ゴプリン試合開始
「次はゴプリン選手と脚麒麟選手。前に出て来てください」
主審の声が会場に響いた。
魔王軍が一斉にゴプリンを見る。
ゴプリンは、頭に鋼鉄のプリンカップを被っている。
以前まで被っていた編笠はもうない。
代わりに――。
分厚い鋼鉄のカップ。
しかも目の部分には格子状の隙間まで付いている。
「ゴプリン」
魔王が声をかける。
「無理しないでね」
「……うん」
「危なくなったら棄権していいから」
「……うん」
母さんも心配そうに言う。
「ゴプリン、プリンを守るのよ」
「……守る」
ゴプリンは小さく頷いた。
五利武が言う。
「プリンは大事だからな」
「五利武さんもそこなんだ」
魔王が笑う。
すると昆布が掲示板を見た。
「脚麒麟選手……」
名前を確認する。
「きゃくきりん?」
勇気が首をかしげる。
「キリン?」
殴打も言う。
「動物のキリンか?」
「いや、選手名だから人間だと思うよ」
魔王が答えた。
父さんが真面目な顔で言う。
「首が長い人かもしれないぞ」
「それはちょっと怖いね」
そのとき。
反対側の入口から――。
脚麒麟選手が現れた。
「……」
魔王軍が黙った。
「……」
勇気も黙った。
「……」
昆布も黙った。
そして――。
「確かに脚がキリンだ」
魔王が言った。
「脚だけが長い」
殴打が続ける。
脚麒麟の上半身は、普通の人間だった。
顔も普通。
腕も普通。
服装も普通。
しかし――。
脚だけが異常に長かった。
長い。
とにかく長い。
立っているだけなのに、足の位置がかなり遠くにある。
魔王が首を傾げる。
「どうやってズボン買ってるんだろう」
「そこですか?」
昆布が言った。
「裾下げって出来るのかな」
「昆布さんまで!」
脚麒麟は静かに試合場へ入ってきた。
長い脚が一歩動くたびに――。
「スッ……」
「スッ……」
妙に遠くまで進む。
ゴプリンは鋼鉄のプリンカップを被ったまま、相手を見つめていた。
脚麒麟もゴプリンを見る。
そして――。
ゴプリンの頭を見る。
「……」
脚麒麟が呟く。
「そのカップを狙う」
「……プリン」
ゴプリンが答えた。
「そうだ」
「……だめ」
「試合だからな」
「……プリンは守る」
主審が二人の間に立つ。
「両者、準備はいいですか?」
「はい」
脚麒麟。
「……うん」
ゴプリン。
主審が手を上げた。
「それでは――」
会場が静かになる。
「試合開始!」
次の瞬間。
脚麒麟が動いた。
「シュッ!」
右脚が大きく回る。
「回し蹴り!」
勇気が叫んだ。
ゴプリンの頭――。
鋼鉄のプリンカップへ向かってくる。
「ゴプリン!」
魔王が叫ぶ。
ゴプリンは左腕を上げた。
「ガンッ!」
キリンの脚がゴプリンの左腕に当たった。
しかし――。
ゴプリンはその脚を右拳で叩き落とした。
「ドン!」
脚麒麟の足が下がる。
「おおっ!」
魔王軍から声が上がる。
しかし、脚麒麟はすぐに反対側の脚を振った。
「シュッ!」
今度は左脚。
右側から飛んでくる。
ゴプリンは右腕を上げる。
「ガンッ!」
そして――。
「ドン!」
左拳で叩き落とす。
「すごい!」
勇気が叫んだ。
昆布が冷静に分析する。
「ゴプリンさんは、鋼鉄のプリンカップを守ることを最優先しています」
「プリンだからね」
魔王が頷く。
「プリンを守ってる」
「……大事」
ゴプリンが言う。
脚麒麟は距離を取った。
ゴプリンが一歩前へ出る。
「……」
脚麒麟が一歩下がる。
ゴプリンがもう一歩進む。
脚麒麟がさらに下がる。
ゴプリンが距離を詰める。
「……」
脚麒麟はさらに下がった。
「長い!」
魔王が叫ぶ。
「足が長すぎて、後ろに下がるだけで距離が取れる!」
昆布も頷く。
「今回もリーチの差が大きいですね」
「そうだね」
魔王が言う。
「ゴプリンは近づかないと攻撃できない」
「その通りです」
昆布が続ける。
「脚麒麟さんは、ゴプリンさんが近づいたら下がり、距離を維持しています」
脚麒麟が再び蹴る。
「シュッ!」
ゴプリンは左腕で受ける。
「ガンッ!」
そして拳。
「ドン!」
右脚が下がる。
反対。
「シュッ!」
「ガンッ!」
「ドン!」
また反対。
「シュッ!」
「ガンッ!」
「ドン!」
何度も繰り返される。
「カン!」
「ドン!」
「カン!」
「ドン!」
会場に不思議なリズムが生まれた。
ゴプリンは蹴りを受ける。
そして――。
脚麒麟の膝付近を狙って、拳で叩き落としていく。
「ドン!」
「ドン!」
「ドン!」
昆布が目を細める。
「なるほど」
魔王が聞く。
「何か分かった?」
「ゴプリンさんは、脚麒麟さんの脚そのものを狙っています」
「膝?」
「はい」
昆布が頷く。
「脚麒麟さんの長い脚は、強力なリーチを持っています」
「うん」
「しかし、長い脚を支えているのは膝です」
魔王が納得する。
「なるほど」
「ゴプリンさんは、相手の膝にダメージを与えている」
勇気が言った。
「頭を守りながら、脚を狙ってるんですね」
「そうです」
昆布が頷く。
脚麒麟も気づいた。
「……」
自分の膝を見る。
少し赤くなっている。
「まだまだ!」
脚麒麟が蹴る。
「シュッ!」
ゴプリンが防ぐ。
「ガンッ!」
拳。
「ドン!」
「くっ!」
脚麒麟が後退する。
しかし――。
ゴプリンの腕も少しずつ赤くなっていた。
「……」
魔王が気づく。
「ゴプリンの腕も痛そうだ」
昆布が頷く。
「そうですね」
さらに時間が経つ。
ゴプリンの腕が――。
少し腫れてきた。
「……」
母さんが心配そうに見る。
「ゴプリン、大丈夫?」
「……大丈夫」
ゴプリンは答える。
脚麒麟の両膝も――。
少しずつ腫れてきていた。
「お互いにダメージが蓄積していますね」
昆布が言う。
「でも、ゴプリンも相手の膝を叩き落としてダメージを与えてますね」
「どっちのダメージが大きいかによって決まりますね」
魔王が頷く。
試合は長引く。
脚麒麟の回し蹴り。
ゴプリンのガード。
ゴプリンの拳。
脚麒麟の後退。
また蹴り。
またガード。
また拳。
しかし――。
次第にゴプリンの動きに変化が出てきた。
「……」
左から蹴りが来る。
「ガンッ!」
ゴプリンが受ける。
しかし――。
「……」
体が少し右へ揺れた。
「ゴプリン?」
勇気が心配する。
右から蹴り。
「ガンッ!」
ゴプリンが受ける。
今度は左へ。
「……」
体が揺れる。
魔王が眉をひそめた。
「衝撃が大きくなってきてる」
昆布が頷く。
「はい」
脚麒麟の脚は長い。
その分、振り下ろされる勢いも大きい。
ゴプリンの鋼鉄のプリンカップは守られている。
しかし――。
体全体に衝撃が伝わっている。
「ガンッ!」
右。
ゴプリンの体が揺れる。
「ガンッ!」
左。
また揺れる。
「……」
ゴプリンは踏ん張る。
鋼鉄のプリンカップを両手で守るように構える。
「……プリン」
小さく呟く。
「守る」
脚麒麟がそれを聞いた。
「そのカップ――」
脚を構える。
「絶対に壊してやる!」
ゴプリンは動かない。
「……」
脚麒麟が踏み込む。
「行くぞ!」
長い脚が大きく振り上がる。
「シュオオオッ!」
魔王軍が叫ぶ。
「ゴプリン!」
「避けて!」
勇気が叫ぶ。
昆布も身を乗り出す。
「大きい攻撃です!」
脚麒麟が笑う。
「このまま――」
さらに脚を振り上げる。
「決めてやる!」
ゴプリンは――。
鋼鉄のプリンカップを守るように構えた。
「……」
そして。
長い脚が――。
ゴプリンへ迫った。




