正門を開けろ!
王都を取り囲むラプトルモンスター。
「ガォォォォォー!」
「グルルルル……」
その数は、まだ減っていない。
城壁の外には大量のラプトル。
そして、二段ジャンプによって城壁を越え、王都の内部へ侵入してくる個体もいる。
「来たぞ!」
「また城壁を越えるぞ!」
兵士たちが弓を構える。
ヒュンッ!
ヒュンッ!
矢が飛ぶ。
しかしラプトルは素早い。
「ガォー!」
ヒュッ!
一体が矢をかわした。
そして別のラプトルが、仲間の背中を踏み台にする。
ドンッ!
「ガォォー!」
さらに上へ跳ぶ。
「また二段ジャンプだ!」
昆布は王都の高い場所から、その様子をじっと観察していた。
「……やはり、城壁を越えてきますね」
国王が隣に立つ。
「どうする?」
昆布はしばらく考えた。
そして――。
「正門の跳ね橋を開けてください」
「え?」
国王が驚く。
「正門を開けるだと?」
「はい」
昆布は落ち着いて答えた。
「城壁から来られると、兵士が手薄になります」
国王が頷く。
「うむ」
「それならば、こちらから戦う場所を限定します」
昆布は正門を見る。
「正門の主要部隊に戦ってもらいます」
国王は少し考えた。
「……そうか」
そして兵士へ命じる。
「正門の跳ね橋を開けよ!」
「はっ!」
兵士たちが動く。
ガコン!
ガコン!
巨大な鎖が動き出した。
ギギギギギ……。
そして――。
ゴォォォン!
王都の正門が開いた。
跳ね橋がゆっくりと下がる。
ドスン!
地面に橋が架かった。
魔王軍が正門を見る。
魔王が言った。
「本当に開いたね」
昆布は頷く。
父さんが前へ出た。
「じゃあ、俺が先頭に行こう。メンタルガード」
魔王が父さんを見る。
「父さん、大丈夫?」
「防御担当だからな」
父さんは歩き始めた。
その姿は、前回までとは少し違っていた。
不思議なスーツを着ている。
普通の黒いスーツに見える。
しかし――。
正門を出ようとした瞬間。
シュルッ。
「ん?」
父さんが首を傾げる。
不思議なスーツの襟が伸びた。
シュルシュルシュル……。
襟が首を覆う。
さらに上へ。
そして、
スポッ!
父さんの頭部全体を覆った。
「父さん!?」
魔王が驚く。
「なんだこれ?」
父さん自身も驚いている。
さらに――。
シュルシュルシュル!
袖が伸びる。
裾も伸びる。
ズボンも伸びる。
父さんの手足が完全にスーツに覆われた。
頭から足まで、全身が黒いスーツに覆われる。
昆布が観察する。
「不思議なスーツが全身防御形態になったようですね」
「全身防御形態?」
魔王が聞く。
「前に確認した能力より、少し強くなっているようです」
父さんが自分の腕を見る。
「……これ、動けるのか?」
腕を曲げる。
グッ。
普通に動く。
「動けるな」
魔王が安心する。
「よかった」
その瞬間だった。
「ガォォォォー!」
一体のラプトルが父さんへ飛びかかった。
ドンッ!
父さんの肩に飛び乗る。
ガブッ!
噛み付いた。
「痛い」
父さんが言った。
魔王が叫ぶ。
「父さん!」
ラプトルがさらに噛み付く。
「グルルルル……!」
父さんは少し顔をしかめる。
「痛いな」
「そりゃ噛まれたら痛いよ!」
しかし不思議なスーツは破れない。
父さんはラプトルを振りほどこうとする。
「よいしょ」
ブンッ!
ラプトルが少し離れる。
「ガォー!」
再び飛びかかろうとする。
その後ろで――。
殴打が魔法のバットを構えた。
「俺の出番だな」
殴打がバットを構える。
その隣では便意が杖を掲げていた。
「便意さん、何をするの?」
魔王が聞く。
便意は杖をラプトルへ向ける。
「ファイアー!」
シーン……。
何も起きない。
「……」
便意が杖を見る。
もう一度。
「ファイアー!」
シーン……。
やっぱり何も起きない。
便意が小さく呟く。
「何で俺の杖からファイアーが出ないんだ」
魔王が言う。
「その杖、便意さん本人から魔法が出るタイプじゃないんじゃない?」
昆布も考える。
「以前も似たようなことがありましたね」
すると――。
ボォォォォォッ!
殴打の魔法のバットが炎に包まれた。
「え?」
殴打がバットを見る。
便意も見る。
魔王も見る。
昆布も見る。
父さんも見る。
「俺のバット、燃えてるぞ」
便意が呟く。
「ファイアー……」
魔王が言った。
「便意さんのファイアーが殴打さんのバットに行った?」
殴打がバットを振る。
「使えるなら使う!」
ブンッ!
ドォォォォォォン!
炎の壁がバットから飛び出した。
ゴォォォォォォ!
炎の壁がラプトルたちの前を横切る。
「ガォォォー!」
ラプトルたちが一斉に後退した。
「グルルル……!」
しかし――。
父さんが炎に巻き込まれる。
「熱い」
「父さん!」
魔王が叫ぶ。
父さんは全身スーツ姿のまま、炎を避ける。
「殴打、大丈夫だ」
「すまん!」
便意も申し訳なさそうにする。
「ファイアーが……」
魔王が言う。
「次から味方の位置を確認してから使おう!」
昆布が冷静に言った。
「ですが、効果はあります」
炎の壁によってラプトルの群れが一時的に分断されている。
昆布はすぐに周囲を見る。
そして――。
「魔王様!」
「はい!」
「今のうちです!」
魔王が構える。
「分かった!」
魔王はラプトルへ近づく。
タッ。
ラプトルが飛びかかる。
「ガォー!」
魔王は一歩横へ。
スッ。
ラプトルの攻撃をかわす。
そして――。
ステップ。
ローキック。
バシッ!
ラプトルの脚を蹴る。
「ガォッ!」
ラプトルが体勢を崩す。
魔王は追撃せず、すぐに距離を取る。
「よし」
昆布が頷く。
「魔王様、素晴らしいです」
その横から――。
「私も行きます!」
脚麒麟が前へ出る。
長い脚を大きく振り上げた。
「ガォォー!」
ラプトルが迫る。
脚麒麟が回転する。
ブォン!
「回し蹴り!」
バシィィッ!
ラプトルが横へ吹き飛ぶ。
「グルルル……!」
別のラプトルが来る。
脚麒麟は再び回転する。
「もう一発!」
ブォン!
バシッ!
ラプトルが後ろへ転がる。
魔王が言う。
「脚麒麟さん、脚が長いから攻撃範囲が広いね」
昆布が頷く。
「ただし味方との距離には注意してください」
「はい!」
その時――。
「ガォォォォー!」
ラプトルが別方向から走ってきた。
そこへ冷寒さんが入る。
「行きます!」
シュッ!
パンチ。
続けて、
シュッ!
もう一発。
そして、
ドン!
キック。
「コンビネーションキック!」
ローキック。
ミドルキック。
ハイキック。
そして最後に――。
ブォン!
回転蹴り。
バシッ!
「ガォォー!」
ラプトルが吹き飛ぶ。
冷寒さんが構える。
「寒い!」
魔王が言う。
「戦いながら言うんですね、それ」
「寒いからです」
「そうですか……」
その頃――。
王都のベランダ。
そこには魔球さんがいた。
昆布から指示を受けている。
「魔球さん」
「はい!」
「ここから王都の外を狙えますか?」
魔球さんはベランダから外を見る。
城壁の向こう。
ラプトルが走っている。
さらに、二段ジャンプで城壁を越えようとしている個体もいる。
魔球さんが頷く。
「投げられます」
昆布が言う。
「では、お願いします」
魔球さんはボールを握った。
「了解!」
大きく振りかぶる。
「いきます!」
シュッ!
ボールが飛ぶ。
ビューン!
城壁を越える。
そして――。
ドンッ!
ラプトルの目に当たった。
「ギャー!」
ラプトルが驚いて止まる。
魔球さんはすぐに次のボールを握った。
「もう一球!」
シュッ!
ビューン!
ドンッ!
「グルルル……!」
さらに一球。
シュッ!
ドンッ!
また一球。
シュッ!
ドンッ!
魔球さんはベランダから、ひたすら投げ続ける。
「すごい……」
兵士が呟く。
「ずっと投げているぞ」
昆布が言う。
「魔球さんは、あの場所から外側を担当してください」
「はい!」
魔球さんは投げ続ける。
シュッ!
シュッ!
シュッ!
城壁へ近づくラプトル。
シュッ!
ドン!
二段ジャンプを始めるラプトル。
シュッ!
ドン!
別の方向から来るラプトル。
シュッ!
ドン!
「ガォー!」
ラプトルが止まる。
魔球さんがまたボールを握る。
「まだまだいけます!」
昆布が頷く。
「頼みます」
一方、王都の内部。
城壁を越えて侵入してしまったラプトルがいる。
「ガォォォォー!」
「来たぞ!」
兵士たちが槍を構える。
しかし――。
ラプトルが速い。
ドドドドドド!
兵士の間をすり抜ける。
「速い!」
「止められない!」
昆布がベランダから確認する。
「五利武さん!」
「はい!」
五利武がゴルフクラブを持って走ってくる。
「王都内部は任せます!」
「了解!」
五利武がクラブを構える。
ラプトルが走っている。
「ガォー!」
五利武がスイング。
ブンッ!
その瞬間――。
五利武の体が飛んだ。
「うおっ!」
ビューン!
魔王が叫ぶ。
「五利武さん、飛んだ!」
「いつものことです!」
五利武はそのままラプトルへ飛んでいく。
「ガォォー!」
バシィィィン!
ラプトルが吹き飛ぶ。
五利武もそのまま飛ぶ。
そして――。
ズサァァァ!
地面に着地。
五利武はすぐに立ち上がる。
「よし!」
別のラプトルが来る。
「グルルルル……!」
五利武が構える。
「もう一匹!」
ブンッ!
ビューン!
また飛ぶ。
バシィィン!
ラプトルが吹き飛ぶ。
五利武は再び地面へ。
兵士が驚く。
「飛んで戦うのか!」
五利武が答える。
「このゴルフクラブ、よく飛ぶんで!」
「クラブが飛ぶのか!」
「俺も飛びます!」
「そこはもう知ってる!」
ベランダでは魔球さんが投げ続ける。
「シュッ!」
ドン!
「シュッ!」
ドン!
「シュッ!」
ドン!
城壁の外から来るラプトルは魔球さん。
城壁を越えて王都へ入ったラプトルは五利武。
昆布は両方を確認しながら指示を出す。
「魔球さん、左側から三体来ます!」
「了解!」
シュッ!
ドン!
「もう一体!」
シュッ!
ドン!
「ありがとうございます!」
五利武のところでは――。
「ガォォォォー!」
「来た!」
五利武がクラブを構える。
「いくぞ!」
ブンッ!
ビューン!
バシッ!
「一体!」
「グルルル……!」
「もう一体!」
ブンッ!
ビューン!
バシッ!
「二体!」
兵士たちが歓声を上げる。
「五利武さん、すごい!」
五利武はゴルフクラブを肩に担ぐ。
「毎日振ってますから」
「それでモンスターを飛ばしているんですね」
「今日はゴルフじゃないですけどね」
「確かに!」
そして――。
勇気が指向性メガホンを持つ。
「皆さん!」
メガホンから大きな声が響く。
「応援が行きます!」
兵士たちが振り返る。
「それまで耐えてください!」
「おお!」
兵士たちの士気が上がる。
勇気の能力によって、兵士たちの力が高まっていく。
「まだ戦える!」
「負けるな!」
「王都を守るぞ!」
昆布はその様子を見て頷く。
「勇気さんのメガホンも効果が出ています」
魔王も頷く。
「うん」
そして正門を見る。
父さんが先頭にいる。
全身を覆う不思議なスーツ。
その前にラプトル。
「ガォォォォー!」
父さんが構える。
「来い」
ラプトルが飛びかかる。
ドン!
父さんは受け止める。
「痛い」
しかし倒れない。
「メンタルだけは勇者だからな」
魔王が笑う。
「それ、やっぱり言うんだ」
父さんはラプトルを押し返す。
「仕事だからな」
その時、スーツのポケットから紙が一枚出てきた。
スッ。
父さんが見る。
『本日の業務:王都防衛』
「……」
魔王が見る。
「父さん」
「うん」
「本当に仕事になってるね」
「そうだな」
母が後ろから言う。
「パパ、頑張って」
「ありがとう」
父さんが頷く。
その頃、便意は杖を持ったまま考えていた。
「……ファイアー」
シーン。
やはり何も起きない。
殴打のバットを見る。
まだ少し炎が残っている。
「俺の杖……」
昆布が言う。
「便意さん」
「はい」
「次の魔法は、誰に移るか分かりません」
「……」
便意が杖を見る。
「怖いな」
魔王が言う。
「でも便利でもあるね」
殴打がバットを構える。
「次はもっと上手く使おう」
昆布が静かに言った。
「……ダメージを受けたラプトルモンスターが逃げて行きます」
昆布は指向性メガホンを握り直す。
「魔球さん」
「はい!」
「まだ投げ続けてください」
「了解!」
魔球さんが再びボールを構える。
シュッ!
ドン!
五利武もクラブを構える。
「内部は任せてください」
「お願いします」
父さんは正門に立つ。
殴打は魔法のバットを構える。
便意は杖を掲げる。
脚麒麟は長い脚を構える。
冷寒さんは拳を握る。




