↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
158/171

大食堂で食事中に

宿屋の一階にある大きな食堂では、魔王軍と国王、そして護衛の兵士たちが、鍋の作った夕食を囲んでいた。


長旅のあとということもあり、全員かなり腹が減っていた。


鍋が大鍋の蓋を開ける。


「出来ましたよ」


湯気が一気に広がった。


魔王が覗き込む。


「おお……」


殴打も覗き込む。


「うまそうだな」


五利武も覗き込む。


「かなりの量ですね」


便意も覗き込む。


「これ、食べても大丈夫ですか?」


鍋が振り返る。


「俺が作ったんだから大丈夫ですよ」


便意は安心した。


「よかった……」


昆布が聞く。


「便意さん、今まで何を心配していたんですか?」


「食事中にファイアーとか出たらどうしようかと」


「出す予定なんですか?」


「ありません」


「なら大丈夫です」


魔王が笑った。


「便意さん、食事中は魔法禁止ね」


「分かりました」


父も席についた。


黒い不思議なスーツは今日も健在だった。


父が箸を持つ。


するとスーツの胸ポケットから紙が一枚出てきた。


魔王が見る。


「父さん、それ何?」


父が紙を見る。


そこには、


『本日の業務:夕食を食べる』


と書かれていた。


「……仕事なのか?」


母が笑う。


「パパ、ちゃんと仕事してるわね」


父は真剣な顔で頷いた。


「食事も業務だ」


ネクタイが突然しゃべった。


「いっぱい食べて体重増やすんだぞ!」


父。


「相撲部屋か!」


魔王。


「なんで父さん、ネクタイに返事してるの?」


「職場だからな」


「ここ宿屋だよ」


「……そうだった」


ネクタイ。


「明日の仕事は?」


父。


「まだ分かりません!」


ネクタイ。


「親方に連絡した?」


父。


「相撲部屋か!」


魔王が頭を抱える。


「誰が親方なの?」


昆布が手を挙げる。


「一応、国王陛下ではないでしょうか」


国王が驚く。


「私か?」


父が国王を見る。


「よろしくお願いします」


「何をよろしくされているんだ」


食堂に笑いが起こった。


---


鍋が全員の前に料理を配っていく。


「まずは食べてください」


ゴプリンの前にも料理が置かれる。


ゴプリンは料理を見る。


そして、小さく言った。


「……プリン?」


鍋が固まる。


「いや、これはプリンじゃないです」


ゴプリン。


「……そう」


少し残念そうだった。


母がゴプリンの頭を撫でる。


「食後にプリンがあるかもしれないわよ」


ゴプリンの目が輝いた。


「……!」


魔王が鍋を見る。


「鍋、あるの?」


「作ってません」


ゴプリン。


「……」


魔王。


「母さん、言っちゃったね」


母。


「あら」


鍋。


「今から作りますか?」


ゴプリンが立ち上がろうとする。


すると頭の鋼鉄のプリンカップがズレかけた。


ゴプリン。


「……危ない」


ゆっくり座り直す。


魔王。


「プリンへの期待で動きが速くなったな」


昆布。


「ゴプリンさん、プリンの話になると通常より行動速度が上がっています」


ゴプリン。


「……プリン、大事」


五利武。


「分かりやすいですね」


殴打。


「俺も分かるぞ」


魔王。


「殴打は何?」


「肉」


「それは分かる」


鍋。


「肉ならありますよ」


殴打の目が輝いた。


「本当か!」


鍋。


「はい」


殴打。


「鍋!」


鍋。


「なんですか?」


「お前、最高だな!」


鍋。


「ありがとうございます」


父のネクタイ。


「仕事終わったの?」


殴打。


「食事中です!」


ネクタイ。


「仕事は?」


殴打。


「俺の仕事は野球だ!」


ネクタイ。


「明日の仕事は?」


殴打。


「たぶん炎のスイング!」


魔王。


「なんでネクタイが殴打にまで聞いてるの?」


父。


「ネクタイだからな」


「理由になってないよ」


---


国王も料理を口に運ぶ。


「これは美味しいな」


鍋が嬉しそうにする。


「ありがとうございます」


国王。


「料理人として腕がいい」


鍋。


「元々はフライパンの勇者でした」


国王。


「……フライパン?」


魔王。


「いろいろあったんですよ」


鍋。


「今はコックです」


国王。


「なるほど。勇者から料理人か」


鍋。


「はい」


殴打。


「俺も元々は野球選手です」


五利武。


「私はゴルファーです」


便意。


「私は会社員でした」


昆布。


「私は格闘ゲームのプロです」


勇気。


「私は勇者です」


母。


「私はお母さんです」


全員が母を見る。


魔王。


「そこだけ職業じゃないよね?」


母。


「でも一番忙しいわよ」


父。


「確かに」


ネクタイ。


「仕事量が多いぞ」


父。


「はい!」


魔王。


「だからなんで返事するの」


---


兵士の一人が料理を食べながら言った。


「しかし……こうして食事をしていると、この前まで王都で戦っていたのが嘘みたいですね」


昆布が頷く。


「そうですね」


魔王。


「王都では大変だったからね」


便意。


「カエルにも食べられましたし」


父。


「俺がな」


魔王。


「父さんだったね」


父。


「口の中は暗かったぞ」


母。


「大丈夫だった?」


父。


「大丈夫だった」


ネクタイ。


「胃の中まで行ってたら危なかったぞ」


父。


「そうだな」


魔王。


「ネクタイが急に正しいこと言った」


ゴプリン。


「……カエル」


全員。


「?」


ゴプリン。


「……大きかった」


魔王。


「そうだね」


ゴプリン。


「……プリンより大きい」


鍋。


「比較対象がプリンなんですね」


---


五利武が料理を食べながら、ふと昆布を見る。


「昆布さん」


「はい」


「この村の料理も美味しいですね」


昆布。


「そうですね」


「王都の料理と比べてどうですか?」


昆布は少し考える。


「今は比較しないほうがいいでしょう」


五利武。


「なぜです?」


昆布。


「鍋さんが聞いています」


鍋が無言でこちらを見ていた。


五利武。


「……」


鍋。


「……」


五利武。


「美味しいです」


鍋。


「ありがとうございます」


魔王。


「危なかったね」


昆布。


「戦略的撤退です」


魔王。


「食事で戦略使うなよ」


---


そのとき、父のスーツからまた紙が出てきた。


魔王が見る。


『本日の業務目標:全員で仲良く夕食を食べる』


魔王。


「父さん、これ結構いい目標じゃない?」


父。


「そうだろ?」


母。


「パパ、素敵ね」


父。


「ありがとう」


ネクタイ。


「目標達成率を確認しろ」


父。


「まだ食事中だ」


ネクタイ。


「進捗報告を」


父。


「順調です」


魔王。


「会社じゃん」


国王まで笑い始めた。


「面白いスーツだな」


父。


「自分でもそう思います」


ネクタイ。


「俺は何でも知っている」


父。


「……」


魔王。


「何を知ってるの?」


ネクタイ。


「お前が今、肉をもう一個取ろうとしていることもな」


父の手が止まる。


殴打が笑う。


「ネクタイにバレたな」


父。


「……取っていいか?」


鍋。


「どうぞ」


父。


「ありがとう」


ネクタイ。


「許可を得たな」


父。


「はい!」


魔王。


「もう完全に会社だよ!」


---


食事はしばらく和やかに続いた。


国王も久しぶりにゆっくり食事を取っている。


だが――。


入口の扉が開いた。


「失礼します!」


全員が振り向く。


王都から急いでやって来た三人の兵士だった。


三人とも息を切らしている。


昆布が箸を置く。


「何かありましたか?」


兵士が頷く。


「はい」


国王の表情が変わる。


「王都で不穏な動きがあります」


食堂の空気が一瞬で変わった。


魔王も箸を置く。


殴打も食事を止める。


五利武も姿勢を正す。


便意も真剣な顔になる。


ゴプリンも、


「……」


と兵士を見る。


そして父だけが、まだ肉を持っていた。


ネクタイ。


「食事中でも報告は聞け」


父。


「はい!」


魔王。


「父さん、肉置いてからでいいよ」


父。


「あ、はい」


肉を皿に戻す。


兵士が続ける。


「王都の上空に何かが増えています」


昆布が静かに立ち上がった。


「詳しく聞きましょう」


その瞬間。


鍋が小声で言った。


「……食事、冷めますよ」


全員が鍋を見る。


魔王。


「今それ言う?」


鍋。


「大事ですよ」


母。


「そうね。せっかく作ったんだもの」


国王。


「……確かに」


昆布。


「では、食べながら聞きましょう」


兵士。


「え?」


魔王。


「この軍、緊張感があるのかないのか分からないな」


ネクタイ。


「食事も仕事だぞ」


父。


「はい!」


魔王。


「そこだけは一貫してる!」


食堂には再び小さな笑いが起こった。


しかし――。


王都で何が起きているのか。


それはまだ誰にも分からなかった。


旅立ちの村の夕食は続く。


だが、王都の異変は、すでに始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。