父・牙城がスーツを買いに行く
国王への謁見が決まった翌日。
魔王軍は王都の武器屋を訪れていた。
魔王は父の姿を見て言った。
魔王
「父さん、その傷んだジャケットとズボンで謁見に臨むのは、さすがにまずいよ」
父
「お前も『安全第一』と書かれた作業服で行くつもりなのか?」
魔王
「俺たちは便利屋だから、作業服でも問題ないよ。でも、父さんの服は肌が見えているから、もう一度武器屋で探そう」
父
「そうだな。さすがに肌が見えているのはまずい。誰も俺のチラ見せ期待してないからな」
魔王
「国王様にお会いするんだからね」
父
「しかし、お前の作業服には『安全第一』と書いてあるぞ」
魔王
「安全第一だから問題ないんだよ」
昆布
「確かに、魔王様は便利屋ですから、作業服でも差し支えないでしょう」
殴打
「俺は野球のユニフォームで行く」
五利武
「俺はゴルフウェアだ」
鍋
「私はエプロンですね」
母
「私もいつもの服とエプロンでいいわ」
便意
「僕はこのままスーツで行くよ」
ゴプリン
「……プリン」
魔王
「ゴプリンも、そのままでいいよ」
父
「みんな、服装がばらばらだな」
魔王
「俺たちは魔王軍だからな」
こうして父の服を探すため、一行は武器屋へ入った。
店主
「いらっしゃいませ。おや、皆さん。またお越しになりましたね」
魔王
「父さんの服を探したいんです。国王様に謁見することになったので」
店主
「なるほど」
店主は父の服に目を向けた。
店主
「……確かに、その服装では少々問題がありそうですね」
父
「そうだろう?」
魔王
「スーツはありますか?」
店主
「通常のスーツは取り扱っておりません」
魔王
「ここは武器屋だからね」
店主
「はい」
父
「防具ならあるのか?」
店主
「もちろんです」
魔王
「しかし、謁見に防具というのもな」
店主
「ただ、一着だけございます」
魔王
「何があるんですか?」
店主
「スーツです」
父
「あるのか!」
魔王
「あるじゃないか」
店主
「ただし、通常のスーツではありません」
昆布
「やはり、何か事情がありそうですね」
店主は店の奥から、一着の黒いスーツを持ってきた。
父
「見た目は普通だな」
魔王
「本当に一般的なスーツに見える」
昆布
「タグを確認してください」
父がタグを見る。
そこには――
『不思議なスーツ』
と書かれていた。
父
「……不思議なスーツ?」
魔王
「何が不思議なんですか?」
店主
「分かりません」
魔王
「販売している本人にも分からないんですか?」
店主
「はい」
父
「では、なぜ販売しているんだ?」
店主
「不思議だからです」
昆布
「説明になっていませんね」
母
「でも、パパに似合いそうよ」
父
「そうか?」
母
「ええ」
父
「では、試着してみるか」
父は試着室へ入った。
しばらくして、試着室から出てくる。
父
「どうだ?」
魔王
「おお。よく似合っている」
昆布
「きちんとした印象になりました」
殴打
「いいじゃないか」
五利武
「これなら国王様の前でも問題なさそうだ」
鍋
「私のエプロンよりは、ずっと正装らしいですね」
母
「パパ、かっこいいわよ」
父
「では、これにするか」
店主
「ありがとうございます」
父は鏡の前で身だしなみを確認する。
黒いスーツ。
白いシャツ。
そして、赤いメンタルアタックネクタイ。
魔王
「うん。これなら大丈夫だ」
メンタルアタックネクタイ
「仕事は終わったの?」
父
「これから謁見だ」
メンタルアタックネクタイ
「明日の仕事は?」
父
「知らん」
魔王
「国王様の前では静かにしてくれよ」
メンタルアタックネクタイ
「上司には報告した?」
父
「だから、今は仕事ではない!」
魔王軍
「ははははは!」
店主
「そのネクタイも相変わらずですね」
魔王
「ご存じなんですか?」
店主
「以前、お買い上げいただきましたから」
父
「これも不思議な装備だな」
魔王
「父さんの装備は、どれも会社員らしいな」
父
「便利屋のお前に言われたくない」
魔王
「俺は便利屋だから作業服なんだよ」
父
「そうだったな」
魔王
「よし。父さんの準備も整った」
昆布
「では、お城へ向かいましょう」
魔王軍は武器屋を出た。
王都の大通りを歩く。
魔王は『安全第一』の作業服。
殴打は野球のユニフォーム。
五利武はゴルフウェア。
鍋はエプロン。
母はいつもの服。
便意は魔術師姿。
昆布は光る靴。
ゴプリンは鋼鉄のプリンカップ。
そして父は――
不思議なスーツ。
王都の人々が振り返る。
通行人
「……あれが勇者候補か?」
別の通行人
「野球選手がいるぞ」
別の通行人
「ゴルファーもいる」
別の通行人
「コックまでいるぞ」
魔王
「気にするな、気にするな」
昆布
「むしろ、かなり目立っていますね」
父
「俺は普通のスーツだぞ」
魔王
「父さんだけはね」
メンタルアタックネクタイ
「ピッチャービビってる! ヘイヘイヘイ!」
父
「お前のせいで、さらに目立っているぞ!」
やがてお城が見えてきた。
大きな門の前には、兵士が立っている。
兵士
「魔王軍の皆さんですね」
魔王
「はい」
兵士
「国王様がお待ちです」
魔王軍
「……」
父
「いよいよだな」
母
「緊張するわね」
鍋
「お腹が空いてきました」
殴打
「俺はまったく緊張していないぞ」
五利武
「俺もだ」
便意
「僕もです」
ゴプリン
「……プリン」
昆布
「皆さん、落ち着いてください」
魔王
「大丈夫だ。俺たちはいつも通りでいい」
父
「そうだな」
メンタルアタックネクタイ
「お前、何様のつもりだ!」
父
「今は国王様に会いに行くところだ!」
兵士
「……そのネクタイ、しゃべるんですね」
父
「はい」
兵士
「不思議な方々ですね」
魔王
「よく言われます」
そして、王城の大扉が開いた。
魔王軍は、そのまま中へ進んでいく。
いよいよ――
国王との謁見が始まる。




