↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
136/193

残された魔王軍

筆記試験が終わった。


 受験者たちは、全員ぐったりしていた。


 実技試験では体を使った。


 筆記試験では頭を使った。


 そして何より――。


 魔王軍の一部は、途中で眠気と戦っていた。


 父は机に突っ伏しそうになり、鍋は何度も目をこすり、殴打は鉛筆を握ったまま遠くを見つめ、勇気は何度も自分の頬を軽く叩いていた。


 しかし、なんとか最後まで答案を書き終えた。


 試験官が前に立つ。


 受験者たちが顔を上げる。


「それでは――」


 会場が静かになる。


「勇者募集試験を終了します」


 受験者たちから、ほっとした声が漏れた。


「終わった……」


「やっと終わった」


「疲れた……」


「結果は明日の正午になります」


 受験者たちがざわつく。


「明日の正午か」


「それまで待つのか」


「まあ、仕方ないな」


 そして試験官は、魔王軍の方を見た。


「また、魔王軍の方々は残ってください」


「…………」


 魔王軍が固まった。


 魔王がゆっくりと周囲を見る。


「……僕たち?」


 試験官が頷く。


「はい。魔王軍の皆さんです」


 魔王軍全員が顔を見合わせる。


 父が小声で言った。


「俺達なんか悪い事したかな」


 魔王も小声で答える。


「分からない」


 鍋が不安そうに言った。


「まさか……逮捕されるわけじゃないですよね?」


 殴打が辺りを見回す。


「牢屋行き?」


 勇気が青ざめる。


「名前が魔王軍だからな……」


 母が少し困った顔をする。


「怒られるのかな」


 便意が瞬間移動の杖を握る。


「今のうちに逃げる?」


 昆布が周囲を見る。


「でも、ほとんどの人が帰っちゃいましたよ」


 五利武が出口を見る。


「残っているの、僕たちだけだ」


 ゴプリンが鋼鉄のプリンカップを押さえる。


「……怖い」


 魔王が小声で言った。


「ゴプリン、プリンは大丈夫だから」


「……うん」


 会場には、先ほどまで大勢いた受験者たちがほとんどいなくなっていた。


 ぞろぞろと帰っていったのだ。


 残っているのは――。


 魔王軍だけ。


 そして試験官たち。


 魔王が出口を見る。


「本当に僕たちだけだ」


 父が言う。


「これは怪しいな」


「父さん、何か心当たりある?」


「ない」


「じゃあ何で怪しいと思うの?」


「会社でも会議室に呼ばれると、だいたい何かある」


「会社と勇者試験を一緒にしないで」


 そのとき――。


 ガチャン。


 会場の扉が閉まった。


「!」


 魔王軍全員が振り向いた。


 父が立ち上がる。


「閉まったぞ」


 殴打も立ち上がる。


「やっぱり何かある」


 五利武がゴルフクラブを持つ。


 鍋もヘル鍋を頭に被る。


 勇気が構える。


 便意は瞬間移動の杖を構える。


 昆布が周囲を確認する。


 母はしゃもじを持った。


 ゴプリンも両手を上げる。


「……プリン」


 魔王も魔じいちゃんの膝サポーターを確認した。


「みんな、落ち着いて」


 しかし――。


 魔王自身も完全に警戒していた。


「何か起きたら、まず話し合おう」


 昆布が頷く。


「その方針で行きましょう」


 父が言う。


「俺はメンタルガードで耐える」


「父さん、それだけじゃ駄目だよ」


「分かっている」


 父は一歩前に出た。


「必要なら逃げる」


 魔王が驚く。


「父さんが逃げるって言った!」


「俺だって逃げることはある」


「成長したね」


「何の成長だ」


 そのとき――。


 試験官たちが動いた。


 一人。


 二人。


 三人。


 ぞろぞろと魔王軍の方へ近づいてくる。


「来るぞ」


 殴打が構える。


「構えて!」


 勇気も構える。


 五利武はゴルフクラブを握る。


 鍋はヘル鍋を両手で押さえる。


 便意は杖を構える。


 母はしゃもじを持つ。


 ゴプリンは頭を守る。


 昆布だけは冷静に試験官たちの動きを観察していた。


「まだ攻撃する様子はありません」


 魔王が頷く。


「よし。まず話を聞こう」


 試験官の一人が、魔王軍の前で立ち止まった。


 魔王軍全員が身構える。


 試験官が口を開いた。


「魔王軍の皆さん」


「…………」


 魔王が息を呑む。


 父が小声で言う。


「来るぞ」


 鍋が、


「何を言われるんでしょう」


 と呟く。


 試験官は――。


「素晴らしい能力とチームの団結力でした」


「…………え?」


 魔王軍全員が固まった。


「…………」


 しばらく誰も喋らない。


 魔王が恐る恐る聞く。


「……怒られるんじゃないんですか?」


「いいえ?」


「逮捕は?」


「しません」


「牢屋は?」


「ありません」


「説教は?」


「ありません」


 魔王軍が一斉に構えを解いた。


「よかった……」


 父が大きく息を吐いた。


 鍋はヘル鍋を脱ごうとする。


「鍋さん、それ頭に被ったままだよ」


「安心して忘れていました」


 殴打もバットを下ろす。


 五利武もゴルフクラブを肩に担ぐ。


 便意は杖を下ろした。


 ゴプリンは、


「……怖くなかった」


 と言った。


「いや、かなり怖がってたよ」


 魔王が笑う。


 試験官は続けた。


「なかなかこの人数で、これほどまとまりのあるチームはありません」


 昆布が少し驚いた。


「私たちが……ですか?」


「はい」


「本当ですか?」


「本当です」


 魔王がメンバーを見る。


 父。


 母。


 勇気。


 便意。


 ゴプリン。


 鍋。


 殴打。


 五利武。


 昆布。


 確かに人数は多い。


 それぞれ職業も能力も違う。


 性格もかなり違う。


 しかし――。


 これまで、何度も一緒に旅をしてきた。


 魔物と戦った。


 困っている人を助けた。


 水を取り戻した。


 村を守った。


 王都まで商人を護衛した。


 そして今回の勇者募集試験でも、一人ずつ試合を戦い抜いた。


 魔王が少し嬉しそうに笑った。


「そう言われると……嬉しいですね」


 昆布も頷く。


「確かに、みんなで役割を分担してきましたから」


 勇気が笑う。


「それぞれ得意なことがありますからね」


 殴打が胸を張る。


「俺は物理攻撃」


 五利武。


「俺は素早い物理攻撃」


 昆布。


「私は軍師・情報処理」


 便意。


「僕は魔法」


 鍋。


「私は料理」


 母。


「私は回復」


 父。


「俺はメンタル」


 ゴプリン。


「……プリン」


 魔王が頷く。


「最後だけ役割が違う気がするけど」


 ゴプリンは真剣な顔だった。


「……大事」


「うん。大事だね」


 試験官も笑った。


「そういうところです」


「どういうところですか?」


「全員が自分の役割を理解している。そして、お互いの弱点を補っている」


 昆布が静かに頷く。


「なるほど」


 試験官はさらに続けた。


「今回の試験で、皆さんの能力は非常に興味深いものでした」


 魔王軍は少し照れくさそうにする。


 魔王は頭をかいた。


「ありがとうございます」


 すると試験官が言った。


「そこで――」


 魔王軍が再び緊張する。


「……そこで?」


 試験官は笑顔で言った。


「ぜひ、一度国王様に謁見しませんか?」


「…………」


 沈黙。


 魔王軍全員が顔を見合わせる。


 魔王が最初に口を開いた。


「……国王?」


「はい」


 父が魔王に近づく。


「国王って、あの国王か?」


「たぶん、あの国王だと思う」


「王様だよな?」


「王様だね」


 鍋が言う。


「王様って、偉い人ですよね」


「かなり偉い人だと思います」


 便意が聞く。


「怒られませんか?」


「怒られるためではありません」


「牢屋も?」


「ありません」


 便意は安心した。


「よかった」


 五利武が言う。


「王様ってゴルフするのかな」


「しないと思うよ」


 殴打が言う。


「野球は?」


「たぶんしない」


 鍋。


「料理は?」


「……分からない」


 母。


「お茶会かしら」


 魔王。


「たぶん違うと思う」


 ゴプリンは小さく、


「……プリン?」


 と聞いた。


 試験官が少し考える。


「国王様がプリンを食べるかどうかは……分かりません」


 ゴプリンは、


「……そう」


 と答えた。


 しかし、少しだけ期待しているようだった。


 昆布が魔王を見る。


「魔王様、どうしますか?」


「うーん……」


 魔王は考えた。


 国王。


 この国で最も偉い人物。


 そんな人物から直接、謁見を求められている。


 普通なら緊張する。


 しかし――。


 魔王はふと思った。


「僕たち、王都に来たのも商人さんの護衛が目的だったんですよね」


「そうですね」


「それが勇者募集試験を受けることになって」


「そうですね」


「さらに国王様に会うことになる」


 昆布が頷く。


「予定とはかなり違いますね」


「かなりどころじゃないよ」


 魔王は苦笑した。


「でも……」


 魔王軍を見る。


 みんなが魔王を見ている。


 魔王は笑った。


「せっかくだから、会ってみようか」


 勇気が頷く。


「はい!」


 母も笑う。


「楽しみね」


 父は、


「王様に会うのか……」


 と少し緊張する。


 魔王が聞く。


「父さん、緊張してる?」


「してない」


「顔が硬いよ」


「メンタルガードしてる」


「それ、緊張してるってことじゃない?」


 父は黙った。


 鍋はヘル鍋を被ったまま、


「王様に料理を作る機会があるかもしれません」


 殴打は、


「王様の前でもバットは持っていていいのかな」


 五利武は、


「ゴルフクラブは?」


 便意は、


「瞬間移動の杖は?」


 昆布は、


「謁見の作法を調べた方がいいですね」


 ゴプリンは、


「……プリン」


 魔王は全員を見回した。


「ちょっと待って」


「はい?」


「国王様に会うだけなのに、なんで全員それぞれ武器の心配してるの?」


 誰も答えなかった。


 試験官は笑っている。


「では、準備ができましたらご案内します」


 魔王軍は顔を見合わせた。


 そして――。


 国王への謁見という、これまでとはまったく違う出来事へ向かうことになった。


 魔王はまだ知らない。


 この謁見が、魔王軍の今後を大きく変えることになるとは。


 そして――。


 国王が魔王軍を呼んだ本当の理由も。


 まだ、誰も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。