国王からの依頼
国王は、先ほどまでの笑顔から少しだけ表情を引き締めた。
国王
「魔王軍の皆さんに、実は頼みたいことがある」
魔王
「頼みたいことですか?」
国王
「そうじゃ」
昆布が静かに国王を見る。
昆布
「重要な依頼のようですね」
国王
「うむ」
国王は王座から立ち上がった。
国王
「本当の魔王の力が弱まっているのは聞いておろう」
魔王
「はい。他の町や村の辺りでも聞きました」
国王
「次の魔王になるのを企んでいるモンスターも多いのだ」
魔王
「道中で次の魔王になると言っていたモンスターもいました」
殴打
「いたな」
五利武
「空からも言ってたな」
鍋
「バナナも言っていましたね」
魔王
「もうバナナはいいだろ」
便意
「カエルもいましたね」
魔王
「あれは寝てただけだ」
便意
「そうでした」
ゴプリン
「……プリン」
魔王
「ゴプリンも次の魔王にはならないよ」
ゴプリン
「……プリン」
国王
「……そなたらは、随分と多くのモンスターと出会っているようじゃな」
昆布
「はい。かなり個性的でした」
国王
「そうか……」
国王は窓の外を見る。
国王
「この王都を拠点にして、次の魔王になろうとするモンスターもいるという噂を耳にした」
魔王軍の表情が変わった。
昆布
「王都を拠点に?」
国王
「うむ」
魔王
「それは放っておけないですね」
国王
「そこでじゃ」
国王が魔王軍を見渡した。
国王
「そなた達にも、王都を守る兵士になって欲しいのじゃ」
謁見の間が静かになった。
魔王
「……」
父
「兵士か」
殴打
「面白そうだな」
五利武
「王都を守るのか」
鍋
「料理はどうなるんでしょう?」
母
「兵士でもご飯は食べるわよ」
鍋
「それなら大丈夫です」
便意
「兵士……」
ゴプリン
「……プリン」
魔王は昆布を見る。
魔王
「どうする?」
昆布は少し考えた。
昆布
「協力しても良いと思います」
魔王
「俺もそう思う」
魔王は国王へ向き直った。
魔王
「ぜひ、王都を守りたいと思います」
国王
「協力に感謝する」
国王は深々とうなずいた。
国王
「これほど心強い者たちが王都にいてくれるとは、ありがたいことじゃ」
魔王
「できるだけ戦わずに解決したいと思います」
昆布
「それが一番です」
国王
「うむ。そなたらしいな」
そのときだった。
父の不思議なスーツが突然、
ピカッ!
と光った。
父
「うわっ!」
魔王
「父さん?」
スーツの胸ポケットから紙が飛び出す。
ヒラッ。
父が拾う。
父
「また紙だ」
魔王
「何て書いてある?」
父
「『本日の業務:王都防衛、就業規則も守る』」
昆布
「完全に仕事扱いですね」
魔王
「不思議なスーツ、仕事の内容まで分かるのか」
父
「便利だな」
メンタルアタックネクタイ
「仕事増えたね」
父
「言うな」
メンタルアタックネクタイ
「明日の仕事は?」
父
「まだ今日の仕事も終わってない」
メンタルアタックネクタイ
「残業?」
父
「王都防衛に残業という概念があるのか?」
国王
「……そのネクタイは、王都防衛にも役立ちそうじゃな」
父
「役立つんでしょうか?」
メンタルアタックネクタイ
「俺は何でも知っている」
父
「また始まった」
メンタルアタックネクタイ
「王都を守るには、まず敵の心を折る」
昆布
「……理にかなっています」
父
「本当に?」
メンタルアタックネクタイ
「お前、何様のつもりだ」
父
「王様だろ」
メンタルアタックネクタイ
「なんだその偉そうな態度は!」
父
「国王様は偉いんだよ!」
国王
「ははははは!」
魔王
「国王様、笑っている場合じゃないですよ」
国王
「いや、実に面白い」
そして国王が父のスーツを見る。
国王
「ところで、そのスーツには他にも能力があるのか?」
父
「分かりません」
魔王
「さっき肩が風船になったり、背中がクッションみたいになったりしてたね」
昆布
「防御能力はかなり高いようです」
父
「試してみますか?」
国王
「うむ」
国王が兵士に合図する。
兵士
「はい!」
兵士が木製の訓練棒を持ってくる。
父
「軽くお願いします」
兵士
「分かりました」
兵士が父の肩を軽く叩く。
ガンッ!
棒が跳ね返る。
兵士
「おお!」
父
「全然痛くない」
魔王
「やっぱり防御力が高い!」
国王
「もう少し強く」
兵士
「はい!」
ガンッ!
また跳ね返る。
父
「大丈夫です」
メンタルアタックネクタイ
「先生に言うからな!」
すると不思議なスーツの袖が、
シュルッ。
と伸びた。
父
「お?」
袖が兵士の木製の棒を包み込む。
兵士
「え?」
スーツの袖が棒をしっかり固定した。
父
「取れないぞ」
兵士
「本当だ!」
昆布
「拘束能力まであるのかもしれません」
父
「これは王都防衛に使えそうだな」
魔王
「父さん、今までずっと防御だけだったけど、これなら相手を止められるね」
父
「なるほど」
父が袖を少し動かす。
すると、スーツが自動的に棒を離した。
兵士
「おお……」
国王
「面白い」
さらにスーツの背中が、
ボンッ!
と膨らんだ。
父
「またか!」
背中が大きなクッション状になる。
母
「パパ、ふかふかね」
父
「防具だからな」
母
「触っていい?」
父
「いいぞ」
母
「本当だ。ふかふか」
魔王
「防具なのにクッション機能がある」
昆布
「転倒時の衝撃吸収でしょうか」
父
「便利だな」
国王
「王都防衛には十分使えるかもしれんな」
父
「ありがとうございます」
メンタルアタックネクタイ
「仕事、増えたね」
父
「それはもう聞いた」
メンタルアタックネクタイ
「明日の仕事は?」
父
「王都防衛だ」
メンタルアタックネクタイ
「休日は?」
父
「……」
父さんが黙った。
魔王
「父さん?」
父
「王都防衛に休日があるのか?」
昆布
「それは国王様に確認した方がいいでしょう」
魔王
「国王様、休日はありますか?」
国王
「……」
国王が少し考える。
国王
「もちろんある」
父
「よかった」
メンタルアタックネクタイ
「有給は?」
父
「お前は何を聞いてるんだ!」
国王
「有給?」
昆布
「父さんのネクタイが会社員なので」
国王
「……王都防衛隊に有給制度を作るべきかもしれんな」
父
「ぜひお願いします」
魔王
「父さん、そこだけ食いつくんだ」
父
「大事なことだ」
メンタルアタックネクタイ
「俺は何でも知っている」
父
「じゃあ王都防衛隊の有給日数を教えてくれ」
メンタルアタックネクタイ
「……」
父
「知らないのか?」
メンタルアタックネクタイ
「知らない」
父
「何でも知ってるんじゃなかったのか」
魔王軍
「ははははは!」
国王も笑っている。
しかし、その笑いの中で、昆布だけは王都の外を見ていた。
昆布
「……」
魔王
「昆布?」
昆布
「国王様」
国王
「何じゃ?」
昆布
「王都を拠点にしようとしているモンスターについて、何か情報はありますか?」
国王の表情が変わった。
国王
「実は……」
国王は少し声を落とした。
国王
「最近、王都の周辺で妙な目撃情報が増えている」
魔王
「妙な目撃情報?」
国王
「まだ正体は分からん」
昆布
「場所は?」
国王
「それが……」
国王は地図を取り出した。
王都の地図。
その一角を指差す。
国王
「夜になると、この辺りに奇妙な音が聞こえるというのじゃ」
昆布
「音?……」
魔王
「モンスターでしょうか?」
国王
「分からぬ」
昆布は地図をじっと見つめる。
昆布
「王都を拠点にするなら、まず安全な場所を確保するはずです」
魔王
「そうだね」
昆布
「そして、正体を隠すなら、人の多い王都の中に潜む可能性もあります」
魔王
「なるほど」
父
「王都の中にいるのか?」
昆布
「まだ分かりません」
メンタルアタックネクタイ
「怪しい社員がいる?」
父
「社員じゃないだろ」
メンタルアタックネクタイ
「報告・連絡・相談ができていない」
父
「モンスターに会社員の常識を当てはめるな」
国王
「……そのネクタイ、意外と役に立つかもしれんな」
魔王
「確かに、精神攻撃だけならかなり強いです」
父
「俺のネクタイなんだけどな」
国王
「それでは正式に頼もう」
国王は魔王軍を見渡した。
国王
「王都を守ってほしい」
魔王
「はい」
昆布
「承知しました」
殴打
「任せてくれ」
五利武
「俺も」
鍋
「食事の準備は任せてください」
便意
「魔法も頑張ります」
母
「怪我した人は治します」
ゴプリン
「……プリン」
父
「俺は防御します」
不思議なスーツ
「王都防衛、開始」
父
「……」
魔王
「今、スーツがしゃべった?」
父
「しゃべったな」
昆布
「能力が一段階進化したのかもしれません」
メンタルアタックネクタイ
「仕事、始まったね」
父
「……そうだな」
魔王
「父さん?」
父
「王都を守る仕事なら、やるぞ」
魔王
「うん」
父さんは胸を張った。
黒い不思議なスーツの胸も膨らんだ。
赤いメンタルアタックネクタイ。
そして――
いつもの会社員らしい真面目な表情。
父
「メンタルガードで王都を守る」
メンタルアタックネクタイ
「ピッチャービビってる! ヘイヘイヘイ!」
父
「王都にピッチャーはいない!」
国王
「ははははは!」
こうして魔王軍は――
王都を守る兵士
として正式に活動することになった。
しかし国王が言った。
「実は……」
その続きを、まだ誰も聞いていなかった。
王都のどこかでは、すでに何かが動き始めていた。
そして父の不思議なスーツもまた、まだ知られていない能力を秘めていた。
次回――




