軍師・昆布、王都を分析する
王城の高い場所。
王都全体を見渡せるベランダに、魔王軍と国王が立っていた。
昆布は、国王からもらった指向性メガホンを片手に、王都をじっと見つめている。
隣には勇気。
勇気はもう一つの指向性メガホンを持っている。
そして魔王軍の後ろには、殴打、五利武、鍋、便意、母、父、ゴプリンが並んでいた。
魔王は昆布の様子を見ていた。
「昆布さん、何を考えてるの?」
「王都の防衛について考えています」
「やっぱり」
昆布は王都を見下ろした。
「まず、お城です」
「うん」
「お城は堀で囲まれています」
魔王も下を見る。
確かに、王城の周囲には大きな堀がある。
「そして、跳ね橋があります」
昆布が指差した。
「はい」
「つまり、有事には跳ね橋を上げれば、城へ侵入するのはかなり難しくなります」
国王が頷いた。
「その通りじゃ」
昆布はさらに王都の外側を見る。
「しかし……」
「何じゃ?」
「王都全体も堀に囲まれていますね」
魔王が驚く。
「本当だ」
王都をぐるりと囲むように、外堀がある。
そして、そこにも跳ね橋が設置されている。
昆布は腕を組んだ。
「王都そのものが要塞のようになっています」
殴打が言った。
「すごいな」
五利武も頷く。
「ゴルフ場より守りが固い」
魔王が振り返る。
「またゴルフ場?」
五利武は真顔だった。
「ゴルフ場には普通、堀がない」
「そこは知ってるよ」
「だから動物が入り放題」
「比較する必要ある?」
昆布は気にせず話を続ける。
「王都の外堀があり、さらに王城にも堀がある」
「はい」
「しかも跳ね橋がある」
「うむ」
「有事には橋を上げることができます」
国王が頷く。
「できる」
昆布はしばらく黙った。
そして、ぽつりと言った。
「……敵は、どうやって攻撃するつもりでしょうか」
魔王も考えた。
「確かに」
鍋が言う。
「泳いでくるとか?」
魔王が振り返る。
「鍋さん、そんなに簡単に入れないと思うよ」
鍋は少し考える。
「では、料理を持ってきて交渉するとか」
「それは攻撃じゃないね」
母が言った。
「空を飛んでくるとか?」
昆布が頷く。
「それは可能性があります」
便意が言った。
「空から?」
昆布は空を見る。
「飛行能力を持つモンスターなら、堀は関係ありません」
魔王が頷く。
「なるほど」
昆布はさらに考える。
「ただし、空から大勢で侵入するなら、お城の城壁や兵士から攻撃を受けます」
殴打が自分の魔法のバットを見る。
「俺も城壁の上にいればいいのか?」
「いえ」
昆布が即答した。
「殴打さんは正門担当です」
「分かった」
殴打は頷いた。
五利武が言う。
「俺も?」
「いえ、五利武さんはここから攻撃してください」
「はい」
五利武はゴルフクラブを見る。
「飛距離が必要になるな」
魔王が言う。
「何を打つつもり?」
「敵」
「ゴルフボールじゃないんだ」
五利武は少し考えた。
「敵を打つ」
「普通に物理攻撃だね」
昆布は続けた。
「そして、もう一つ気になるのが――」
昆布は遠くを見る。
「攻城塔です」
魔王が聞く。
「攻城塔?」
「はい」
昆布は説明した。
「城壁を越えるために使う大きな塔です」
国王が頷く。
「敵が使う可能性はある」
昆布は首を横に振った。
「ただ、王都には堀があります」
「うむ」
「大きな攻城塔を運んでくるのは難しいでしょう」
魔王が頷く。
「堀を渡らないといけないからか」
「そうです」
昆布はさらに考える。
「しかも跳ね橋を上げれば、橋を通れません」
「なるほど」
「したがって、攻城塔は使いにくいと思います」
殴打が聞く。
「じゃあ、攻城塔は来ない?」
昆布は少し考えた。
「……分かりません」
「分からないの?」
「敵がどれほど準備しているか分からないので」
昆布は王都の外を見た。
「敵が事前に部品を運んでいて、現地で組み立てる可能性もあります」
魔王が言う。
「そこまで考えるんだ」
「軍師ですから」
魔王は頷いた。
「そうだった」
昆布は続ける。
「もう一つ」
「何?」
「投石機です」
殴打が反応した。
「投石機?」
「はい」
昆布は説明する。
「大きな石を飛ばして城壁や建物を攻撃する兵器です」
魔王が王都の外を見る。
「投石機なら、堀を渡らなくても攻撃できる?」
「その可能性があります」
昆布は頷いた。
「敵が投石機を持って来る可能性はあります」
国王の表情が少し険しくなる。
「なるほど……」
昆布は王都を見渡した。
「もし投石機を使われるなら、城壁の上を石が飛んできます」
魔王が聞く。
「どうする?」
昆布は即答した。
「城壁の上に弓兵を並べるしかありません」
国王が頷く。
「うむ」
昆布は続ける。
「ただし、全員を同じ場所に固めないようにします」
「なぜじゃ?」
「投石機で狙われた時、一度に大勢が被害を受ける可能性があるからです」
国王は感心した。
「なるほど」
昆布は続ける。
「一定の間隔を空けて配置します」
「うむ」
「城壁の各所に見張りを置きます」
「うむ」
「敵を発見したら、指向性メガホンで連絡します」
昆布は手元のメガホンを見る。
「これがあれば、かなり早く伝えられます」
勇気も自分のメガホンを見る。
「僕も兵士を励ませます」
昆布が頷く。
「はい」
魔王が言った。
「かなり役割がはっきりしてきたね」
昆布はさらに考えた。
そして突然、
「あ」
と言った。
魔王が振り返る。
「どうしたの?」
昆布が国王を見る。
「そういえば」
「何じゃ?」
「勇者募集試験の方々はどうなりましたか?」
国王が答える。
「ああ」
少し考えてから、
「勇者または正規軍になってもらおうと思っていた」
魔王軍が顔を見合わせる。
魔王が言う。
「そういえばいましたね」
勇気も思い出す。
「試験を受けていた人たちですね」
昆布が頷く。
「はい」
そして少し考える。
「ならば、ちょうどいいです」
国王が聞く。
「何がじゃ?」
「兵士と勇者、正規軍の皆さんに、明日の籠城戦について話しましょう」
国王が大きく頷いた。
「そうじゃな」
昆布は王都を見渡す。
「全員に防衛の目的を伝えます」
「うむ」
「どこを守るのか」
「うむ」
「敵を発見した場合の連絡方法」
「うむ」
「避難が必要な場合の経路」
「うむ」
「そして、勝手に持ち場を離れないこと」
殴打が言う。
「大事だな」
父も頷く。
「仕事中に職場を抜けると怒られる」
魔王が言う。
「当たり前だよ」
昆布は続けた。
「また、兵士同士で勝手に判断して突撃しないこと」
魔王が頷く。
「それも大事だね」
昆布は魔王を見る。
「魔王様」
「はい」
「魔王様も勝手に突撃しないでください」
魔王は少し固まった。
「……はい」
殴打が笑った。
「魔王様、注意されたな」
魔王が言う。
「僕、普段から突撃してないよ」
昆布は真顔で答えた。
「念のためです」
「はい……」
父が横から言う。
「魔王も会社員と同じで、指示系統は守った方がいい」
魔王が父を見る。
「父さん、会社の話になると急に説得力あるね」
父は頷いた。
「組織では大事だからな」
メンタルアタックネクタイが小さく言った。
「報告・連絡・相談」
父が頷く。
「そうだ」
魔王が言う。
「今日は静かだね」
父はネクタイを見た。
「必要な時だけ喋るんだろう」
ネクタイは黙っていた。
魔王が少し感心する。
「成長したのかな」
母が笑った。
「パパのネクタイも賢くなったのね」
父は少し誇らしそうだった。
昆布は王都を見ながら言った。
「では、勇者募集試験の方々も含めて、全員を集めてもらいましょう」
国王は頷いた。
そして部下に向かって言った。
「兵士と勇者、正規軍の者たちを集めよ」
「はっ!」
部下が敬礼する。
国王はさらに言った。
「明日の襲撃について伝えて参れ」
「はっ!」
部下たちは急いで走り出した。
その様子を見ながら、昆布は二つの指向性メガホンのうち一つを勇気に渡していることを確認する。
「勇気さん」
「はい」
「明日は大勢の兵士を励ますことになると思います」
勇気は頷いた。
「任せてください」
「お願いします」
魔王も笑顔になる。
「勇気さんなら大丈夫」
ゴプリンも頷く。
「……頑張って」
勇気が笑った。
「ありがとう、ゴプリン」
ゴプリンは少し考えた。
「……プリンも……頑張る」
魔王が笑う。
「ゴプリンも頑張ろう」
「……うん」
そして昆布は再び王都を見渡した。
堀。
跳ね橋。
城壁。
王城。
大通り。
門。
そして、そのさらに向こうに広がる土地。
昆布は静かに考える。
(王都の防御はかなり強い)
(しかし、敵がどんな手段を使うか分からない)
(空から来るかもしれない)
(投石機を使うかもしれない)
(堀を突破する方法を持っているかもしれない)
(そして……)
昆布は遠くの地平線を見る。
(本当に明日、襲撃があるのなら)
(敵はもう、どこかで準備しているはずだ)
昆布はメガホンを握った。
「まずは敵を見つけることです」
魔王が頷く。
「うん」
昆布は王都の外を見つめた。
「敵が来る前に、できるだけ情報を集めます」
国王も頷いた。
「頼むぞ、軍師」
昆布は静かに答えた。
「はい」
その時――。
遠くから、
「昆布さん!」
という声が聞こえてきた。
昆布が振り返る。
「何でしょう?」
城の階段から、先ほどの国王の部下が走ってくる。
「勇者募集試験の方々を集める準備ができました!」
昆布が頷く。
「分かりました」
そして魔王軍を見る。
「皆さん、行きましょう」
魔王が頷く。
「はい」
殴打も立ち上がる。
五利武も立ち上がる。
鍋もヘル鍋を確認する。
便意も瞬間移動の杖を持つ。
母も子供用巨人のしゃもじを持つ。
父は普通に立つ。
ゴプリンは鋼鉄のプリンカップを確認する。
勇気は指向性メガホンを持つ。
昆布はもう一つのメガホンを持つ。
そして魔王は、安全第一の作業服の胸元を確認した。
「よし」
魔王軍は歩き出す。
明日の王都襲撃。
その前に――
勇者募集試験を受けた者たちとの、初めての防衛会議が始まろうとしていた。
しかし魔王は、歩きながら一つ気になっていた。
「昆布さん」
「はい?」
「投石機って、本当に来るかな?」
昆布は少し考えた。
「分かりません」
「攻城塔は?」
「分かりません」
「空から来る敵は?」
「分かりません」
魔王が少し不安になる。
「……じゃあ、何が来るか全然分からないんだね」
昆布は頷いた。
「はい」
そして一言。
「だから軍師が必要なんです」
魔王は納得した。
「なるほど」
五利武が横から言った。
「俺も軍師が必要だと思う」
魔王が聞く。
「どうして?」
五利武は真顔だった。
「どこに飛ばして良いか分からない」
「何を?」
「ゴルフクラブ」
魔王軍の声が王城に響いた。




