寝ながらファイアー!
街道は、相変わらず真っ白だった。
バナナモンスターが撒いた白い粉のせいで、地面はヌルヌル。
魔王軍は全員、地面に寝転がっている。
立とうとしても――。
ツルッ。
座ろうとしても――。
ズルッ。
少し移動しようとしても――。
ゴロゴロ。
完全に、
「寝ながら戦う」
という、以前にもあった謎の戦闘スタイルになっていた。
魔王「……」
昆布「……」
殴打「……」
五利武「……」
便意「……」
鍋「……」
勇気「……」
ゴプリン「……」
母「……」
上空には三匹のバナナモンスター。
パタパタ。
パタパタ。
パタパタ。
三匹はお互いに十分な距離を取りながら飛んでいる。
バナナモンスターA「どうだ!」
バナナモンスターB「今回は誰にもぶつからないぞ!」
バナナモンスターC「混乱させられても大丈夫だ!」
魔王「……」
昆布「……」
魔王「かなり厄介だね」
昆布「はい」
魔王「立てない」
昆布「はい」
魔王「魔王の睨みも、混乱させるだけでは決定打にならない」
昆布「はい」
魔王「お米も届かなかった」
母「ごめんね」
魔王「いや、母さんのせいじゃないよ」
昆布はしばらく考えていた。
そして、ふと便意を見る。
便意も地面に仰向けになっていた。
杖を胸の上に乗せている。
昆布「便意さん」
便意「はい」
昆布「ファイアーは出来ますか?」
便意は少し考えた。
便意「殴打さんが大丈夫ならいけます」
昆布「なるほど」
殴打も地面に寝たまま答えた。
殴打「フルスイングとはいきませんけど……」
魔王「うん」
殴打「スイングは寝ながらでも出来ます」
魔王「出来るんだ」
殴打「毎日バットを振ってますから」
魔王「そこはさすがプロ野球選手だね」
昆布「では――」
昆布が上空を見る。
三匹のバナナモンスターは、相変わらず距離を取っている。
昆布「便意さん、お願いします」
便意「分かりました」
便意は杖を持ち上げた。
便意「ファイアー」
ボッ!
殴打の魔法のバットに炎が出た。
ゴオオオオオッ!
殴打「おお!」
魔王「炎が出た!」
便意「よし!」
殴打は寝転がったままバットを構える。
殴打「……」
魔王「大丈夫?」
殴打「はい」
殴打は地面に寝たまま、
バットを、
ゆっくり振る。
殴打「えい!」
ブォン!
炎をまとったバットが空を切る。
ゴオオオオオ!
しかし――。
バナナモンスターたちとは距離がある。
炎はそこまで届かない。
魔王「……」
昆布「……」
殴打「……」
バナナモンスターA「危ない!」
ヒラリ。
バナナモンスターAが軽く横へ移動した。
炎の攻撃は――。
届かなかった。
バナナモンスターA「危なかった!」
バナナモンスターB「危なかったな!」
バナナモンスターC「でも、この距離なら大丈夫だ!」
魔王「避けたというより、届かなかったんだけどね」
バナナモンスターA「細かいことはいい!」
バナナモンスターB「このまま動けなければ!」
バナナモンスターC「空腹でさらに動けなくなるだろう!」
三匹が笑う。
バナナモンスターたち「ナハハハハハ!」
魔王「……」
昆布「……」
便意「……」
殴打「……」
昆布は五利武を見る。
五利武は地面に寝たまま、ゴルフクラブを握っていた。
昆布「五利武さんなら、いけると思います」
五利武「……」
五利武がゆっくりと昆布を見る。
五利武「私の番ですね」
魔王「五利武さん、まさか……」
五利武「やります」
五利武は仰向けのままゴルフクラブを握る。
そして――。
両手で持ち上げた。
五利武「……」
魔王「何するの?」
五利武「飛びます」
魔王「飛ぶの?」
五利武「はい」
魔王「どうやって?」
五利武「いつものように」
魔王「いつものように!?」
五利武がゴルフクラブを振り上げる。
そして――。
ブンッ!
ゴルフクラブを振った。
その瞬間。
五利武の身体が――。
ズザァァァァッ!
地面を滑った。
魔王「滑った!」
昆布「想定通りです」
魔王「想定通りなの!?」
五利武は止まらない。
ズザザザザザ!
そのままゴルフクラブを握ったまま――。
地面から浮き上がった。
五利武「飛びます!」
シュゴオオオオオ!
魔王「本当に飛んだ!」
便意「寝たまま飛んでる!」
殴打「すごい!」
五利武はゴルフクラブを握ったまま、バナナモンスターへ向かって飛んでいく。
バナナモンスターA「なに!?」
バナナモンスターB「飛んできたぞ!」
バナナモンスターC「避けろ!」
三匹が左右に散る。
五利武「そこ!」
バナナモンスターA「!」
ヒュッ!
バナナモンスターAがひらりとかわした。
五利武の身体は、そのまま通過する。
しかし――。
五利武は空中で身体をひねった。
五利武「まだです!」
ブンッ!
ゴルフクラブをフルスイング!
バナナモンスターA「えっ!?」
ゴンッ!
バナナモンスターA「うわあああああ!」
バナナモンスターAが、
ものすごい勢いで飛んでいく。
シュゴオオオオオオ!
旅立ちの村の方向へ。
魔王「飛んでいった!」
昆布「方向は旅立ちの村です!」
魔王「父さんと同じ方向だ!」
五利武は空中で回転しながら、そのまま次のバナナモンスターへ向かう。
五利武「次!」
バナナモンスターB「ええっ!?」
五利武「スイング!」
ブォォォォン!
バナナモンスターB「待て!」
ゴンッ!
バナナモンスターB「うわあああああ!」
シュゴオオオオオ!
二匹目も旅立ちの村の方向へ飛んでいく。
魔王「すごい……」
便意「ゴルフクラブって、あんなに飛ぶんだ」
殴打「いや、五利武さんも飛んでます」
魔王「そうなんだよ」
五利武は空中でゴルフクラブを構え直した。
そして最後の一匹を見る。
バナナモンスターC「……」
五利武「最後ですね」
バナナモンスターC「待て!」
五利武「いきます!」
バナナモンスターC「話し合おう!」
魔王「急に話し合いを求め始めた」
昆布「追い詰められています」
バナナモンスターC「俺たちはただ次の魔王に――」
五利武「スイング!」
ブォォォォォォン!
バナナモンスターC「話の途中ーーー!」
ゴンッ!
バナナモンスターC「うわああああああ!」
シュゴオオオオオオオ!
最後の一匹も飛んでいった。
三匹とも、
旅立ちの村の方向へ。
そして――。
静かになった。
パタパタという羽音も聞こえない。
白い粉も、もう降ってこない。
魔王軍は地面に寝転がったまま、空を見上げていた。
魔王「……」
昆布「……」
殴打「……」
便意「……」
鍋「……」
勇気「……」
ゴプリン「……」
母「……」
魔王「終わった?」
昆布「はい」
魔王「バナナモンスターは?」
昆布「いません」
魔王「……」
魔王軍全員が、
ほっと息をついた。
便意「ファイアーは役に立った?」
殴打「届かなかったですけどね」
便意「……」
魔王「でも五利武さんが動けたから」
昆布「はい」
五利武はまだ空中を飛んでいた。
五利武「……」
魔王「あれ?」
昆布「まだ戻ってきませんね」
殴打「五利武さん!」
五利武「大丈夫です!」
魔王「何が大丈夫なの!?」
五利武「このまま旅立ちの村まで行けそうです!」
魔王「行かないで!」
五利武「分かりました!」
五利武は空中で身体をひねる。
そして――。
ゴルフクラブを反対方向へ振った。
ブォン!
五利武「戻ります!」
シュゴオオオオオ!
魔王「戻り方もスイングなんだ……」
五利武がこちらへ戻ってくる。
ズザザザザザ!
そして街道に着地。
しかし――。
地面はまだヌルヌルしている。
五利武「……」
ツルッ。
五利武「おっと」
そのまま滑っていく。
ズルズルズルズル……。
魔王「五利武さん!」
五利武「大丈夫です!」
ズルズルズルズル……。
五利武「止まりません!」
魔王「大丈夫じゃないじゃん!」
五利武はそのまま少し離れた場所まで滑っていった。
そして、
ピタッ。
五利武「止まりました」
魔王「よかった」
昆布「バナナモンスターは全滅……いえ、飛んでいっただけですね」
魔王「そうだね」
昆布「ただ、問題があります」
魔王「何?」
昆布は白い街道を見る。
昆布「この粉です」
魔王「……」
全員「……」
まだ地面はヌルヌルだった。
魔王「バナナモンスターはいなくなったけど……」
昆布「立てません」
魔王「そうだった」
母「どうしましょう?」
便意「ウォーター?」
昆布「駄目です」
便意「まだ言ってないです」
昆布「分かっています」
魔王「さすが昆布さん」
国王が馬車の中から声をかける。
国王「そなた達!」
魔王「はい!」
国王「敵はもういないのじゃな?」
魔王「はい!」
国王「では、そろそろ旅立ちの村へ――」
魔王「……」
昆布「……」
国王「……どうした?」
魔王「立てません」
国王「……」
昆布「地面がまだ滑ります」
国王「……」
魔王「もう少し待ってください」
国王「分かった」
国王は馬車の中で静かに待つことになった。
魔王軍は全員、地面に寝転がったまま。
そして誰も知らない。
飛ばされた三匹のバナナモンスターが向かった先には――。
すでに父さんが飛んでいる。
父さん「うわああああああ!」
バナナモンスターA「うわあああああ!」
バナナモンスターB「飛んでるぞ!」
バナナモンスターC「俺たちも飛んでる!」
父さん「なんでお前たちまで飛んでるんだーーー!」
魔王軍が旅立ちの村を目指している一方で、
旅立ちの村の方向では、
父さんとバナナモンスター三匹による謎の空中大移動が始まっていた。
果たして旅立ちの村で、
四つの飛来物はどうなるのか。
そして魔王軍は、いつになったらこのヌルヌル街道から立ち上がれるのか。




