魔王、ゲームを知らない
その夜。
俺はベッドに横になっていた。
プロ二戦目。
初勝利。
今日は本当に疲れた。
身体中が痛い。
それでも。
前回の敗北とは違う。
胸の中に。
小さな自信が生まれていた。
「……勝ったんだよな」
天井を見る。
「俺、本当に勝ったんだ」
思わず笑う。
そのとき。
――魔王。
「……」
俺は目を開けた。
「またか」
――ところで。
「何?」
――魔王は、魔王を知っているのか?
「……」
俺は眉をひそめた。
「何を言ってるんだ?」
――そのままの意味だ。
「俺は魔王だよ」
――名前ではない。
「またそれか」
――お前はゲームをしたことがあるのか?
「ゲーム?」
――ああ。
俺は少し考えた。
「あるよ」
――ほう。
「うちはお金がなかったから、友達の家でやったことある」
――何のゲームだ?
「いろいろ」
俺は昔を思い出す。
「弱パンチとか」
――うん。
「強キックとか」
――うん。
「投げ技とか」
――うん。
「あと、必殺技みたいなの」
――なるほど。
俺は言った。
「でも、魔王は出てこなかったな」
――……。
「何?」
――それは格闘ゲームだ。
「そうなの?」
――そうだ。
「魔王は出ないの?」
――基本的には出ない。
「そうなんだ」
俺は納得した。
――魔王が出てくるゲームだと思っていたのか?
「だってゲームって魔王が出るんじゃないの?」
――全部ではない!
「そうなの?」
――格闘ゲームに魔王が出るとは限らない。
「へえ」
俺は感心した。
「ゲームって難しいんだな」
――いや、お前が知らなすぎるだけだ。
「そうかな」
---
魔王、ゲームを語る
俺はさらに昔を思い出した。
「あと」
――何だ。
「銃で撃ち合うやつ」
――シューティングゲーム。
「そう、それ」
――魔王は出たか?
「出なかった」
――当然だ。
「あと」
――まだあるのか。
「車で走るやつ」
――レースゲーム。
「それも魔王出なかった」
――出ない!
「何で?」
――レースゲームだからだ!
「車で魔王を倒すゲームじゃないの?」
――違う!
「じゃあ何するの?」
――車で競争する。
「……」
――何だ。
「それなら魔王、車に乗ってればいいじゃん」
――そういう話ではない!
俺は笑った。
「ゲームって変だな」
――お前が変なんだ!
---
ロールパンのゲーム
謎の声が。
少し疲れたように言った。
――では、ロールプレイングゲームはしたことがないのか?
「ロールプレイング?」
――そうだ。
「……」
俺は考える。
「ロールパンのゲーム?」
――違う!
「パン?」
――パンではない!
「パン作るゲーム?」
――違う!
声が明らかに苛立っている。
――ロールプレイングゲームだ!
「ロールパンじゃないの?」
――ロールプレイング!
「でもロールって言ってるじゃん」
――意味が違う!
「じゃあ何?」
――役割を演じるゲームだ!
「……」
俺は首を傾げた。
「演劇?」
――違う!
「劇団?」
――違う!
「じゃあ何なんだよ!」
謎の声が叫ぶ。
――モンスターを倒してレベルアップしていくゲームだ!
「おお」
俺は少し興味を持った。
「それなら分かる」
――そして最後に。
一拍。
――勇者が魔王を倒す。
「……」
俺は黙った。
「魔王って倒されるの?」
――そういうゲームが多い。
「かわいそうだな」
――なぜだ。
「最後まで頑張ったのに」
――魔王だからだ。
「魔王って悪い奴なんだろ?」
――基本的にはそうだ。
「じゃあ仕方ないか」
俺は納得した。
しかし。
少しして。
「……」
俺は言った。
「へー」
――何だ。
「時間かかりそうだな」
――かなりかかるものもある。
「レベル上げとか?」
――そう。
「面倒そう」
――面白いんだ。
「そうなの?」
――そうだ。
「まあ、俺はやったことないけど」
――なぜだ?
「うちはゲーム機買えなかったから」
――……。
俺は続けた。
「友達の家で格闘ゲームとかシューティングゲームとかレースゲームはやったけど」
「RPGはやったことない」
そして。
俺はふと思い出した。
「そういえば」
――何だ。
「魔王って写真とかでしか見たことないや」
――……。
「どんな顔なんだろうな」
――いろいろだ。
「緑色?」
――そうとは限らない。
「角が生えてる?」
――それも限らない。
「牙?」
――必須ではない。
「筋肉ムキムキ?」
――それも限らない。
俺は少し考えた。
「じゃあ、普通の人みたいな魔王もいるの?」
――いる。
「へえ」
俺は笑った。
「じゃあ俺と一緒じゃん」
――……。
「何?」
――お前を魔王にしてやる。
「……」
俺は固まった。
「またそれ?」
――ああ。
「いや」
俺は首を横に振る。
「嫌だよ」
――なぜだ。
「だって」
俺は真剣に考える。
「顔が緑色とかでしょ」
――だから違う!
「角とか牙とか」
――だから!
「絶対彼女出来ないよ」
――そこを心配するのか!?
「重要だろ!」
――魔王だぞ!
「いや、俺は恋愛もしたいんだよ!」
――世界征服より?
「彼女のほうが大事だよ!」
――……。
「何だよ」
――お前、本当に魔王になりたいのか?
「なりたくないよ!」
---
魔王の理想の魔王
俺は少し考えた。
「でも」
――何だ。
「もし魔王になるなら」
――なるなら?
「イケメンがいい」
――……。
「黒髪」
――……。
「普通の肌」
――……。
「身長も高め」
――……。
「あと」
――まだあるのか。
「性格は優しい」
――魔王なのに?
「部下には優しい」
――ほう。
「でも敵には厳しい」
――なるほど。
「あと料理が上手い」
――魔王に料理を求めるのか?
「毎日食べるだろ」
――……。
「それから」
――まだ?
「掃除もできる」
――お前の魔王像は何なのだ。
「家事のできる魔王」
――聞いたことがない。
「俺は好きだよ」
――知らぬ!
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強くなりすぎ問題
謎の声が言った。
――では聞こう。
「何?」
――もっと強くなりたいか?
俺は少し考えた。
「……」
今日の試合を思い出す。
初勝利。
嬉しかった。
でも。
もっと強くなりたい。
そう思った。
「うん」
――本当に?
「うん」
――ならば。
声が低くなる。
――お前は、もっと強くなる。
俺は少し不安になった。
「……」
「強くなり過ぎじゃない?」
――え?
「俺、普通にボクシングしたいんだけど」
――……。
「相手の顔を一発で吹っ飛ばすような力はいらないからな」
――……。
「普通に勝てるくらいでいい」
――……。
「何?」
謎の声が。
ものすごく小さな声で言った。
――そうか。
「うん」
――設定を間違えたんだった。
「……」
「設定?」
――何でもない。
「今、設定って言ったよな?」
――言っていない。
「言った」
――言っていない。
「絶対言った」
――気のせいだ。
俺は眉をひそめた。
「……怪しい」
そして。
謎の声は言った。
――ストーリーモードから。
一拍。
――イージーモードに変更してやろう。
「ストーリーモード、何だそれ?」
――ストーリーを重視して、戦闘は簡単になるんだ。
「勝手に人の人生をストーリーにするなよ。まだ若いんだぞ。」
――そのうち分かるさ。
「またそれかよ!」
――ふふふ。
「だから笑うな!」
――笑っていない。
「絶対笑ってるだろ!」
――では、寝ろ。
「話を終わらせるな!」
――明日も練習だ。
「それはそうだけど!」
――強くなれ。
「……うん」
――そして。
「何?」
――いつか、本当の意味で魔王になる。
「だから俺はもう魔王だって!」
――名前ではない。
「はいはい」
俺は布団をかぶった。
「もう寝る」
――おやすみ、魔王。
「おやすみ」
目を閉じる。
静かになった。
俺は最後に一言だけ呟いた。
「……ロールパンのゲームって、ちょっとやってみたいな」
――だからロールプレイングだ!
「起きてたのかよ!」
その夜。
俺の部屋には。
しばらく。
俺と謎の声の言い争う声が響いていた。
そして俺はまだ知らない。
謎の声が口にした。
「イージーモード」
という言葉が。
これから始まる俺の人生を。
とんでもない方向へ変えていくことを。




