昆布対官兵衛ーー軍師対決
「次の試合!」
主審が対戦表を手にして声を上げた。
魔王軍が一斉に顔を上げる。
「昆布選手と――」
一瞬の間。
「官兵衛選手!」
「官兵衛?」
魔王軍がざわついた。
殴打が腕を組む。
「軍師っぽい名前だな」
五利武も頷く。
「かなり軍師っぽいですね」
鍋が言う。
「昆布さんと同じタイプじゃないですか?」
魔王が昆布を見る。
「軍師対軍師?」
昆布は落ち着いていた。
「そうかもしれません」
勇気が昆布の肩を軽く叩く。
「昆布さんなら、頭脳で勝てます」
昆布は頷いた。
「ありがとうございます」
そして光る靴を見る。
「……この靴もありますから」
魔王が靴を見る。
「それ、まだ普通に光るだけだよね?」
昆布。
「今のところは」
「今のところって何?」
昆布は試合場へ向かった。
「行ってきます」
魔王軍が応援する。
「頑張って!」
「昆布さんなら大丈夫!」
「光ってこい!」
昆布。
「最後の応援だけ少し違いませんか?」
---
反対側から、対戦相手が現れた。
「……」
魔王軍が黙る。
官兵衛が歩いてくる。
鎧。
兜。
刀。
脇差。
そして――軍配。
「装備が多い!」
魔王が思わず声を上げた。
殴打。
「刀がありますよ」
五利武。
「脇差もあります」
鍋。
「軍配もありますね」
父さん。
「何に使うんだ?」
便意。
「野球の監督みたいに使うんじゃないですか?」
魔王。
「いや、野球じゃないから」
ゴプリンが官兵衛を見つめる。
「……いっぱい」
母さん。
「重くないのかしら」
官兵衛は堂々と中央へ進んできた。
ガチャ。
ガチャ。
カチャ。
軍配が揺れる。
刀が揺れる。
脇差も揺れる。
歩くたびに装備が鳴る。
昆布はじっと観察していた。
「……」
魔王が聞く。
「昆布さん、何か分かった?」
昆布。
「まだ分かりません」
「装備が多すぎるから?」
「はい」
「そこは分かってるんだ」
---
主審が二人の間に立った。
「官兵衛選手は刃物を持っていますので、加減してクリーンファイトでお願いします」
官兵衛が頷く。
「心得た」
昆布も頷いた。
「分かりました」
しかし、その後――。
昆布が主審に何か話しかけた。
「……」
主審が聞く。
「はい」
昆布が説明する。
「……」
主審が審判団を見る。
「……なるほど」
審判団が何か相談している。
そして――。
審判団全員がサングラスをかけた。
魔王軍が一斉に驚く。
「何で?」
魔王が聞く。
「何で審判がサングラスを?」
昆布が答えた。
「念のためです」
「念のため?」
昆布。
「はい」
父さん。
「何か光るのか?」
昆布。
「たぶん」
魔王。
「たぶん?」
昆布。
「試してみます」
魔王。
「怖いな!」
主審がサングラスを直す。
そして両者を見る。
「それでは――」
会場が静まる。
「試合開始!」
---
カン!
試合が始まった。
官兵衛はすぐに刀へ手を伸ばした。
シャキン!
刀が抜かれる。
魔王軍が一斉に反応する。
「刀は危険じゃないか!」
「クリーンファイトって言ってたけど!」
「本当に大丈夫なの?」
昆布は冷静だった。
一歩下がる。
官兵衛も一歩進む。
昆布がまた一歩下がる。
官兵衛が進む。
昆布が下がる。
ジリ……。
ジリ……。
魔王が言った。
「昆布さん、ずっと下がってない?」
昆布は答えない。
ただ、一定の距離を保っている。
官兵衛が刀を構える。
「……」
昆布は刀の先端を見る。
そして自分の位置を見る。
「……ここ」
さらに半歩下がる。
官兵衛が一歩前へ。
「……」
昆布がまた半歩。
官兵衛が少し苛立った。
「逃げるだけか!」
昆布は答えた。
「逃げているわけではありません」
「では何をしている!」
「距離を測っています」
「……」
魔王が頷いた。
「昆布さんらしい」
官兵衛が刀を振り上げた。
「ならば!」
ブンッ!
刀が振り下ろされる。
昆布は――。
スッ。
後ろへ下がった。
刀の先端が、昆布の前をギリギリ通り過ぎる。
「おお!」
魔王軍から声が上がる。
官兵衛が再び刀を構える。
「まだだ!」
ブンッ!
昆布が横へ。
スッ。
また避ける。
ブンッ!
スッ。
避ける。
ブンッ!
スッ。
また避ける。
官兵衛が連続で刀を振る。
昆布は、そのたびにギリギリの距離でかわしていく。
「すごい!」
勇気が叫ぶ。
「昆布さん!」
魔王も驚いている。
「全部ギリギリだ!」
昆布は冷静に動いていた。
「……」
刀の届く範囲。
足の位置。
相手の肩の動き。
振り下ろす前の重心。
全部を見ている。
昆布は、最初から攻撃しようとしていなかった。
相手に攻撃させていた。
官兵衛は徐々に勢いづく。
「どうした!」
ブンッ!
スッ。
「攻撃しないのか!」
ブンッ!
スッ。
「逃げてばかりでは勝てんぞ!」
ブンッ!
スッ。
昆布は何も言わない。
魔王軍が少し心配になる。
「昆布さん、攻撃がないけど大丈夫かな」
殴打が言う。
「ずっと避けてるぞ」
五利武。
「でも、全部避けています」
魔王。
「何か考えてるのかな?」
昆布は――。
考えていた。
あと少し。
官兵衛がまた構える。
今度は上段。
刀を大きく振り上げた。
「これで終わりだ!」
魔王が叫ぶ。
「昆布さん!」
官兵衛が力いっぱい刀を振り下ろす。
ブォン!
昆布は――。
ギリギリのところで下がった。
刀が床近くを通り過ぎる。
その瞬間。
昆布の目が鋭くなった。
「今です」
「え?」
魔王が聞き返した。
昆布が右足を――。
床へ叩きつけた。
ドン!
その瞬間。
ピカァァァァァッ!
会場が真っ白になった。
「うわああああ!」
「まぶしい!」
「何だこれ!」
強烈な光が会場いっぱいに広がった。
サングラスをしていた審判団は――。
「……」
比較的平然としている。
主審。
「なるほど……」
しかし、サングラスをしていなかった勇者候補たちは大混乱だった。
「見えない!」
「何が起きた!」
「まぶしい!」
魔王も両手で目を覆う。
「昆布さん!」
母さん。
「まぶしい!」
父さん。
「何も見えない!」
鍋。
「ヘル鍋をかぶっててよかった!」
魔王。
「それ関係ある!?」
そして、その真っ白な光の中。
昆布だけは動いていた。
官兵衛は視界を奪われ、完全に動きを止めている。
「な、何だ……!」
昆布は官兵衛の前へ進んだ。
そして――。
光る靴の足裏を、官兵衛の目の前へ持っていく。
「……!」
さらに強い光。
「まぶしい!」
官兵衛は目を閉じる。
昆布は、そのまま足裏を軽く当てるようにして官兵衛を後ろへ押した。
「うわっ!」
官兵衛の体勢が崩れる。
ドサッ。
倒れた。
その瞬間。
昆布が一歩下がった。
そして光る靴が――。
ピカッ。
ピカッ。
と、まだ光っている。
「……」
昆布は静かに立っていた。
主審はサングラスを直す。
そして倒れている官兵衛を見る。
「……」
再び昆布を見る。
「……試合終了!」
会場に声が響いた。
---
しかし――。
誰も何が起きたのか分からなかった。
サングラスをしていなかった選手たちは、まだ目を押さえている。
「何だったんだ?」
「何が起きた?」
「急に真っ白になったぞ」
「官兵衛選手はどうなった?」
少しずつ視界が戻ってくる。
「……見える」
「やっと見える」
「何だったんだ?」
魔王も目をこすった。
「昆布さん!」
そして見た。
昆布が立っている。
官兵衛が倒れている。
魔王は呆然とした。
「……勝った?」
昆布が頷く。
「はい」
「どうやって?」
昆布。
「光らせました」
魔王。
「それは見た」
「そのあと押しました」
「それも見えなかった!」
昆布。
「サングラスをしていれば見えたと思います」
魔王が審判団を見る。
全員サングラス。
「なるほど……」
昆布は自分の靴を見る。
「良い靴が見つかって良かったです」
魔王軍が一斉に拍手する。
「さすが昆布さん!」
「うまく新しい靴を使いましたね!」
勇気。
「頭脳で勝ちましたね!」
殴打。
「攻撃してないように見えて、ちゃんと考えてたんだな」
五利武。
「最後は光でしたけどね」
鍋。
「かなりまぶしかったです」
ゴプリン。
「……まぶしい」
父さん。
「俺は何も見えなかった」
母さん。
「私も」
便意。
「僕もです」
魔王。
「みんな見えてなかったんじゃないか!」
昆布は少し困った顔をした。
「ですが、官兵衛さんにはもっと近くで光が見えていたと思います」
魔王。
「それはそうだね」
そのとき、倒れていた官兵衛がゆっくり起き上がった。
「……」
まだ少し目を細めている。
「見えん……」
主審が声をかける。
「大丈夫ですか?」
「うむ……」
官兵衛は立ち上がる。
そして昆布を見る。
「見事だった」
昆布。
「ありがとうございます」
官兵衛。
「最初から、儂の刀の間合いを測っていたのだな」
昆布。
「はい」
「そして、儂が大きく振り下ろす瞬間を待っていた」
「はい」
「最後にその靴を使った」
昆布。
「そうです」
官兵衛は光る靴を見る。
「……」
「恐ろしい靴だな」
昆布。
「王都で買いました」
「そういう問題ではない」
魔王が笑った。
「官兵衛さん、軍配とか刀とか脇差とか、いっぱい装備してたのに……」
官兵衛。
「うむ」
魔王。
「結局、一番活躍したのが昆布さんの靴でした」
官兵衛。
「……」
少し考える。
「確かに」
昆布は光る靴を見た。
「良い買い物でした」
魔王軍が笑った。
そして審判団も話し合っている。
「今回も面白い能力でしたね」
「相手の攻撃を避け続けて、最後に一気に決める」
「軍師らしい戦い方です」
「それにしても……」
審判団の一人が魔王軍を見る。
「この軍には本当に色んな能力がありますね」
別の審判が頷く。
「魔法を相手の杖から出す者もいる」
「巨大な米を飛ばす者もいる」
「ネクタイがしゃべる者もいる」
「励ます者もいる」
「光る靴を武器にする軍師もいる」
そして最後に、魔王を見る。
「……そして、魔王」
魔王。
「はい」
審判。
「名前は魔王」
魔王。
「……はい」
審判。
「でも、まだ普通に人間らしい」
魔王。
「そこはいいでしょ!」
昆布が横から言った。
「魔王様、名前についてはもう諦めましょう」
「昆布さんまで!」
父さんが頷く。
「名前は変えられないからな」
魔王はため息をついた。
「……そうだけど」
そのとき、主審が再び対戦表を確認した。
魔王軍が振り返る。
ここまでで――。
魔王。
殴打。
母さん。
父さん。
勇気。
便意。
昆布。
七人の試合が終わった。
残っているのは――。
鍋。
ゴプリン。
魔王軍は二人を見る。
鍋はヘル鍋を頭にかぶっている。
ゴプリンは鋼鉄のプリンカップをかぶっている。
二人とも、じっと主審を見ていた。
魔王が言った。
「さて……」
鍋とゴプリンが同時に顔を上げる。
主審が対戦表を開く。
「次の試合は――」
二人が緊張する。
会場も静かになる。
魔王軍全員が息をのんだ。
次に呼ばれるのは、鍋か。
それとも、ゴプリンか。五利武か。
そして――。
まだ誰も知らない。




