寝ながら戦う再び!
街道の上は、真っ白だった。
バナナモンスター三匹が撒いた白い粉によって、地面はツルツル、ヌルヌル。
魔王軍と兵士たちは、立ち上がろうとしては滑っている。
魔王「……」
ツルッ。
魔王「うわっ!」
ドサッ。
殴打「魔王様、大丈夫ですか?」
魔王「うん」
殴打「では、立ちましょう」
魔王「そうだね」
二人で立ち上がろうとする。
せーの。
ツルッ!
ドテン!
魔王「……」
殴打「……」
魔王「無理だね」
殴打「無理ですね」
少し離れたところでは、五利武も倒れていた。
五利武「立てません」
昆布「私もです」
鍋「俺もです」
便意「俺も」
勇気「僕もです」
ゴプリン「……立てない」
魔王「全員だね」
国王だけは馬車の中にいる。
国王「……」
魔王「国王陛下、大丈夫ですか?」
国王「馬車の中は大丈夫じゃ」
魔王「よかった」
国王「しかし……」
国王が窓から外を見る。
国王「そなた達、全員寝ているように見えるぞ」
魔王「寝てないです」
国王「そうか?」
魔王「はい」
魔王は地面に仰向けになったまま答えた。
国王「……寝ながら戦うのか?」
魔王「違います」
昆布「ただ、立てないだけです」
国王「なるほど」
昆布「この状況、以前にもありましたね」
魔王「……あったね」
全員が思い出した。
以前、バナナモンスターの粉によって地面が滑り、魔王軍が地面を転がりながら戦ったことがある。
そして今回。
バナナモンスターたちは、その経験から学習している。
上空では三匹が一定の距離を保ちながら飛んでいた。
パタパタ。
パタパタ。
パタパタ。
バナナモンスターA「今回は絶対に負けないぞ!」
バナナモンスターB「前は混乱させられてぶつかったからな!」
バナナモンスターC「今回は距離を取っている!」
魔王「……」
昆布「かなり対策されています」
魔王「そうだね」
その時。
バナナモンスターAが、何かを思い出したように叫んだ。
バナナモンスターA「そういえば!」
バナナモンスターB「どうした?」
バナナモンスターA「さっき、全身黒タイツの人が飛んで来たぞ!」
魔王「……」
バナナモンスターC「俺も見た!」
バナナモンスターB「ものすごい勢いで飛んでいた!」
バナナモンスターA「きっと、こいつらの仲間だ!」
バナナモンスターB「そうだ!」
バナナモンスターC「俺たちを攻撃しやがって!」
魔王「違うよ!」
バナナモンスターたちが一斉に魔王を見る。
魔王「父さんだ」
バナナモンスターA「父さん?」
魔王「僕の父さん」
バナナモンスターB「仲間じゃないのか?」
魔王「仲間ではあるけど、攻撃したわけじゃない」
バナナモンスターC「じゃあ何をした?」
魔王「飛んで行ったんだ」
三匹「…………」
バナナモンスターA「飛んで行った?」
魔王「うん」
バナナモンスターB「自分から?」
魔王「いや、飛ばされたんだ」
バナナモンスターC「誰に?」
魔王「……五利武さんに」
五利武「僕です」
バナナモンスターたちが五利武を見る。
五利武は地面に寝転がったまま答えた。
五利武「お尻をフルスイングしました」
バナナモンスターA「……」
バナナモンスターB「……」
バナナモンスターC「……」
魔王「そこは詳しく説明しなくていいよ」
五利武「はい」
バナナモンスターA「つまり、あの黒タイツの人は……」
魔王「不思議なスーツで全身を覆われた父さん」
バナナモンスターB「……」
バナナモンスターC「……」
バナナモンスターA「攻撃されたんじゃなくて?」
魔王「飛んで行った」
バナナモンスターB「……変な軍団だな」
魔王「それは否定できない」
昆布「ですが、今は父さんよりも目の前の問題です」
魔王「そうだね」
昆布「バナナモンスターをどうするかです」
魔王「混乱させても、今回はぶつからない」
昆布「はい」
魔王「地面は滑る」
昆布「はい」
魔王「攻撃も届かない」
昆布「そうです」
魔王「……」
魔王は空を見上げた。
三匹のバナナモンスターは、絶妙な距離を保ちながら飛んでいる。
魔王「……どうしよう」
その時。
母さんが手を上げた。
母「そうだ!」
魔王「母さん?」
母「私の激熱お米で攻撃出来そう」
魔王「激熱お米?」
母「うん」
昆布「なるほど」
魔王「届くかな?」
母「やってみるわ」
母さんは子供用巨人のしゃもじを構えた。
そして――。
バッ!
激熱お米をすくう。
母「えいっ!」
ヒュッ!
大きな熱々のお米が空へ飛んでいく。
魔王「おお!」
殴打「届くか?」
五利武「かなり飛びました!」
昆布「……」
全員が上空を見つめる。
激熱お米は――。
上がっていく。
上がっていく。
上がっていく。
魔王「おっ」
便意「届く?」
勇気「いけそうです!」
母「頑張って!」
ところが。
激熱お米の勢いが――。
弱くなった。
魔王「あれ?」
ヒュウウウ……。
お米が止まりかける。
そして――。
クルッ。
魔王「……」
昆布「……」
殴打「……」
五利武「……」
便意「……」
鍋「……」
勇気「……」
ゴプリン「……」
母「……?」
お米が、
ゆっくりと、
こちらへ戻ってきた。
魔王「……」
母「……」
魔王「母さん」
母「なあに?」
魔王「これ……」
母「うん」
魔王「戻ってきてない?」
母「……そうね」
昆布「戻ってきています」
ヒュウウウウ……。
お米が空から落ちてくる。
しかも――。
魔王軍のいる場所へ。
魔王「まずい!」
殴打「避けられません!」
昆布「立てません!」
五利武「滑って移動できません!」
便意「どうする!?」
鍋「逃げられない!」
勇気「まずいです!」
ゴプリン「……」
ゴプリンは空を見上げる。
ゴプリン「……お米……」
魔王「今は食べる状況じゃないよ!」
そして――。
ポトッ。
魔王「熱っ!」
ポトポトポトッ!
殴打「熱い!」
ポトポトポト!
五利武「熱い!」
ポトポトポト!
便意「熱い熱い!」
鍋「熱い!」
勇気「熱いです!」
昆布「熱い!」
ゴプリン「……熱い」
さらに――。
ドサッ!
巨大なお米が魔王の肩に落ちる。
魔王「熱い!」
殴打「魔王様!」
魔王「大丈夫!」
殴打「大丈夫じゃないですよ!」
魔王「いや、熱いだけ!」
五利武「僕のところにも来ました!」
便意「こっちにも!」
鍋「熱い!」
勇気「熱い!」
昆布「熱い!」
ゴプリン「……熱い」
母さんはしゃもじを持ったまま、申し訳なさそうにみんなを見る。
母「……」
魔王「母さん……」
母「……」
魔王「これは……」
母「届かなかった」
魔王「うん」
母「ごめんね」
魔王「大丈夫」
殴打「大丈夫じゃないです!」
五利武「熱いです!」
便意「熱い!」
鍋「熱い!」
勇気「熱いです!」
昆布「熱いです!」
ゴプリン「……熱い」
魔王「全員同じこと言ってる!」
母「本当にごめんね」
昆布「いえ、お母さんの攻撃自体は良いと思います」
魔王「届けばね」
昆布「はい」
魔王「今回は途中で戻ってきたね」
昆布「はい」
母「次はもっと強く投げてみるわ」
全員「やめて!」
母「……」
魔王「今はやめよう」
母「分かったわ」
母さんはしゃもじを下ろした。
上空では――。
三匹のバナナモンスターが、魔王軍の様子を見ていた。
バナナモンスターA「……」
バナナモンスターB「……」
バナナモンスターC「……」
バナナモンスターA「なんか……」
バナナモンスターB「自分たちで攻撃を受けてるな」
バナナモンスターC「俺たち、何もしなくてもいいんじゃないか?」
魔王「聞こえてるよ!」
バナナモンスターA「すまん」
魔王「謝るんだ……」
バナナモンスターB「でも、どうする?」
バナナモンスターC「このまま粉を撒き続ければいいんじゃないか?」
バナナモンスターA「そうだな!」
サァァァァ……。
また白い粉が降ってくる。
魔王「やめて!」
サァァァァ……。
昆布「さらに滑ります」
魔王「もう寝ながら戦うしかないね」
昆布「前回と同じです」
魔王「いや、今回はもっとひどい」
母「ごめんね……」
魔王「母さんは気にしなくていいよ」
母「次はちゃんと届くようにするから」
魔王「そこは今考えなくていいよ!」
一方――。
旅立ちの村の方向。
はるか遠く。
父さんはまだ飛んでいた。
父さん「うわあああああああ!」
シュゴオオオオオオ!
メンタルアタックネクタイ「まだ飛んでいるぞ!」
父さん「いつまでだ!」
メンタルアタックネクタイ「飛距離更新中!」
父さん「ゴルフじゃない!メンタルガード」
そして魔王軍は知らない。
父さんが飛んでいった先で何が起こっているのか。
そして自分たちもまた、
バナナモンスターによって、
地面に寝転がったまま戦うという、
妙な戦闘状態に突入していることを。
魔王「……」
昆布「……」
魔王「昆布さん」
昆布「はい」
魔王「これ、本当に国王護衛任務なんだよね?」
昆布「はい」
魔王「旅立ちの村に向かってるんだよね?」
昆布「はい」
魔王「なのに、なんで僕たちは街道で寝てるの?」
昆布「……」
昆布は少し考えた。
昆布「便利屋ですから」
魔王「便利屋って何でもありなの!?」
上空では三匹のバナナモンスターが、
パタパタ。
パタパタ。
と飛び続けている。
そして地上では、
魔王軍が、
ツルツル。
ヌルヌル。
ゴロゴロ。
と転がっている。
旅立ちの村への道は――。
まだまだ遠い。




