見る。


「健太には健太の道がある」


――そうだな。


「俺には俺の道がある」


――そうだ。


俺は。


拳を握った。


「だったら」


一歩踏み込む。


「俺は俺で」


拳を振り抜いた。


「バンッ!」


サンドバッグが。


大きく揺れた。


俺は笑った。


「世界チャンピオンを目指すか」


そして。


小さく付け加えた。


「……顔を殴らずに」


――お前はまだ言っているのか。


「大事だからな!」


――……。


「なあ」


――何だ。


「ボディーだけで世界チャンピオンになれるかな?」


――……。


「おい?」


謎の声は。


また。


黙った。


俺はため息をついた。


「また消えたよ」


そして。


サンドバッグを見る。


「……まあいい」


拳を構える。


「やるしかないな」


その日から。


魔王は。


一人で練習を続けることになった。


しかし。


それは。


寂しいだけの始まりではなかった。


健太が去ったことで。


魔王は。


自分自身と向き合う時間を。


初めて持つことになる。


そして。


その先には。


ボクシングでは説明できない。


大きな変化が。


静かに待っていた。

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