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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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勝った後のほうが忙しい

試合が終わった。


俺は控室の椅子に座っていた。


「……」


まだ。


勝ったという実感がない。


プロデビュー戦。


完敗。


そして二戦目。


初勝利。


しかも。


まさかのボディーブロー一発。


俺は自分の拳を見つめた。


「……」


本当に。


俺がやったんだよな?


「魔王」


隣から声がした。


健太だった。


「何?」


「勝ったな」


「うん」


「俺たち」


「うん」


「二人とも」


「うん」


健太は満面の笑みだった。


「……腹減った」


「第一声それかよ!」


「試合したんだから腹減るだろ」


「感動の余韻とかないの?」


「あるよ」


「どこに?」


「腹」


「そこか!」


---


勝利者インタビュー


控室で休んでいると。


スタッフが入ってきた。


「魔王選手、インタビューお願いします」


「え?」


俺は立ち上がった。


「今?」


「はい」


「汗だくですけど」


「大丈夫です」


「髪もぐちゃぐちゃですけど」


「大丈夫です」


「鼻も赤いですけど」


「それも大丈夫です」


「本当に?」


スタッフは笑った。


「むしろ、そのままでお願いします」


俺はリングサイドへ戻った。


マイクを向けられる。


「まずはプロ初勝利、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「見事なボディーブローでした」


「はい」


「狙っていたんですか?」


俺は少し考えた。


「……はい」


嘘ではない。


狙っていた。


ただ。


理由が。


「顔を殴るのが怖かったからです」


とは。


さすがに言えなかった。


「相手のパンチを見ながら、ボディーが空く瞬間を狙っていました」


「なるほど」


インタビュアーが頷く。


「非常に冷静でしたね」


「ありがとうございます」


観客から声が飛ぶ。


「魔王!」


「魔王!」


「魔王!」


俺は苦笑した。


「……この名前、今日は特に目立つな」


インタビュアーが笑った。


「印象的なお名前ですよね」


「小さい頃からずっとです」


「ご自身ではどう思っていますか?」


俺は少し考えた。


「昔は嫌でした」


「今は?」


「……まあ」


俺はリングを見る。


「今日、勝てたので」


少し笑った。


「ちょっとだけ好きになりました」


会場から拍手が起きた。


俺は照れた。


「……」


すると。


観客席から。


「魔王ー!」


「名前負けするなー!」


「次も勝てー!」


俺は拳を上げた。


「頑張ります!」


---


控室へ戻ると


俺が戻ると。


健太が待っていた。


「お前」


「何?」


「今のインタビュー」


「うん」


「ちょっと格好良かったぞ」


「そう?」


「うん」


「ありがとう」


「でも」


「でも?」


「昔は名前が嫌だったって言ってたけど」


「うん」


「俺だったら嫌だな」


「おい」


「だって魔王だぞ」


「今さらかよ!」


「保育園の先生に『魔王くん』って呼ばれるんだろ?」


「そうだよ!」


「怖すぎる」


「先生は普通だったよ!」


「出席確認で『魔王!』って言うんだろ?」


「言うよ!」


「『はい!』って返事するの?」


「するよ!」


「なんか面白いな」


「お前、俺の人生を面白がるな!」


二人で笑った。


---


初めての賞金


その後。


スタッフから封筒を渡された。


「こちらが今回のファイトマネーです」


俺は受け取った。


「……」


思ったより重い。


俺は封筒を見る。


健太も覗き込む。


「どう?」


「……」


「魔王?」


「勝った実感が出てきた」


「金で?」


「ちょっと」


「現金な奴だな」


「プロなんだからいいだろ!」


「まあな」


俺は封筒を鞄に入れた。


そして。


「これで何買おうかな」


「グローブ」


「もうある」


「シューズ」


「ある」


「じゃあ肉」


「それだ」


二人は顔を見合わせた。


「肉食いに行こう」


「行こう」


試合後。


二人は高級焼肉店へ――。


行く予定だった。


しかし。


「……」


店の前。


俺は財布を見る。


健太も財布を見る。


「……」


「魔王」


「何?」


「高いな」


「高い」


「ファイトマネー入ったばっかりなのに?」


「入ったばっかりだからだよ」


「……」


二人は。


店の前から静かに離れた。


「コンビニ行こう」


「そうしよう」


初勝利の夜。


俺たちが買ったのは。


牛肉弁当だった。


---


二人だけの祝勝会


公園のベンチ。


俺と健太は。


コンビニの弁当を食べていた。


「……」


「……」


「うまいな」


「うん」


「勝った後に食べると特にうまい」


「そうだな」


健太が笑う。


「前回は負けて、何も食べる気しなかったもんな」


「うん」


俺も思い出した。


あの日。


何もできなかった。


ただ。


悔しかった。


でも今日は違う。


「健太」


「ん?」


「俺たち、ちょっとだけ前に進んだな」


健太は箸を止めた。


「そうだな」


「まだ一勝だけだけど」


「一勝は一勝だ」


「うん」


二人は弁当を食べ続けた。


その夜の月は。


妙に綺麗だった。


---


その夜


家に帰る。


「ただいま」


「おかえり!」


母さんが玄関まで走ってきた。


「勝った?」


「勝ったよ」


「本当に?」


「本当」


母さんが俺の肩を掴む。


「よかった!」


父さんも奥からやってくる。


「おめでとう」


「ありがとう」


「どうだった?」


「ボディーで倒した」


父さんが笑う。


「なるほど」


母さんが興奮する。


「すごいじゃない!」


「まあね」


俺は少し照れた。


すると父さんが。


「ところで」


「何?」


「顔は?」


「無事」


「良かった」


「何で?」


父さんが真面目な顔をする。


「お前、試合前に言ってただろ」


「……」


「相手の顔が飛んでいかないか心配だって」


母さんが振り返る。


「何それ?」


俺は顔を覆った。


「言わないで!」


父さんが笑う。


「心配性なんだよ」


「だってパンチ強くなってるから!」


母さんが首を傾げる。


「そんなに?」


「うん」


父さんは少し黙った。


「……確かに」


「何?」


「最近のお前のパンチは、昔とは違う」


俺は黙った。


その言葉。


俺も気になっていた。


---


説明できない力


部屋に戻る。


ベッドに座る。


今日の試合を思い返す。


相手がパンチを連打してきた。


俺は守った。


そして。


一瞬だけ。


身体が空いた。


そこへ。


俺は打った。


ただのボディーブロー。


そう思いたい。


でも。


あの威力。


相手が一気に距離を取って。


そのまま倒れた。


俺は拳を見る。


「……」


俺の身体。


どうなってるんだ?


筋トレの成果。


身体の使い方。


それだけなのか?


それとも。


「……」


昨日までの俺とは。


何かが違う。


そのとき。


部屋の電気を消した。


ベッドに横になる。


目を閉じる。


しばらくして。


――魔王。


「……」


俺は目を開けた。


「またか」


――勝ったな。


「うん」


――見事だった。


「ありがとう」


――お前は強くなっている。


俺は黙った。


「……なあ」


――何だ。


「俺のパンチ」


――ああ。


「何かおかしくない?」


「設定を間違えた」


「設定って何だ」


俺は続ける。


「普通じゃない気がする」


謎の声は。


しばらく答えなかった。


そして。


――お前はまだ、自分の力を知らない。


俺の背筋に。


ぞくりとしたものが走った。


「……どういう意味?」


――いずれ分かる。


「いつ?」


――その時が来れば。


「またそれかよ」


俺はため息をついた。


「もっと具体的に教えてくれよ」


――まだ早い。


「……」


――今は拳を鍛えろ。


俺は天井を見る。


「ボクシングを?」


――そうだ。


「分かった」


少し間を置いて。


俺は聞いた。


「……でも」


――何だ。


「俺、本当に魔王になるの?」


長い沈黙。


そして。


――お前はすでに、その道を歩き始めている。


「……」


声が消えた。


俺はしばらく天井を見つめていた。


「意味分からない……」


そして。


「まあいいか」


布団をかぶる。


「明日も練習だ」


俺は目を閉じた。


その夜。


俺は初めて。


勝利の喜びを感じながら眠った。


しかし。


俺の知らないところで。


何かが。


静かに動き始めていた。


そして。


それは。


ボクシングとは。


まったく別の世界へ。


俺を導こうとしていた。

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