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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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夜明け前の遠吠え

王都防衛の準備が始まってから、夜は静かに深まっていった。


王都の外側。


城壁の上には兵士たちが配置されている。


堀には水が満ちている。


跳ね橋は上げられている。


王城の周囲にも堀があり、こちらの跳ね橋も上がっている。


敵が攻めてきたとしても、簡単には中へ入れない。


昆布は城壁の上から、王都の外を見ていた。


「……今のところ異常なし」


隣にいた兵士が頷く。


「はい」


昆布は振り返った。


「戦闘員の皆さんは?」


「それぞれの持ち場の近くで休んでいます」


「見張りは?」


「交代でつけています」


「よし」


昆布は頷いた。


今回の防衛では、最初から全員を起こしておくことはしなかった。


敵がいつ来るか分からない以上、体力を温存する必要がある。


戦闘員全員を持ち場の近くで休ませ、いつでも起きられるようにしている。


魔王も城壁近くで休んでいた。


安全第一の作業服を着たまま、壁にもたれている。


「……眠い」


魔王が呟いた。


その近くでは殴打も休んでいる。


野球のユニフォーム姿のまま、魔法のバットを抱えている。


「俺も眠い」


五利武もゴルフウェア姿で座っていた。


「眠いな」


鍋はヘル鍋を頭にかぶったまま、壁にもたれている。


「……少し寝ます」


便意は瞬間移動の杖を横に置いている。


「僕も……」


勇気は目をこすっている。


「でも、兵士の皆さんを励ます役目が……」


母も少し離れたところで休んでいる。


父は不思議なスーツ姿で座っていた。


父のポケットから紙が一枚出てきた。


「本日の業務:王都防衛」


父がそれを見る。


「まだ仕事中か」


メンタルアタックネクタイが小さく言った。


「仕事中」


「休ませろ」


そのまま父も目を閉じた。


ゴプリンはというと――


「……プリン」


と呟いて、壁の近くで座っていた。


鋼鉄のプリンカップが月明かりを反射している。


魔王がゴプリンを見る。


「ゴプリンも寝る?」


「……寝ない」


「どうして?」


「……見張る」


魔王は少し笑った。


「そっか」


「……守る」


「うん」


そして昆布は一人、城壁の上を歩いていた。


いや。


一人ではない。


近くには何人もの見張り兵がいる。


しかし昆布は、軍師として自分の目でも王都の外を確認していた。


昆布は光る靴を脱いだ。


「昆布さん、靴を脱ぐんですか?」


兵士が聞く。


「はい」


昆布は光る靴を手に持った。


「これを使います」


「靴を?」


「はい」


昆布は靴を高く掲げる。


すると――


ピカッ。


光った。


王都の外側が一瞬明るく照らされる。


「おお……」


兵士が驚く。


昆布はゆっくりと光る靴を動かす。


ピカッ。


森。


ピカッ。


草原。


ピカッ。


堀の外。


ピカッ。


また森。


「……異常なし」


昆布は呟く。


もう一度、森を照らす。


ピカッ。


すると――


ガサッ。


森の中で何かが動いた。


昆布の目が鋭くなる。


「……?」


兵士も森を見る。


「何かいます」


昆布は光る靴を向ける。


ピカッ。


何もいない。


昆布はしばらく待つ。


「……動物でしょうか」


兵士が言う。


「分かりません」


昆布は答える。


「モンスターの可能性もあります」


別の兵士が言う。


「見張りを増やしますか?」


昆布は少し考える。


「まだ待ちましょう」


「はい」


昆布は森を見つめる。


再び――


ガサッ。


今度は少し遠くで音がした。


昆布は光る靴を向ける。


ピカッ。


また何も見えない。


「……」


昆布は考える。


(動物かもしれない)


(モンスターかもしれない)


(敵が偵察している可能性もある)


昆布はメガホンを手に取った。


しかし、まだ使わない。


「まだ早い」


兵士が聞く。


「何がですか?」


「警報です」


昆布は静かに答えた。


「正体が分からないうちに騒ぐと、兵士が疲れます」


兵士は頷いた。


「なるほど」


昆布は再び森を照らす。


ピカッ。


静かだ。


風が木々を揺らしている。


サァァァ……。


やがて夜がさらに深くなった。


王都は静かだった。


兵士たちは交代で見張っている。


戦闘員たちは休んでいる。


昆布は光る靴を手に持ったまま、ずっと外を見ていた。


そして――


少しずつ空の色が変わり始めた。


夜明けが近い。


昆布は空を見る。


「……もうすぐ夜が明けます」


兵士が言った。


「何も起きませんでしたね」


昆布は頷く。


「まだ分かりません」


「はい」


その時だった。


森の奥から――


「…………」


昆布が顔を上げる。


何か聞こえた。


風の音ではない。


鳥の声でもない。


昆布は耳を澄ませる。


「……何だ?」


兵士たちも静かになる。


すると――


森の奥から、低い声が響いた。


「ワォ……」


昆布の目が変わる。


「……」


もう一度。


「ワォォォォォーン!」


巨大な遠吠えが王都に響き渡った。


「!」


兵士たちが一斉に立ち上がる。


休んでいた魔王も目を覚ました。


「何!?」


殴打も飛び起きる。


「敵か!?」


五利武も立ち上がる。


「来たか!?」


鍋もヘル鍋をかぶり直す。


「始まりましたか!?」


便意も杖を握る。


「モンスターですか!?」


勇気も立ち上がった。


「皆さん、大丈夫です!」


母も起きる。


父も立ち上がる。


メンタルアタックネクタイが言った。


「職場から呼び出し!」


父が頷く。


「そうだな」


そして――


森の中から、一匹の巨大な影が現れた。


昆布が光る靴を向ける。


ピカッ。


「……!」


巨大なオオカミ。


いや。


普通のオオカミではない。


体が大きすぎる。


馬ほどの大きさがある。


鋭い牙。


巨大な脚。


そして、こちらを睨む目。


魔王が言った。


「大きい……」


殴打が言う。


「オオカミか?」


昆布が答える。


「おそらくモンスターです」


そして――


森の奥から、さらに影が現れた。


一匹。


二匹。


三匹。


十匹。


二十匹。


「え……」


魔王が固まる。


さらに出てくる。


森の中から次々と巨大なオオカミのようなモンスターが現れた。


「まだいるぞ!」


「多い!」


「何匹いるんだ!?」


兵士たちがざわめく。


昆布は光る靴を左右に動かす。


ピカッ。


ピカッ。


ピカッ。


森の中が照らされる。


そこには――


大量の巨大オオカミ。


さらにその後ろにも。


さらにその横にも。


どんどん増えている。


「すごい数です……」


勇気が呟いた。


魔王も言葉を失う。


「……多すぎない?」


殴打が魔法のバットを握る。


「多いな」


五利武もゴルフクラブを構える。


「多い」


鍋もヘル鍋を確認する。


「多いですね」


便意も杖を見る。


「多いです」


母が言う。


「本当に多いわね」


父も頷く。


「多いな」


ゴプリンも森を見る。


「……いっぱい」


全員の感想が一致した。


――多い。


その時。


王都の別の場所から声が上がった。


「モンスターが来たぞ!」


「モンスターだ!」


「外に大量のモンスター!」


「オオカミのようなモンスターだ!」


「王都の外を囲んでいる!」


警報が王都中に響き渡る。


鐘が鳴る。


カン!


カン!


カン!


眠っていた兵士たちが一斉に起きる。


「来たぞ!」


「配置につけ!」


「城壁へ!」


兵士たちが走る。


勇者募集試験の参加者たちも、次々と持ち場へ向かう。


昆布は城壁の上から王都の外を見る。


そして気付いた。


「……囲んでいる」


魔王が聞く。


「え?」


「オオカミモンスターが王都を囲んでいます」


魔王も周囲を見る。


確かにそうだった。


東側。


西側。


南側。


北側。


どこを見ても巨大なオオカミ。


王都を完全に囲んでいる。


しかし――


王都の外堀がある。


オオカミたちと王都の間には、大きな堀がある。


そして跳ね橋はすでに上がっている。


「入ってこられないね」


魔王が言う。


昆布が頷く。


「はい」


「じゃあ、あの数がいても大丈夫?」


「簡単には入れません」


昆布は答える。


しかし、その表情はまだ緩まない。


「問題は……」


魔王が聞く。


「何?」


昆布は大量のオオカミを見つめた。


「敵が、この堀と城壁をどう突破するつもりなのかです」


魔王も考える。


「そうだね」


オオカミたちは堀の向こう側で立っている。


唸っているものもいる。


歩き回っているものもいる。


しかし――


攻撃してこない。


飛び込んでもこない。


ただ、王都を囲んでいる。


昆布は不思議に思った。


「……なぜ攻撃してこない?」


魔王が言う。


「様子を見てるのかな?」


昆布は首を横に振る。


「それだけではない気がします」


その時。


一匹の巨大オオカミが前へ出た。


他のオオカミたちが道を開ける。


「……」


そのオオカミは、王都をじっと見つめている。


昆布も見つめ返す。


「……」


しばらくして。


オオカミが、


「ワォ……」


と小さく鳴いた。


しかし、今度は遠吠えではなかった。


まるで――


何かを待っているようだった。


昆布はメガホンを握る。


「全員、まだ攻撃しないでください!」


指向性メガホンから声が響く。


「まず敵の動きを見ます!」


兵士たちが返事をする。


「はい!」


勇気もメガホンを持つ。


「皆さん、落ち着いてください!」


王都中に勇気の声が響く。


「王都の堀と城壁は強力です!」


「はい!」


「みんなで守れば大丈夫です!」


兵士たちから、


「おお!」


という声が返ってくる。


勇気の能力が発動する。


兵士たちの士気が上がっていく。


昆布はその様子を確認する。


「いいですね」


そして再び外を見る。


大量のオオカミモンスター。


王都を囲む堀。


上がった跳ね橋。


高い城壁。


その向こうに王都。


昆布は静かに考えた。


(これだけの数を集めておいて……)


(まだ攻撃してこない)


(ということは――)


昆布の目が鋭くなる。


(何か別の方法がある)


魔王が横から聞いた。


「昆布さん」


「はい」


「いったい、どうやって攻めてくるんだろう?」


昆布は答えなかった。


ただ、オオカミたちを見つめていた。


やがて空が明るくなる。


夜明け。


王都の外を照らす朝日。


大量のオオカミモンスターの姿が、はっきりと見えるようになった。


そして――


そのオオカミたちの後ろに、


何か巨大なものが動いているのが見えた。


昆布が目を細める。


「……あれは?」


魔王も見る。


「何だろう?」


巨大な影が、ゆっくりと森の外へ出てくる。


オオカミモンスターたちは、その影のために道を開けた。


昆布はメガホンを握ったまま、固まった。


「……まさか」


王都の兵士たちも息をのむ。


魔王軍も、その巨大な影を見つめる。


そして――


それが何なのか、まだ誰にも分からなかった。

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