謁見
王城の大扉が開いた。
魔王軍は、兵士に案内されて長い廊下を進んでいく。
床には赤い絨毯。
左右には鎧を着た兵士。
正面には、大きな王座。
魔王
「いよいよだな」
昆布
「国王様との謁見です。皆さん、失礼のないようにしましょう」
殴打
「分かっている」
五利武
「俺も分かっている」
鍋
「はい」
母
「大丈夫よ」
便意
「分かりました」
ゴプリン
「……うん」
父
「俺も大丈夫だ」
メンタルアタックネクタイ
「本当に大丈夫?」
父
「お前は黙っていろ」
メンタルアタックネクタイ
「緊張してる?」
父
「していない」
メンタルアタックネクタイ
「手、震えてない?」
父
「震えていない」
魔王
「父さん、さっきからネクタイと会話してるけど大丈夫?」
父
「大丈夫だ」
メンタルアタックネクタイ
「上司に報告した?」
父
「だから今日は仕事じゃない!」
兵士が振り返る。
兵士
「……」
魔王
「すみません」
そして一行は謁見の間へ入った。
そこには、豪華な王座があり、その中央に国王が座っていた。
国王
「よく来たな。魔王軍よ」
魔王軍
「……」
全員が一斉に頭を下げる。
魔王
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
国王
「顔を上げよ」
全員が顔を上げる。
国王は魔王軍をゆっくり見渡した。
安全第一の作業服。
野球のユニフォーム。
ゴルフウェア。
エプロン。
スーツ姿。
鋼鉄のプリンカップ。
光る靴。
そして――
黒いスーツを着た父。
国王
「……」
魔王
「……」
国王
「なかなか個性的な一団だな」
魔王
「はい」
国王
「そなたは?」
国王が父を見る。
父
「私は魔王の父です」
国王
「なるほど。そなたは唯一、きちんとした服装だな」
父
「ありがとうございます」
メンタルアタックネクタイ
「ピッチャービビってる! ヘイヘイヘイ!」
謁見の間が静まり返る。
父
「……」
魔王
「……」
国王
「……今、何か聞こえなかったか?」
父
「気のせいです」
メンタルアタックネクタイ
「ずっとピッチャービビってる!」
父
「気のせいではないな」
魔王軍
「……」
国王
「そのネクタイか?」
父
「はい」
国王
「しゃべるのか?」
父
「はい」
国王
「何を言う?」
メンタルアタックネクタイ
「仕事終わったの?」
国王
「……」
父
「今は謁見中だ」
メンタルアタックネクタイ
「明日の仕事は?」
父
「知らん」
国王
「面白いネクタイだな」
父
「ありがとうございます」
メンタルアタックネクタイ
「上司に報告した?」
父
「国王様の前で会社の話をするな!」
国王
「ははははは!」
なんと国王が笑った。
魔王
「よかった……」
昆布
「第一印象は悪くなさそうですね」
国王
「しかし、そなたのスーツも変わったものだな」
父
「普通のスーツだと思って購入したのですが……」
国王
「普通?」
父
「はい」
その瞬間だった。
不思議なスーツが突然、微妙に光った。
魔王
「……?」
昆布
「何でしょう?」
父
「おい、スーツ」
スーツの胸ポケットから紙が出てきた。
ヒラッ。
父が拾う。
そこには、
『国王様への謁見:開始』
と書かれていた。
国王
「……」
魔王
「仕事の予定表みたいだね」
父
「また出てきた」
さらに別のポケットから紙が出てきた。
『本日の業務目標:国王様と友好的な関係を築く』
父
「……」
魔王
「具体的だな」
昆布
「不思議なスーツが謁見を業務として認識しています」
国王
「面白い防具だな」
父
「防具なんですか?」
国王
「おそらくな」
父
「スーツなのに?」
国王
「ここは城だ。何が防具でもおかしくない」
魔王
「確かに」
国王
「では、そなたらが勇者募集試験で見せた力について聞きたい」
昆布
「はい」
昆布が一歩前へ出ようとした。
そのとき。
不思議なスーツの肩が、
シュッ。
と伸びた。
父
「うおっ!」
魔王
「父さん?」
スーツの肩部分がまるで肩パッドのように膨らんだ。
父
「なんだこれ!」
店主の言葉が頭をよぎる。
『何が起こるかは分かりません』
父
「これが不思議なスーツか!」
魔王
「今さら発動した!」
国王
「なるほど」
国王が立ち上がった。
国王
「試してみるか」
国王が手を上げる。
すると兵士が一人、木製の訓練用の棒を持ってきた。
兵士
「失礼します」
国王
「軽く攻撃してみよ」
父
「え?」
魔王
「父さん、大丈夫?」
父
「大丈夫だ」
メンタルアタックネクタイ
「メンタルガード!」
父
「それ俺の台詞だろ!」
兵士が軽く棒を振る。
ガンッ!
父の肩に当たる。
しかし――
パン!っと何かが破裂した。
兵士
「おお!」
父
「破れてない、風船か?」
魔王
「防御力が上がってる!」
昆布
「不思議なスーツは防具として機能するようですね」
父
「なるほど」
国王
「もう一度」
兵士
「はい」
今度は少し強めに振る。
ガンッ!
パン!と鳴ったが破れてない。
父
「大丈夫だ」
メンタルアタックネクタイ
「それ暴力ですよ」
父
「訓練だ!」
メンタルアタックネクタイ
「今、暴力ふるいましたよね?」
父
「俺が振るったんじゃない!」
メンタルアタックネクタイ
「警察沙汰ですよ」
国王
「そのネクタイも面白いな」
父
「すみません」
すると今度はスーツの背中が膨らんだ。
父
「またか!」
背中が分厚くなる。
まるでクッションのようになった。
魔王
「背中まで防御力が上がった!」
父
「これはすごいな」
母
「パパ、よかったわね」
父
「ああ」
メンタルアタックネクタイ
「さすが、メンタルガード」
父
「お前、今日は珍しく褒めてるな」
メンタルアタックネクタイ
「でも仕事終わったの?」
父
「そこに戻るのか」
国王が笑う。
国王
「そなたの装備は、なかなか愉快だな」
父
「ありがとうございます」
国王
「しかし、もう一つ気になるものがある」
国王が父のネクタイを見る。
国王
「そのネクタイだ」
父
「はい」
国王
「攻撃能力があるのか?」
父
「……たぶん」
メンタルアタックネクタイ
「俺は何でも知っている」
父
「急に偉そうになったな」
メンタルアタックネクタイ
「お前、何様のつもりだ」
父
「王様だろ」
メンタルアタックネクタイ
「なんだその偉そうな態度は!」
父
「偉い人だろ!」
メンタルアタックネクタイ
「明日からもう来なくていいぞ」
父
「ここ、王様のお城だ!」
魔王軍が笑い始める。
国王まで笑っている。
すると、メンタルアタックネクタイが突然、国王の方を向いた。
メンタルアタックネクタイ
「上司に報告した?」
国王
「……私が上司なのか?」
父
「違います!」
メンタルアタックネクタイ
「あなたは社長です。」
国王
「私は国王だ」
メンタルアタックネクタイ
「国王様、申し訳ございません」
国王
「……」
魔王
「父さん、止めて!」
父
「俺にも止め方が分からない!」
メンタルアタックネクタイ
「もっと低姿勢を心がけます」
父
「それは俺が言った台詞だ!」
国王はしばらく黙っていた。
そして――
国王
「……気に入った」
魔王
「え?」
国王
「これほど愉快な者たちと話すのは久しぶりだ」
魔王軍
「……」
国王
「魔王軍よ」
魔王
「はい、名前だけ魔王です」
国王
「そなたらは、勇者募集試験を受けたが、勇者になりたいわけではないのだな?」
魔王
「はい。たまたま巻き込まれただけです」
国王
「なるほど」
昆布
「我々は、基本的に困っている人を助ける便利屋です」
国王
「便利屋……」
魔王
「はい」
国王
「そして魔王?」
魔王
「はい」
国王
「野球選手」
殴打
「はい」
国王
「ゴルファー」
五利武
「はい」
国王
「料理人」
鍋
「はい」
国王
「魔術師」
便意
「はい」
国王
「軍師」
昆布
「はい」
国王
「そして……プリン?」
ゴプリン
「……プリン」
国王
「……」
魔王
「ゴプリンです」
国王
「分かった」
国王は笑いながら王座に座った。
国王
「実に不思議な一団だ」
父
「私もそう思います」
メンタルアタックネクタイ
「お前、何様のつもりだ!」
父
「今は俺に言うな!」
国王
「ははははは!」
謁見の間には、国王の笑い声と、父のネクタイの声が響き渡っていた。
そして父の不思議なスーツは、最後にもう一枚の紙を胸ポケットから出した。
父
「また紙が出てきたぞ」
魔王
「何て書いてある?」
父は紙を見る。
そこには――
『本日の業務:大成功』
と書かれていた。
父
「……」
魔王
「不思議なスーツ、謁見を仕事として完璧に処理したね」
父
「俺より仕事ができるかもしれない」
メンタルアタックネクタイ
「明日の仕事は?」
父
「もう帰ってくれ!」
魔王軍
「ははははは!」
こうして魔王軍の国王への謁見は――
不思議なスーツとメンタルアタックネクタイによって、予想もしなかった形で盛り上がっていった。
そして国王は、魔王軍にある重要な話を切り出そうとしていた。
国王
「実は、そなたらに頼みたいことがある」
魔王
「頼みたいこと?」
昆布
「依頼でしょうか」
国王
「ああ」
国王の表情が、少しだけ真剣になった。
魔王軍
「……」
次の瞬間。
メンタルアタックネクタイ
「仕事?」
父
「今度は本当に仕事かもしれないな」
魔王
「便利屋の仕事なら、俺達の出番だね」
国王
「そういうことだ」
魔王軍の新たな依頼が――
今、始まろうとしていた。




