ユタラプトル軍、二段ジャンプ
王都の城壁。
その上では、兵士たちと魔王軍がラプトルモンスターの動きを見つめていた。
先ほどまでラプトルモンスターたちは、王都を囲んで座っていた。
尻尾を振っていた。
舌を出していた。
よだれを垂らしていた。
そして、
「ワン!」
と鳴いていた。
しかし――
料理がなくなった。
激辛は魔力ゼロ。
鍋は腕が上がらない。
王都の食糧もかなり減っている。
その結果――
ラプトルモンスターたちの表情が変わった。
「グルルルル……」
昆布は光る靴を手に持ちながら、ラプトル軍を見ていた。
「……来ます」
魔王が聞く。
「攻撃?」
「はい」
昆布が答えた。
「とうとう動き始めました」
その瞬間。
一匹のラプトルモンスターが前へ出た。
ズン。
ズン。
ズン。
そして――
前にいた別のラプトルモンスターの背中に、
ヒョイッ。
と乗った。
「……?」
魔王が目を丸くする。
「乗った?」
昆布も見つめる。
「……はい」
兵士も驚く。
「何をしているんだ?」
下のラプトルモンスターが脚を曲げる。
グッ。
グググッ。
そして――
「ガオー!」
ドォン!
飛んだ。
「うわっ!」
下のラプトルモンスターが、上に乗っているラプトルを乗せたまま、大ジャンプ。
ズバァァァン!
上に乗っていたラプトルが、
「ガオー!」
と叫びながら、さらにジャンプした。
「二段ジャンプ!?」
魔王が叫んだ。
ラプトルモンスターは空高く舞い上がる。
城壁の高さまで来た。
「来た!」
兵士が叫ぶ。
しかし――
あと少し。
あと少しで城壁を越える!
ところが、
スカッ。
ギリギリで届かない。
そのまま――
ドボォォン!
堀の水へ落ちた。
「……」
魔王が言った。
「危ない」
昆布がうなずく。
「非常に危ないです」
水面からラプトルが顔を出す。
「ブルブルブルブル……」
水を振り払う。
そして、
「ガオ!」
また座った。
魔王が言う。
「まだ犬みたいなところは残ってるね」
しかし次の瞬間――
別のラプトルが前のラプトルに乗った。
ヒョイ。
「まただ!」
兵士が叫ぶ。
下のラプトルが、
「ガオ!」
ドォン!
上のラプトルが、
「ガオ!」
ドォン!
二段ジャンプ。
「また二段ジャンプ!」
しかし、
ドボォォン!
堀へ。
さらに別のラプトル。
ヒョイ。
ドォン!
ドォン!
ドボォォン!
また別。
ヒョイ。
ドォン!
ドォン!
ドボォォン!
次々と二段ジャンプを始めた。
王都の外側では、
「ガオ!」
ドォン!
「ガオ!」
ドォン!
「ガオ!」
ドォン!
という声が響き渡る。
兵士が呆然とする。
「……あいつら、何回やるんだ?」
魔王も言う。
「学習してないのかな?」
昆布は真剣な顔だった。
「いえ」
「?」
「少しずつタイミングを変えています」
魔王が見る。
確かに、さっきより高く飛ぶ個体もいる。
「本当だ」
昆布が言う。
「試行錯誤しています」
父が言う。
「敵も努力してるな」
母が言った。
「でも、堀に落ちちゃうわね」
「そうだね」
そのとき。
一匹のラプトルが、
ヒョイ。
ドォン!
ドォン!
今までより高く飛んだ。
「!」
昆布の顔が変わる。
「……まずい」
ラプトルが城壁の高さを越え――
スッ。
城壁の向こう側へ飛び込んだ。
ドン!
「入ったぞ!」
兵士が叫んだ。
「ラプトルが城壁を越えた!」
「来たぞ!」
「城内に侵入された!」
別のラプトルも、
ドォン!
城壁を越える。
「また来た!」
兵士たちが槍を構える。
「全員、迎撃!」
兵士たちがラプトルモンスターへ向かって走る。
「うおおおお!」
槍を構える。
ラプトルが振り返る。
「グルル……」
兵士が槍を突き出す。
「せやっ!」
しかし――
ラプトルが体をぶつける。
ドォォン!
「うわあああ!」
兵士が吹き飛ぶ。
ゴロゴロゴロ!
「大丈夫か!」
「だ、大丈夫です!」
別の兵士が突っ込む。
「今度こそ!」
ドン!
「うわあああ!」
また飛ばされる。
「強い!」
「速い!」
「しかも大きい!」
ラプトルは城内を走り回る。
ドドドドドド!
兵士たちが追う。
「待て!」
「止まれ!」
ラプトルが振り返る。
「グルル!」
そして、
ドン!
また兵士が吹き飛ぶ。
城壁の上から見ていた昆布は、すぐに状況を判断した。
「……まずいですね」
魔王が言う。
「どうする?」
昆布は周囲を見回す。
そして――
五利武を見る。
「五利武さん」
「はい」
「城壁を越えたモンスターの所まで飛んで、攻撃をお願いします」
五利武は自分のゴルフクラブを見る。
そして、
「了解」
と答えた。
五利武はゴルフクラブを構えた。
「このクラブ、よく飛びますから」
「そういう意味の『よく飛ぶ』だったね」
昆布がうなずく。
「はい」
五利武が大きく振り上げる。
「それっ!」
ブンッ!
ゴルフクラブが空気を切る。
次の瞬間――
五利武の体が、
フワッ。
五利武が前方へ飛んでいく。
「うおおおおお!」
ブオオオオオ!
昆布が叫ぶ。
「五利武さん、飛んでいます!」
父が言う。
「本当に飛んだな」
母も言う。
「ゴルフの人って、飛ぶのね」
魔王が突っ込む。
「普通は飛ばないよ!」
五利武は空中を飛びながら、城内へ侵入したラプトルへ向かっていく。
ラプトルが気づく。
「グルル!」
五利武が叫ぶ。
「そこだ!」
ブンッ!
ラプトルに向かって振り上げる。
ゴォォォン!
ラプトルにスイングが入る。
「ギャ!」
ラプトルの体が、
ビューーーーーン!
と飛んでいく。
城壁の外へ。
さらに遠くへ。
「飛んだ!」
兵士が叫ぶ。
ラプトルは堀を越え、
さらにその外へ飛び、
そのまま森の近くまで飛んでいった。
ドサッ!
五利武は着地する。
「……よし」
そして普通のゴルフの構えを取った。
「さて」
五利武はゴルフクラブを構える。
「戻ります」
魔王が叫ぶ。
「どうやって!?」
五利武がスイングした。
ブンッ!
すると――
五利武の体が、
またフワッ!
と浮いた。
「うおおおおお!」
ビュオオオオオ!
五利武がゴルフクラブと一緒に飛んでくる。
昆布のところへ一直線。
「戻ってきた!」
魔王が驚く。
五利武は昆布の前へ、
スッ。
と着地した。
「戻りました」
昆布がうなずく。
「ありがとうございます」
魔王が五利武を見る。
「……五利武さん」
「はい」
「もうゴルフじゃないよね?」
五利武は少し考えた。
「ゴルフです」
「そうなの?」
「クラブを振っていますから」
魔王は黙った。
「……そういうものなのかな」
その頃。
城内では――
ラプトルモンスターがまだ何匹も暴れていた。
「来るぞ!」
兵士たちが槍を構える。
ラプトルが走る。
ドドドドドド!
兵士が避ける。
「速い!」
別の兵士が横から槍を構える。
「今だ!」
ラプトルが体をひねる。
ドン!
「うわあああ!」
また兵士が吹き飛ぶ。
勇気はそれを見ていた。
そして――
指向性メガホンを持った。
「皆さん!」
メガホンから大きな声が響く。
「応援が行きます!」
ラプトルと戦っている兵士たちが振り返る。
勇気が続ける。
「それまで耐えてください!」
「はい!」
「頑張ります!」
「ありがとうございます!」
勇気はさらに声を張った。
「皆さんなら大丈夫です!」
勇気の能力が広がっていく。
兵士たちの表情が少しずつ変わる。
「よし……!」
「まだいける!」
「耐えるぞ!」
「王都を守るんだ!」
兵士たちは再び槍を構える。
ラプトルが走ってくる。
「グルルル!」
兵士たちが踏ん張る。
「うおおおお!」
魔王も城壁から城内を見る。
「みんな頑張ってる」
昆布が言う。
「勇気さんの応援が効いています」
「じゃあ、僕たちは?」
昆布は周囲を確認する。
「城壁を越えようとしているラプトルへの対策を続けます」
魔王がうなずく。
「分かった」
しかし――
城壁の外を見ると、
まだ大量のラプトルがいた。
そして、その中には――
さっきよりも高く飛べそうな個体がいる。
昆布が光る靴を持ち上げる。
「……どうやら」
魔王が聞く。
「今度は何?」
昆布はラプトル軍を見ながら答えた。
「敵も、二段ジャンプに慣れてきています」
「…………」
魔王がラプトルを見る。
一匹のラプトルが、別のラプトルの背中に乗った。
ヒョイ。
下のラプトルが脚を曲げる。
グググッ。
昆布が叫ぶ。
「来ます!」
ドォン!
「ワン!」
さらに――
ドォン!
「ワン!」
今までより高く飛んだ。
魔王が叫ぶ。
「また二段ジャンプだ!」
そして、そのラプトルは――
城壁の上へ、
前脚をかけた。
兵士が叫ぶ。
「乗ったぞ!」
昆布の表情が変わる。
「……全員、次の手を!」
王都の城壁の上に、
ラプトルモンスターの巨大な顔が現れた。
「グルルル……」
そして――
「ガオ!」




